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第八章
第十七話 記憶に残らない男
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「くそう! どいつもこいつも役立たずめ!」
サイン強盗の頭を倒し、残党を追い払った後、店の扉を開けて男が怒鳴り声を上げてきた。
男は白髪の髪にイノシシの姿をしている獣人だ。
この男、見たことがある。確か、フェインの暴走事件が起きた後に集まった走者委員会のメンバーだ。
「アイビス……ローゼ」
どうしてこのタイミングで現れたのか分からないが、俺が探していた男が向こうからやってきた。
「まったく、凄腕の強盗が聞いて呆れる。こんな無様な姿を晒すとはな」
アイビスは気を失いながら漏らしている男を蹴ると、そのまま顔を踏み付けた。
「酷い。いくら悪い人でもやり過ぎだよ」
イノシシの獣人の行動を見て、マーヤが引いたように呟く。
「やぁ、マーヤちゃん。お久しぶりだね。相変わらずキュートな顔だ」
「マーヤ、アイビスのことを知っているのか?」
アイビスがマーヤの名を言ったので、俺は彼女に問う。するとマーヤは右手人差し指を頬に当て、小首を傾げた。
「お爺さん誰? マーヤと会ったことってあったけ?」
「何……だと!」
顔見知りだったかと尋ねるマーヤの言葉を聞いた瞬間、アイビスはポツリと呟いた後しばらく動きを止めた。
彼女が記憶にないことがショックだったのかもしれない。だが、しばらくすると我を取り戻した様で、体を震えさせながらもマーヤに視線を向ける。
「ワシだよ、ワシ!」
「ワシワシ詐欺の人ですか?」
「ちがーう! ワシだ!」
「お爺さんは鷲ではなくってイノシシ型の獣人ですよ?」
「その鷲でもない! ワシだよ! アイビスだ! 去年の感謝際で、怪我をしたところを治療してくれたではないか!」
どうしても思い出してほしいのか、アイビスは必死になって訴える。すると、マーヤは両手の人差し指を頭に置き、左右に振りながら思い出そうとする素振りを見せる。
「うーん、思い出せないよ。去年の感謝祭は楽しいことがいっぱいありすぎて、些細なことは忘れてしまった」
「忘れた……だと。あの運命的な出会いを……だと」
どうやら彼にとっては、マーヤとの出会いは運命を感じさせるほどだったらしい。去年の俺は、研究所で実験動物生活を送っていた。なので、感謝祭と言うものがどんなものなのかは知らないが、男の出会いを簡単に忘れてしまうほどの濃い内容だったのだろう。
「そうだ! 今年の秋の感謝祭は、シャカールちゃんと回れるじゃない! 今年は去年以上に楽しい感謝祭になりそう! 今から楽しみ! ね、シャカールちゃん。学園中の出し物を見て回って、一緒に愛を育んでいこうね!」
アイビスがいるのにも関わらず、どさくさに紛れてマーヤが抱き付いてくる。
「お、おま! お前! マーヤちゃんから離れろ!」
「いや、離れろって言っても、抱き付いて来たのはマーヤだ。まるで俺から抱き付いたみたいに言うなよ」
思わず否定してしまったが、これ以上マーヤが俺の側にいると、彼の怒りのボルテージを上げることになる。
とにかくここは、冷静になって話し合うべきではないか。
「よくも、よくも、よくも、よくも! マーヤちゃんを! ワシのマイスイートエンジェルを拐かしやがって!」
彼は大声を上げるも、怒りで冷静な判断ができないでいるようだ。
拐かすとは、力尽くで連れ去ると言う意味だが、マーヤの心を奪ったと言う意味で使っていやがる。正しい表現ができないほど、彼の思考はおかしくなっているようだ。
「許さない。ワシからマーヤちゃんを奪うやつは、この世から消してくれる」
「アイシクル!」
アイビスがドスの効いた声を上げた瞬間、俺は氷の魔法で氷柱を生み出し、彼に当てると店の外に吹き飛ばした。
咄嗟の行動のあまり、自分でもどうしてこのような行動に出たのか分からない。何故か分からないが、虫の知らせと言うやつだ。やつを店内に居させる訳にはいかないと思っての攻撃だった。
「どうしました! さっきから騒がしいですよ。ピック君が大きな音を口実に逃げ出そうとしているので、それを抑えるのに大変なのですが?」
何も状況を知らないクリープが2階から降りてきた。
「緊急事態だ! マーヤはマルゼンたちを頼む。クリープは周辺の人々の避難誘導を頼む。ピックにも手伝う様に言ってくれ」
「話は聞かせてもらったぜ! その任務、この命にかけて遂行してみせる……ヤッホー! 遂にサイン地獄から解放される! 俺は自由だあああああああぁぁぁぁぁぁ! オラオラオラ! チンタラして居ないで、早く逃げるぞ!」
マーヤたちに指示を送ると、どうやら盗み聞きをしていたらしく、ピックが物凄い勢いで階段を駆け降りてきた。そしてまだ店内に残っていた客の避難誘導を始める。
ピックのやつ、あんなにウキウキとした表情をしやがって。相当嫌だったのだな。サインを書くのが。
トラウマにならないことを祈りつつ、俺は外に飛び出す。
すると俺の攻撃を受けて追い出されたアイビスが地面に倒れている姿が視界に入る。
彼はゆっくりと起き上がり、俺の存在に気付くと鋭い視線を送ってくる。
先端を丸くしていたため、氷柱が突き刺さって血を流す様なことにはなっていない。
「シャカール……貴様は許さん。ワシのマーヤちゃんを奪ったお前だけは、絶対に許すものか」
「マーヤはお前のものではない。俺のものだ」
右手の親指を自身の胸に押し付け、口角を上げる。するとアイビスは更に怒りのボルテージを上げたのか、額の血管が浮き出ると怒りマークの様になる。
「あいつからは、人目のあるところでは使うなと言われていたが、そんなこと知るか! 貴様を倒し、マーヤちゃんをワシの嫁にしてくれる!」
アイビスは懐から何かを取り出した。距離があったが、目を凝らして見てみると、それが注射器であることが分かった。
注射器の用途は決まっている。肉体に突き刺し、内部に入っている物を注入するためだ。
やつが注射器を突き刺すのを阻止しなければ。
そのように判断すると、足を一歩前に出す。その瞬間、足元が小さく爆破し、砂塵が舞う。
アイビスが何か魔法を使用する素振りを見せなかった。つまり、これは外部からの妨害と言うことになる。
「ウインド」
風の魔法を発動し、舞った砂が目に入るのを阻止する。だが、妨害されたことにより、やつの行動を阻止することができなかった。
視界が良好となると、既にアイビスは注射器を腕に突き刺し、内部の液体を体内に注入していた。
「ハハハ、アーハハハハ! さぁ、これで終わりだ。貴様をあの世に送ってくれる」
注射器を打ち終わったアイビスが高笑いを上げながら、俺のことを睨み付けてくる。
いったい、やつは何を体内に入れたんだ。
様子を伺っていると、やつの肉体に変化が起き始めた。
サイン強盗の頭を倒し、残党を追い払った後、店の扉を開けて男が怒鳴り声を上げてきた。
男は白髪の髪にイノシシの姿をしている獣人だ。
この男、見たことがある。確か、フェインの暴走事件が起きた後に集まった走者委員会のメンバーだ。
「アイビス……ローゼ」
どうしてこのタイミングで現れたのか分からないが、俺が探していた男が向こうからやってきた。
「まったく、凄腕の強盗が聞いて呆れる。こんな無様な姿を晒すとはな」
アイビスは気を失いながら漏らしている男を蹴ると、そのまま顔を踏み付けた。
「酷い。いくら悪い人でもやり過ぎだよ」
イノシシの獣人の行動を見て、マーヤが引いたように呟く。
「やぁ、マーヤちゃん。お久しぶりだね。相変わらずキュートな顔だ」
「マーヤ、アイビスのことを知っているのか?」
アイビスがマーヤの名を言ったので、俺は彼女に問う。するとマーヤは右手人差し指を頬に当て、小首を傾げた。
「お爺さん誰? マーヤと会ったことってあったけ?」
「何……だと!」
顔見知りだったかと尋ねるマーヤの言葉を聞いた瞬間、アイビスはポツリと呟いた後しばらく動きを止めた。
彼女が記憶にないことがショックだったのかもしれない。だが、しばらくすると我を取り戻した様で、体を震えさせながらもマーヤに視線を向ける。
「ワシだよ、ワシ!」
「ワシワシ詐欺の人ですか?」
「ちがーう! ワシだ!」
「お爺さんは鷲ではなくってイノシシ型の獣人ですよ?」
「その鷲でもない! ワシだよ! アイビスだ! 去年の感謝際で、怪我をしたところを治療してくれたではないか!」
どうしても思い出してほしいのか、アイビスは必死になって訴える。すると、マーヤは両手の人差し指を頭に置き、左右に振りながら思い出そうとする素振りを見せる。
「うーん、思い出せないよ。去年の感謝祭は楽しいことがいっぱいありすぎて、些細なことは忘れてしまった」
「忘れた……だと。あの運命的な出会いを……だと」
どうやら彼にとっては、マーヤとの出会いは運命を感じさせるほどだったらしい。去年の俺は、研究所で実験動物生活を送っていた。なので、感謝祭と言うものがどんなものなのかは知らないが、男の出会いを簡単に忘れてしまうほどの濃い内容だったのだろう。
「そうだ! 今年の秋の感謝祭は、シャカールちゃんと回れるじゃない! 今年は去年以上に楽しい感謝祭になりそう! 今から楽しみ! ね、シャカールちゃん。学園中の出し物を見て回って、一緒に愛を育んでいこうね!」
アイビスがいるのにも関わらず、どさくさに紛れてマーヤが抱き付いてくる。
「お、おま! お前! マーヤちゃんから離れろ!」
「いや、離れろって言っても、抱き付いて来たのはマーヤだ。まるで俺から抱き付いたみたいに言うなよ」
思わず否定してしまったが、これ以上マーヤが俺の側にいると、彼の怒りのボルテージを上げることになる。
とにかくここは、冷静になって話し合うべきではないか。
「よくも、よくも、よくも、よくも! マーヤちゃんを! ワシのマイスイートエンジェルを拐かしやがって!」
彼は大声を上げるも、怒りで冷静な判断ができないでいるようだ。
拐かすとは、力尽くで連れ去ると言う意味だが、マーヤの心を奪ったと言う意味で使っていやがる。正しい表現ができないほど、彼の思考はおかしくなっているようだ。
「許さない。ワシからマーヤちゃんを奪うやつは、この世から消してくれる」
「アイシクル!」
アイビスがドスの効いた声を上げた瞬間、俺は氷の魔法で氷柱を生み出し、彼に当てると店の外に吹き飛ばした。
咄嗟の行動のあまり、自分でもどうしてこのような行動に出たのか分からない。何故か分からないが、虫の知らせと言うやつだ。やつを店内に居させる訳にはいかないと思っての攻撃だった。
「どうしました! さっきから騒がしいですよ。ピック君が大きな音を口実に逃げ出そうとしているので、それを抑えるのに大変なのですが?」
何も状況を知らないクリープが2階から降りてきた。
「緊急事態だ! マーヤはマルゼンたちを頼む。クリープは周辺の人々の避難誘導を頼む。ピックにも手伝う様に言ってくれ」
「話は聞かせてもらったぜ! その任務、この命にかけて遂行してみせる……ヤッホー! 遂にサイン地獄から解放される! 俺は自由だあああああああぁぁぁぁぁぁ! オラオラオラ! チンタラして居ないで、早く逃げるぞ!」
マーヤたちに指示を送ると、どうやら盗み聞きをしていたらしく、ピックが物凄い勢いで階段を駆け降りてきた。そしてまだ店内に残っていた客の避難誘導を始める。
ピックのやつ、あんなにウキウキとした表情をしやがって。相当嫌だったのだな。サインを書くのが。
トラウマにならないことを祈りつつ、俺は外に飛び出す。
すると俺の攻撃を受けて追い出されたアイビスが地面に倒れている姿が視界に入る。
彼はゆっくりと起き上がり、俺の存在に気付くと鋭い視線を送ってくる。
先端を丸くしていたため、氷柱が突き刺さって血を流す様なことにはなっていない。
「シャカール……貴様は許さん。ワシのマーヤちゃんを奪ったお前だけは、絶対に許すものか」
「マーヤはお前のものではない。俺のものだ」
右手の親指を自身の胸に押し付け、口角を上げる。するとアイビスは更に怒りのボルテージを上げたのか、額の血管が浮き出ると怒りマークの様になる。
「あいつからは、人目のあるところでは使うなと言われていたが、そんなこと知るか! 貴様を倒し、マーヤちゃんをワシの嫁にしてくれる!」
アイビスは懐から何かを取り出した。距離があったが、目を凝らして見てみると、それが注射器であることが分かった。
注射器の用途は決まっている。肉体に突き刺し、内部に入っている物を注入するためだ。
やつが注射器を突き刺すのを阻止しなければ。
そのように判断すると、足を一歩前に出す。その瞬間、足元が小さく爆破し、砂塵が舞う。
アイビスが何か魔法を使用する素振りを見せなかった。つまり、これは外部からの妨害と言うことになる。
「ウインド」
風の魔法を発動し、舞った砂が目に入るのを阻止する。だが、妨害されたことにより、やつの行動を阻止することができなかった。
視界が良好となると、既にアイビスは注射器を腕に突き刺し、内部の液体を体内に注入していた。
「ハハハ、アーハハハハ! さぁ、これで終わりだ。貴様をあの世に送ってくれる」
注射器を打ち終わったアイビスが高笑いを上げながら、俺のことを睨み付けてくる。
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