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第八章
第三話 マーヤ!騙しやがったな!
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マーヤの父親が現れた翌日、俺は箒を持って、玄関前を掃いていた。
正直、掃除とか面倒だ。だが、掃除当番をすっぽかしては、タマモ辺りから口うるさく言われる。
「はぁー、さっさと終わらせて休憩するか」
玄関前の掃除を行なっていると、誰かがこちらに向かっているのが見えた。
誰だ? 学園の制服を着ていないから、生徒ではなさそうだ。でも、先生でもなさそうだな。
近付いて来る人物に視線を送っていると、次第に輪郭がハッキリとしてきた。
こちらに近付いているのはセイレーンだった。首には来客用の名札が付けてあることから、正式な手続きをして学園内に入ったことになる。
こっちには俺たちの済むシェアハウスしかない。道に迷ったのだろうか?
確かにこの学園の敷地は広い。来客が道に迷うこともあるだろう。俺がこの学園に入学したばかりの頃も、慣れない内は道に迷ったこともある。
しばらく様子を伺っていると、来客は俺に気付き、こちらに駆け寄って来る。
「すみません。お伺いをしたいことがあるのですが?」
来客のセイレーンは、落ち着いた声音で訊ねてきた。
綺麗と言うよりも可愛らしい人だな。目がまん丸で、フワフワとした感じの水色の髪に、童顔。そして余計なことだが、控えめな胸だ。
うん? この特徴って……もしかしてマーヤと同じ?
女性の全体を見ると、マーヤを少し老けさせた感じに見える。もしかしてお姉さんなのだろうか?
「あのう? 私の顔に何か付いていますか?」
「あ、いや。知り合いに似ているから、親族の方かと思って」
「あ、その口振りからすると、あなたは――」
「シャカールちゃーん! 掃除終わった? まだならマーヤが手伝って上げる! 未来のお嫁さんとなる以上、夫婦としての共同作業は必要……だ……よ……ね?」
来客の女性と話していると、玄関の扉が開かれてマーヤが箒を持ちながら姿を現す。だが、俺の隣に女性がいることに気付くと、途中から言葉の歯切れが悪くなった。
まずい。マーヤのことだ。隣にいる女性を見て『シャカールちゃんが他の女と逢い引きしている! 浮気者!』なんか言って騒ぎそうだ。これは面倒なことになってしまった。
そう思っていると、マーヤはこちらに指を向けていたが、その手は小刻みに震えていた。
さぁ、今からマーヤがトチ狂ったことを言うぞ。どうやって誤解を解くか。考えなければならない。
「ど、どど、どうしてママがここにいるの!」
「ママ!」
予想外の言葉に、思わず声を上げる。すると、マーヤから母親と言われた女性は、柔軟な笑みを浮かべ、俺に顔を向ける。
「申し遅れました。私はマーヤの母親のマルゼンと申します。娘がいつもお世話になっています」
あ、姉じゃなくて母親だったのか。それにしても姉と間違えそうな程、若く見えるな。
そんなことを考えていると、マーヤがこちらに駆け寄って来た。そして俺の腕を掴むとそのまま引っ張り、シェアハウスの中に連れ込む。そして玄関の鍵を閉めた。
「ふぅ、これでよし」
「何がこれでよしだ!」
突然の行動に出たマーヤに対して、俺はツッコミ感覚で軽くマーヤの頭にチョップを入れる。もちろん、本当に叩く訳にはいかないので髪に触れる程度に寸止めする。
「痛―い! シャカールちゃんが叩いた! DVは良くないよ!」
「何がDVだ! 本当に叩いてはいないだろうが! とにかく、せっか来た母親をそのままにする訳にはいかないだろうが」
マーヤがした施錠を解錠し、扉を開ける。
「すまない。どうやらマーヤのやつ恥ずかしがっていたみたいだ。もう、落ち着いているから、どうか上がってくれ」
逃げ出さないようにマーヤの手を掴み、マーヤの母親に入るように促し、彼女が建物内に入るとリビングに通す。
リビングにはクリープもいたが、来客が来たことを知ると、気を利かせたのか、キッチンへと向かって行った。
クリープが席を外すと、マーヤの母親にはソファーに座ってもらい、対面に俺とマーヤが座る。
「それで、今日訪れたのは、マーヤに会いに来たってことで良いのだよな? 先日、彼女の父親と名乗る人物が来たので、同じ用件だと思うのだが」
「はい。家庭の事情と言うやつなので、細かいことはお話しできないのですが、単刀直入に言えば、マーヤを連れ戻しに来ました……ですが今のあなたたちを見て、考えを改めるべきなのかとも考えております。本当にラブラブなのですね。仲良く手を繋いで」
マーヤの母親は俺の手を見て微笑む。
「こ、これはマーヤが逃げ出そうとしたからその防止のためだ」
「うん! マーヤとシャカールちゃんはラブラブなの!」
誤解を解くために手を離そうとした瞬間、マーヤが俺の腕に自身の腕を絡ませてきた。しっかりとホールドされているため、彼女の手が緩まない限りは抜け出せそうにない。
俺たちの関係を知っているみたいだが、マーヤが昨日暴露している以上、あの男がこの人に伝えているのだろう。
「あらあら、若いって良いわね。それに旦那よりもイケメンオーラも出ているし、マーヤちゃんが気に入る訳だわ。もし、マーヤちゃんに飽きたら、私が相手にしてあげるわね。大人のテクで虜にしちゃうのだから。男を喜ばせる方法は、マーヤちゃんよりも豊富よ」
「ハハ、そうですか」
思わず苦笑いが出る。冗談だと分かっているが、良く娘の前でそんなことを言えるな。
「何変なことを言っているのよ! シャカールちゃんはマーヤのものなんだから! ママにはパパがいるじゃない!」
「あんな年老いたおっさんよりも若い子よ。もうあの人なんかどうでも良いわ」
冗談だよな? でも、本当だったらエグすぎる。お互いに愛して婚姻を結んだのだから、旦那さんを1番にしてあげろよ。
「紅茶が出来ましたのでどうぞ。アールグレイです」
若干下ネタに話が向きかけた頃、クリープが紅茶を持って来てくれた。
ナイスタイミングだクリープ! これをきっかけに話の流れを変えよう。
「マーヤを連れ戻したい理由は彼女から聞いています。旦那さんが借金をして、その返済にマーヤを嫁に出すことになったとか」
「あら? マーヤちゃん。恋人にそんな嘘を付いていたの?」
一口紅茶を飲んだ後、マーヤの母親は小首を傾げる。
「う、嘘だって!」
「全部が嘘じゃないもん! ちゃんと真実も入れ混じっているから、100パーセントの嘘じゃないもん!」
母親のカミングアウトに、思わず声を上げてしまった。
完全に本当のことだと思い込んでいた。そう言えば、女性は男性と比べて嘘が上手い傾向にあったな。確か男性が嘘を言う場合、全てが虚言を言うことが殆どだが、女性は嘘の中に真実を入れ混じる。なので、女性の場合は浮気などがバレ難いと聞いたことがある。
「では、マーヤちゃんの代わりに私が真実を語りましょう。旦那が借金をしていたことは事実です。ですが、その返済は既に終わっています。なのに、借りた先が悪徳業者でして、利子の分が返済出来ていないと言い出したのです。そしてその利子は莫大であり、返済出来ないのであれば、娘を嫁に出せと脅してきたのです。なので、一度家族全員で話し合いたいと思い、迎えに来たと言うことです」
本当のことを話され、昨日のことを思い出す。
確かあの男は弁明しようとしていたな。あの反応はそう言うことだったのか。
「全部マーヤがややっこしくしているじゃないか! お前のせいで、俺は学園の規則を破って、魔法を使ってしまったぞ!」
「マー、マー、誰も目撃者がいないから良いじゃない、結果良ければ全て良しだよ」
本当に不味い状況であることを分かっていない。もし、俺が規則を破ったことをルーナに知られれば、罰として何をやらされるのか分かったものではない。最悪のパターンだと、彼女のオモチャにされるだろう。
「娘が迷惑をお掛けして申し訳ありません。お詫びに体で支払いますので、どうぞお好きにしてください」
「どうしてそうなる! 冗談でもそんなことを言わないでくれ!」
正直、掃除とか面倒だ。だが、掃除当番をすっぽかしては、タマモ辺りから口うるさく言われる。
「はぁー、さっさと終わらせて休憩するか」
玄関前の掃除を行なっていると、誰かがこちらに向かっているのが見えた。
誰だ? 学園の制服を着ていないから、生徒ではなさそうだ。でも、先生でもなさそうだな。
近付いて来る人物に視線を送っていると、次第に輪郭がハッキリとしてきた。
こちらに近付いているのはセイレーンだった。首には来客用の名札が付けてあることから、正式な手続きをして学園内に入ったことになる。
こっちには俺たちの済むシェアハウスしかない。道に迷ったのだろうか?
確かにこの学園の敷地は広い。来客が道に迷うこともあるだろう。俺がこの学園に入学したばかりの頃も、慣れない内は道に迷ったこともある。
しばらく様子を伺っていると、来客は俺に気付き、こちらに駆け寄って来る。
「すみません。お伺いをしたいことがあるのですが?」
来客のセイレーンは、落ち着いた声音で訊ねてきた。
綺麗と言うよりも可愛らしい人だな。目がまん丸で、フワフワとした感じの水色の髪に、童顔。そして余計なことだが、控えめな胸だ。
うん? この特徴って……もしかしてマーヤと同じ?
女性の全体を見ると、マーヤを少し老けさせた感じに見える。もしかしてお姉さんなのだろうか?
「あのう? 私の顔に何か付いていますか?」
「あ、いや。知り合いに似ているから、親族の方かと思って」
「あ、その口振りからすると、あなたは――」
「シャカールちゃーん! 掃除終わった? まだならマーヤが手伝って上げる! 未来のお嫁さんとなる以上、夫婦としての共同作業は必要……だ……よ……ね?」
来客の女性と話していると、玄関の扉が開かれてマーヤが箒を持ちながら姿を現す。だが、俺の隣に女性がいることに気付くと、途中から言葉の歯切れが悪くなった。
まずい。マーヤのことだ。隣にいる女性を見て『シャカールちゃんが他の女と逢い引きしている! 浮気者!』なんか言って騒ぎそうだ。これは面倒なことになってしまった。
そう思っていると、マーヤはこちらに指を向けていたが、その手は小刻みに震えていた。
さぁ、今からマーヤがトチ狂ったことを言うぞ。どうやって誤解を解くか。考えなければならない。
「ど、どど、どうしてママがここにいるの!」
「ママ!」
予想外の言葉に、思わず声を上げる。すると、マーヤから母親と言われた女性は、柔軟な笑みを浮かべ、俺に顔を向ける。
「申し遅れました。私はマーヤの母親のマルゼンと申します。娘がいつもお世話になっています」
あ、姉じゃなくて母親だったのか。それにしても姉と間違えそうな程、若く見えるな。
そんなことを考えていると、マーヤがこちらに駆け寄って来た。そして俺の腕を掴むとそのまま引っ張り、シェアハウスの中に連れ込む。そして玄関の鍵を閉めた。
「ふぅ、これでよし」
「何がこれでよしだ!」
突然の行動に出たマーヤに対して、俺はツッコミ感覚で軽くマーヤの頭にチョップを入れる。もちろん、本当に叩く訳にはいかないので髪に触れる程度に寸止めする。
「痛―い! シャカールちゃんが叩いた! DVは良くないよ!」
「何がDVだ! 本当に叩いてはいないだろうが! とにかく、せっか来た母親をそのままにする訳にはいかないだろうが」
マーヤがした施錠を解錠し、扉を開ける。
「すまない。どうやらマーヤのやつ恥ずかしがっていたみたいだ。もう、落ち着いているから、どうか上がってくれ」
逃げ出さないようにマーヤの手を掴み、マーヤの母親に入るように促し、彼女が建物内に入るとリビングに通す。
リビングにはクリープもいたが、来客が来たことを知ると、気を利かせたのか、キッチンへと向かって行った。
クリープが席を外すと、マーヤの母親にはソファーに座ってもらい、対面に俺とマーヤが座る。
「それで、今日訪れたのは、マーヤに会いに来たってことで良いのだよな? 先日、彼女の父親と名乗る人物が来たので、同じ用件だと思うのだが」
「はい。家庭の事情と言うやつなので、細かいことはお話しできないのですが、単刀直入に言えば、マーヤを連れ戻しに来ました……ですが今のあなたたちを見て、考えを改めるべきなのかとも考えております。本当にラブラブなのですね。仲良く手を繋いで」
マーヤの母親は俺の手を見て微笑む。
「こ、これはマーヤが逃げ出そうとしたからその防止のためだ」
「うん! マーヤとシャカールちゃんはラブラブなの!」
誤解を解くために手を離そうとした瞬間、マーヤが俺の腕に自身の腕を絡ませてきた。しっかりとホールドされているため、彼女の手が緩まない限りは抜け出せそうにない。
俺たちの関係を知っているみたいだが、マーヤが昨日暴露している以上、あの男がこの人に伝えているのだろう。
「あらあら、若いって良いわね。それに旦那よりもイケメンオーラも出ているし、マーヤちゃんが気に入る訳だわ。もし、マーヤちゃんに飽きたら、私が相手にしてあげるわね。大人のテクで虜にしちゃうのだから。男を喜ばせる方法は、マーヤちゃんよりも豊富よ」
「ハハ、そうですか」
思わず苦笑いが出る。冗談だと分かっているが、良く娘の前でそんなことを言えるな。
「何変なことを言っているのよ! シャカールちゃんはマーヤのものなんだから! ママにはパパがいるじゃない!」
「あんな年老いたおっさんよりも若い子よ。もうあの人なんかどうでも良いわ」
冗談だよな? でも、本当だったらエグすぎる。お互いに愛して婚姻を結んだのだから、旦那さんを1番にしてあげろよ。
「紅茶が出来ましたのでどうぞ。アールグレイです」
若干下ネタに話が向きかけた頃、クリープが紅茶を持って来てくれた。
ナイスタイミングだクリープ! これをきっかけに話の流れを変えよう。
「マーヤを連れ戻したい理由は彼女から聞いています。旦那さんが借金をして、その返済にマーヤを嫁に出すことになったとか」
「あら? マーヤちゃん。恋人にそんな嘘を付いていたの?」
一口紅茶を飲んだ後、マーヤの母親は小首を傾げる。
「う、嘘だって!」
「全部が嘘じゃないもん! ちゃんと真実も入れ混じっているから、100パーセントの嘘じゃないもん!」
母親のカミングアウトに、思わず声を上げてしまった。
完全に本当のことだと思い込んでいた。そう言えば、女性は男性と比べて嘘が上手い傾向にあったな。確か男性が嘘を言う場合、全てが虚言を言うことが殆どだが、女性は嘘の中に真実を入れ混じる。なので、女性の場合は浮気などがバレ難いと聞いたことがある。
「では、マーヤちゃんの代わりに私が真実を語りましょう。旦那が借金をしていたことは事実です。ですが、その返済は既に終わっています。なのに、借りた先が悪徳業者でして、利子の分が返済出来ていないと言い出したのです。そしてその利子は莫大であり、返済出来ないのであれば、娘を嫁に出せと脅してきたのです。なので、一度家族全員で話し合いたいと思い、迎えに来たと言うことです」
本当のことを話され、昨日のことを思い出す。
確かあの男は弁明しようとしていたな。あの反応はそう言うことだったのか。
「全部マーヤがややっこしくしているじゃないか! お前のせいで、俺は学園の規則を破って、魔法を使ってしまったぞ!」
「マー、マー、誰も目撃者がいないから良いじゃない、結果良ければ全て良しだよ」
本当に不味い状況であることを分かっていない。もし、俺が規則を破ったことをルーナに知られれば、罰として何をやらされるのか分かったものではない。最悪のパターンだと、彼女のオモチャにされるだろう。
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