薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第八章

第一話 情報の進展

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~シャカール視点~





 ツインターボステークスが終わったその日、俺はアイリンたちと学園に戻った。だが、ルーナが俺に話があると言うことで、シェアハウスには戻らないで、そのまま校舎へと向かって行く。

「なぁ、俺に話ってなんだ? アイリンたちとはそれなりに離れたから、ここら辺で話しても良いんじゃないのか?」

「いや、ここでは話せない。どこで誰が聞いているとも分からないからね。話はワタシの部屋に着いてからだ」

 この場で話すことを拒絶された。つまり、細心の注意を払ってまでするような重要な用件らしい。

 いったいどんな話をするつもりなのだろうか?

 その後、俺たちは無言となり、学園長室にたどり着く。

 扉を開けて中に入ると、ルーナは自分の席に座り、机の上に肘を置いて指を絡める。そして赤い瞳でジッと俺のことを見てきた。

「この部屋には防音魔法がしてある。これなら、外部から聞き耳を立てられたとしても聞こえることはない。では、本題に入るとしよう。アイリンがツインターボステークスで優勝することができた。彼女を導いた報酬として、黒幕に関する情報を提供する」

 そう言えば、俺はルーナとそんな約束をしていたな。

 アイリンがG Iレースに勝てるようにトレーナーの役割をしたら、彼女の持っている情報を提供してくれると言う約束になっていた。

「そう言えば、そんな約束をしていたな。それじゃ、話してもらおうか」

「ああ、結論から言うと、黒幕の正体はまだ掴めていない。だが、容疑者を見つけることができた。そいつの名はアイビス・ローゼ。魔競走委員会のメンバーだ」

 容疑者の名前と加入している組織の名を告げられ、俺の腕は鳥肌が立った。

 魔競走委員会は、俺たち走者が出場するレースの運営をしているお偉いさんたちの集まりだ。彼らのお陰で走者はレースに出場し、自分たちの実力を観客たちに知らしめることができている。

「ワタシも正直驚いている。まさか運営側に黒幕らしき者がいるとはね。だが、運営側だからこそ、走者に接触して何かしらの影響を与えることも容易いはずだ」

「なるほど、アイビス・ローゼか。そいつと接触することができれば、何かしらの情報を手に入れることができるな」

「君も会議に参加していたから見ているとは思うが、アイビスはクソブタ……ブッヒーの隣にいた猪の獣人だ」

「あの白髪のやつか」

 獣人の知り合いはいないから、具体的な年齢は分からないが、パッとした見た目では、推定60代のオスだったな。

「ルーナ、アイビスと接触する方法はあるか?」

 訊ねてみると、彼女は首を左右に振る。

「いくらワタシでも、魔競走委員会の奴らと気軽に会うことはできない。フェインの時のように、何かしらレースで大きな問題が起きない限りは、接触することができない組織だ」

 簡単には会うことができない。そう告げた後、ルーナはニヤリと口角を上げる。

「方法があるとすれば、ひとつ。シャカール、君の残りの1冠であるKINNGU賞を優勝して3冠王になれば、確実に王様から貴族にしてもらえる。貴族となってパーティーでも開けば、魔競走委員会たちも顔出しくらいはするだろう」

 ルーナからの提案に、少し考えてしまう。

 彼女の言う通り、俺が残りの1冠のレースに勝って3冠王となれば、確実に貴族になることだってでき、魔競走委員会の奴らを呼び寄せることができるだろう。だが、俺は貴族の生活に興味がない。

 だって、貴族となれば、王様から与えられた土地を管理して、そこに住む領民の暮らしを考える生活を送ることになる。そんな面倒なことは嫌だ。

 でも、現段階でそれしか方法がないのなら、最終手段として用いるしかない。

「どうやら悩んでいるようだね。無理もない。ワタシも君の気持ちは分かるさ。ワタシだって、王様から王位を譲ると言われた時も、どうやって断ろうかと悩んだものだ。まぁ、KINNGU賞までまだ4ヶ月ある。じっくり考えることだ」

 まだ猶予があるので自分の中で決断するように言うと、ルーナは椅子から立ち上がる。

「ワタシからの話は以上だ。帰ってくれて構わない。もし、シャカールがまだワタシと一緒に居たいと言うのなら、残ってくれて構わないが」

「お前と一緒にいると、碌なことが起きそうな気がするから帰らせてもらう。今回の情報は助かった。また何かしらの情報を手に入れたのなら、その時はまた教えてくれ」

「ああ、ワタシも運営側を良く思っていないからね。可能な限りの協力は惜しまないさ。君は学園の生徒として、そして走者として、今の生活を謳歌してくれ……あいつの分もね」

 学園生活を楽しむように告げるルーナだが、その表情にはどこか憂を帯びているものを感じた。

 あいつとは、いったい誰のことだ。

 なぜか後ろ髪を引かれる思いに駆られるも、俺は学園長室を出て行くと、そのまま校舎を出てシェアハウスに帰る。

「離してよ! マーヤは嫌なの!」

「駄々を捏ねるな。大人しくついて来ないと俺が怒られてしまう」

 シェアハウスが見えて来たその時、誰かが言い争っているのが聞こえて来た。

 一人は聞きなれない声だが、もう一人はマーヤだ。

 更に近付くと状況がはっきりと分かって来た。

 見知らぬ男がマーヤの腕を引っ張り、強引にもどこかに連れて行こうとしている。そして彼女の腕を引っ張っているのは、同じセイレーンのようだが、学園の関係者ではなさそうだ。

 それに来賓者を表す名札を付けていない以上、部外者の可能性が非常に高い。

 もしかして人攫いか。どうやって学園の警備を抜けやがった。

「マーヤ!」

 思わず彼女の名を叫び、駆け寄る。

「シャカールちゃん! えい!」

「ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 俺の姿を視認した瞬間、マーヤはセイレーンの男の腕に噛みつき、やつが怯んだ瞬間にこちらに駆け寄って来る。

「シャカールちゃんお願い! マーヤを攫って誰も近付けない場所に連れて行って! そして2人で幸せに暮らそう!」

「え?」

 突然の攫って欲しい宣言に、俺は思わず間抜けな声が漏れてしまった。
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