薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

文字の大きさ
上 下
106 / 269
第八章

第一話 情報の進展

しおりを挟む
~シャカール視点~





 ツインターボステークスが終わったその日、俺はアイリンたちと学園に戻った。だが、ルーナが俺に話があると言うことで、シェアハウスには戻らないで、そのまま校舎へと向かって行く。

「なぁ、俺に話ってなんだ? アイリンたちとはそれなりに離れたから、ここら辺で話しても良いんじゃないのか?」

「いや、ここでは話せない。どこで誰が聞いているとも分からないからね。話はワタシの部屋に着いてからだ」

 この場で話すことを拒絶された。つまり、細心の注意を払ってまでするような重要な用件らしい。

 いったいどんな話をするつもりなのだろうか?

 その後、俺たちは無言となり、学園長室にたどり着く。

 扉を開けて中に入ると、ルーナは自分の席に座り、机の上に肘を置いて指を絡める。そして赤い瞳でジッと俺のことを見てきた。

「この部屋には防音魔法がしてある。これなら、外部から聞き耳を立てられたとしても聞こえることはない。では、本題に入るとしよう。アイリンがツインターボステークスで優勝することができた。彼女を導いた報酬として、黒幕に関する情報を提供する」

 そう言えば、俺はルーナとそんな約束をしていたな。

 アイリンがG Iレースに勝てるようにトレーナーの役割をしたら、彼女の持っている情報を提供してくれると言う約束になっていた。

「そう言えば、そんな約束をしていたな。それじゃ、話してもらおうか」

「ああ、結論から言うと、黒幕の正体はまだ掴めていない。だが、容疑者を見つけることができた。そいつの名はアイビス・ローゼ。魔競走委員会のメンバーだ」

 容疑者の名前と加入している組織の名を告げられ、俺の腕は鳥肌が立った。

 魔競走委員会は、俺たち走者が出場するレースの運営をしているお偉いさんたちの集まりだ。彼らのお陰で走者はレースに出場し、自分たちの実力を観客たちに知らしめることができている。

「ワタシも正直驚いている。まさか運営側に黒幕らしき者がいるとはね。だが、運営側だからこそ、走者に接触して何かしらの影響を与えることも容易いはずだ」

「なるほど、アイビス・ローゼか。そいつと接触することができれば、何かしらの情報を手に入れることができるな」

「君も会議に参加していたから見ているとは思うが、アイビスはクソブタ……ブッヒーの隣にいた猪の獣人だ」

「あの白髪のやつか」

 獣人の知り合いはいないから、具体的な年齢は分からないが、パッとした見た目では、推定60代のオスだったな。

「ルーナ、アイビスと接触する方法はあるか?」

 訊ねてみると、彼女は首を左右に振る。

「いくらワタシでも、魔競走委員会の奴らと気軽に会うことはできない。フェインの時のように、何かしらレースで大きな問題が起きない限りは、接触することができない組織だ」

 簡単には会うことができない。そう告げた後、ルーナはニヤリと口角を上げる。

「方法があるとすれば、ひとつ。シャカール、君の残りの1冠であるKINNGU賞を優勝して3冠王になれば、確実に王様から貴族にしてもらえる。貴族となってパーティーでも開けば、魔競走委員会たちも顔出しくらいはするだろう」

 ルーナからの提案に、少し考えてしまう。

 彼女の言う通り、俺が残りの1冠のレースに勝って3冠王となれば、確実に貴族になることだってでき、魔競走委員会の奴らを呼び寄せることができるだろう。だが、俺は貴族の生活に興味がない。

 だって、貴族となれば、王様から与えられた土地を管理して、そこに住む領民の暮らしを考える生活を送ることになる。そんな面倒なことは嫌だ。

 でも、現段階でそれしか方法がないのなら、最終手段として用いるしかない。

「どうやら悩んでいるようだね。無理もない。ワタシも君の気持ちは分かるさ。ワタシだって、王様から王位を譲ると言われた時も、どうやって断ろうかと悩んだものだ。まぁ、KINNGU賞までまだ4ヶ月ある。じっくり考えることだ」

 まだ猶予があるので自分の中で決断するように言うと、ルーナは椅子から立ち上がる。

「ワタシからの話は以上だ。帰ってくれて構わない。もし、シャカールがまだワタシと一緒に居たいと言うのなら、残ってくれて構わないが」

「お前と一緒にいると、碌なことが起きそうな気がするから帰らせてもらう。今回の情報は助かった。また何かしらの情報を手に入れたのなら、その時はまた教えてくれ」

「ああ、ワタシも運営側を良く思っていないからね。可能な限りの協力は惜しまないさ。君は学園の生徒として、そして走者として、今の生活を謳歌してくれ……あいつの分もね」

 学園生活を楽しむように告げるルーナだが、その表情にはどこか憂を帯びているものを感じた。

 あいつとは、いったい誰のことだ。

 なぜか後ろ髪を引かれる思いに駆られるも、俺は学園長室を出て行くと、そのまま校舎を出てシェアハウスに帰る。

「離してよ! マーヤは嫌なの!」

「駄々を捏ねるな。大人しくついて来ないと俺が怒られてしまう」

 シェアハウスが見えて来たその時、誰かが言い争っているのが聞こえて来た。

 一人は聞きなれない声だが、もう一人はマーヤだ。

 更に近付くと状況がはっきりと分かって来た。

 見知らぬ男がマーヤの腕を引っ張り、強引にもどこかに連れて行こうとしている。そして彼女の腕を引っ張っているのは、同じセイレーンのようだが、学園の関係者ではなさそうだ。

 それに来賓者を表す名札を付けていない以上、部外者の可能性が非常に高い。

 もしかして人攫いか。どうやって学園の警備を抜けやがった。

「マーヤ!」

 思わず彼女の名を叫び、駆け寄る。

「シャカールちゃん! えい!」

「ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 俺の姿を視認した瞬間、マーヤはセイレーンの男の腕に噛みつき、やつが怯んだ瞬間にこちらに駆け寄って来る。

「シャカールちゃんお願い! マーヤを攫って誰も近付けない場所に連れて行って! そして2人で幸せに暮らそう!」

「え?」

 突然の攫って欲しい宣言に、俺は思わず間抜けな声が漏れてしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

追放騎手の霊馬召喚〜トウカイテイオーを召喚できずに勘当された俺は、伝説の負け馬と共に霊馬競馬界で成り上がる!

仁徳
SF
この物語は、カクヨムの方でも投稿してあります。カクヨムでは高評価、レビューも多くいただいているので、それなりに面白い作品になっているかと。 知識0でも安心して読める競馬物語になっています。 S F要素があるので、ジャンルはS Fにしていますが、物語の雰囲気は現代ファンタジーの学園物が近いかと。 とりあえずは1話だけでも試し読みして頂けると助かります。 面白いかどうかは取り敢えず1話を読んで、その目で確かめてください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...