薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第七章

第十七話 ツインターボステークス③

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  ~アイリン視点~





『現在先頭ハナを進むのは3番人気のアイリン、そして5メートル差で2番人気のアイネスビジンと、8番人気のヒッキーハウスが追いかけると言う形ですが、アイリンの魔法の矢による攻撃で、思うように前に進めない形となっていますね』

『あれだけ正確に足元を狙われては、思うように走ることは困難でしょうね。今ヒッキーハウスが左にズレましたが、それを見越して矢を放たれています』

 凄いです! さすがわたしです! まさかあのアイネスビジンさんが、ここまでわたしの攻撃に翻弄してくれるとは思ってもいませんでした。そのままわたしに何も出来ずに、2着でゴールすると良いです。

『4番手を走るビクトリーロードは矢の影響を受けることなく、ヒッキーハウス達との距離を縮めるが、ここで5番手のオーランドが攻撃を仕掛けてきた。火球が放たれてビクトリーロードに直撃! そのまま加速して追い抜く! しかしヒッキーハウスと並んだところで、すかさずアイリンの魔法の矢でそれ以上前に出ることが出来ない』

『どうやら他の走者達は、前に出るのは得策ではないと思っているようですね。妨害をすることなく、今の順位をキープしているようです』

『ここで中段を見て行きましょう。現在6番手を走るのはタップダンス、そしてその後ろから様子を伺っているのは地方の怪物のオグニ。そして内側をシャイニングスターが走っているが、ここでオニバースが並んできた』

『中段を走る走者は順位をキープしているようですね。彼らの性格を考えるのなら、やはり自分のペースを維持すべきと判断したのでしょう』

『中段から3メートル差を走るのはカーネルですが、ここでガランデュウが一気駆け出す! 次々と追い抜いて今、カーネルと並んだ!』

『まさかの牛蒡ごぼう抜きで驚かされましたね。スタミナの方は大丈夫か心配なところですが、普段は中距離を走っているので、まだ余裕があるかと』

『ガランデュウから追い抜かれたマーリンは内側で様子を伺っていると言ったところか。そしてその後方をブリーザとジャッカルが走り、タイミングを伺っているのか、ウゾウムゾウとノゲノラが不気味に息を潜めています』

『追い込みの脚質を得意とする彼らは、やはり序盤では動こうとはしませんね』

『さぁ、ここで現在1番手のアイリンが300メートル走った地点にある最初のギミックエリア【ギュルン! ギュルン! ターボ全開!】に差し掛かる』

 実況の人が状況を説明する中、わたしはどうにか1位をキープして、最初のギミックエリアに到達することができました。

 エリア内に入った瞬間、突風のような風を受け、思うように前進することができません。

 なんて風圧なのよ! これでは思うように走れないじゃないですか!

 チラリと後方を見ると、ギミックにより速度を落としたことで、2位のアイネスビジンさんとの距離が再び縮まり始めました。

 こうなったら、また魔法の矢でリードをキープするしかありません。

 魔力を練り込み、魔力回路で体全体に魔力を行き渡らせると、魔法を発動して矢を生み出し、直ぐにアイネスビジンさんの足元に向けて放ちます。ですが、風の影響で放たれた矢は、狙ったところに飛ぶことができませんでした。

「あら? これはラッキーですわね。今なら、広がった距離を更に縮めることができますわ」

 アイネスビジンさんがわたしの真後ろに移動すると、少しずつではありますが、徐々に距離を縮めて来ます。

「どうして同じエリアにいるのに、ギミックの影響を受けていないのですか!」

 少しずつ距離を縮めて来るアイネスビジンさんに、ちょっとした恐怖を覚えたわたしは、必死になって走ります。ですが、距離は保たれるどころか、縮まる一方です。

「あら、あなたはシャカール様から教わっていないのですか? スリップストリームと呼ばれるものですわ。前走する者の背後に位置取りをすることで、風の抵抗を少なくする技術。風が強い時の走りの基本じゃないですか。あ、そうか、大逃げに拘るあなたには関係がない話でしたものね。何せ、前を走る者がいないのですもの。残念でした」

 腹立たしいことをアイネスビジンさんは言いますが、事実であるので反論することはできません。

 壁役になるくらいなら、少しスタミナを消費してでも、アイネスビジンさんを同じ土俵に立たせます。

『現在先頭ハナを走るアイリンが、内から外へと位置取りを変えた! しかしアイネスビジンも粘る! まるでお前は自分の壁だと主張するかのように、ピッタリと真後ろをキープするかのような走りだ』

『これはアイリンにとっては厳しい状況でしょう。彼女はスタミナが他の走者に比べて少ないはずなので、この煽りは非常きついはず。果たして冷静さを欠くことなく走ることができるのか、今後の展開が気になります』

 実況と解説の言葉が耳に入って来ます。確かに彼らの言う通りです。このままでは。無駄にスタミナを消費して速度を落としてしまうことになってしまう。

 とにかく今は冷静になって状況を見極める必要があります。

 可能な範囲で深呼吸をすると、少しだけ冷静さを取り戻せたような気がします。

 まだ、どうにかスタミナの消費は最小限に止めることができている。今は甘んじてアイネスビジンさんの壁をやりましょう。どっちにしろ、もう直ぐで最初のギミックを抜けます。

『順位は先ほどと変わらないまま、先頭を走るアイリンがここで最初のギミックを抜けた!』

 どうにか最初のギミックを突破することができました。でも、アイネスビジンさんとの差は1メートルほどしかありません。

 どうにか次のギミックまでに、またリードを広げないと。
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