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第五章

第十三話 チェリーブロッサム賞③

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~シャワーライト視点~





 チェリーブロッサム賞の開始の合図であるゲートが開き、わたしは芝を蹴って前に出て走る。

『さぁ、ゲートが開き、走者一斉に走り出しました。ここからそれぞれの脚質により、順位が決まります』

 わたしは外枠の16番ゲートからの出走。なので、スタートダッシュに成功しないと、先頭集団に入ることは難しくなる。

 速度を緩めることなく右斜めへと走って行き、どうにか内側へと食い込むことができた。

『さぁ、それではスタートダッシュからの現在の順位を発表しましょう。現在先頭ハナを突き進むのは、逃げ切りシスターズのセンター、ウイニングライブ』

『彼女は逃げを得意とする脚質ですからね。集中していましたし、スムーズにコース取りに成功していました。1位を取るのは当然でしょう』

『続いてラブリーチュチュ、ピンクジュエリー、キャロット、ここでカーチャンがシャワーライトを抜いて5番手に躍り出た。現在シャワーライトが6番手を走る』

 1人に追い抜かれてしまったけれど、今は6番手。先行なら悪くない順位よ。取り敢えずはこの順位をキープしつつ、この後に行われるギミックで追い上げる。

 取り敢えずは今の順位をキープすることを考え、ひたすら走る。

『先頭集団の殿をシャワーライトが走るところで、それから5メートル差をアルカディアクイーンが走り、たった今パラパラが追い付き並走。それから2メートル差でメリュジーヌ、シャンデリアンが内から様子を伺っているところを、ハッピーパーティーが追い抜いた。ここまでが中段と言ったところ』

『中段は先行、差しの脚質が得意としている走者が走っている感じですね。後段は差し、追い込みが得意な走者たちの集団となっています。

『中段から5メートル程離され、パヒュー、バレンタイン、その後方をアイリス、その後2メートル差を走っているキャッツはシンコーン、バレッサ、サーリンに囲まれて抜け出せない様子』

『先頭から殿まで、およそ18メートルと言った縦長の展開となっていますね。やはりウイニングライブが早く走る分、殿との距離が離れています』

『さぁ、ここで先頭を走るウイニングライブが最初のギミック、チェリーブロッサムの花びらの舞エリアへと差し掛かった』

 実況のアルティメットさんが、ウイニングライブさんが最初のギミックに突入することを教え、わたしは視線を奥へと向ける。

 前方には、チェリーブロッサムの木から落ちた花弁が、魔法によって行方を防ぐ吹雪のように舞い散っているのが見える。

 あの中に途中すれば、当然視界が悪くなる。近くに他の走者が走っても気付き難く、接触してしまうリスクもあるわ。

 今考えられる作戦としては、他の走者との事故による接触を防ぐために、速度を落としてワンテンポ遅れてからの突入が良さそう。

 思考を巡らせて最初のギミックに挑むための作戦を考えていると、とつぜん目の前で起きた光景に、目を大きく見開く。

 2番手を走っていたはずのラブリーチュチュさんが、花弁の吹雪に弾き飛ばされ、追い出されていた。

 いったい何が起きたの?

 チェリーブロッサムの花弁の吹雪の中で、何が起きているのか分からない中、呆然しているであろう、ラブリーチュチュさんを躱し、私も花弁の吹雪の中に突入した。

 視界はピンク色の花弁で邪魔をされ、周囲が良く見えない。

 そんな中走っていると、いつの間にか視界が良好となる。

 しかしわたしの視界の先には、最初のギミックであるチェリーブロッサムの花弁による吹雪が、行方を遮っていたのだ。

 わたしも弾かれた! いったいどうすればこれを突破することができるの?

『ピンクジュエリー、キャロット、カーチャンに続き、シャワーライトまでが最初のギミックをクリアーできない中、中段、後段の走者たちが一気に距離を詰めた!』

『最初のギミックで一気に混戦状態となってしまいましたね。果たして最初のギミックを突破し、優勝へ近付く者は一体誰なのか。誰が1番手として抜け出すのか、見物です』

 チェリーブロッサムの花弁の謎が解明できない中、わたしは思考を巡らせる。

 このギミックは、無限回路賞の霧と同じ効果を持っている。でも、中に突入しても問題なんかは出されることはなかった。なら、どこかに注意点を向けて走らなければならないと言うことになる。

 思考を巡らせている中、桜の花弁の吹雪の中から、茶髪の髪をツーサイドアップにしているアイドル衣装の女の子が追い出された姿が視界に入る。

『おっと、ここで1番人気のウイニングライブまでもが、最初のギミックを突破できないでいる!』

『これは意外な展開ですね。彼女クラスになれば、これくらいのギミックには直ぐに気付けるかと思っていましたが』

 そんな! ウイニングライブさんも突破できないの! そんな難易度の高いギミックを、わたしが突破できる訳が……。

「なるほどねぇ。そう言うことか。みんな! 次は失敗しないでクリアするから、ちゃんと見ていてね!」

 ギミックを突破できなかったものの、ウイニングライブさんは何かを掴み取ったみたいで、観客たちに手を振ってアピールをする。

「頑張れ! ウイニングライブ!」

「応援しているからな!」

 強気でいる彼女の姿を見て、観客たちはウイニングライブさんに声援を送る。

 そして彼女は笑顔のままチェリーブロッサムの花弁の吹雪の中へと突入した。

 その後、多くの走者がギミックに挑み、弾き飛ばされる中、ウイニングライブさんが戻って来ることはなかった。

『ここでウイニングライブが最初のギミックを突破だ! 他の走者が最初のギミックをクリアできない中、彼女だけが次のギミックへと向かって行く!』

『これは圧倒的なリードですね。他の走者たちが早くギミックをクリアできないと、彼女の優勝が決定して、このレースに面白味がなくなりそうです』

 ウイニングライブさんが最初のギミックを突破したことを知らされ、他の走者たちが焦ってチェリーブロッサムの花弁の吹雪の中へと突入して行く。

 でも、無闇に突入してもクリアできないのは明白だ。

 必ずこのギミックをクリアする鍵はどこかにあるはず。

 わたしは急いで突破することを一旦諦め、歩きながらでも周囲を観察することを優先した。

「きゃあ!」

「くそう! どうなっているのよ」

「どうして先に進めないんだ!」

 花弁の吹雪の中で、他の走者たちの声が聞こえる中、周囲を観察する。すると、足元だけは花弁によって視界が塞がれることはなかった。そして足元にはチェリーブロッサムの花弁が芝の上に落ちているものの、不自然に落下していない場所があった。

 そこに足を踏み入れるも、何も起きない。

「もしかして。これを辿って行けってことなの?」

 試しに花弁が落ちている場所に足を置き、芝ごと踏み潰す。すると、わたしは最初のギミックの前に立たされていた。

『シャワーライト、2度目の挑戦も失敗に終わる』

『未だにウイニングライブ意外は突破できていません。これでは彼女の独走を許すことになります。果たして彼女に追い付く走者は現れるのか』

 なるほど、これがチェリーブロッサム賞の最初のギミックか。チェリーブロッサムを雑に扱うと拒まれる。それがこのギミックの正体なのね。

 わたしはもう一度ギミックの中に突入した。そして花弁が落下していない芝の上に足を置き、前に進む。その後、しばらく経っても私が先に進むことを拒まれることはなかった。

 これを最初の1回で見抜くなんて、さすがウイニングライブさんよ。でも、必ずあなたに追い付いてみせる。

『ここでシャワーライトがギミックを突破! 2位に躍り出る!』

 視界の奥に小さくだけどウイニングライブさんの姿が見える。まだ追い付けない距離ではないわ。

 わたしは彼女の背中を追いかけ、次のギミックへと向かって行く。
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