薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第五章

第八話 逃げ切りシスターズのウイニングライブ

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 翌日、俺はタマモとクリープと一緒に、シェアハウスを出た。走者の学び舎へと向かって行くと、少しだけ憂鬱な気分になる。

「あーあ、休日の後の学校ほど、やる気のないものはないな」

「シャカール君は何を言っているのかしら。授業が始まった途端に居眠りを始めているのに、良くそんな言葉が出てくるのね。そのセリフが似合うのは、ちゃんと学問を真面目に受けている生徒よ」

「まぁ、シャカール君はそんなに授業を真面目に受けていないのですか? これはママが教えてあげないといけませんね。今度、勉強会でも開きましょうか? ママが丁寧に教えてあげれば、きっとシャカール君も学びの素晴らしさが分かってくれるでしょう」

 ポツリと言葉を漏らし、少しばかり気だるげでいると、先ほどの言葉にタマモとクリープが反応する。

 いや、俺が授業中に寝ているのは、やる気がないだけではないのだがな。

 最低限の会話に止め、校舎に向けて歩く。

 次第に校舎との距離が縮まると、誰かが叫んでいるようで、ちょっとした人集りひとだかりができている。

「あらあら、あれはなんでしょうか? 多くの方が集まっているみたいですね?」

「気になりますね。とにかく行ってみましょう。何か事件や事故が起きたかもしれませんし」

 クリープとタマモが歩く速度を早めて人集りへと向かって行く中、俺も早歩きで歩みを進める。

「皆さん! 今度逃げ切りシスターズの野外ライブをします! 是非お友達を誘って観に来てくださいね!」

 どうやら学園の生徒による宣伝のようだな?

 多くの生徒が足を止めているみたいだが、結構人気のあるグループなのだろうか?

 そんなことを考えながら歩くと、そろそろ予冷の時間が近付いているからか、先ほどまで集まっていた生徒たちが散らばり、その場にいる生徒はまばらとなっていた。

「逃げ切りシスターズの野外ライブをします!」

 生徒がまばらになったお陰で、宣伝をしている人物の容姿が視界に捉える。

 茶髪の髪をツーサイドアップにしている女子生徒だ。背中から悪魔の翼が生えていると言うことは、魔族だな。

 容姿がはっきりと分かるところまで近付くと、彼女は俺たちの存在に気付いたようで、両手で抱き抱えている紙を抱き締めながら、こちらに駆け寄って来る。

「タマモちゃん! 久しぶり! 同じ学園に通っているのに、どうしてこんなに会えないのかな?」

「それは、あたしにも分からないわよ。偶然に偶然が重なっているんじゃないのかな? 別にあなたから逃げている訳ではないのよ」

「うん、うん。それは分かっている。私とタマモちゃんの仲だもんね」

 女の子がこちらに駆け寄って来た瞬間、彼女はタマモと親しそうに話す。

「タマモの知り合いか?」

「うん、この子は――」

「うそ! この私、逃げ切りシスターズのウイニングライブを知らないの!」

 タマモが女の子の紹介をしようとした瞬間、ウイニングライブと名乗った女の子が驚愕の表情を見せる。

 そして持っていた紙の束を落とし、膝と両手を地面に付ける。

 これほどショックを受けるなんて、そんなにこの子は有名魔族なのか?

「ううん。さすがに全世界の種族が、私のことを知っているとは限らないものね。ここは知名度を上げるチャンスだと思えば良いわ」

 ブツブツと独り言を漏らしていたウイニングライブであったが、地面に散らばった紙を素早く回収すると立ち上がる。そして朝から眩しいと思うほどのとびっきりの笑顔を俺に向ける。

「初めまして。走者界のアイドルグループ、逃げ切りシスターズのセンターを務めています。ウイニングライブです! よろしくお願いします!」

 再び自己紹介をした後、素早く俺の手を両手で握って握手を交わす。その瞬間、先ほど回収したばかりの紙を再び落とした。

 こいつ、アホだろう。

 それにしても、アイドルか。なるほど、だからこいつ自ら宣伝をしていたって訳か。

 元々この世界にはアイドルと言うものは存在していなかった。しかし大昔にこの世界にやって来た転生者が、アイドルの存在を広めたことで、真似する者が現れるようになった。

 彼女もその影響を受けた人物の1人なのだろう。

「君、お名前は?」

「シャカールだが?」

「シャカール君って言うのね! 格好良いお名前だね! 素敵な名前だと私は思うな!」

 名前を訊ねられたので答えると、彼女は突然褒め出す。

 アイドルと言うのも本当に大変だな。自分のファンを増やすために、人から好かれるようなことを言わないといけないなんて。

「なぁ、いつまで俺の手を握っているつもりなんだ?」

「あ、ごめんね! シャカール君と出会えたことが嬉しくって、つい私の中で時間が止まっていたよ」

 手を離した瞬間、彼女は俺に満面の笑みを向ける。

 大抵の男なら、彼女の笑顔にやられてコロッといってしまうだろう。だけど俺は既にタマモと会っているお陰で、彼女も本心から言っているのではないことが分かってしまう。

 だから嬉しさよりも、アイドルはリップサービスもしないといけないから大変だなと言う同情が先に出てしまう。

 彼女のリップサービスに対しての返し言葉を思い付かず、とりあえず彼女が落とした紙を拾う。

 紙は宣伝のビラのようで、開催日と時間が書かれてあった。

「ほら、落としたやつ」

「ありがとう、助かったよ。シャカール君って優しいんだね」

 集めたビラを彼女に返すと、ウイニングライブは礼を言う。しかし一度アイドルとしてのリップサービスだと認識した以上、そこまで嬉しくは思わない。

「あ、そうだ! タマモちゃん! せっかく出会えたんだから、この前の返事を聞かせてよ」

 俺が彼女に対して好感のある態度を見せないでいると、俺をファンにすることを諦めたのか、ウイニングライブはタマモに話題を振る。

「あ、あの件ね。悪いけど、断らせてもらうね。誘ってもらって嬉しかったのだけど、やっぱりあたしには向いていないわ」

「そんなことないよ! タマモちゃんの本性を隠した分厚い仮面の笑顔は、絶対にアイドルに向いているって」

 ウイニングライブの言った言葉に、俺は衝撃を受けた。

 こいつ、タマモが猫を被っていることを知っている!

 お互いに顔見知りで相当仲の良い関係でありそうだし、タマモのことを昔から知っているのか?

「何を言っているのかな? あたしのこの笑顔は素よ。変な勘違いをしないでくれる?」

 ウイニングライブの言葉が癇に障ったようで、タマモは彼女の頬を両手で掴むと、横に引っ張る。

「ひはい! ひはいから、やめへほ」

 タマモ、そんなことをしたら、認めていると言っているようなものだぞ。

「あのう。すみません。ビラを一枚貰っても良いですか?」

 タマモとウインングライブのやり取りを見守っていると、1人の女の子が声をかけてきた。

 こんな場面で平然と声をかけて来るなんて、こいつ度胸があるな。
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