薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第五章

第六話 フェインの思惑

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 タマモの婚約者になってほしいと言うフェインの言葉に、俺は唖然としてしまう。

 フェインは腐っても貴族だ。貴族は俺のような一般市民のもとに、身内を嫁がせようとは普通なら考えない。

 フェインのやつ、何を企んでいるんだ?

「フェイン、単刀直入に訊ねるが、何を企んでいる?」

「企むとは人聞きが悪いな。俺は純粋に愛する妹の幸せを願っているだけだ。知っての通り、俺がバカだったせいで、今のスカーレット家は落ちこぼれ貴族のようなものになっている。シャカールが助けてくれなければ、今の俺はこうして馬車の中にいることはできなかっただろう」

 何を企んでいるのかを訊ねると、フェインは自分の落ち度を自ら語る。彼の表情を見る限り、現段階では不自然なものは感じられない。

「現段階、スカーレット家はいつ潰れても可笑しくない弱小貴族と成り下がっている。そのための保険だ。シャカールと婚姻関係を結べば、たとえスカーレット家が滅んでも、タマモはスカーレット家とは無関係となる」

 真剣な表情で話す彼の言葉に、ようやく納得する。

 なるほどな。確かに偶然的にも俺はスカーレット家を助けたことになる。だけど、俺が確実に真犯人を見つけられるとは限らない。もし、見つけることができなければ、スカーレット家の人間は奴隷落ちだ。

 だけど、将来的に3冠王になる可能性のある俺のところにタマモが嫁ぐことができれば、彼女だけは奴隷にならずに済むってことだ。

 弱小種族の人間が貴族に成り上がれるのかは不明だが、この国の貴族制度は国に貢献して、国王から認められた者がなれる。それは昔から変わらない。唯一変わったのは、貢献方法がレースになったと言うことだ。

 貴族になれるのは国王陛下から直々に通達されてからになるが、1冠を取れば騎士爵になることができる。2冠で男爵、3冠で子爵、2つの3冠王で伯爵、三冠王を3つ取ると侯爵や公爵になることができるのだ。

 つまり1冠を手に入れた俺は、平民に毛が生えた程度とは言え、正式な王様からの通達があれば、貴族として振る舞うことになる。

 更に俺はクラウン路線の残りの2冠の挑戦権を持っており、それ以上に成り上がる可能性を秘めている。

 保険先として決めておくのは悪くないだろう。

「悪いが、その話しは聞かなかったことにする。大体保険なんてせこいことはしないで、自分でなんとかして解決方法を見つけ出せよ。愛する妹なんだろう? だったらもっと真剣になって相手を決めてやれよ。それに金なら自分の足で稼げば良いだろう? プロの走者なのだから」

 保険先にされるのは真平ごめんだ。そんな理由でタマモをめとることなんてできるかよ。

「俺としては真剣に考えた中で、一番タマモが幸せになってくれそうな道を選んだつもりなのだがな。だけどお前がそこまで言うのなら、もう一度考え直してみるとしよう。確かにお前の言う通り、俺は復帰したプロの走者だ。どうにか走りで工面できる方法を考えてみるとしよう」

 話しがひと段落すると、ちょうど学園の門の前に辿り着き、馬車が停車する。

「送ってくれてありがとうな」

「これくらいお安い御用だ。もし、何か困ったことがあれば相談してくれ。力になれることは少ないかもしれないが、可能な限り協力することを約束しよう」

 馬車で送ってもらったことに礼を言い、俺は御者の人から開けてもらった扉から馬車を降りる。

「御者の人もサンキュ、助かったよ」

「いえ、いえ、お礼を言いますのはワタクシの方です。フェイン様たちスカーレット家が健在でいられるのも、シャカール様のお陰です。貴方様のお陰で、ワタクシも職を失わずに済みました」

 御者の老人が頭を深々と下げ、礼を言ってくる。

 あまり礼を言われる生活を送ってこなかった俺に取っては、なんとも言えない嬉しさと恥ずかしさを感じてしまう。

「スカーレット家を助けたのはたまたまだ。爺さんも運が良かったな。俺が近くにいたお陰で、職を失わずに済んで」

 なんと返事をすれば良いのか分からず、俺はつい、いつものような上から目線で物事を口走ってしまった。

「本当に心から感謝をしております。本当にありがとうございました。では、ワタクシはフェイン様を屋敷に送り届けますので、これにて失礼いたします」

 御者の老人は再び頭を下げると御者席に戻り、馬車を走らせてこの場から離れて行った。

「さて、俺もシェアハウスに帰るとするかな」

 学園の門を潜り、学園の敷地内に入る。

「おや? シャカールじゃないか? 外出の帰りかい?」

 シェアハウスに向けて歩いていると、1人の女性が俺の存在に気付き、声をかけてきた。

 白銀の長い髪の一部を編み込みにしており、白衣を纏った容姿端麗の女性だ。彼女は赤い瞳で俺のことを見つめながら、歩いて距離を縮めて来る。

「ルーナか。今帰った。頼まれていた物もちゃんと買って来たぞ」

 買い物袋の中から彼女が頼んだものを取り出し、手渡す。

「ありがとう。お陰で助かったよ」

 俺に礼を言い、受け取ったものを白衣のポケットの中にしまう。

 そう言えば、ルーナは複数の3冠を手にしているんだよな。爵位的に言えば、公爵や侯爵、いや王族にもなれるはずなのに、貴族ぽい振る舞いをしていないよな。

「うん? どうした? ワタシの顔に何か付いているかい?」

 そんなことを考えていると、俺の視線に気付いたようで、ルーナが訊ねてくる。

「いや、そう言えばルーナは3冠王コレクターなのに、全然貴族ぽくないよな。勝利数で言えば、この国の王となってもおかしくはないのに」

「アハハハハ! このワタシが国王? シャカールも極上な冗談を言えるようになったじゃないか?」

 問いかけてみると、ルーナはお腹を抑えて笑い始める。

「いや、冗談ではないって。だって多くの3冠王になったルーナなら、おかしくない話しじゃないか」

「アハハハハ! すまない。笑いすぎた。確かに3冠を多く取ればそれだけ貴族として上位に君臨することはできる。確かに1度だけ王様から代替わりを迫られたことがあったよ。でも、その話しは蹴った。ワタシに王族として、民の生活を守るための政治なんて、務まらないからね。でも、多くの走者たちを見て、それぞれの目標に向かって行く姿を見るのは好きだ。だから王族になる代わりに、魔走学園の建造の許可を得た」

 聞いてもいないのに、ルーナはこの学園の設立秘話を話し始める。

 なんか話しを逸らされたような気がするが、まぁ良いか。

「そうだ。それとフェインに会った」

「ほう、あのフェインにか。それで、彼からは何か聞けたのかい?」

 フェインに会ったことを告げると、ルーナは含みのある表情を作る。

「ああ、やっぱり俺たちが思っていた通り、フェインは何者かに心を誘導されていたらしい。第三者の関わりがあるのは間違いない。彼の話しを聞く限り、フェインが引退したホースイエス記念が、真犯人に辿り着く鍵になっていると思う」

「なるほど、あのレースか。確かに臭うな。分かった。後で調べるとしよう。何か情報を掴み次第、後で君に情報を届ける。では、ワタシは一度学園長室に戻るので、ここでお別れだ」

「ああ、何か分かったら教えてくれ」

 校舎と寮へと向かう分かれ道でルーナと別れ、俺はシャアハウスの方へと帰って行く。
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