52 / 269
第五章
第三話 久しぶりだな。シャカール
しおりを挟む
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
店員からお決まりの挨拶を送られ、俺は店を出た。
タマモとクリープと共同生活をするようになったせいで、色々と買い揃えなければならないものがあり、今回は俺が買い出し当番をするはめになったのだ。
まぁ、料理を担当するよりかはマシか。
早く学園に戻って自分の部屋で休もう。そう思いながら道を歩いていると、後方から馬車が走る音が耳に入ってきた。
道の端に移動して馬車に道を譲ると、後方からやって来た馬車は俺の横で停車をする。そして窓が開けられ、男性のケモノ族が顔を出した。
青い髪は女性のように長く、きめ細やかに手入れがされてある。頭に犬の耳が付いている容姿は、端正に整っているイケメンだ。彼は黄色い瞳で俺のことをジッと見て来る。
「シャカールじゃないか。久しぶりだな」
「お前はフェイン」
馬車から顔を出した人物は、タマモの兄であり、名門スカーレット家の後継だ。彼とはテイオー賞と戦い、俺が勝った。そのせいでフェインは、クラウン路線の3冠王の夢を諦めることになったのだ。
彼は俺のことを恨んでいる。例え道端で見かけたとしても、声をかけることはしなさそうなのだが。
まぁ、もしかしたら恨み言のひとつでも零すつもりなのかもしれない。さっさと彼に言葉言ってもらい、この場から去って行ってもらおう。
「もしかして学園に戻るのか?」
「そうだが?」
「そうか。その荷物を持ったまま学園に戻るのは一苦労だろう。学園まで送ってやる。馬車に乗ってくれ」
送迎するから馬車に乗れと言う意外な言葉に、戸惑ってしまう。
一瞬体が硬直する中、御者の人が運転席から降りると扉を開けてくれた。
先手を打たれたか。これでは断る訳にもいかない。
「分かった。ならせっかくの好意に甘えよう」
開けてくれた扉から馬車の中に入り、フェインの対面の席に座る。すると扉が閉められ、御者が運転席に戻ってから、馬車が再び動き出す。
馬車が動き出してから約1分経過するが、俺たちは無言のままだった。重苦しい空気が、馬車の中に漂う。
だけど、俺の方から話しかけるつもりはない。そもそも、こいつとは争った。彼も俺のことを好ましくは思っていないはず。
早く暴言を吐くのなら吐いてくれよ。そっちの方が、今の空気よりもマシだ。
「スカーレット家たる者、過ちは即謝罪すべき……だよな。せっかくシャカールと会えたんだ。この機会を逃せば、俺はこれからも逃げ続けることになる」
フェインがブツブツと何かを言っている。しかし声が小さすぎるので、何を言っているのか聞き取ることができなかった。
「なんだよ。俺に何か言いたいのなら、はっきりと言ってくれ。まぁ、俺に対する罵倒とは思うがな」
胸の前で両手を組み、フェインから視線を外す。
「いや、別にお前を罵倒するつもりではない……この前のことは済まなかった。お前に迷惑をかけた」
軽く謝罪の言葉を述べ、フェインは俺に向けて頭を下げる。
おい、おい。なんだよ、この展開は? フェインが俺に頭を下げただと? 天変地異の前触れか?
「お前のお陰で、どうにか軽い賠償金で済むことができた。本当に感謝している。ありがとう」
今度は礼を言うフェインの姿に、俺は察した。
なるほど、あの件で彼は謝罪と礼を言っているのか。
フェインが搬送された後、俺はルーナと一緒に魔競走を総括するお偉いさんたちで結成された委員会に呼ばれ、色々と事情聴取を受けることになったのだが、そこで委員長のハゲデブおっさんと一悶着があった。
「別に気にしなくていいさ。俺は真実を信じようとはしない頭でっかちの輩が嫌いなだけだ。その結果、偶然的にもスカーレット家の味方をすることになったってだけだ。良かったな。俺が頭でっかちなやつが嫌いで」
「本当にシャカールのしてくれたことは、スカーレット家を救ったことになる。感謝してもしきれないくらいだ。そして、少しでも捜査のヒントになればと思い、俺の身に起きた出来事を話そうと思う」
フェインは両手の指を絡め、その上に顎を置く。そして過去を思い出すように、自身の身に起きた出来事を話し始める。
「数年前のことだ。年末最大のイベントレースであるホースイエス賞のレースで、俺はルーナと競い、そして大差で負けた。彼女の実力は知ってはいたが、とても悔しかった。涙を流して芝の上に膝を付いていると、どこからか声が聞こえたんだ『可愛そうなやつ、誰もお前のことは見ていない。優勝できない敗者のお前をな。憎いだろう? これまで努力してきたと言うのに、優勝しなければ意味のないこの世界が? さぁ、憎め、そして憎悪を糧に負のエネルギーを寄越せ。憎め! 憎め! 憎め!』その言葉が耳に入った後、俺の前に黒い煙のようなものが俺の体内に入った」
黒い煙のようなものは、フェインが暴走した際に見たあのオーラのようなものを差しているのだろう。
「その後、俺は俺ではなくなった。様々なものを憎み、最愛の妹であるタマモにも強く当たるようになった。俺ではルーナには勝てない。それならタマモを最強の走者として導けば良い。そう思い、俺は引退してタマモの教育に励むことにした。その結果がシャカールも知っている通りのことだ」
フェインがルーナに敗退したホースイエス記念を調べる必要があるな。あのハゲデブと約束した期限は、今年のホースイエス記念の日までだ。
俺は窓から見える景色を見ながら、あの時のことを思い出す。
店員からお決まりの挨拶を送られ、俺は店を出た。
タマモとクリープと共同生活をするようになったせいで、色々と買い揃えなければならないものがあり、今回は俺が買い出し当番をするはめになったのだ。
まぁ、料理を担当するよりかはマシか。
早く学園に戻って自分の部屋で休もう。そう思いながら道を歩いていると、後方から馬車が走る音が耳に入ってきた。
道の端に移動して馬車に道を譲ると、後方からやって来た馬車は俺の横で停車をする。そして窓が開けられ、男性のケモノ族が顔を出した。
青い髪は女性のように長く、きめ細やかに手入れがされてある。頭に犬の耳が付いている容姿は、端正に整っているイケメンだ。彼は黄色い瞳で俺のことをジッと見て来る。
「シャカールじゃないか。久しぶりだな」
「お前はフェイン」
馬車から顔を出した人物は、タマモの兄であり、名門スカーレット家の後継だ。彼とはテイオー賞と戦い、俺が勝った。そのせいでフェインは、クラウン路線の3冠王の夢を諦めることになったのだ。
彼は俺のことを恨んでいる。例え道端で見かけたとしても、声をかけることはしなさそうなのだが。
まぁ、もしかしたら恨み言のひとつでも零すつもりなのかもしれない。さっさと彼に言葉言ってもらい、この場から去って行ってもらおう。
「もしかして学園に戻るのか?」
「そうだが?」
「そうか。その荷物を持ったまま学園に戻るのは一苦労だろう。学園まで送ってやる。馬車に乗ってくれ」
送迎するから馬車に乗れと言う意外な言葉に、戸惑ってしまう。
一瞬体が硬直する中、御者の人が運転席から降りると扉を開けてくれた。
先手を打たれたか。これでは断る訳にもいかない。
「分かった。ならせっかくの好意に甘えよう」
開けてくれた扉から馬車の中に入り、フェインの対面の席に座る。すると扉が閉められ、御者が運転席に戻ってから、馬車が再び動き出す。
馬車が動き出してから約1分経過するが、俺たちは無言のままだった。重苦しい空気が、馬車の中に漂う。
だけど、俺の方から話しかけるつもりはない。そもそも、こいつとは争った。彼も俺のことを好ましくは思っていないはず。
早く暴言を吐くのなら吐いてくれよ。そっちの方が、今の空気よりもマシだ。
「スカーレット家たる者、過ちは即謝罪すべき……だよな。せっかくシャカールと会えたんだ。この機会を逃せば、俺はこれからも逃げ続けることになる」
フェインがブツブツと何かを言っている。しかし声が小さすぎるので、何を言っているのか聞き取ることができなかった。
「なんだよ。俺に何か言いたいのなら、はっきりと言ってくれ。まぁ、俺に対する罵倒とは思うがな」
胸の前で両手を組み、フェインから視線を外す。
「いや、別にお前を罵倒するつもりではない……この前のことは済まなかった。お前に迷惑をかけた」
軽く謝罪の言葉を述べ、フェインは俺に向けて頭を下げる。
おい、おい。なんだよ、この展開は? フェインが俺に頭を下げただと? 天変地異の前触れか?
「お前のお陰で、どうにか軽い賠償金で済むことができた。本当に感謝している。ありがとう」
今度は礼を言うフェインの姿に、俺は察した。
なるほど、あの件で彼は謝罪と礼を言っているのか。
フェインが搬送された後、俺はルーナと一緒に魔競走を総括するお偉いさんたちで結成された委員会に呼ばれ、色々と事情聴取を受けることになったのだが、そこで委員長のハゲデブおっさんと一悶着があった。
「別に気にしなくていいさ。俺は真実を信じようとはしない頭でっかちの輩が嫌いなだけだ。その結果、偶然的にもスカーレット家の味方をすることになったってだけだ。良かったな。俺が頭でっかちなやつが嫌いで」
「本当にシャカールのしてくれたことは、スカーレット家を救ったことになる。感謝してもしきれないくらいだ。そして、少しでも捜査のヒントになればと思い、俺の身に起きた出来事を話そうと思う」
フェインは両手の指を絡め、その上に顎を置く。そして過去を思い出すように、自身の身に起きた出来事を話し始める。
「数年前のことだ。年末最大のイベントレースであるホースイエス賞のレースで、俺はルーナと競い、そして大差で負けた。彼女の実力は知ってはいたが、とても悔しかった。涙を流して芝の上に膝を付いていると、どこからか声が聞こえたんだ『可愛そうなやつ、誰もお前のことは見ていない。優勝できない敗者のお前をな。憎いだろう? これまで努力してきたと言うのに、優勝しなければ意味のないこの世界が? さぁ、憎め、そして憎悪を糧に負のエネルギーを寄越せ。憎め! 憎め! 憎め!』その言葉が耳に入った後、俺の前に黒い煙のようなものが俺の体内に入った」
黒い煙のようなものは、フェインが暴走した際に見たあのオーラのようなものを差しているのだろう。
「その後、俺は俺ではなくなった。様々なものを憎み、最愛の妹であるタマモにも強く当たるようになった。俺ではルーナには勝てない。それならタマモを最強の走者として導けば良い。そう思い、俺は引退してタマモの教育に励むことにした。その結果がシャカールも知っている通りのことだ」
フェインがルーナに敗退したホースイエス記念を調べる必要があるな。あのハゲデブと約束した期限は、今年のホースイエス記念の日までだ。
俺は窓から見える景色を見ながら、あの時のことを思い出す。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
追放騎手の霊馬召喚〜トウカイテイオーを召喚できずに勘当された俺は、伝説の負け馬と共に霊馬競馬界で成り上がる!
仁徳
SF
この物語は、カクヨムの方でも投稿してあります。カクヨムでは高評価、レビューも多くいただいているので、それなりに面白い作品になっているかと。
知識0でも安心して読める競馬物語になっています。
S F要素があるので、ジャンルはS Fにしていますが、物語の雰囲気は現代ファンタジーの学園物が近いかと。
とりあえずは1話だけでも試し読みして頂けると助かります。
面白いかどうかは取り敢えず1話を読んで、その目で確かめてください。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる