薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第五章

第一話 シャカール、美少女2人との同居生活

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 大食い競争は、俺とタマモとクリープの3人が同着となり、延長戦を行うことなく俺たちは優勝者扱いとなった。

 しかし、ルーナが口走った突拍子もない発言のせいで、この場の空気が一気に変わってしまう。

 勝負が終わり、祝福ムードになるはずが、困惑と戸惑いで誰からも話そうとはせずに、沈黙が周囲を支配する。

「あ、あのう。今、あたしたちはシェアハウスで暮らすと言いましたか?」

 タマモが恐る恐るとゆっくり手を上げ、沈黙を破ってルーナに訊ねる。

「ああ、そうだ。なら、先ほどと同じことを一言一句間違えないでもう一度言おうか?」

「いえ、結構です」

「おい、ルーナ! お前何を考えているんだ!」

 学園のトップにあるまじき発言に、俺は思わず声を上げる。

「おや、おや? シャカールはいったい何を考えているのかな? これはちゃんとしたカリキュラムだ。男女、種族問わずに共に暮らすことで、互いの性質を知り、今後のレースに活かしてもらおうと言うものだよ。ちょうどモニターとなる人を探していたのだが、ちょうど偶然にも君たちが同着だったので、カリキュラムのメンバーとして抜擢したと言う訳だ」

「つまり、ママたちは今後3人で、寝食を共にすると言うことなのですか? あらあら? それは大変ですね」

 ルーナの説明を聞き、クリープが普段と変わらない様子で、おっとりと言葉を連ねる。

 落ち着いた口調で話しているせいで、本当に大変だと思っているのかが怪しい。

「カリキュラム……分かりました。そう言うことでしたのなら、あたしはこれ以上の口出しはしません。ルーナ学園長の指示に従います」

 真面目な学級委員長を演じているからか、タマモはルーナの考えを否定することなく受け入れる。

「クリープ君、ちょっと来てくれるかい?」

 ルーナがクリープの名を呼び、手招きをする。すると彼女は座っていた椅子から立ち上がり、彼女のもとに駆け寄る。そして近付いたクリープの耳にルーナが口を近づけ、何やら耳打ちをしている様子だ。

「なるほど。ルーナ学園長の考えは分かりました。なら、ママも協力させていただきます」

「おい! クリープ! ルーナの口車に乗せられるな! お前は騙されている!」

 急にルーナの肩を持つクリープに思わず声を上げた。このまま彼女たちが肯定派に回れば、俺たちは3人で暮らすことになる。何かしらのトラブルが起きないと断定できない以上は、絶対に嫌だ。面倒事だけは勘弁してほしい。

「確かにママはルーナ学園長に騙されているのかもしれません。ですが、この機会にシャカール君が良い子になっていただけるのなら、ママは精一杯シャカール君のために頑張ります」

 両手の拳を握り、意気込みを語るクリープの姿を見て、俺はもう手遅れだと判断した。

 いくら俺が否定しようと、決まったことは覆されないだろう。

 椅子から立ち上がり、ルーナたちに背を向ける。

「どこに行くんだい?」

「決まっているだろう。自分の部屋だ。今日は疲れた。さっさと部屋に戻って休む」

「そうかい。なら早速君たちが暮らす建物に案内しようではないか。君たちがカリキュラムに参加してくれる意志を伝えてくれた段階で、ワタシが転移魔法で君たちの私物を転送しておいたから」

「ちょっと待て! もしかして俺の私物も!」

 ルーナの言葉に引っかかるものを感じ、振り返って彼女に訊ねる。すると、ルーナは首を縦に振った。

「ああ、その通りだ。悪いがシャカールだけは強制参加とさせてもらう。今回のカリキュラムは男女が必要だ。なので、悪いが君の意思を尊重してあげる訳にはいかない。むしろ君が欠けてもらっては、ワタシの方が困る」

「勝手に困っていろ。俺はそのカリキュラムには参加しない。男が必要なら、他のやつにあたれ」

「うーん、困ったな。では、タマモ君とクリープ君にも意見を聞こうじゃないか?」

 タマモとクリープの考えを聞くと良い、ルーナは彼女たちに訊ねる。

「そうですね。カリキュラムのことを考えれば、男性の参加は必須かと思います。ですが、女の身で考えると危険かと。ですが、同じクラスメイトのシャカール君であれば、他の男子よりも信頼できますので、あたしは彼が参加してくれた方が助かります」

「ママはシャカール君を良い子にすると決めていますので、シャカール君がこのカリキュラムに参加しないのであれば、お断りしようかと」

 2人の意見を聞いたルーナは右手の親指を顎に置き、左手で右腕の肘を抑えると、何かを思案するポーズを取る。

「分かった。なら、ここはワタシが妥協をしようじゃないか。ひとまず1ヶ月間だけで良い。それでシャカールが共同暮らしは嫌だと思えば期間終了後にやめても良い。その代わりに、カリキュラム中は毎週お小遣いをあげようではないか」

 妥協案を提示されるも、俺はカリキュラムに参加するつもりはない。そもそも、お小遣いをくれると言っても、金額を提示していないのだ。参加しても菓子すら買えない金を渡されたらたまったものではない。

「妥協されても俺は参加しないからな」

「そうかい。あーあ、所詮シャカールもその程度の男か。情けないな。ケモノ族の女性2人に怯えて、尻尾を丸めて逃げ出すとか。いや、失敬。君には尻尾がなかったね。ムスコを丸めて逃げ出すとか、やっぱり君は最弱種族、本当にチキン野郎だ」

 食堂から離れて行こうと足を踏み出したその瞬間、ルーナの放たれた言葉にカチンと来てしまう。

 俺がタマモやクリープに怯えている? なにを言っている。俺は面倒事に巻き込まれたくないだけだ。

「俺がこいつらに怯えているだと! ふざけるな! 俺が嫌なのは面倒事に巻き込まれることだけだ! タマモやクリープに怯えている訳がないだろう!」

「なら、それを証明してもらおうか。1ヶ月間、彼女たちと生活を共にして恐れていないと言うことを」

「良いだろう! 別に1ヶ月くらい、こいつらと生活するくらいなんともないからな!」

 こうして、俺とタマモとクリープの3人による共同生活が幕を開けることになった。
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