34 / 269
第三章
第十一話 テイオー賞③
しおりを挟む
『先頭を走るフェインが放った魔法で、芝が氷のリングへと変わる中、シャカールだけが転倒をせずに突き進む。牛蒡抜きで一気に2位に上がった!』
『最初から殿を走っていたのは、このためだったのでしょう。さすがシャカール走者と言ったところです』
どうにかシューズにブレードを取り付けて、氷の上を滑って走ることができたな。
上手く転倒している走者を躱すことができたし、このままフェインとの開いた差を一気に縮める。
氷のリングと化したコースを走っていると、フェインの背中が小さく視界に入る。そろそろ最初のギミックに到達するからか、彼は魔法を使用していなかった。途中から再び芝の上を走ることになっている。
氷と芝の境目に到達したところで、シューズの下に魔法で装着したブレードを消し、芝の上に足を踏み締める。
さっきまで滑るように走っていたからか、妙に違和感を覚えてしまう。だけど、直ぐに馴染むだろう。
『それでは順位を振り返りましょう。現在先頭を走るのはフェイン。8メートル差、シャカール。ここまでが先頭集団です。ここから先は僅かな差ではありますが、中段をヒッキー、ブリーザ、アストン。その少し後をガーベラ、アックス、サザナミ、ジュエルサファイア、サンシャイン……おっとここで再びパワームテキが転倒だ。それに巻き込まれる形でカラボーアとパヒューが転倒する。彼らを避けるようにして躱していくのがアイリス、シンキングオパール、サイレントキル。殿のカルディアが方針を変えたようで、炎の魔法で氷を溶かす!』
『先頭から殿まで、およそ20メートル以上の開きが出ましたね。後続が間に合うのか、気になる開きとなっています。上手く自分の魔法を使って、他の走者の妨害を突破できなければ、優勝は絶望的となるでしょう』
フェインとカルディアの差が20メートルか。これなら、俺の予想を超えるような状況にならない限りは、追いつかれる心配をしないですみそうだな。
『ここでフェイン走者が500メートルを走り、最初のギミックである凍てついた魔の波動エリアに入った!』
『凍てついた魔の波動エリアは、地面からランダムで魔力を奪う波動が発生します。この波動を受けてしまうと、練り上げた魔力を失います。なので、最初から魔力を練り上げる必要がありますので、タイミングをずらされてしまいます。それと発動中のバフ、デバフ効果も掻き消されるので、注意が必要です』
『さぁ、運が試されるこのエリアをどのように突破するのか!』
フェインが最初のギミックに到達したか。解説があったように、あのエリアは波動を受けてしまうと、練り上げた魔法を強制的に霧散されてしまう。一般的には、魔法の使用は控えるのがセオリーだ。
だけど、フェインとの開いた差を縮めるには、ここで俊足魔法を使って距離を縮めるしかない。
ここであいつに追いつけるかどうかで、俺の優勝が決まって来る。
「スピードスター!」
俊足の魔法を発動し、数秒の間だけ速度を上げる。
『ここで賭けに出たのか、シャカール走者が加速する!』
『彼はもう少しで凍てついた魔の波動エリアに差し掛かります。運が悪ければ、瞬時にその効果を失うことになってしまいますね』
解説のサラブレットが言う通り、運が悪ければエリア内に最初の1歩を踏み出したその瞬間に、加速を失うことになるだろう。だけど俺には、このエリアを回避する必勝法があることを知っている。
ルーナと勝負をしたあの日、彼女は魔法から魔力を感じ取ることができれば、躱すことが出来ると言った。
この妨害エリアから放たれる波動も、魔法の一種であることには変わらない。芝から魔力を感じ取ることができれば、その部分から放たれることを事前に知ることが出来る。
神経を集中させ、芝からの魔力を感じ取ると、一部分に魔力の塊があるのを感じ取ることができた。
次はあそこから波動が放たれるのか。
放出される場所さえ分かれば、後は回避するのは簡単だった。時には横にずれ、時には加速して躱し、賭けに出て間に合わない時にはバックステップで下がりつつも、波動を避ける。
『シャカール走者! まるで凍てついた魔の波動が放たれる場所が分かっているかのような不思議な走りをする!』
『あれが他の走者を惑わすためのフェイクなのか、本当に避けているのかはわかりませんが、少なくとも他の走者に精神的ダメージを与えるのは確実でしょう。動揺を誘い、走るペースを乱すことも可能かと』
なるほど、俺はただ避けているだけなのだが、相手にはフェイクだと思われている可能性もあるのか。だけど本当に避けることで、ガチで避けているのかと思わせることが出来るとは思ってもいなかったな。
意外なデバフ効果に驚いていると、フェインが加速したようで彼の背中が遠退く。
『ここでシャカール走者の作戦に掛かってしまったのか、フェイン走者が速度を上げた!』
『ペースが乱されたことで、スタミナを消費しなければ良いのですが』
思わぬ副産物のお陰でフェインの心を乱すことができたみたいだな。
距離を開けられてしまったが、疲れてくれればこっちのものだ。
俺は波動攻撃を避けつつ前進し、やっと最初のギミックを抜ける。
フェインの魔力量が現在どうなっているのか分からないが、俺は波動攻撃を一度も受けていない。そのお陰で再び魔力を練り上げ、魔力回路全体に行き渡らせることができている。
「今、その背中に追いついてやる。スピードスター!」
『最初から殿を走っていたのは、このためだったのでしょう。さすがシャカール走者と言ったところです』
どうにかシューズにブレードを取り付けて、氷の上を滑って走ることができたな。
上手く転倒している走者を躱すことができたし、このままフェインとの開いた差を一気に縮める。
氷のリングと化したコースを走っていると、フェインの背中が小さく視界に入る。そろそろ最初のギミックに到達するからか、彼は魔法を使用していなかった。途中から再び芝の上を走ることになっている。
氷と芝の境目に到達したところで、シューズの下に魔法で装着したブレードを消し、芝の上に足を踏み締める。
さっきまで滑るように走っていたからか、妙に違和感を覚えてしまう。だけど、直ぐに馴染むだろう。
『それでは順位を振り返りましょう。現在先頭を走るのはフェイン。8メートル差、シャカール。ここまでが先頭集団です。ここから先は僅かな差ではありますが、中段をヒッキー、ブリーザ、アストン。その少し後をガーベラ、アックス、サザナミ、ジュエルサファイア、サンシャイン……おっとここで再びパワームテキが転倒だ。それに巻き込まれる形でカラボーアとパヒューが転倒する。彼らを避けるようにして躱していくのがアイリス、シンキングオパール、サイレントキル。殿のカルディアが方針を変えたようで、炎の魔法で氷を溶かす!』
『先頭から殿まで、およそ20メートル以上の開きが出ましたね。後続が間に合うのか、気になる開きとなっています。上手く自分の魔法を使って、他の走者の妨害を突破できなければ、優勝は絶望的となるでしょう』
フェインとカルディアの差が20メートルか。これなら、俺の予想を超えるような状況にならない限りは、追いつかれる心配をしないですみそうだな。
『ここでフェイン走者が500メートルを走り、最初のギミックである凍てついた魔の波動エリアに入った!』
『凍てついた魔の波動エリアは、地面からランダムで魔力を奪う波動が発生します。この波動を受けてしまうと、練り上げた魔力を失います。なので、最初から魔力を練り上げる必要がありますので、タイミングをずらされてしまいます。それと発動中のバフ、デバフ効果も掻き消されるので、注意が必要です』
『さぁ、運が試されるこのエリアをどのように突破するのか!』
フェインが最初のギミックに到達したか。解説があったように、あのエリアは波動を受けてしまうと、練り上げた魔法を強制的に霧散されてしまう。一般的には、魔法の使用は控えるのがセオリーだ。
だけど、フェインとの開いた差を縮めるには、ここで俊足魔法を使って距離を縮めるしかない。
ここであいつに追いつけるかどうかで、俺の優勝が決まって来る。
「スピードスター!」
俊足の魔法を発動し、数秒の間だけ速度を上げる。
『ここで賭けに出たのか、シャカール走者が加速する!』
『彼はもう少しで凍てついた魔の波動エリアに差し掛かります。運が悪ければ、瞬時にその効果を失うことになってしまいますね』
解説のサラブレットが言う通り、運が悪ければエリア内に最初の1歩を踏み出したその瞬間に、加速を失うことになるだろう。だけど俺には、このエリアを回避する必勝法があることを知っている。
ルーナと勝負をしたあの日、彼女は魔法から魔力を感じ取ることができれば、躱すことが出来ると言った。
この妨害エリアから放たれる波動も、魔法の一種であることには変わらない。芝から魔力を感じ取ることができれば、その部分から放たれることを事前に知ることが出来る。
神経を集中させ、芝からの魔力を感じ取ると、一部分に魔力の塊があるのを感じ取ることができた。
次はあそこから波動が放たれるのか。
放出される場所さえ分かれば、後は回避するのは簡単だった。時には横にずれ、時には加速して躱し、賭けに出て間に合わない時にはバックステップで下がりつつも、波動を避ける。
『シャカール走者! まるで凍てついた魔の波動が放たれる場所が分かっているかのような不思議な走りをする!』
『あれが他の走者を惑わすためのフェイクなのか、本当に避けているのかはわかりませんが、少なくとも他の走者に精神的ダメージを与えるのは確実でしょう。動揺を誘い、走るペースを乱すことも可能かと』
なるほど、俺はただ避けているだけなのだが、相手にはフェイクだと思われている可能性もあるのか。だけど本当に避けることで、ガチで避けているのかと思わせることが出来るとは思ってもいなかったな。
意外なデバフ効果に驚いていると、フェインが加速したようで彼の背中が遠退く。
『ここでシャカール走者の作戦に掛かってしまったのか、フェイン走者が速度を上げた!』
『ペースが乱されたことで、スタミナを消費しなければ良いのですが』
思わぬ副産物のお陰でフェインの心を乱すことができたみたいだな。
距離を開けられてしまったが、疲れてくれればこっちのものだ。
俺は波動攻撃を避けつつ前進し、やっと最初のギミックを抜ける。
フェインの魔力量が現在どうなっているのか分からないが、俺は波動攻撃を一度も受けていない。そのお陰で再び魔力を練り上げ、魔力回路全体に行き渡らせることができている。
「今、その背中に追いついてやる。スピードスター!」
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
Look like? オークそっくりだと言われる少女は女神の生まれ変わりだった
優陽 yûhi
ファンタジー
頭脳明晰、剣を持てば、学園はじまって以来の天才。
しかし魔法が使えずオークそっくりと言われる容姿で、周りから疎まれ、居ない者扱いされている少女エルフィナ。
しかしその容姿は悪神の呪いで、本当は醜いどころか王国中探しても、肩を並べる者がいない位、美しい少女だった。
魔法が使えないはずのエルフィナが妹の危機に無意識で放つ規格外の魔法。
エルフィナの前世は女神だった。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

追放騎手の霊馬召喚〜トウカイテイオーを召喚できずに勘当された俺は、伝説の負け馬と共に霊馬競馬界で成り上がる!
仁徳
SF
この物語は、カクヨムの方でも投稿してあります。カクヨムでは高評価、レビューも多くいただいているので、それなりに面白い作品になっているかと。
知識0でも安心して読める競馬物語になっています。
S F要素があるので、ジャンルはS Fにしていますが、物語の雰囲気は現代ファンタジーの学園物が近いかと。
とりあえずは1話だけでも試し読みして頂けると助かります。
面白いかどうかは取り敢えず1話を読んで、その目で確かめてください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる