薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第三章

第五話 シャカール賭け事をする

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 道中魔物騒動もあったが、俺たちを乗せた馬車は、どうにかレース会場のある街に到着することができた。

 会場前で馬車をおり、置かれてある時計で時刻を確認する。

 午後2時か。開始時間の1時間前には到着することができたな。

 どうにか間に合うことができ、ホッとする。これでフェインの走りを見ることができる。

「それでは、レースに参加する人たちは、走者専用の入り口から入ってください。昼食を取りたい人は、レースに影響が出ない程度に食事をしておいてください」

 引率の先生が俺たちに指示を出す。

 俺とタマモはただの観客だから、遅めの昼食を取っても問題ない。だが、走者には影響が大きいだろう。食べたとしても、軽食で済ませなければならない。

「俺たちはレースが始まる前に何か食べるか」

「そうね。そうしましょう」

 レース会場の近くには、屋台が並んでいる。お昼のピークを過ぎた時間帯だからか、人は殆ど並んで居らず、店員も暇そうにしていた。

 今なら直ぐに食べられそうだな。

「あそこの串肉でも買うか」

「そうね。そうしましょう」

 タマモと一緒に屋台に向かい、店主に声をかける。

「おっちゃん。串肉を1パックくれ」

「了解! そちらのお嬢さんは何にしますか?」

「あたしは走者スペシャルを1パックもらいます」

「了解! ありがとうございます」

 注文を受け、店主がテキパキと慣れた手付きで串に刺した肉を焼く。

 網の上に焼かれ、特性ソースを掛けられた肉からは美味そうな匂いが漂い、鼻腔を刺激してくる。

 すると、俺の腹から空腹を知らせる音色がなる。

「あはは、あんた相当お腹が空いていたのね」

「それはそうだろう。モンスターと追いかけっこをして走り続けたんだから。まぁ、お陰で良いトレーニングにはなったと思うが」

「はい、お待たせしました。普通サイズと走者スペシャルになります」

「サンキュおっちゃん。代金はここに置いとくから」

 料理を受け取り、2人分の代金をカウンターの上に置く。

「それにしても、シャカールって本当に少食よね。そんなので本当にお腹いっぱいになるの?」

「俺からしたら、タマモの方が異次元の胃袋をしているようにしか見えないからな」

 お互いの料理を見ながら、俺たちは言葉を漏らす。

 俺の方は串に刺さった肉が5本入っている。しかしタマモの方はその10倍。つまり50本は入っている。

「あ、後であたしの分の料金は払うから」

「別にあれくらいなら奢ってやる」

「え? シ、シャカール? 頭大丈夫? もしかしてモンスターとの戦いで頭を打った?」

 奢ってやることを告げると、タマモは目を大きく見開き、その後心配そうな顔で俺の頭を触る。

「何だよ。人がせっかく親切にしてやっているのに、その口の聞き方は?」

「だって、シャカールが人に親切にするなんて、天変地異の前触れなんじゃ。あ、だからモンスターが現れたのね」

「モンスターの出現を俺のせいにするなよ。ほら、俺たち走者側にいるときは関係ないけど、観客たちは金を賭けているじゃないか。今回は俺がその立場に立って、金を稼ごうと思ってだな。大金が入るんだ。1食分くらい奢っても、それくらい取り返せるだろうからな」

 奢った理由を語ると、タマモは厳しい目付きで俺のことを見てくる。

「そんなのダメよ。賭け事が許されるのは成人してからよ」

「大丈夫だって、上手く変装して大人ぽく振る舞えば、券を買うことくらい」

「そうじゃなくって! そんなことは学級委員長のあたしが許さないって言っているのよ。あたしの目が黒い内は、見逃さないわよ」

「いや、お前の瞳は赤色じゃないか」

「それはただの比喩表現よ! いちいち揚げ足を取らないで!」

 俺のセリフに素早くツッコミを入れられる。

 これは困ったな。今更肉の代金を返せと言う訳にはいかないから。どうにかタマモの目を盗んで券を買わないと。俺の今月の持ち金がやばくなる。

 俺の財布には、先程肉を買ったことで1000ギル札が2枚だけだ。

 入学祝いとしてルーナから10000ギルを貰っていたが、先程の肉代で8割を失った。

 走者スペシャル、恐ろしく高い。

 次にルーナから金を貰えるか分からない以上、ここで金を稼いでおかなければならない。

 会場に入り、観客席へと向かって行くと、今回のレースに参加する走者の名前が張り出されていた。

 その中には、タマモの兄であるフェイン・スカーレットの名前もある。

 タマモの予想通りに、前哨戦であるナイツ賞に出て来たか。

 観客席にたどり着くと、見晴らしが良くって全体が見渡せる席に座る。

「走者表オープン」

 席に座った途端に言葉を呟くと、目の前に空中に浮かぶディスプレイが現れた。

 画面には今回出場する走者が人気順に並び、その横には倍率オッズが出ている。

「やっぱり、1番人気のフェインは倍率オッズが1.3倍か。それだけ賭けている人が多いってことだな」

「シャカール、あたしさっきも言ったわよね。賭け事は許さないって」

「ただ見ているだけじゃないか。走者表を見ることも許されないのかよ」

「賭けるつもりがないのなら、別に構わないけれど。もし、券を買いに行くような素振りを見せたら、ルーナ学園長に言い付けるからね」

「ワタシがどうしたんだい?」

 タマモがルーナの名前を出すと、そこに話題の人物の声が聞こえ、振り向く。すると後の席に、何故かルーナが座っていた。

「学園長! どうしてこちらに?」

「フェインが現役復帰を宣言してからの初戦だからね。久しぶりに彼の走りを見ようと思って。それよりも、先程シャカールがどうのこうのと言っていたみたいだが?」

「そうなんです。シャカール君、未成年なのに賭け事をしようとしているのです。ルーナ学園長も注意してください」

「ほう」

 タマモが説明をすると、ルーナは何かを見定めるかのように目を細くして、俺の方を見る。

「一応理由を聞かせてもらおうか。どうして賭け事をしたいのだい?」

「それは、俺の想像力と予測力の強化のためだ。様々な情報の中から予測を立てて走るのは、走者として必要なスキルだ。だからその強化のために賭けに参加したい。ただの頭の中では、実感と言うものが薄いからな。だから賭け事をして、その報酬を受け取ることで達成感を味わいたいんだ」

 即興であるものの、それらしいことを言う。

「なるほど、分かった。なら変わりにワタシが券を買って来てあげよう。ワタシもどこまで君が正確に当てられるのかに興味がある。学園長の権限で、特別に許そうではないか」

 ルーナの言葉を聞き、俺は小さくガッツポーズをする。これで俺の予想が当たれば、それなりに金が手に入る。そうすれば、少しは良い暮らしができるってものだ。

 ルーナの許しを得ると、もう一度画面に目線を向ける。さて、どいつに賭けてやろうか。
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