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第三章

第三話 休日のデートはモンスターに乱入される

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 日曜日、タマモとの約束の場へと向かうが、彼女の姿は見当たらなかった。

 門の前に置かれている時計で時間を確認すると9時55分、約束の時間の5分前に到着したことになる。

 そう言えば、無限回路賞の時も、タマモが最後だったよな。あの時は5分前には来ていたが、それよりも遅いと言うことになる。

 優等生にしては、5分前以内に来ないと言うのは珍しい。まぁ、本当の中身は優等生を演じているだけだから、別に休みの日まで優等生を演じる必要はないか。

「それにしても、気持ち悪いぐらいに精巧に作られているな。このルーナの像、作ったやつは相当変態に違いない」

「芸術家の人を変態呼ばわりしない方が良いわよ。作品に全力で取り組んでこそのプロなんだから」

 ルーナの像を眺めていると、背後からタマモの声が聞こえて来た。

 振り返ると、そこには制服姿でもなく、競技用の服でもなく、勝負服でもない、私服姿のタマモがいた。

 松葉杖をついているものの、赤いリボンで茶髪の髪をツインテールに纏め、口には艶の出るリップが塗られているのか、とても柔らかそうな感じがした。

 ホワイトカラーのブラウスは薄く、中のシャツが透けて見える。そしてピンク色のロングスカートには、裾の部分がヒラヒラになっていた。

 どう見ても、レースを観戦に行くような見た目ではない。

「お前、この前は違うと言っておきながら、しっかりとおめかしをして、デート気分でいるじゃないか」

「な、なな、何を言っているのよ! これはスカーレット家の令嬢として、普通の格好よ! 別にあなたのためにオシャレをした訳ではないんだからね! 兄さんと鉢合わせをするかもしれないし、その時に貴族令嬢に相応しくないような服装だったら、何を言われるか分からないから、だから気合いを入れているのよ! 別にシャカールのために、オシャレをした訳ではないのだからね」

 少し揶揄ってみると、タマモは顔を赤らめ、勢い良く言葉を捲し立てる。

 まぁ、彼女らしい反応だ。これで俺のためにオシャレをしたなんて言って来たら、高熱に浮かされているのではと思ってしまう。

「それで、このあたしの私服姿を見て、感想のひとつもないの?」

「感想だと?」

「そうよ。あたし目線では完璧のつもりだけど、第三者からしたら変な部分もあるかもしれないでしょう? だから聞いているのよ」

 服の感想を迫られ、面倒臭いことになってしまった。

 どうして一々服の感想を言わないといけない。

「似合っているんじゃないのか。どこから見ても、スカーレット家の優雅さを感じる服装になっていると思う」

「そう、それは良かった」

 適当に答えると、どうやらタマモは満足したようだ。これ以上は服に関して訊ねてこようとはしない。

「それに加えて、シャカールは一般人って言う感じの服装よね」

「悪かったな。貴族令嬢の隣に相応しくない格好で。服なんてものは、着られれば何でも良いだろうが」

 身に付けている服の感想を言われ、そっぽを向く。

 俺が持っている私服は、ルーナが用意してくれたものだ。どうやら古着のようで、所々繊維の糸がほつれたり、虫食いのような穴が空いていたりしている。

 まぁ、拾った人族の男には、この程度の服がお似合いとでも思ったのだろう。

「でも、悪くない組み合わせじゃないの? 黒いシャツにジーンズのジャケット、それに錆浅葱さびあさぎ色のロングパンツは、別に違和感を覚えないわよ。カジュアルと清潔感を併せ持っているし、あと、ネックレスのような装飾品があれば合格ね。まぁ、服が傷んでいるところはマイナスになるけど、悪くないチョイスだわ」

 服装を褒められ、つい頬を掻いてしまう。

「そうか。まぁ、お前の評価なんてどうでも良いがな。それよりも早く行こうぜ。レースが始まってしまう」

 あまり褒められ慣れていない俺は、このあとどう言う反応をすれば良いのか分からない。なので、照れ隠しでつい突き放すような言い方をしてしまった。

「それもそうね。でも、ナイツ賞が始まるのは午後3時からだから、レース会場のある街に移動して、お昼を食べてからでも十分に間に合うわ」

「そんなに遅い時間に始まるのかよ。それなら待ち合わせは、午後からでも良かったんじゃないのか?」

「そう言う訳にもいかないのよ。あたしたちはあれに相乗りをさせてもらうのだから」

 タマモが指を差し、彼女が指し示した方に顔を向ける。そこには、レース会場へと向かう生徒や教師、それに会場へと向かうための馬車が並んでいる。

「それでは、ナイツ賞に出る走者はこの馬車に乗ってください。見学や応援をされる方もご同乗お願いします」

 なるほど、だからこんなに早い時間に待ち合わせをしたのか。それにしても、こんなに早く出る必要があるのか?

「まぁ、シャカールが言いたいことは分かるわ。でも、比較的に出現率が低いとは言っても、モンスターと出会さないとは限らない。だからどんなトラブルが起きても間に合うように、早めに出発することになっているのよ」

 タマモの説明を聞き、魔の森で出会ったハクギンロウを思い出す。確かに確率は低いとはいえ、あんなのに追い回されたら、たまったものではない。

 俺たちはナイツ賞行きの馬車に乗り、レース会場へと向かった。

「世界が平和になって、レースで勝敗を決めるようになる前は、もっと沢山のモンスターがいたらしいわ。その時代は冒険者なんて職業があったみたいで、依頼をすれば護衛をしてくれていたらしいけれど、今では衰退した職業になっている」

 馬車の中で揺られながら、タマモが説明をしてくれる。だが、その情報は幼い頃から知っていることだ。

 研究所で実験動物モルモット扱いをされていた俺は、研究者から無理やり脳に知識をインプットされたことがある。

 確か、今では昔話になってしまっているが、大昔この世界には、異世界から来た転生者とか呼ばれる異世界人がいたらしい。その人物がモンスターのトップに君臨する魔王を倒したことで、モンスターの数が減り、俺たちは転生者が伝えたとされる衣服や、日用品などを使うようになったとか。

 まぁ、昔話しだから、どこまでが本当なのか分からないがな。

「ヒヒーン!」

「うわっ!」

「きゃ!」

 ぼんやりと考えごとをしていると、突如馬が声を上げ、馬車が揺れる。突然の振動に対処することができずに、対面席に座っていたタマモが俺の前に倒れてきた。

 突然の事故により、俺の顔面は彼女の豊満な胸に押し当てられる形となってしまったが、今はラッキースケベを堪能している場合ではない。

「タマモ、大丈夫か?」

「ええ、ありが……きゃぁ!」

 ケガなどしていないかと訊ねると、タマモは今の状況を理解したようで、咄嗟に体を離す。

 顔は真っ赤であったが、事故であることを理解しているからか、平手打ちを受けるようなことはなかった。その代わりに赤い瞳で睨み付けられる。

「みんな大変だ! モンスターが現れた! あいつらの相手は先生がするから、みんなは最悪の事態に備えて、学園に逃げる準備をしてくれ」

「何だって!」

 教師の言葉に驚きの声を上げる。まさか、レース会場に向かっている最中に、モンスターと出会すことになるなんて。
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