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第二章

第九話 無限回路賞④

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 ~タマモ視点~





 魔法回避エリアを突破した後、私は残り300メートルのところに辿り着く。

先頭ハナを突き進むタマモ走者が今、最後のギミックに到達した! ここが運命の分かれ道だ!』

『最後のギミックは運が試されます。芝に落ちている紙を素早く取り、お題をクリアしてゴールをすることができるのか。楽しみですね。ここで最後尾が一気に上がって1着を取ったと言う実例もあります。第1ギミックすらクリアできないピック以外は、まだ優勝する可能性はありますよ』

 コースを走っていると、数多くの紙が芝の上に置かれているのが見えた。

 お願い! 幸運を司る神様、あたしに力を貸して!

 近くに置いてある紙を、体勢を低くしつつ掴み、そのまま走る。素早く紙を開いてお題を確認すると、髪留めのゴムと書かれてあった。

 なんてラッキーなの! 幸運を司る神様ありがとう!

 神様に感謝の言葉を送りつつ、あたしはツインテールの髪を纏めているゴムを片方取り外す。

『お題は髪留めゴムだったのか、タマモ走者、自分の髪からゴムを取り外す! そして駆ける! 駆ける! 早い! これはもう、独走だ!』

 実況を担当するアルティメットさんが独走状態であることを告げる。

 独走と言うことは、有利な状態であると言うこと。でも、セーフティーリードではない以上、いつでも追い越される可能性があると言うことになる。

 勝負は最後の直線の魔法禁止エリアに入ってからになりそうだわ。

 背後からの攻撃を警戒しつつ、あたしは魔法禁止エリアへと突っ走る。あのエリア内に入れば、少なくとも背後から攻撃される心配はない。魔法禁止エリアに入ったものを魔法で故意に攻撃すれば、その人物は失格となる。

『依然先頭はタマモ、3メートル離れてシャンデリアン、ハッピーパーティー追走。後方にカルディアン、内側を走りましてサザーク、ここでシンキングオパールが並んできた。1メートル離れてサトノヒカリ、キングスペ、そしてシャカール。彼の後方にアマソン、そしてシャドーナイツ。もう諦めろと言いたい。ピックはまだ第1ギミックにチャレンジ中だ!』

『ピックを除いて先頭から殿までおよそ8メートル。集団ひとつに固まって混戦状態となっています。ここからの逆転も可能ですよ』

 さすが賢さと運が試されるレースに出場するだけはあるわね。無数にあるお題から、自分に適したものを手に取ることができるなんて。

『おや? これはどうしたことでしょうか? シャカール走者の手には、何も持っていないように見えます』

『このままお題のものを持っていない状態でゴールしても、それは失格となってしまいます。果たして彼のお題はいったい何なのか! とても気になりますね』

 シャカールがお題を無視して走っている? 何を考えているの? あいつは!

 非常に気になってしまうけれど、ここはそんなことを気にしないで、ひたすら走るのみよ!

『ここでサトノヒカリが発光魔法を使って走る! しかし今は夜ではなく昼間、怯ませるには光が弱かった。ほぼ効果がなく、他の走者の速度を下げるのに失敗だ』

『ここはデバフではなく、自らの速度を上げる魔法やスキルの方が良かったかもしれませんね』

『終盤の後半となって、次々と他の走者がスキルを発動しているのか、速度を上げてきた! キングスペは好位置に位置取りをし直して、一気に加速する! そしてシンキングオパールが追い上げ、サザークを抜いた! 現在五番手』

『それそれが得意なタイミングで速度アップをしてきましたね。まもなく魔法禁止エリアに突入することもあって、魔法による妨害よりも、自身の速度アップに努めたほうが良いと判断したのでしょう。サトノヒカリのミスが、他の走者にサポートをした形となっております』

 後方から聞こえる足音が大きくなってきた。もう、あんまり距離がない。なら、ここで本気を出す!

先頭ハナを突き進むタマモ走者! 遊びはおしまいと他の走者に伝えているのか、縮まった距離を再び引き離す!』

『ここでの更なる加速は、他の走者に良いプレッシャーをかけていることでしょう。彼女の走りを見て、後続の1部が萎縮したように見えます』

『タマモ走者、魔法禁止エリアまで残り3メートル、2、1、ここでタマモ走者が魔法禁止エリアに突入だ! ここから先は己の足で勝負!』

 魔法禁止エリア内に入った。後は一心不乱に駆け抜けるのみ。このままいけば勝てる! あのシャカールにも勝てるのよ! このまま行けば、あたしは間違いなく優勝する。優勝すれば、兄さんも認めてくれるに決まっている。

 スカーレット家のタマモは未だ健在だと言うことを、兄さんに知らしめる!

 更に加速するために、足の動きに意識を集中させる。けれど、その瞬間に足に痛みを覚えた。

 どうして、こんな肝心な時に足に痛みが起きるの? だって、クリープ先輩から痛み止めの薬をもらったじゃない。

 痛みで走りから思考が裂かれると、クリープ先輩が言ったことを思い出す。

(絶対にレースの1時間前に服用してください。でないと、薬の効果が現れませんから)

 そうだったわ。あの薬はレースの1時間前に服用しないと効果が現れない。それなのに、あたしは痛みを感じなかったことで、レース直前に服装してしまった。

 きっと、今までも痛みはあったはず。でも、レースに集中していたことで、気付くことができなかったのだわ。

 ゴールが見えて来たことで心に余裕が生まれた結果、今になって痛みを思い出したのね。

 どうして、このタイミングなのよ。最後の最後で運が悪いって、あり得ないわ。

「あ!」

 痛みに気を取られたことで、バランスを崩していることに気付けなかったあたしは、そのまま芝の上に転倒。その後、誰かが覆いかぶさるように倒れた。

 柔らかい胸の感触から、女性だと言うことがわかる。

『ここでタマモが転倒! そしてそれに巻き込まれたシャンデリアンが覆いかぶさるように転倒した! その間に後続が次々と距離を詰め、追い抜いて行く!』

『ここでまさかの展開! こんなことになるなど、予想ができませんでした』

「何転んでいるのよ。今ので、追い抜かれたじゃない。優勝は無理でも、せめて入賞はしなければ」

 転んだあたしに対して叱責の言葉を投げかけると、シャンデリアンは立ち上がってゴールに向けて駆けていく。

 あーあ、あたしはこんな風になる運命だったのね。いくら抗ったって、最後の最後でドジをしてしまうなんて。あたしらしいといえばらしいのだけど。これで学園生活ともお別れか。こんなことになるのなら、兄さんの言ったみたいに花嫁修行でもしておけば良かったかな。

『タマモ走者立ち上がらない! これは故障ケガをしたか!』

『心配ですが、レース中は立ち入ることができません。順位が確定するまでは、救護班は待機状態となります』

 頭の中で、兄さんが叱責する言葉が反芻はんすうする。これが終われば、もしかしたら兄さんから兄妹の縁すら切られてしまうかもしれないわね。まぁ、スカーレット家の重みから解放されるのなら、それもありかもしれないわ。

 早くレースが終わってくれないかしら。いつまでもこんな醜態を晒したくないのだけど。

「タマモ!」

 全てを諦め、順位が確定するのを待っていると、後方からシャカールの声が聞こえた。

 腕に力を入れて上体を持ち上げて後方を見る。すると、シャカールが走りながらあたしの名を呼び、手を向けていた。

「タマモ! 俺の手を握れ!」

 手を握る? いったい何なの?

 彼の意図が読めない。だけど、このまま芝の上で倒れているよりかはマシだと直感的に悟った。

 言われた通りに手を伸ばすと、彼はあたしの手を握り、力一杯に持ち上げるとそのまま抱える。

『これは! シャカール走者が、倒れているタマモ走者をお姫様抱っこしながら突き進む!』

『お題を手に持っていなかったシャカール走者ですが、タマモ走者を抱きかかえたと言うことは、彼女関連のお題だったってことでしょうか?』

「しっかり捕まっていろよ! フルスロットルで駆け抜ける!」

 しっかりと捕まるように言われ、あたしは彼の腕を握る。

『シャカール走者! ここでお得意の加速だ!』

『何故かシャカール走者だけが、この魔法禁止エリアでも、バフを使った時と同様の走りをすることができます。一気に空気が変わりましたね』

 彼は凄まじい速度で芝の上を駆け抜けて行く。そして次々と前方の走者を抜かし、牛蒡抜ごぼうぬきを見せる。そして前方には誰もいない。あっと言う前に1位に躍り出た。そして勢いを落とさないままゴールを駆け抜けた。

『大逆転だ! 1着タマモス・スカーレット、2着、シャカール!』

 アルティメットさんの言葉が耳に入り、あたしは困惑した。

 どうしてあたしが1着なの?
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