19 / 269
第二章
第七話 無限回路賞②
しおりを挟む
~タマモ視点~
先頭に立っていたピックが最初のギミックに躓いている間に、あたしも無限芝の霧の中に突入した。
この霧に包まれている間は、立ち止まることは許されない。しかも周囲が霧しか見えないので、もしかしたら誰かが先を越しているのではないかと言う不安も煽られる。
このギミックでは、焦りが失敗へと繋がる。どんな時でも、冷静に自分のペースを維持することが最も重要とされる。
「さぁ、早く問題を出しなさい」
早急に問題を提出するように要求すると、どこからか声が聞こえてきた。
『問題、クラウン路線の三冠とは? 全て答えよ』
クラウン路線の三冠? 舐めているの? こんな問題、走者であれば、誰だって答えられる問題のはずよ。
「テイオー賞、マキョウダービー、KINNG賞!」
『正解! では、次の問題、走者には様々な脚質があるが、逃げ、先行、差し、追い込み、簡潔に全て説明せよ』
またしても基本中の基本じゃない。こんな問題、簡単だわ。
「逃げは真っ先に先陣を切ってそのままゴール! 先行は先頭集団を維持し、最後の直線で追い抜く。差しは中段を維持し、後半に速度を上げて最後の直線で追い抜く。追い込みは後方に位置取りをして徐々に速度をあげ、最後に差し切る!」
『正解、では次の問題』
まだ次があるのね。この程度の問題なら、いくらでも答えて上げられるわ。
一度呼吸を整えながら、次の問題が言われるのを待つ。
意外と声を出しながらの走りは、何かとキツくなるものがあるわね。でも、この程度で音を上げるなんて馬鹿げている。
『問題! この世界には様々な種族がいますが、走者として参加している種族を全て答えよ』
走者として参加している種族? えーと、確か。
「人族、亜人、ケモノ族、獣人、魔族、神族」
『正解。では、次の問題』
まだ問題を出されるの? さすが無限回路賞の目玉となるギミック。いつ終わるのか分からない状況の中、ひたすら走って問題に答え続けなければならない。考えたくはないが、もしかしたらあたしは最下位になっているかもしれないと言う、焦りすら感じてくる。
本当にいい加減にしてほしいわね。
あいつなら、こんな状況でも楽しんでいるのかしら?
脳内にシャカールのことを浮かべるも、直ぐに頭を横に振る。
こんな時にあいつのことを考えている場合ではないわよ。一刻も早く、この無限芝から脱出して、次のギミックに向かわなければ。
『問題、あなたは何のために走者として走っている?』
霧の中から出された問題が耳に入り、目を大きく見開く。
何なのこの問題? あたしが何のために走っているかですって?
そんなこと決まっている。スカーレット家の令嬢として生まれたからには、走者となる運命だったから。名門貴族として恥じない走者となるべく、走っている。
「そんなこと決まっている――」
言葉を言おうとするも、途中で詰まってしまう。
でも、本当にこれで合っているの? 霧の中での問題よ。何か裏がありそうな気がしてならない。
そもそも、この問題自体がふざけているわよ。何のために走っているですって?
何だか試されているような気がする。まるで、自分自身に問いかけているかのような問題だわ。
先程答えようとしたものも、間違ってはいない。でも、本当にあたしは家のために走っているの?
何のために走っているのか? もう一度考え直すために瞼を閉じて呼吸を整える。すると僅かだが、どこからか声援のようなものが聞こえたような気がした。
この声は、恐らく観客たちによるもの。そうだ。あたしは小さい頃から走ることが好きだった。あたしの走りを見て、褒めてくれる。あたしの走りを見た人が笑顔になってくれる。もっと、あたしの走りで観客たちを笑顔にしたい。
あたしは! レースを見に来た人たちを笑顔にするために走っている!
心の中で叫んだ瞬間、閉じていた瞼越しに光を感じた。
そっと瞼を上げると、視界には永遠と続く霧ではなく、霧の中に突入する前のレース場だった。
『さぁ、ここで無限芝をいち早く攻略したのはタマモ・スカーレット! 今、先頭を奪ってレース場を駆け抜ける!』
レース場の芝の上を走っていることに気付くと、実況のアルティメットさんの声が聞こえてきた。
やった! やったわ! あたしが1位になっている。このまま一気に、次のギミックへ向かうわよ。
急いで次のギミックへと駆ける。最初の無限芝を攻略した以上、残りは500メートル。もう、折り返し地点に到達しているようなもの。
このまま速度を上げ、一気に芝の上を駆け抜けようとしたその時、背後に何者かの気配を感じ、思わず後方を見た。
嘘! どうしてあんたがあたしの背後にいるのよ!
背後を振り返ると、そこには黒い騎士の形をした影がいた。
『これはどう言うことだ! 後続にいたはずのシャドーナイツが、タマモ走者の背後にいきなり現れた!』
『どうやらタマモ走者の影から現れたみたいですね。シャドーナイツのスキルは【影移動】影から影へと移動することが可能です。おそらくこの力を使ってタマモ走者の陰に侵入し、無限芝を回避した模様、ずる賢いですが、これも戦略の一つとして適応されます』
『ここで背後に居たシャドーナイツが陰の剣を振り下ろす! 果たしてタマモ走者はどう出る!』
先頭に立っていたピックが最初のギミックに躓いている間に、あたしも無限芝の霧の中に突入した。
この霧に包まれている間は、立ち止まることは許されない。しかも周囲が霧しか見えないので、もしかしたら誰かが先を越しているのではないかと言う不安も煽られる。
このギミックでは、焦りが失敗へと繋がる。どんな時でも、冷静に自分のペースを維持することが最も重要とされる。
「さぁ、早く問題を出しなさい」
早急に問題を提出するように要求すると、どこからか声が聞こえてきた。
『問題、クラウン路線の三冠とは? 全て答えよ』
クラウン路線の三冠? 舐めているの? こんな問題、走者であれば、誰だって答えられる問題のはずよ。
「テイオー賞、マキョウダービー、KINNG賞!」
『正解! では、次の問題、走者には様々な脚質があるが、逃げ、先行、差し、追い込み、簡潔に全て説明せよ』
またしても基本中の基本じゃない。こんな問題、簡単だわ。
「逃げは真っ先に先陣を切ってそのままゴール! 先行は先頭集団を維持し、最後の直線で追い抜く。差しは中段を維持し、後半に速度を上げて最後の直線で追い抜く。追い込みは後方に位置取りをして徐々に速度をあげ、最後に差し切る!」
『正解、では次の問題』
まだ次があるのね。この程度の問題なら、いくらでも答えて上げられるわ。
一度呼吸を整えながら、次の問題が言われるのを待つ。
意外と声を出しながらの走りは、何かとキツくなるものがあるわね。でも、この程度で音を上げるなんて馬鹿げている。
『問題! この世界には様々な種族がいますが、走者として参加している種族を全て答えよ』
走者として参加している種族? えーと、確か。
「人族、亜人、ケモノ族、獣人、魔族、神族」
『正解。では、次の問題』
まだ問題を出されるの? さすが無限回路賞の目玉となるギミック。いつ終わるのか分からない状況の中、ひたすら走って問題に答え続けなければならない。考えたくはないが、もしかしたらあたしは最下位になっているかもしれないと言う、焦りすら感じてくる。
本当にいい加減にしてほしいわね。
あいつなら、こんな状況でも楽しんでいるのかしら?
脳内にシャカールのことを浮かべるも、直ぐに頭を横に振る。
こんな時にあいつのことを考えている場合ではないわよ。一刻も早く、この無限芝から脱出して、次のギミックに向かわなければ。
『問題、あなたは何のために走者として走っている?』
霧の中から出された問題が耳に入り、目を大きく見開く。
何なのこの問題? あたしが何のために走っているかですって?
そんなこと決まっている。スカーレット家の令嬢として生まれたからには、走者となる運命だったから。名門貴族として恥じない走者となるべく、走っている。
「そんなこと決まっている――」
言葉を言おうとするも、途中で詰まってしまう。
でも、本当にこれで合っているの? 霧の中での問題よ。何か裏がありそうな気がしてならない。
そもそも、この問題自体がふざけているわよ。何のために走っているですって?
何だか試されているような気がする。まるで、自分自身に問いかけているかのような問題だわ。
先程答えようとしたものも、間違ってはいない。でも、本当にあたしは家のために走っているの?
何のために走っているのか? もう一度考え直すために瞼を閉じて呼吸を整える。すると僅かだが、どこからか声援のようなものが聞こえたような気がした。
この声は、恐らく観客たちによるもの。そうだ。あたしは小さい頃から走ることが好きだった。あたしの走りを見て、褒めてくれる。あたしの走りを見た人が笑顔になってくれる。もっと、あたしの走りで観客たちを笑顔にしたい。
あたしは! レースを見に来た人たちを笑顔にするために走っている!
心の中で叫んだ瞬間、閉じていた瞼越しに光を感じた。
そっと瞼を上げると、視界には永遠と続く霧ではなく、霧の中に突入する前のレース場だった。
『さぁ、ここで無限芝をいち早く攻略したのはタマモ・スカーレット! 今、先頭を奪ってレース場を駆け抜ける!』
レース場の芝の上を走っていることに気付くと、実況のアルティメットさんの声が聞こえてきた。
やった! やったわ! あたしが1位になっている。このまま一気に、次のギミックへ向かうわよ。
急いで次のギミックへと駆ける。最初の無限芝を攻略した以上、残りは500メートル。もう、折り返し地点に到達しているようなもの。
このまま速度を上げ、一気に芝の上を駆け抜けようとしたその時、背後に何者かの気配を感じ、思わず後方を見た。
嘘! どうしてあんたがあたしの背後にいるのよ!
背後を振り返ると、そこには黒い騎士の形をした影がいた。
『これはどう言うことだ! 後続にいたはずのシャドーナイツが、タマモ走者の背後にいきなり現れた!』
『どうやらタマモ走者の影から現れたみたいですね。シャドーナイツのスキルは【影移動】影から影へと移動することが可能です。おそらくこの力を使ってタマモ走者の陰に侵入し、無限芝を回避した模様、ずる賢いですが、これも戦略の一つとして適応されます』
『ここで背後に居たシャドーナイツが陰の剣を振り下ろす! 果たしてタマモ走者はどう出る!』
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
追放騎手の霊馬召喚〜トウカイテイオーを召喚できずに勘当された俺は、伝説の負け馬と共に霊馬競馬界で成り上がる!
仁徳
SF
この物語は、カクヨムの方でも投稿してあります。カクヨムでは高評価、レビューも多くいただいているので、それなりに面白い作品になっているかと。
知識0でも安心して読める競馬物語になっています。
S F要素があるので、ジャンルはS Fにしていますが、物語の雰囲気は現代ファンタジーの学園物が近いかと。
とりあえずは1話だけでも試し読みして頂けると助かります。
面白いかどうかは取り敢えず1話を読んで、その目で確かめてください。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)
@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」
このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。
「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。
男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。
「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。
青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。
ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。
「カクヨム」さんが先行投稿になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる