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第二章
第四話 体の違和感
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~タマモ視点~
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
無限回路賞前日、あたしは本日の追い込みとして、第一レース場を走った。休日はレースに使われるが、平日の模擬レースがない日は、練習をすることができる。
あたしは明日のレースを想定しながら、芝の上を駆ける。
無限回路賞には、運悪くシャカールが出場することになった。彼に勝てなければ、あたしはこの学園を自主退学することになる。
軽く一周を走り終え、次に本物のレースを想定した走り込みをすることにした。
レースのスタート位置に立ち、スタートダッシュの構えを取る。
おそらく、一番の強敵はシャカールになるはず。
シャカールの情報はあまり得ていない。でも、以前の彼の模擬レースを見る限り、先行、差し辺りの脚質で来ることが予測される。
あたしは今回先行で誰よりも前に出る必要がある。まずはシャカールの走りに勝つために、最初のスタートダッシュが重要。
頭の中でゲートを思い浮かべ、開いたタイミングで芝を蹴り、一気にダッシュする。
よし、最初のスタートダッシュには成功した!
このまま速度を落とさずに、一気に駆け抜ける!
「ツッ!」
スタートダッシュ後、100メートル走ったところで足に痛みが走る。まるで鉄のハンマーで殴られたような鈍い痛みを感じ、走るのをやめてその場で立ち止まる。
どうしてこのタイミングで足を痛めるのよ。
足の痛みと同時に瞼が痙攣を起こしていることに気付き、あの時シャカールが言った言葉を思い出す。
『瞼が痙攣を起こす原因は様々あるが、お前の場合は、精神的ストレスによるものが原因だろう。なぁ、自分の体を痛め付けてまで、自分を偽ってどうするんだ? 健康的な体作りが、走者としての基本だろう?』
今まで溜め込んでいたストレスが、脳に異常を来して神経を乱したって言うの?
念のために靴を脱いでストッキングを脱ぎ、生足を曝け出す。
「別に腫れてはいないわね。やっぱり、外部によるものではなく、内部からの痛みって訳?」
しばらく休憩を取ると、足の痛みは完全に引き、走る前のように違和感すらなくなった。
「良かった。これならまた走ることができるわね」
もう一度スタート位置に立ち、再び走り出す。すると今度は、50メートルほど走ったところで、再び痛みを感じた。
「どうしてさっきよりも早く痛み出すの? 治ったんじゃ?」
足の痛みに抗うことができずに、速度を落とすとその場にしゃがみ込む。
さっきと同じで、足には外見から分かる外傷はない。
もしかして、走ることそのものがストレスの原因になっているって言うの? 冗談じゃないわ!
とにかく、これ以上悪化をすれば、明日のレースに出場できなくなる。それだけは避けないと。
「とにかく、医務室に向かいましょう。先生に頼んで、痛み止めを貰えば大丈夫よ」
脱いだストッキングと靴を履き直し、第一レース場を出て行く。レース会場から医務室に向かうまでの間歩いていたが、痛みのようなものは感じられなかった。
「失礼します。先生いますか?」
「あら? タマモちゃんじゃないですか。どこかケガでもしたのですか? 今先生が留守でして、ママがお留守番をしているのですが」
扉を開けて中に入ると、ウサギの耳に白い髪を一つに纏めているケモノ族の女生徒が、声をかけてきた。彼女は椅子に座って何かの本を読んでいたみたいで、本を閉じるとこちらに視線を向ける。
「クリープ先輩じゃないですか……タイミングが悪かったかもしれないわね」
彼女を目の前にして、小声でポツリと呟く。
「どうかしたの? もしケガをしているのなら、ママが見てあげるわよ」
「いえ、先輩の手を煩わす訳にはいきませんので。痛み止めを貰ったら、さっさと帰ります」
要件を済ませたら医務室から出て行くことを告げると、あたしは医薬品が置かれてある棚に向かう。すると、椅子に座っていたクリープ先輩が立ち上がり、こちらに向かっていた。
「ねぇ、タマモちゃん。その探している痛み止めは何に使うの?」
「何って痛みを止めるために決まっているじゃないですか?」
「ごめんなさい。言い方が悪かったわ。何にじゃなくって誰に使うの?」
「それ……わ」
青い瞳で見つめられ、思わず彼女から視線を逸らしてしまう。
「確か、明日ってレースの日だったわよね。痛み止めで誤魔化そうとしているのなら、ママはどんな手を使ってでも、阻止するわよ」
目線を逸らしたことで、後めたいことがあると自らバラしてしまったみたい。
クリープ先輩は、厳しくも優しさを感じさせる目付きで、あたしのことを見つめてくる。
きっと、彼女には嘘は通用しないだろう。本能的に悟ったあたしは、諦めて先程起きたことを話す。
「なるほど、走ると急に痛み出すのですか? それで痛み止めを服用しようと?」
「はい。ですが、日常生活に問題ないですし、痛み止めを飲めば、走ることもできるはずです。お願いします。このことは内緒にしてください。明日のレースだけは、どんな手を使ってでも出場しなければいけないのです」
感情が昂ってしまったのか、声を上げたと同時に目尻から涙がこぼれ落ち、頬を伝って床に落ちる。
「な、泣かないでください。ママ、良い子の涙に弱いんですから……分かりました。なら、ママのお手製の痛み止めを差し上げますので、泣き止んでください」
クリープ先輩の意外な反応に少々驚いてしまう。
まさか、彼女が折れてくれるとは思わなかった。クリープ先輩は良い子を大切にしている。だからこそ、ケガをしているあたしを全力で止めようとするものだと思っていた。
クリープ先輩は一度離れると、ポケットの中から一つの瓶を取り出した。
「これは、ママが手作りした痛み止めの錠剤です。ママがケガをした時に実際に服用していたので大丈夫です。この薬を飲めば、2時間は痛みをごまかせられるでしょう。良いですね。絶対にレースの1時間前に服用してください。でないと、薬の効果が現れませんから」
注意事項を聞きながら、渡された瓶を受け取る。
瓶の中には黒くて丸い物体が3つほど入っていた。
「ありがとうございます。クリープ先輩」
「お礼は結構ですよ。ママは良い子の味方ですから」
クリープ先輩にお礼を言い、医務室を出て行く。
明日のレースは絶対に負けられない。絶対に負けられないのだから。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
無限回路賞前日、あたしは本日の追い込みとして、第一レース場を走った。休日はレースに使われるが、平日の模擬レースがない日は、練習をすることができる。
あたしは明日のレースを想定しながら、芝の上を駆ける。
無限回路賞には、運悪くシャカールが出場することになった。彼に勝てなければ、あたしはこの学園を自主退学することになる。
軽く一周を走り終え、次に本物のレースを想定した走り込みをすることにした。
レースのスタート位置に立ち、スタートダッシュの構えを取る。
おそらく、一番の強敵はシャカールになるはず。
シャカールの情報はあまり得ていない。でも、以前の彼の模擬レースを見る限り、先行、差し辺りの脚質で来ることが予測される。
あたしは今回先行で誰よりも前に出る必要がある。まずはシャカールの走りに勝つために、最初のスタートダッシュが重要。
頭の中でゲートを思い浮かべ、開いたタイミングで芝を蹴り、一気にダッシュする。
よし、最初のスタートダッシュには成功した!
このまま速度を落とさずに、一気に駆け抜ける!
「ツッ!」
スタートダッシュ後、100メートル走ったところで足に痛みが走る。まるで鉄のハンマーで殴られたような鈍い痛みを感じ、走るのをやめてその場で立ち止まる。
どうしてこのタイミングで足を痛めるのよ。
足の痛みと同時に瞼が痙攣を起こしていることに気付き、あの時シャカールが言った言葉を思い出す。
『瞼が痙攣を起こす原因は様々あるが、お前の場合は、精神的ストレスによるものが原因だろう。なぁ、自分の体を痛め付けてまで、自分を偽ってどうするんだ? 健康的な体作りが、走者としての基本だろう?』
今まで溜め込んでいたストレスが、脳に異常を来して神経を乱したって言うの?
念のために靴を脱いでストッキングを脱ぎ、生足を曝け出す。
「別に腫れてはいないわね。やっぱり、外部によるものではなく、内部からの痛みって訳?」
しばらく休憩を取ると、足の痛みは完全に引き、走る前のように違和感すらなくなった。
「良かった。これならまた走ることができるわね」
もう一度スタート位置に立ち、再び走り出す。すると今度は、50メートルほど走ったところで、再び痛みを感じた。
「どうしてさっきよりも早く痛み出すの? 治ったんじゃ?」
足の痛みに抗うことができずに、速度を落とすとその場にしゃがみ込む。
さっきと同じで、足には外見から分かる外傷はない。
もしかして、走ることそのものがストレスの原因になっているって言うの? 冗談じゃないわ!
とにかく、これ以上悪化をすれば、明日のレースに出場できなくなる。それだけは避けないと。
「とにかく、医務室に向かいましょう。先生に頼んで、痛み止めを貰えば大丈夫よ」
脱いだストッキングと靴を履き直し、第一レース場を出て行く。レース会場から医務室に向かうまでの間歩いていたが、痛みのようなものは感じられなかった。
「失礼します。先生いますか?」
「あら? タマモちゃんじゃないですか。どこかケガでもしたのですか? 今先生が留守でして、ママがお留守番をしているのですが」
扉を開けて中に入ると、ウサギの耳に白い髪を一つに纏めているケモノ族の女生徒が、声をかけてきた。彼女は椅子に座って何かの本を読んでいたみたいで、本を閉じるとこちらに視線を向ける。
「クリープ先輩じゃないですか……タイミングが悪かったかもしれないわね」
彼女を目の前にして、小声でポツリと呟く。
「どうかしたの? もしケガをしているのなら、ママが見てあげるわよ」
「いえ、先輩の手を煩わす訳にはいきませんので。痛み止めを貰ったら、さっさと帰ります」
要件を済ませたら医務室から出て行くことを告げると、あたしは医薬品が置かれてある棚に向かう。すると、椅子に座っていたクリープ先輩が立ち上がり、こちらに向かっていた。
「ねぇ、タマモちゃん。その探している痛み止めは何に使うの?」
「何って痛みを止めるために決まっているじゃないですか?」
「ごめんなさい。言い方が悪かったわ。何にじゃなくって誰に使うの?」
「それ……わ」
青い瞳で見つめられ、思わず彼女から視線を逸らしてしまう。
「確か、明日ってレースの日だったわよね。痛み止めで誤魔化そうとしているのなら、ママはどんな手を使ってでも、阻止するわよ」
目線を逸らしたことで、後めたいことがあると自らバラしてしまったみたい。
クリープ先輩は、厳しくも優しさを感じさせる目付きで、あたしのことを見つめてくる。
きっと、彼女には嘘は通用しないだろう。本能的に悟ったあたしは、諦めて先程起きたことを話す。
「なるほど、走ると急に痛み出すのですか? それで痛み止めを服用しようと?」
「はい。ですが、日常生活に問題ないですし、痛み止めを飲めば、走ることもできるはずです。お願いします。このことは内緒にしてください。明日のレースだけは、どんな手を使ってでも出場しなければいけないのです」
感情が昂ってしまったのか、声を上げたと同時に目尻から涙がこぼれ落ち、頬を伝って床に落ちる。
「な、泣かないでください。ママ、良い子の涙に弱いんですから……分かりました。なら、ママのお手製の痛み止めを差し上げますので、泣き止んでください」
クリープ先輩の意外な反応に少々驚いてしまう。
まさか、彼女が折れてくれるとは思わなかった。クリープ先輩は良い子を大切にしている。だからこそ、ケガをしているあたしを全力で止めようとするものだと思っていた。
クリープ先輩は一度離れると、ポケットの中から一つの瓶を取り出した。
「これは、ママが手作りした痛み止めの錠剤です。ママがケガをした時に実際に服用していたので大丈夫です。この薬を飲めば、2時間は痛みをごまかせられるでしょう。良いですね。絶対にレースの1時間前に服用してください。でないと、薬の効果が現れませんから」
注意事項を聞きながら、渡された瓶を受け取る。
瓶の中には黒くて丸い物体が3つほど入っていた。
「ありがとうございます。クリープ先輩」
「お礼は結構ですよ。ママは良い子の味方ですから」
クリープ先輩にお礼を言い、医務室を出て行く。
明日のレースは絶対に負けられない。絶対に負けられないのだから。
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