薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第二章

第三話 短距離なのに超長距離のレース

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 ~シャカール視点~





「それでは、朝のホームルームを始めます」

 担任の言葉を聞いていた俺は、心臓の鼓動が早鐘を打っていた。ホームルームが始まるちょっと前、俺は教室から離れていたのだが、鐘の音が聞こえたので、全速力で教室に戻って来ていたのだ。

 別にホームルームに遅れるのは構わない。だが、廊下などでタマモに鉢合わせてなどすれば、小言を言われるに決まっている。それがうざいだけだ。

 タマモの机を見ると、彼女はまだ戻っていない。どうやら兄との話しが長引いているのかもしれないな。これなら急いで教室に戻る必要もなかったかもしれない。

「では、まず――」

 担任教師が言葉を投げかけたその時、教室の扉が開かれ、茶髪の髪をツインテールにしている狐耳の女の子が中に入って来る。

 彼女は優雅に気品のある佇まいで歩き、自分の席に着席する。

「どうやらタマモさんも間に合ったようですね。では、ホームルームを再開します。皆さんには、次に出るレースを決めてもらいます。まぁ、デビュー戦の条件を満たしていない方は、デビューするための条件を満たすところからになるのですが」

 とある生徒をチラリと見ながら、担任教師は申し訳なさそうに言う。

 どうやら俺と同じで、デビュー戦の条件を満たしていないやつが、この教室にも居るみたいだな。

 そもそも、俺はその条件すら知らない。まぁ、無理にレースに出場しようとは思っていないから、このままデビューしないで、学園生活を終わらせても良い。

「あ、そうそう。シャカール君おめでとうございます。あなたはデビュー戦の条件を満たしたとのことでしたので、早速正式なレースに出場することができます。なので、思い出に残るレースができるように、吟味した上で、出場するレースを決めてください」

 デビューしなくてもいいや。そう思ったのも束の間、俺はデビュー戦に出る条件を満たしていることを担任教師は告げる。

 俺って神様に嫌われているのか? 思考して気分が良くなっているその瞬間に、叩き落とすなんて。

 担任教師が紙を配り、前の席の生徒が残りの1枚を手渡す。紙を受け取って書かれてある内容に目を通すとGIII、GIIのレースが書かれてある。

 GIのレースが書かれていないのは、まだ時期が少し早いからだろう。まぁ、そもそもGIに出場するには、ある程度ファンの獲得をしないといけないからな。人気投票で多く票数を獲得しないと、出場できないレースも存在している。

 さてと、面倒臭いが、どれに出場するのか一応決めておくとするか。

 紙に書かれてあるレースの種類を眺めていると、興味を惹かれるレースを発見した。

 GIII、無限回路賞、芝、1000メートル~無限、ギミックあり。

 何だ? この1000メートル~無限って言うのは?

 最初の1000メートルは、短距離を表していることが分かる。しかし最後の無限とはいったいどう言う意味なんだ? ギミックと何か関係があるのだろうか?

 まぁ、出場するならば、面白そうなものが良い。今回はこのレースにするとするか。

 出場するレースを決めると、そのタイミングで鐘の音が鳴る。

「では、5分間の休憩となります。お手洗いは今の内に済ませておいてください」

 トイレに行きたい者は今の内に言っておけと言うと、担任教師は教室から出て行く。

「シャカール! 貴様、どのレースに出場する! お前の出るレースに俺も出るぞ!」

 担任教師の姿が見えなくなったその瞬間、ブタゴリラが声を上げて椅子から立ち上がり、俺のところに来る。

 朝っぱらから暑苦しいやつだ。タマモからしつこくしないように言われたばかりじゃないか。

 後の展開を先読みすると、正直に出場するレースを伝えた方が良いだろう。嘘の情報を開示して、後から難癖つけられるのも面倒だ。

「俺は無限回路賞に出るつもりだ」

「無限回路賞だな! なら、俺もそれに出る! そして今度こそお前に勝つ!」

「ピック、あなたはそのレースに出場しない方が良いわ。知力適性が合っていないわよ。今のあなたの学力では、完走する前にリタイアすることになるでしょうから」

 声を上げて宣戦布告をするブタゴリラに暑苦しさを感じていると、タマモがやって来て彼を止める。

「そんなの関係ない! 俺はこいつとレースに出る! そして勝つ!」

「さっきの聞こえていなかったかしら? 知力適性が合っていないから、このレースには出ない方がいいわよ?」

 タマモがもう一度忠告をするも、彼女の瞼はピクピクと痙攣を起こしていた。

 聞き分けの悪いブタゴリラに対して、ストレスを感じているじゃないか。

「タマモ、こいつに忠告するだけ無駄だぞ。俺とレースをすることしか頭にないからな。当日に恥をかくのはブタゴリラだ。何が起きても、委員長のありがたいお言葉を無視したこいつは悪い」

「さすがシャカールじゃないか! 俺のことを良くわかっている」

 ブタゴリラは笑みを浮かべて俺の肩を軽く叩く。

 いや、そんなに嬉しそうな顔をするなよ。俺はお前を、民衆の前で恥をかかせようとしているのだからな。

「あら? そう言えば、シャカール君がピックのことをブタゴリラと呼ぶのに、怒らないのね」

「ああ、こいつには何度言っても分からないから諦めた。それに模擬戦とはいえ、俺は敗れた身だからな。敗者は強者を敬う必要がある。ある程度のことは多めに見なければ」

 ブタゴリラの言葉に意外性を感じてしまった。こいつ、ただ暑苦しいだけで、結構良いやつなのかもしれないな。

「タマモなら知っていると思うから訊ねるけど、この無限って言うのは何だ?」

「それわね。レースのギミックによるものなのよ。レースの序盤に幻の芝と言うギミックがあって、魔法の霧の中に突入した後に問題に答えられないと、その芝から永遠に脱出することができないわ。霧の中に入っている間に立ち止まったり問題に不正解になったりすると、外に追い出されてまたやり直しになるの。これが無限と言われる所以よ」

「なるほど、つまりバカは短距離なのに長距離を走らされることになるのか」

「それ以外にも、ギミックがいくつかあるわ」

 その後、タマモからレースの詳細を聞き、自分の中でもある程度対策を立てる。

「サンキュ! これで次のレースも優勝できそうだな」

「それはどうかしら? あなたに立ちはだかるのはこのあたし、タマモ・スカーレットなんだから。優等生の知力に敵うと思うのかしら?」

「それって、つまり」

「そう。あたしも無限回路賞に出場するわ。1着を取るのはこのあたし、タマモ・スカーレットよ」

 ビシッと人差し指を俺に向け、タマモは俺に宣戦布告を告げた。
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