薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第一章

第十一話 模擬レース(後編)

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 ブタゴリラが他の走者を吹き飛ばしてくれた隙に、俺は後方から一気に抜き去って行く。

『さぁ、さぁ、ピックの攻撃を唯一逃れたシャカールが、現在1位! 加速する末脚を見る限り、俊足魔法を発動しているもよう』

『先ほどピックの攻撃を唯一避けたことを考えると、やはり只者ではなさそうですね。果たして先頭ハナを奪ったまま、1着でゴールできるのか、見物です』

 後方から一気に抜き去る俺の走りを見て、実況と解説が言葉を連ねる。しかし俺が知りたいのは、自分の状況ではない。

 後方から狙い撃ちされるのは、目に見えている。後を見ながら走れば減速してしまう以上、敵がどのような手段を用いってくるのかは、実況を担当するアルティメット頼りだ。

『先頭を走りますシャカールを追いかけるのは、ピック! しかしその差は10メートル程離れたぞ! ここで逆転の一手を打たなければ、独走を許すことになる!』

『しかし、そう簡単にはいかないのがこの魔競走レース。必ず誰かが阻んでくると言うもの』

『おっと! ここで倒れた後続組で、最初に立ち上がったのはアックス! そして走りながら手を前に出します』

「トラッキングファイヤー!」

『ここでアックスが魔法を発動! あの魔法は対象者に命中するか、相殺されるまで追尾する魔法だ!』

『やはり、ここで逆転の一手を打って来ましたね』

 アックスが追尾系の魔法を発動したか。あの魔法からは逃れることはほぼ不可能。対処方法を模索しなければ。

『アックスが追尾系の魔法を発動したことで、ピックが加速した! 逃げる! 逃げる! しかし火球の方が速度は上だ! 距離にして5メートル……3、2、1、直撃だ! 火球に燃やされ! ピックは苦しそうにもがいて、芝の上を転がる!』

『ブタの丸焼き、いえ、ゴリラの丸焼き? よく分からないので、ブタゴリラの丸焼き状態としましょう』

 どうやらピックは、あの火球に燃やされたみたいだな。追尾系の魔法は2種類ある。何かに接触してしまうと効果を失うもの、対象にヒットするまでは持続するもの。果たしてアックスはどっちを使った?

『ピックがもがき苦しんでいる間に、アックスが追い抜く! そして後続たちも次々と抜き去り、2位だった彼は現在最下位となっています。依然1位はシャカールのまま。だが、彼を追い詰めるのはアックスの放った追尾の火球だ!』

 チッ、対象者に直撃するまで効果を失わない方の魔法かよ。これは面倒なことになったな。

『迫る! 迫る! シャカールと距離を詰めるのは、走者ではなく火球! 距離にして3メートルほどしかないぞ!』

『残り400メートルを切りました。ここで当てなければ、アックスにとって厳しい戦いとなるでしょうね』

 背後から強烈な熱を感じる。このまま行けば、俺は間違いなくブタゴリラの二の舞となるだろう。

「だけど、残念だったな。ブタゴリラが身を犠牲にして、ほんの僅かに時間を稼いでくれた。お陰で魔力を練り上げることができた。ウォーターウォール!」

『ここでシャカールが水の壁を生み出した! 火球は水の壁に飲まれ、蒸発して行く!』

『火球を防いだことで役目を終えた水が、形状を維持できずに崩れて、芝を濡らしましたね。一部のエリアが水で濡れたことで、芝の状態が不良となりました。これでは、力のいる走りが要求されます。まさかパワーを要求されるレースになるとは、完全に予想外でした』

 どうにかやつの火球を防ぐことができた。残りの距離からして、再び魔法を発動するのは厳しいだろう。もう直ぐ、魔法禁止エリアに到達する。

『芝が濡れて走り辛そうにする中、ピックが物凄い速度で駆け上がって行くぞ!』

『パワーが要求されるレースでは、適正が合っていますのからね。次々と追い抜けるのにも、頷けます』

 俺がレース場の芝を不良にしたことで、ピックが尻上がりして来たか。まぁ、あいつが他の走者を吹き飛ばしてくれたし、これで貸し借りはなしと言うことにしておこう。

 さぁ、ここから魔法禁止エリアだ。俺のユニークスキルの独壇場となる。

『最終コーナーを終え、シャカール走者が最後の直線へと駆けて行く! 第一レース場の直線は短いぞ! 後の走者は間に合うのか!』

『ここからが魔法禁止エリア。人族にとっては、身体的に不利となる悪魔のエリアとなります。これまでも魔法で優勢だった人族の走者が、ここで次々と追い抜かれるのが定番となっています』

『果たして人族のジンクスを打ち砕くことができるのか!』

 はは、実況や解説たち、色々なことを言っているな。人族にとって悪魔のエリア? ジンクス? そんなの関係ない。俺は、俺の走りをするまでだ!

 ユニークスキル、メディカルピックルを発動! 足の筋肉の収縮速度を強制的に速くする。

『な、何と! シャカール走者! 減速するどころか更に加速だ! 2番手との差は縮まらず、これは圧勝ムード!』

『魔法禁止エリアに踏み入れた以上、魔法は使えないはず。つまり、素の走りで人族の限界に達していると言うことになります』

『残り100メートル! しかし二番手のアックスとの距離はおよそ5メートル、いや、6メートル? 嘘でしょう! ここからぐんぐん引き離す! 繰り返します。シャカールとアックスの差は8、9、10! 11! 11メートル以上の着差を付け、シャカール走者、今! 大差でゴールイン!』

 魔法エリアに入った後、何も考えないでひたすら走っていた。次に実況の声が聞こえた時、彼女は俺が大差で1着を取ったことを告げていた。

『まさか、人族が大差でゴールを駆け抜けるとは! いくら模擬レースとは言え、これは歴史に名が残る程の快挙を達成だ! 今ここに、人類の光り輝く希望の星が誕生だ! 彼こそが、今年度のダークホースとなるのか! 今ここに! 新たなヒーローの誕生だ!』

『今後の活躍が大いに期待できますね。我々も身を引き締める必要があります』

 まったく、実況と解説は俺を持ち上げ過ぎだ。だって俺は、相手が負ける、、、、、、レースはしない主義だからな。勝手当然だ。

 だけどまぁ、多くの奴らから祝福されるのは、悪い気がしなくもない。

 高鳴る心臓の音が心地良かった。たまにはレースに出るのも、悪くはないのかもしれないな。
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