薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第一章

第七話 猫を被るキツネ

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「なぁ、猫を被るのはその辺にして、本性を表したらどうだ? 化け狐」

 偽ることをやめて、本当の自分を曝け出したらどうだと言うと、タマモは驚いたようで、目を大きく見開く。

「え? 何を言っているの? あたしが猫を被っている? 何なの? それに、いくらキツネのケモノ族でも、化け狐は酷いよ。何か君の機嫌を損ねることをしたのかな? もし、気付かないところでシャカール君を傷付けてしまったのなら、ごめんなさい」

 タマモは優等生らしく、自分に落ち度があったらのなら謝ると言い、頭を下げる。

 ここまでの態度をされたら、もしかしたら自分の勘違いだったのかもしれないと思って、逆に謝る人が多いだろう。でも、俺は騙されない。

「もう、演技をしなくて良いぞ。ここには俺たちしかいないんだ。誰も盗み聞きをしていない。だから、化けの皮を剥がしたらどうだ?」

 彼女の言葉に引き下がることなく、自分の意志を貫く。

「どうして優等生を演じているのか知らないが、疲れないか? 優等生とは、自分を偽ってまで貫き通したいものなのかね?」

「何を言っているの? いくらあたしでも、勝手なことを言われて誹謗中傷受けたら、傷付くのだけど?」

 どうやらタマモは、まだ俺に嘘を言い続けるつもりのようだ。なら、俺は気付いた証拠を出すまで。

「いやぁ、さすが優等生だな。ここまで追い詰めても、まだ自分を偽り続けようとする。感心するが、俺はタマモのようにはなりたくないな」

 ニヤリと口角を上げながら、バカにするように言葉を連ねる。すると、タマモの瞼がピクピクと動いた。

「ほら、今偽りの証拠を自分から出した。お前は優等生などと呼ばれ、持て囃されたり尊敬されたりすると、瞼がピクピク動く」

 証拠を突き付けると、タマモは両手で片方の目を覆う。

どうやら自覚はあるみたいだな。

「瞼が痙攣を起こす原因は様々あるが、お前の場合は、精神的ストレスによるものが原因だろう。なぁ、自分の体を痛め付けてまで、自分を偽ってどうするんだ? 健康的な体作りが、走者としての基本だろう?」

「うるさい! あなたにあたしの何が分かるって言うのよ!」

 証拠を突きつけたことで、逃げ道を失ったことを理解してしまったからか、タマモは声を荒げる。

「分からねぇよ。だって、俺はお前じゃない。むしろお前の全てを分かっていたら、そっちの方が気持ち悪いじゃないか」

「だったら踏み込まないでよ! あたしの事情は、あんたには関係ないでしょうが!」

「確かに関係ないな。でも、好奇心はある。どうしてお前が、そこまで必死に良い子ちゃん振るのか非常に気になる。それを暴けた時、面白いことになりそうだ」

「あなた、最低ね!」

「ああ、その自覚はある。確かに俺は、面倒事はごめんだ。だが、自分の好奇心を満たすためなら、なんでもするつもりだ。そのためなら、平気で他人の心に踏み込むし、騒つかせる」

 俺は両手を広げて彼女に訊ねる。

「なぁ、聞かせてくれないか? どうしてお前はそこまで自分を偽る?」

「誰が話すか! バカ! 死ね! クソ雑魚の人間風情が!」

 タマモが普段は言わないだろうと思われる低俗な言葉を連発すると、彼女の指先から火球が現れる。

「おい、おい、学園内は魔法厳禁だろう? 優等生がそんなことをしては、ダメじゃないか?」

「あなたが悪いのよ。好奇心なんかであたしの本心を暴こうとしたのだから、だから痛い目に遭ってもらう。二度とあたしに近付こうと思わないようにね。大丈夫よ、殺しはしない。半殺しで大目に見てあげる。別にあたしがしたことを、学園中に言いふらかしても良いわ。その時はあなたに襲われそうになったから、正当防衛をしたって反論してあげる。転入してきたばかりのあなたと、優等生のあたし、どっちの証言を信じるのかしらね」

 空中に浮く火球がどんどん大きくなってくる。

 これだけ強い火球を受ければ、俺の体は一瞬で灰となってしまうだろう。

 半殺しではなく、存在そのものを消すつもりじゃないか! 言っていることと、やろうとしていることが正反対なんですが!

「さぁ、燃え尽きなさい!」

 タマモが巨大な火球を俺に向けて放つ。

こんなところで死んでたまるか! 俺はこの学園を問題なく卒業して自由を得るんだ!

「ウォーターボール」

 こちらも魔法を発動し、防衛に努める。

 空気中の酸素と水素が磁石のように引き合い、電気的な力によって水素結合を起こす。これにより水分子間がつながり、水分子のクラスターが形成され、水の塊が出現する。

 火球と水球がぶつかり合い、境目から水蒸気が発生する。しかし、数秒後には水の魔法が押され始めた。

 彼女の練り上げている魔力の方が上か。水の冷却効果を、炎の発熱量が上回っていれば、水は蒸発して炎に負ける。

 なら、こちらも練り上げている魔力を上げて、水の強化を図る。

 体の中の魔力を魔力回路によって循環させ、魔力を練り上げる。すると、タマモの火球が小さくなり始めた。

 炎の発熱量を上回り出したか。これなら彼女の火球を完全に消し去ることができる。

 しばらくすると、タマモの放った火球は完全に消え、水蒸気が当たりに舞った。

 彼女の攻撃を受け止めたことに安堵していると、気が抜けてしまったことで隙を生んでしまった。

 一瞬の隙を疲れ、彼女が俺の横を走り去ると、校舎内へと入って行く。

「あーあ、逃げられたか。タマモを逃したことで、面倒臭いことにならなければ良いのだが」

「悪いが、そのフラグは直ぐに回収させてもらうよ」

 頭上から聞き覚えのある低い女性の声が聞こえ、顔を上げる。すると、屋上の一番高い部分に、ルーナが立っていた。

「学園内では魔法は厳禁のはずなのだがね。まさかこんなに早く規則を破るとは、本当に君は極上だ。だが、学園長として目撃した以上、目を瞑ってあげることはできない。悪いが、ワタシに付いて来てもらうよ。ワタシからは逃げられないと言うことは、君が身を持って知っているはずだろうからね」

 ニヤリと口角をあげるルーナを見て、俺は溜め息を吐きたくなる。

 どうしてこんなにフラグ回収が早い。本当に面倒臭いことになった。
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