薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

文字の大きさ
上 下
6 / 269
第一章

第五話 強引なキツネ

しおりを挟む
 ブタゴリラの愛称を持つピックを大人しくさせたのは、茶髪の髪をツインテールにしているキツネ耳の女の子だった。

 彼女はタマモと名乗り、俺に手を差し伸べる。

「お前、何を考えているんだ?」

「何って決まっているじゃない。握手よ。同じクラスメイトだもの。委員長として、真っ先に仲良くなる必要があるでしょう?」

「別に俺は、お前と仲良くなるつもりはない」

 胸の前で腕を組み、首を横に向けてそっぽを向く。

「うーん、どうしたら君と仲良くなれるのかなぁ? 別にあたしは、シャカール君のこと悪く思ってはいないのだけど?」

 笑みを浮かべたまま、タマモは小首を傾げる。しかし、彼女の瞼の部分がピクピクと動いていた。

「ブタゴリラを大人しくさせてくれたことは例を言う。だけど、俺はお前たち人外とは仲良くするつもりもない。もちろんお前たちのやるレースを邪魔するつもりはない。そもそも、あんなくだらないレースに参加するつもりはないからな。俺のことは空気だと思ってくれて構わない」

 踵を返してタマモに背を向け、自分の席に座る。

「何あいつ。せっかく委員長が仲良くしようと話しかけてくれたのに、あんな態度を取るなんて」

「やっぱり下等生物の人間だな。俺たち生物の中でもクソだ。俺たちと比べて走りが遅い」

「そもそも、人類を生き残らせたのが間違いなんだ。100年前の世界大戦で、人類だけ滅ぼせばよかったんだよ」

 俺の態度を見て、クラスメイトが口々に陰口を溢す。

「はい。皆さん授業を始めますよ。席に着いてください」

 クラスメイトたちが口々と悪態をついていると、扉が開かれて担任教師が部屋の中に入ってくる。彼女の登場により、生徒たちは口を閉ざして自分の席に着席することになった。

「では、シャカール君がおりますので、復習といきましょう。元々、この世界は人類、亜人、獣人、ケモノ族、魔族、そして神族が大陸の統一を巡って戦争をしていました。ですが、魔法や剣による武力では勝敗がつきません。そこで新たな決着のつき方として提案されたのが……はい、ピック君答えてください」

「そんなの、決まっているだろう。レースだよ」

 説明の途中から回答を求められたピックは、面倒臭そうに答える。

「正式名称で答えてください」

「忘れた」

「もう、では、タマモさん」

 適当に答えたブタゴリラに呆れ、担任教師は先ほどの女の子を指名した。

「はい。魔競走レースです」

「正解です。戦争の代わりに提案されたのが、己の魔力と脚力で勝負する魔競走レース。今ではスポーツ扱いとなっています。ですが、戦争だった頃の名残りは未だに健在しており、毎年行われるGIレースの勝利数を、各種族は競い合っていますね」

 担任教師の説明を聞き、溜め息を吐く。

 今ではスポーツ扱いではあるが、GIレースの勝利数が多い種族が、この世界の実権を持っていると言っても良い。そして勝利数の少ない人類は、このレースではカースト下位に属する。

 なので、人類はバカにされ続け、下克上を実現するために、多くの子どもが俺のように肉体改造の実験体とされているのだ。

「そして各GIレースの中でも、『テイオー賞』『マキョウダービー』『KINNG賞』などの人気のあるレースは、クラウン路線の三冠と呼ばれ、全てに優勝すると、三冠王や三冠クイーンなどと呼ばれ、走者の憧れの存在になれますので、皆さんも頑張って三冠を取るようにしましょう」

「では、続きましては――」

 続けて担任教師が説明を行うが、レースに興味のない俺は暇でしょうがなかった。なので、授業は昼寝の時間とし、寝ることにする。





「ねぇ、起きてよ。もうお昼休みよ」

 体を揺らされる感覚を覚え、無理やり目が覚めてしまった。

 たく、誰だよ。俺の眠りを妨げるやつは?

 重い瞼を開けて顔を上げると、目の前にはタマモがいた。

「なんだよ。俺に構わないでくれと言っただろう?」

「そう言う訳にはいかないの。このクラスの委員長として、あなたに学園内の案内をしないといけないから」

 タマモが俺を起こした理由を語るが、そんなことは関係ない。どうして俺がこの学園の施設内を知らないといけないんだ。俺はレースに興味がない。だからこの学園内の施設を知る意味がないのだ。

 学園の案内よりも、今大切なのは睡眠だ。昨日はルーナとの勝負で夜中に走ったことで、睡眠時間が少ない。

「悪いな。俺は睡眠不足で眠い。だからまた今度な」

 もう一度、腕に顔を乗せて眠ろうとしたが、タマモが俺の腕を引っ張ったために、無理やり立ち上がらされる。

 やっぱり女と言ってもケモノ族だな。力は俺よりも上か。このまま無理矢理にでも眠ろうとすれば、面倒くさいことになりそうだ。

 仕方がない。はやく案内をしてもらって、また寝ることにしよう。

「ウイークアップ」

 覚醒魔法を発動して脳内に残っている睡眠物質を除去し、完全に目が覚めると、俺は彼女に腕を引っ張られたまま教室を出て行く。

「なぁ、どうして俺の腕を引っ張る?」

「あなたを逃がさないためよ。ちゃんと案内しないと、委員長として先生の信頼を削ぐことになるわ」

「本当に真面目ちゃんだな。逃げないから、安心して離してくれ」

「ダメよ。今日のあなたの態度を見る限り、とても信頼できないわ」

 俺は逃げないと告げるも、どうやら午前中のことで、俺の人間性を決めつけられたみたいだ。彼女は本気で逃すつもりはないようで、俺の腕に自身の腕を絡ませてくる。

「まぁ、俺は別に構わないのだけどよ。俺たちのことを見た奴らがどう思うか、タマモは気付かないのか?」

「どう思うって何なの? 変に遠回りの言い回しはやめてよ。何が言いたいのなら、はっきりと言って」

 どうやら彼女は、今の状況を理解できていないみたいだ。

「分かった。なら、直球に言うが、今の俺たちを第三者から見たら、いちゃついているカップルにしか見えないぞ。俺に腕を絡ませ、胸を押し当てているのだからな」

「え……きゃあ!」

 どうやら状況を理解したようで、タマモは短い悲鳴を上げると絡めていた腕を離し、距離をあける。

 相当恥ずかしかったのか、今の彼女は顔が真っ赤だ。

「本当に逃げたりしないのよね」

「逃げないって。寧ろ早く解放されたいから、協力するつもりだ」

「嘘だった場合、強制的にセンボンザクラを呑んでもらうから」

 彼女の言葉を聞き、苦笑いを浮かべる。センボンザクラとは、ピンク色のハリセンボン型のモンスターだ。流石に人間の俺では、あれを呑むことはできない。

「安心しろ。もし嘘だったら、素っ裸でレース場を走ってやる」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

追放騎手の霊馬召喚〜トウカイテイオーを召喚できずに勘当された俺は、伝説の負け馬と共に霊馬競馬界で成り上がる!

仁徳
SF
この物語は、カクヨムの方でも投稿してあります。カクヨムでは高評価、レビューも多くいただいているので、それなりに面白い作品になっているかと。 知識0でも安心して読める競馬物語になっています。 S F要素があるので、ジャンルはS Fにしていますが、物語の雰囲気は現代ファンタジーの学園物が近いかと。 とりあえずは1話だけでも試し読みして頂けると助かります。 面白いかどうかは取り敢えず1話を読んで、その目で確かめてください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...