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第一章
第三話 魔競走バトル
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ルーナと勝負して自由を獲得するために、俺はレース会場に来ていた。
「では、勝負のルールを説明しよう。今は夜中で、レース場の機能は最低限のものしか使えない。なので、単純に走りでの勝負だ。距離は一番短い1000メートル。砂上ではなく、芝でレースだ。ここから走って第1コーナー第2コーナーを過ぎ、最後の直線200メートルから先を、魔法禁止エリアとする。それ以外は、好きなタイミングで魔法を使用して構わない」
「分かった」
彼女の言ったルールに乗り、承諾をする。
「では、その前に準備運動をするとしようか」
ルーナは白衣のポケットから髪留めのゴムを取り出し、長い白銀の髪を纏めてポニーテールにする。
そして屈伸運動を始めると、体の筋肉を解し始める。
「そんな格好で走って良いのかよ。負けた時に、着ている服のせいにされたらたまったものではない」
「安心したまえ、これはワタシの勝負服だ。見た目よりも伸縮性に優れ、走りやすい素材で作られている。それよりも、君の方が大丈夫なのかい? そんな囚人服のようなもので走って?」
「これが俺の勝負服だ」
着用をしている衣服を突っ込まれ、適当に返す。
「では、レースを始めよう。最初に宣言をしておこう。ワタシは今回逃げで行かせてもらう。ちゃんと戦略を考えておかないと、追い付くことなく逃げ切られるからね」
走りのスタイルを宣言すると、ルーナは口角を上げる。
ハンデのつもりだろう。でもそんなもの、レースが始まれば直ぐに分かることだ。
走者には四つの走りのスタイルが存在する。一つはレース開始直後から先頭に出て、そのままゴールする『逃げ』そして先頭グループを維持しつつ、最後の直線に抜き去る『先行』
三つ目は中段グループを維持して最後の直線で抜く『差し』そして後段から殿に位置付け、最後の最後で爆進して抜き去る『追い込み』
この四つが主流だ。まぁ、専門家によっては五つ目が存在しているとか言うが、あまり使用者が少なすぎるので、四つに分類されているらしい。
ルーナは開始直後から逃げのスタイルで走るなら、食らい付くためには先行で走らなければいけない。
「では、そろそろ始めようか」
ルーナが、着用している衣服のポケットに腕を突っ込み、そして何かを取り出す。取り出されたものは一気に大きくなり、本来の大きさになった。
「ポケットからゲートが出てきただと」
「ああ、この服のポケットは、アイテムボックスになっているからね。どんなに大きいものでも、圧縮して収納することができる。内枠、外枠、好きな場所に入って構わないよ。君がゲート入りした後、ワタシも適当に入らせてもらう」
先に好きな場所を選んでも良いと言われ、一度ゲートを見る。
ゲートは、内側から1番、2番、3番となっており、外側の最後は18番だ。
本来のレースでは、抽選で番号が決まる。だけど選べるのであれば、俺が入るのは内側の1番だ。
1番のゲートに入り、出走の準備を行う。
「ほう、1番か。まぁ妥当な位置取りだね。外側の方が、走る距離が若干長くなってしまう。内側の方が有利と言えば有利だ。なら、ワタシは君の隣に入るとするか」
俺がゲート入りした後、ルーナもゲートに入る。
「うーん、実況も解説もなしだと、静まった深夜では盛り上がりにかけるねぇ、ここはワタシが実況も担当しようじゃないか」
いや、これは本当のレースではないのだから、そんなもの必要ないだろう。
「さぁ、始まりました。学園長賞の開幕です。一番人気はやはりルナー・タキオン。一番人気だけあって、威風堂々としておりますね。続いて一番ゲートに居ます……そう言えば、君の名前を聞いていなかったね」
実況を始めたことで、彼女は俺の名前を聞いていなかったことを思い出す。
ほら見ろ、実況なんて始めるから、そんなことになる。
「君の名前なのだが、教えてもらっても良いかい?」
ルーナが俺に名前を尋ねる。だが、俺は名乗るつもりはなかった。そもそも名乗るような名前を持っていない。
「俺には名前なんてものはない。いつも被験体0721と呼ばれていた」
「そうかい、それは困ったねぇ。なら、ワタシが名前を付けてあげようじゃないか。そうだな。では、君は今からシャカールだ。今後はシャカールと名乗りたまえ」
勝手に名前を付けられてしまったが、不思議と嫌な気分にはならなかった。まぁ、俺にとって名前なんてものはどうでも良い。
「では、実況の再開だ。1番ゲートに入ったのはシャカール。ルーナとのレースをどのように見せてくれるのか、今から楽しみです。果たして彼女に打ち勝ち、見事自由を獲得することができるのか」
「たく、また実況かよ。本当にくだらないことを……」
溜め息を吐きながら言葉を連ねようとしたその時、いつの間にかゲートが開いており、レースが始まっていたことに気付く。
「さぁ、レースが始まりました。最初に先頭に立ったのはルーナです。そしておや? シャカールはまだゲートに立ったままだ?」
ルーナが走りながら俺のことを見ている。
そうだった。ゲートが開く前は、カウントダウンなんてものはない。いつ開いても良いように、常に集中しておかなければいけなかった。
スタートダッシュに失敗した俺は、急いで芝を蹴り、走り出す。
「ここで走り出したシャカールですが、先頭と11メートル程の距離が開いてしまいました。これは最初からきついレース展開です。果たして追い付くことができるのか?」
走りながら、ルーナは実況を続ける。
確かにこの開きはきつい。だけど、俺には魔法が使える。魔法はどんなに逆境に立たされても、逆転することができる切り札だ。
「ファイヤーボール!」
先頭を走るルーナに向けて火球を放つ。先頭に立てば、それだけ有利に走ることができる。しかしその代わりに後方から狙われやすい。逃げのスタイルは、とにかく後続との距離を開き、射程外まで逃げる必要がある。
だけどルーナはまだ射程圏内だ。後方からの攻撃を当てることができれば、開いた距離を縮めることができる。
俺の放った火球は、ルーナに向けて突き進む。しかし、ヒットまでおよそ1メートルのところで彼女は左にずれ、火球を躱した。
「おっと、シャカールの放った火球をルーナが躱す。確かに逃げは後続からの攻撃で狙われやすい。だけど、放たれた攻撃の魔力を感じ取れば、躱すことは可能だ」
攻撃を避け切ったルーナが、走りながらどうして回避できたのかを説明する。
放たれた魔法の魔力を感じる? そんなことが可能なのか? だけど、実際に現実で起こっている以上、事実なのだろう。
なら、避けきれない広範囲の魔法を発動するまでだ。
「アイシクル!」
今度は別の魔法を発動する。すると空気中の水分が集まり、三角錐を形成する。そしてその水に限定して気温が下がり、氷へと変化した。
生み出した氷柱は全部で10個、これを横一列にして放てば、いくらなんでも回避するのは困難のはず。
「行け!」
氷柱をルーナに向けて放つ。放たれた氷柱は横一列に突き進み、彼女を襲う。
だが、またしても避けられた。氷柱が突き刺さる直前に彼女は強い脚力で空中に飛び、氷柱を避ける。
「これは惜しい。シャカールの放った氷柱は、ルーナの凄まじい跳躍に寄って回避された」
空中に飛んで回避しながら、ルーナは状況を説明する。だけどこれで良い。あの氷柱は彼女を上空に飛ばすための囮だ。1、2秒間だけしかないかもしれないが、それだけあれば充分だ。
そろそろ最終コーナーを過ぎて最後の直線に入る。残り200メートルからは、魔法禁止エリア。そこから先は己の足の勝負となる。彼女が魔法禁止エリアに差し掛かる前に距離を詰める。
「スピードスター!」
距離的に魔法を使えるのは後1回、そこで最後に瞬足魔法を発動した。この魔法は、足の筋肉の収縮速度を上げることで、5秒の間時速56キロから64キロの速度で走ることができる。
ルーナが空中に跳躍した時のタイムロス、そしてスピードスターによる瞬足な走りが合わされば、追い付くことは可能だ。
「おっと、ここでシャカールは瞬足魔法により、凄まじい末脚を見せる。早い、早い、今ルーナに並んだ」
スピードスターを発動後、予想通りにルーナに追い付くことができた。
後5メートルほどで魔法禁止エリアだ。あのエリアの中に入れば、俺のユニークスキルの効果により、彼女に勝つことができる。
負けてたまるか! 俺はこの勝負に勝ち、自由を得る!
「ルーナ、俺の勝ちだ! この勝負に勝ち、自由にさせてもらう」
「あはは、確かにこのまま行けば、君の勝ちは確定するだろう。だけど、これって負けイベントなんだよね。だから君に勝ってもらう訳にはいかない。誰も、ワタシは魔法を使用しないなんて、一言も言っていないからね。スリープ」
ルーナの言葉が耳に入ったその瞬間、急激に眠気に襲われた。
「あ、そうそう。君が言った通り、あの映像はワタシが作った作りものだ。本当は、眠っている間に強引に母音を押させてもらった。まぁ、この勝負にワタシが勝ったら、そんなことはどうでもよくなるけどね」
眠気に抗いながら走り続ける中、ルーナの声が耳に入る。
やっぱり偽物じゃないか!
こんな手段を選ばないようなやつに負ける訳にはいかない。
眠気で足が言うことを聞かないなんてどうでも良い。とにかく俺は勝つだけだ!
「ウイークアップ!」
覚醒魔法を発動し、脳内に溜まった睡眠物質を除去。ぼやけた視界がクリーンになり、足はしっかりと地面を踏み締めることができる。
「負けてたまるか!」
声を上げ、ひたすら走る。足の筋肉の収縮速度を速くすることを意識しつつ駆けると、ルーナを引き離し、距離を空ける。
「なんと! シャカール走者は睡眠魔法の影響を受けながらも、起死回生で魔法を発動! 早い! 早い! 凄い走りだ! 二番手との差は縮まるどころか引き離して行く! シャカール走者! 今、ゴールを駆け抜ける! 勝ったのはシャカールだ!」
ルーナの実況を耳にしながら、徐々に速度を落としていく。
「よっしゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
そして小さくガッツポーズを作り、声を上げた。
「では、勝負のルールを説明しよう。今は夜中で、レース場の機能は最低限のものしか使えない。なので、単純に走りでの勝負だ。距離は一番短い1000メートル。砂上ではなく、芝でレースだ。ここから走って第1コーナー第2コーナーを過ぎ、最後の直線200メートルから先を、魔法禁止エリアとする。それ以外は、好きなタイミングで魔法を使用して構わない」
「分かった」
彼女の言ったルールに乗り、承諾をする。
「では、その前に準備運動をするとしようか」
ルーナは白衣のポケットから髪留めのゴムを取り出し、長い白銀の髪を纏めてポニーテールにする。
そして屈伸運動を始めると、体の筋肉を解し始める。
「そんな格好で走って良いのかよ。負けた時に、着ている服のせいにされたらたまったものではない」
「安心したまえ、これはワタシの勝負服だ。見た目よりも伸縮性に優れ、走りやすい素材で作られている。それよりも、君の方が大丈夫なのかい? そんな囚人服のようなもので走って?」
「これが俺の勝負服だ」
着用をしている衣服を突っ込まれ、適当に返す。
「では、レースを始めよう。最初に宣言をしておこう。ワタシは今回逃げで行かせてもらう。ちゃんと戦略を考えておかないと、追い付くことなく逃げ切られるからね」
走りのスタイルを宣言すると、ルーナは口角を上げる。
ハンデのつもりだろう。でもそんなもの、レースが始まれば直ぐに分かることだ。
走者には四つの走りのスタイルが存在する。一つはレース開始直後から先頭に出て、そのままゴールする『逃げ』そして先頭グループを維持しつつ、最後の直線に抜き去る『先行』
三つ目は中段グループを維持して最後の直線で抜く『差し』そして後段から殿に位置付け、最後の最後で爆進して抜き去る『追い込み』
この四つが主流だ。まぁ、専門家によっては五つ目が存在しているとか言うが、あまり使用者が少なすぎるので、四つに分類されているらしい。
ルーナは開始直後から逃げのスタイルで走るなら、食らい付くためには先行で走らなければいけない。
「では、そろそろ始めようか」
ルーナが、着用している衣服のポケットに腕を突っ込み、そして何かを取り出す。取り出されたものは一気に大きくなり、本来の大きさになった。
「ポケットからゲートが出てきただと」
「ああ、この服のポケットは、アイテムボックスになっているからね。どんなに大きいものでも、圧縮して収納することができる。内枠、外枠、好きな場所に入って構わないよ。君がゲート入りした後、ワタシも適当に入らせてもらう」
先に好きな場所を選んでも良いと言われ、一度ゲートを見る。
ゲートは、内側から1番、2番、3番となっており、外側の最後は18番だ。
本来のレースでは、抽選で番号が決まる。だけど選べるのであれば、俺が入るのは内側の1番だ。
1番のゲートに入り、出走の準備を行う。
「ほう、1番か。まぁ妥当な位置取りだね。外側の方が、走る距離が若干長くなってしまう。内側の方が有利と言えば有利だ。なら、ワタシは君の隣に入るとするか」
俺がゲート入りした後、ルーナもゲートに入る。
「うーん、実況も解説もなしだと、静まった深夜では盛り上がりにかけるねぇ、ここはワタシが実況も担当しようじゃないか」
いや、これは本当のレースではないのだから、そんなもの必要ないだろう。
「さぁ、始まりました。学園長賞の開幕です。一番人気はやはりルナー・タキオン。一番人気だけあって、威風堂々としておりますね。続いて一番ゲートに居ます……そう言えば、君の名前を聞いていなかったね」
実況を始めたことで、彼女は俺の名前を聞いていなかったことを思い出す。
ほら見ろ、実況なんて始めるから、そんなことになる。
「君の名前なのだが、教えてもらっても良いかい?」
ルーナが俺に名前を尋ねる。だが、俺は名乗るつもりはなかった。そもそも名乗るような名前を持っていない。
「俺には名前なんてものはない。いつも被験体0721と呼ばれていた」
「そうかい、それは困ったねぇ。なら、ワタシが名前を付けてあげようじゃないか。そうだな。では、君は今からシャカールだ。今後はシャカールと名乗りたまえ」
勝手に名前を付けられてしまったが、不思議と嫌な気分にはならなかった。まぁ、俺にとって名前なんてものはどうでも良い。
「では、実況の再開だ。1番ゲートに入ったのはシャカール。ルーナとのレースをどのように見せてくれるのか、今から楽しみです。果たして彼女に打ち勝ち、見事自由を獲得することができるのか」
「たく、また実況かよ。本当にくだらないことを……」
溜め息を吐きながら言葉を連ねようとしたその時、いつの間にかゲートが開いており、レースが始まっていたことに気付く。
「さぁ、レースが始まりました。最初に先頭に立ったのはルーナです。そしておや? シャカールはまだゲートに立ったままだ?」
ルーナが走りながら俺のことを見ている。
そうだった。ゲートが開く前は、カウントダウンなんてものはない。いつ開いても良いように、常に集中しておかなければいけなかった。
スタートダッシュに失敗した俺は、急いで芝を蹴り、走り出す。
「ここで走り出したシャカールですが、先頭と11メートル程の距離が開いてしまいました。これは最初からきついレース展開です。果たして追い付くことができるのか?」
走りながら、ルーナは実況を続ける。
確かにこの開きはきつい。だけど、俺には魔法が使える。魔法はどんなに逆境に立たされても、逆転することができる切り札だ。
「ファイヤーボール!」
先頭を走るルーナに向けて火球を放つ。先頭に立てば、それだけ有利に走ることができる。しかしその代わりに後方から狙われやすい。逃げのスタイルは、とにかく後続との距離を開き、射程外まで逃げる必要がある。
だけどルーナはまだ射程圏内だ。後方からの攻撃を当てることができれば、開いた距離を縮めることができる。
俺の放った火球は、ルーナに向けて突き進む。しかし、ヒットまでおよそ1メートルのところで彼女は左にずれ、火球を躱した。
「おっと、シャカールの放った火球をルーナが躱す。確かに逃げは後続からの攻撃で狙われやすい。だけど、放たれた攻撃の魔力を感じ取れば、躱すことは可能だ」
攻撃を避け切ったルーナが、走りながらどうして回避できたのかを説明する。
放たれた魔法の魔力を感じる? そんなことが可能なのか? だけど、実際に現実で起こっている以上、事実なのだろう。
なら、避けきれない広範囲の魔法を発動するまでだ。
「アイシクル!」
今度は別の魔法を発動する。すると空気中の水分が集まり、三角錐を形成する。そしてその水に限定して気温が下がり、氷へと変化した。
生み出した氷柱は全部で10個、これを横一列にして放てば、いくらなんでも回避するのは困難のはず。
「行け!」
氷柱をルーナに向けて放つ。放たれた氷柱は横一列に突き進み、彼女を襲う。
だが、またしても避けられた。氷柱が突き刺さる直前に彼女は強い脚力で空中に飛び、氷柱を避ける。
「これは惜しい。シャカールの放った氷柱は、ルーナの凄まじい跳躍に寄って回避された」
空中に飛んで回避しながら、ルーナは状況を説明する。だけどこれで良い。あの氷柱は彼女を上空に飛ばすための囮だ。1、2秒間だけしかないかもしれないが、それだけあれば充分だ。
そろそろ最終コーナーを過ぎて最後の直線に入る。残り200メートルからは、魔法禁止エリア。そこから先は己の足の勝負となる。彼女が魔法禁止エリアに差し掛かる前に距離を詰める。
「スピードスター!」
距離的に魔法を使えるのは後1回、そこで最後に瞬足魔法を発動した。この魔法は、足の筋肉の収縮速度を上げることで、5秒の間時速56キロから64キロの速度で走ることができる。
ルーナが空中に跳躍した時のタイムロス、そしてスピードスターによる瞬足な走りが合わされば、追い付くことは可能だ。
「おっと、ここでシャカールは瞬足魔法により、凄まじい末脚を見せる。早い、早い、今ルーナに並んだ」
スピードスターを発動後、予想通りにルーナに追い付くことができた。
後5メートルほどで魔法禁止エリアだ。あのエリアの中に入れば、俺のユニークスキルの効果により、彼女に勝つことができる。
負けてたまるか! 俺はこの勝負に勝ち、自由を得る!
「ルーナ、俺の勝ちだ! この勝負に勝ち、自由にさせてもらう」
「あはは、確かにこのまま行けば、君の勝ちは確定するだろう。だけど、これって負けイベントなんだよね。だから君に勝ってもらう訳にはいかない。誰も、ワタシは魔法を使用しないなんて、一言も言っていないからね。スリープ」
ルーナの言葉が耳に入ったその瞬間、急激に眠気に襲われた。
「あ、そうそう。君が言った通り、あの映像はワタシが作った作りものだ。本当は、眠っている間に強引に母音を押させてもらった。まぁ、この勝負にワタシが勝ったら、そんなことはどうでもよくなるけどね」
眠気に抗いながら走り続ける中、ルーナの声が耳に入る。
やっぱり偽物じゃないか!
こんな手段を選ばないようなやつに負ける訳にはいかない。
眠気で足が言うことを聞かないなんてどうでも良い。とにかく俺は勝つだけだ!
「ウイークアップ!」
覚醒魔法を発動し、脳内に溜まった睡眠物質を除去。ぼやけた視界がクリーンになり、足はしっかりと地面を踏み締めることができる。
「負けてたまるか!」
声を上げ、ひたすら走る。足の筋肉の収縮速度を速くすることを意識しつつ駆けると、ルーナを引き離し、距離を空ける。
「なんと! シャカール走者は睡眠魔法の影響を受けながらも、起死回生で魔法を発動! 早い! 早い! 凄い走りだ! 二番手との差は縮まるどころか引き離して行く! シャカール走者! 今、ゴールを駆け抜ける! 勝ったのはシャカールだ!」
ルーナの実況を耳にしながら、徐々に速度を落としていく。
「よっしゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
そして小さくガッツポーズを作り、声を上げた。
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