薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第一章

第一話 薬付け走者の追放

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 あれ? 今のは夢だったのか?

 ぼーっとする頭の中、先程の光景を思い出す。

 さすがに夢だよな。俺が走者になって、蘇った魔王とレースで勝負するなんてあり得ないことだ。

 だって俺は、実験動物モルモットなのだから。

「被験体であるナンバー0721ですが、これまで様々な薬を投与しても、覚醒する兆しがありません。今だに魔法もスキルも発動する様子がなく、走者としては不適合かと」

「くそう。この子ども道具も役に立たない穀潰しか」

 白衣を来た男性が、俺のことを見ながら何やら話している。だけど頭の中がボーッとして、思考が上手く働かない。

 だけど、これはいつものことだ。俺の日常、普段と何も変わらない。

 意識が朦朧として視界がぼやけるが、声だけはっきりと聞こえる。

 説明をしているのが、この研究所で働いている研究員で、説明を受けているのが所長だろう。

「このままでは、我ら人類は亜人たちにレースで負け続け、種族の最下位を脱することができないぞ!」

 所長が研究員に怒鳴り付ける。叱責を受けた研究員は、申し訳なさそうに何度も謝罪をして謝るのが、毎日のように行われている。

 今日も俺は、様々な薬を投与されて、強制的に魔法やユニークスキルの発動を強制的にさせられたのだが、初級魔法のファアイヤーボールでさせ、発動させることができなかった。

「この子のユニークスキルであるメディカルピックルは、多くの薬を服用することで、その効果を何倍にも引き出す能力。なので薬を投与し続ければ、肉体に影響が起き、魔力量が増大して、様々な魔法でレースを有利に進められることが理論上で証明されているのですが、いったい何が間違っているのでしょうか?」

 研究員が顎に手を置いて、何かぶつぶつと呟いている。話しの内容からして、どうやら俺のことを話しているみたいだ。

 早く実験から解放してくれないだろうか? 今日は疲れた。早く休ませてほしい。どうせ明日の朝から、また薬漬けの過酷な実験を強いられるのだ。疲弊した体は、1秒でも早く休むことを望んでいる。

「もう良い! どんな種族にも負けない人類最強の走者を作り上げる計画であったが、これ以上は時間と金の無駄だ! 穀潰しのクズを、これ以上相手にはしていられない! 別の計画を進めるぞ! あの子の方が、まだ希望がある!」

「分かりました。では、被験体ナンバー0721はどのようにしましょうか?」

「そんなものは決まっている。殺処分だ! 魔の森にでも送り込め! あそこに住む魔物たちの餌にでもしろ!」

 所長が殺処分と言った瞬間、朧げだった意識が一気に覚醒する。

 おいおい、俺、殺されるのか! ここまで必死になって、様々な苦痛に耐えてきてやったって言うのに、魔法もユニークスキルも発動できないだけで、殺処分にされてたまるか!

「了解しました。では、直ぐに実行します」

 拘束されている椅子から、どうにかして脱出する方法がないか思案をしていると、首筋に痛みが走る。

 この感覚は、針で貫かれている。研究員め、また何かの薬を俺の肉体に投与しやがったな!

 思うように声が出せないので、心の中で叫ぶ。すると、再び視界がぼやけだし、激しい睡魔に襲われた。

 くそう。瞼が重くてしょうがない。抵抗しようにも、体が言うことを聞きやがらねぇ。

 眠気に抗うことができずに、俺は瞼を閉じてしまった。





「ここは……どこだ?」

 目が覚めると、俺は見知らぬ場所にいた。

 周辺には木や茂美しかなく、自分意外に周囲には人がいなかった。

「もしかして……ここが……所長の言っていた魔の森……なのか?」

 今の俺は、地面に倒されて両手両足を縄で縛られ、上手く動くことができないイモムシ状態だ。これでは、転がって移動するしかない。

 現在いる場所が、森のどの辺なのかもわかってはいない。だけど、生きて帰るには、森の出口を見つけ出す必要がある。

 せっかく実験動物モルモット生活から抜け出すことができたんだ。無様な姿でも、この森を抜けてみせる。そして第二の人生を歩むんだ。

 新たな未来に希望を膨らませながら、とにかく出口を見つけるために転がろうとしたその時、茂美が動く。

 風は吹いてはいなかった。つまりはあの茂美に何かがおり、隠れていると言うことになる。

 所長が殺処分の場として利用している森だ。森の中を散歩している人な訳がない。きっとモンスターの類いだろう。

 頭の中で予想をしていると、茂美に隠れていた何者かが姿を見せる。

 白銀の毛並みに剥き出しになっている鋭い牙、あれはハクギンロウと呼ばれる狼型のモンスターだ。

 やつの口から涎が垂れている。間違いなく空腹になっているだろう。

 はは、俺の人生もここまでか。まぁ、俺らしい最後と言えば最後だったな。次に生まれ変わるとするならば、人間ではなく、亜人やケモノ族たち側で生まれ変わりたいものだ。

「ファイヤーボール」

『キャウン!』

 死を覚悟して瞼を閉じたその時、どこからか魔法を発動する声が聞こえてきた。低い女性の声だ。そして魔法はヒットしたようで、白銀狼の叫ぶ声が耳に入る。

 誰かが助けてくれたのか?

「君、大丈夫かい?」

 閉じていた瞼を開けて顔を上げる。

 視界には、白銀のロングヘアーの女性が、赤い瞳で俺を見ながら訊ねてくる光景が映った。

 まるで女神のような神々しさを感じる。もしかして、このひとは神族なのだろうか?

「ほう、まさか気分転換に魔の森を散歩していたら、こんな極上に出会えるとは思わなかったな」

 女性は俺を見ながら舌舐めずりをした。

「見たところ、捨てられているみたいだ。つまりは、ワタシがお持ち帰りをする権利を持っている」

 女性が再び自身の唇をペロリと嘗める。その瞬間、背筋に寒気を覚えた。

 この女性は女神なんてものではない。女神の皮を被った獣だ。

「大丈夫だ。痛いのは最初だけかもしれないが、直ぐに気持ち良くなる。ワタシがひとつにして、君を立派な男にしてあげようじゃないか」

 女性が俺に向けて手を向ける。

「スリープ」

 彼女が魔法を発動した瞬間、再び眠気が起き、激しい睡魔に襲われる。

 また……このパターンかよ。今度は……いったい……どこに……連れて行かれる。

「次に目が覚めた時、君は立派な人類になっているよ。今から楽しみだ。このワタシを寝台の上で楽しませてくれ」

 女性のこの言葉を最後に、俺は意識を失ってしまう。
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