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第十四章

第十一話 私があのクソ王子以下だと!

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「お前はチャプス以下だ!」

 俺はペテンを指差しながら、あの王族の恥晒し以下だと言い放つ」

「わ、私があのクソ王子以下……だと?」

「そうだ。どうせお前は完全にモンスターになることができないんだろう? 半端な姿にしかなれないから敢えてモンスターの姿にはならないんだ。だったらチャプス以下じゃないか。お前は半端な存在だ。だろう? 半端マン」

 俺の挑発が効いているのか、ペテンは歯を食い縛り、顔を歪めて俺を睨み付けてくる。だが、まだ踏み留まって完全なモンスターへと姿を変えてはくれない。

 あと一押し必要か。

「違うか? なら、恐れているんだ。モンスターの姿になってまで全力を出し切ったのにも関わらず、俺に倒されてしまう未来がお前には見えている。そうなってしまってはサウザーに顔向けできないものな?」

「散々私をコケにしやがって! 誰がクソ王子以下ですか! 誰がお前に恐れているですか!」

 ペテンが声を荒げ、怒声を浴びせてくる。

「なら、さっさとモンスターになってみせろよ。俺が怖くないんだろう? 全力でぶっ潰す自信があるのだろう? なら、出し惜しみするなよ。それとも俺に負けたときの言い訳を考えてから変身するつもりなのか?」

「それ以上私を侮辱するな! 良いでしょう! なら、お望みどおりにモンスターになって、あなたを噛み砕いてみせます! ガアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァ!」

 ペテンが吼えると、彼の肉体に変化が訪れる。

 獣のように地面に手を付けると、肉体が何倍にも膨れ上がって背中から翼が生え、口が突き出して狼のような顔になる。耳も先が尖り、尻尾には棘が生え、鋭い眼光を放っていた。

 これがペテンのモンスターの姿か。

 やつは前足で地面を掘ると、中から通常の三倍ほどの大きさの大剣を掘り出す。その武器を器用に口で咥え、低い声で唸り声を上げる。

「そんなところに得物を隠していたなんて準備がいいな? 最初からモンスターの姿になるつもりだったじゃないか? やっぱり、自分が追い詰められることが前提で物事を考えていたのだろう」

 再度挑発すると、ペテンは首を左右に動かして、口に咥えていた大剣を振り回す。

 おそらく否定の意味で首を振ったのだろう。

 俺だって、最悪の状態を常に考えて可能な限り準備をする。だけど考え方によっては、それは自分が追い詰められることを前提にしているとも捉えられる。

「別に否定しなくてもいいじゃないか。お前がモンスターとなって、予備の大剣を用意したところで、自分は追い詰められましたアピールをしているのも当然なのだから」

 小馬鹿にするように言葉を言い放つと、ペテンは肢体を動かして俺に駆け寄る。

 よし、ここまで挑発すれば、ユリヤたちが標的にされることはないだろう。

「ユリヤ、テレーゼ、エリーザ姫、隙ができ次第そう攻撃だ!」

「分かりました!」

「了解よ」

「わたくしは隙を見て遠距離から攻撃させてもらいますわ」

 彼女たちが返事をすると、ペテンは大剣の間合いに入ったようで、刃を横に振る。

 口に咥えている段階で、攻撃は横か斜めにしか振れない。だけどその攻撃には大ぶりにする必要があり、モーションがわかりやすい。

 前転して敵の攻撃を避けて肢体の間に潜り込むと、鞘から太刀を抜いてモンスターの足を斬りつける。

 刃がペテンの後ろ足を切り裂き、鮮血が噴き出した。

 よし、憤怒状態ではない今でも、やつにダメージを与えることができている。

 安全圏から攻撃を繰り返すと、やつは後方に飛び、俺から距離を空ける。そして棘のある尻尾を逆立てた。

 このモーションは棘を飛ばす気か。

 あらかた予想はできるが未知の攻撃だ。回避よりもガードに入った方がいいかもしれない。

 太刀を鞘に戻し、ポーチから双剣を取り出す。そして刃のない部分をくっ付け、大剣に姿を変えるとガードの姿勢に入る。

 防御が間に合ったようで、数秒後には刀身に何かが当たった音が聞こえる。

 足元を見ると、やつの尻尾に付いていた棘が地面に落ちていた。

 やっぱり、予想が当たったか。

 大剣をポーチに仕舞おうと双剣に戻した時だ。

 ペテンは俺に尻尾を向け、尻尾を振り下ろそうとしていた。

 チッ、刀身の幅の広さのお陰で次の行動を見損なっていた。

 どうする? 今から回避行動に出て間に合うのか?

 一瞬の躊躇いが仇となった。ほんの少しでも思考を巡らせている間にも、ペテンは尻尾を振り下ろし、俺に叩き付けようとする。

 仕方がない。ここは甘んじて攻撃を受けるか。一撃でやられない限りは回復ポーションで傷を癒すことができる。

 攻撃を受ける決意をしたその時、敵が爆発して地面に倒れた。そのお陰で攻撃がキャンセルされ、ダメージを受けずに済む。

「リュシアン王子、ご無事ですか!」

「エリーザ姫、助かった」

 隣国のお姫様に礼を言い、倒れているペテンに駆け寄る。彼女は勇敢にもペテンの近くにいた。

 おそらくだが、俺が敵を引き付けている間に接近して小型の木箱爆弾を投げたのだろう。

 モンスターは突然の不意打ちに動揺しているのか、肢体をバタつかせて起き上がるのに時間がかかっている様子だ。

「ユリヤ、テレーゼ、総攻撃だ!」

「はい!」

「了解したわ!」

 彼女たちも駆け寄り、俺たちは総攻撃をかける。

 まずは尻尾の部位破壊からだ。完全に敵の攻撃を封じることができなくとも、威力を下げることができるはず。

 双剣をポーチに仕舞い、切れ味のある太刀を鞘から抜いてモンスターの尻尾を何度も攻撃する。

 すると、やつの尻尾は簡単に切断され、断面から鮮血が滴り落ちる。

 攻撃を受けている最中、律儀にも大剣を咥えたままだ。そのせいでやつは吠えることすらない。

 尻尾の部位破壊を完了し、次の部位を攻撃しようとしたその瞬間、やつが起き上がってしまった。

「ユリヤ、テレーゼ、エリザ姫、この場から撤退!」

 彼女たちに避難するように言い、自信も後方に下がる。するとやつの背中の翼にある羽の一部が赤く染まった。

 恐らく憤怒モードに入ったのかもしれない。あともう少しだ。
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