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第十四章
第十話 ペテンとの決戦
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突然飛んできた火球にチャプスの体が燃やされ、俺は呆然とするしかなかった。
いったいどうしてこうなってしまった。あの火球はどこから飛んできた。
「ふぅ、どうにか間に合ったようですね。良かった。良かった」
どうしてチャプスの体が燃やされたのか腑に落ちないでいると、聞き覚えのある男の声が聞こえてきた。
この声は
「ペテン!」
声の主の名を叫ぶと、上空からペテンが舞い降りる。
彼の背中には堕天使の翼のよう漆黒の美しい羽が生えており、その姿はまるで半人半魔だ。
「ペテン、その姿は」
「ああ、これですか? サウザーにお願いして肉体を弄ってもらったのですよ。下等生物である人間を辞めるためにね」
ペテンは両手を広げ、自身の変わり果てた姿を見せ付けてくる。
やっぱりペテンもサウザー側だったのか。でも、ハンターである彼がどうしてモンスター側に協力する?
「どうしてサウザーに手を貸す! お前はハンターだろう。それにどうしてフェルディナンを裏切った」
「その言い方、まさかあの男は生きていたのですか? しぶといですね。あなたに情報が漏洩してしまうのなら、確実に死んだところを確認してからギルドに火を放つべきでした。まぁ、今となっては後の祭りですがね」
「質問に答えろ! どうしてフェルディナンを裏切った!」
彼を睨み付けると、ペテンはやれやれと言いたげに肩をすくめる。
「フェルディナンにも言いましたが、別に裏切ってはいませんよ。私は元々からサウザー側の人間だったのですから。あのギルドで働いていたのも、情報を集めるためです。フェルディナンを殺害未遂して火を燃やしたのは、証拠隠滅と軍資金の調達のためです」
彼の言葉に歯を食い縛る。
利用するために仲間の振りをして、必要がなくなれば切り捨てる。そんな自分勝手な考えに、怒りの感情が湧き上がってきた。
「つまり、チャプスも利用するだけ利用して、使い物にならなくなったから切り捨てたと言う訳か」
「ハハハ、さすがリュシアンですね。察しが良い。その通りですよ。百点満点です」
ペテンが笑いながら俺の発言が正解だと言う。しかし彼の嘲笑うような態度に、怒りが込み上げてきた。
柄に手を置き、鞘から太刀を抜いて一気に距離を詰めるとペテンに切り掛かる。
縦一文字に切り裂こうとするも、ペテンは後方に跳躍して俺の一撃を躱す。
「びっくりした。いきなり攻撃するなんて酷いじゃないですか。ハンターはモンスター以外の人間に得物で傷付けてはいけないと言うルールがありますよ」
「確かにハンター協会でのルールはそうだな。だけどお前がモンスターになれば話は別だ。ほら、なれよ。チャプスもできたんだ。お前も当然できるよな?」
「確かにお察しの通り、私はモンスターに姿を変えることができます。ですが、言われてはいそうですかと素直になるほどバカではありませんよ」
ペテンが背中に生えている翼を消すと、大剣を鞘から抜く。そして本当に大剣を握っているとは思えないほどの瞬発力のある走りで、俺との距離を一気に詰めてきた。
「テレーゼたちは俺から離れろ!」
彼女たちにこの場から離れるように伝える。
チャプスと同様、こいつの狙いは俺のはず。俺に集中させれば彼女たちが危険に晒されることはないだろう。
そんなことを思いつつも、敵の鋭い一撃を太刀で受け止めようかと思った。だが、何故か嫌な予感がして後方に跳躍する。
すると、先ほどまで俺が立っていた場所に大剣が振り落とされるが、刃が地面に触れた瞬間に大地が砕け地面に小さなクレーターを作る。
なんてパワーだ。あんなものを受ければ、例えガードしたところで刀身ごとぶった斬られてしまう。
「チッ、私の一撃をガードするかと思いましたのに、避けるとは悪運に恵まれましたね」
ペテンが俺を睨み付けながら振り下ろした大剣を持ち上げる。
あのパワーの源は腕力だろうな。テレーゼの力を借りて大剣を破壊したとしても、たいして戦況が大きく変わる訳ではなさそうだ。
「お前が言ったセリフをそのまま返すが、俺を攻撃して良いのかよ? ハンターの資格を剥奪されるぞ」
「ええ、構いませんよ。別にもうハンターでいる必要性は無くなったのですから。剥奪されたところで何も怖くはありません」
俺の問いにペテンが淡々と答える。
状況的には俺の方が不利か。王家の森とは言え、誰もこの森には入って来ないと言う保証がない。万が一にでも誰かに目撃されたのなら、厄介なことになる。
ここはどうにかしてやつがモンスターになってくれるように誘導しなければ。
そのためにはペテンを追い詰める必要がある。
思考を巡らせていると、再びペテンが距離を詰め、大剣を振り下ろしてくる。
ワンテンポ遅れてしまった。今から回避運動に移ろうとしても間に合わない。
「リュシアンさん」
「リュシアン王子!」
ユリヤとエリーザ姫の声が聞こえる中、テレーゼの声が聞こえて来なかった。
どうして彼女の声が聞こえない?
そのように思った直後、ペテンが振り下ろしている大剣の刃にヒビが入り、粉々に砕け散る。
「そんなバカな!」
ペテンが驚きの声を上げる中、俺はどうしてこのような現象が起きたのか瞬時に理解した。
「テレーゼ、ありがとう。助かった」
後方に跳躍して下がりつつ、俺を助けてくれた歌姫に礼を言う。
彼女が声の力で大剣を破壊してくれたのだ。
空気の振動が対象物の強度を上回れば、音で物を破壊することができる。
この性質を利用し、テレーゼは音の力だけで大剣を破壊したのだ。
「さぁ、どうする? これでお前の得物は完全に無くなったぞ? そろそろ変身したほうが良いんじゃないのか?」
「何を言う。大剣が破壊された程度でモンスター化する訳がないだろう」
ペテンの言葉に、小さく息を吐く。
やっぱりそうだよな。簡単にがモンスターになってくれないか。
なら、この言葉でペテンをモンスターに変えて見せよう。
一度息を吸って吐き、彼をみる。
そして一発でやつをモンスターにする魔法の言葉を放つ。
「お前は――」
いったいどうしてこうなってしまった。あの火球はどこから飛んできた。
「ふぅ、どうにか間に合ったようですね。良かった。良かった」
どうしてチャプスの体が燃やされたのか腑に落ちないでいると、聞き覚えのある男の声が聞こえてきた。
この声は
「ペテン!」
声の主の名を叫ぶと、上空からペテンが舞い降りる。
彼の背中には堕天使の翼のよう漆黒の美しい羽が生えており、その姿はまるで半人半魔だ。
「ペテン、その姿は」
「ああ、これですか? サウザーにお願いして肉体を弄ってもらったのですよ。下等生物である人間を辞めるためにね」
ペテンは両手を広げ、自身の変わり果てた姿を見せ付けてくる。
やっぱりペテンもサウザー側だったのか。でも、ハンターである彼がどうしてモンスター側に協力する?
「どうしてサウザーに手を貸す! お前はハンターだろう。それにどうしてフェルディナンを裏切った」
「その言い方、まさかあの男は生きていたのですか? しぶといですね。あなたに情報が漏洩してしまうのなら、確実に死んだところを確認してからギルドに火を放つべきでした。まぁ、今となっては後の祭りですがね」
「質問に答えろ! どうしてフェルディナンを裏切った!」
彼を睨み付けると、ペテンはやれやれと言いたげに肩をすくめる。
「フェルディナンにも言いましたが、別に裏切ってはいませんよ。私は元々からサウザー側の人間だったのですから。あのギルドで働いていたのも、情報を集めるためです。フェルディナンを殺害未遂して火を燃やしたのは、証拠隠滅と軍資金の調達のためです」
彼の言葉に歯を食い縛る。
利用するために仲間の振りをして、必要がなくなれば切り捨てる。そんな自分勝手な考えに、怒りの感情が湧き上がってきた。
「つまり、チャプスも利用するだけ利用して、使い物にならなくなったから切り捨てたと言う訳か」
「ハハハ、さすがリュシアンですね。察しが良い。その通りですよ。百点満点です」
ペテンが笑いながら俺の発言が正解だと言う。しかし彼の嘲笑うような態度に、怒りが込み上げてきた。
柄に手を置き、鞘から太刀を抜いて一気に距離を詰めるとペテンに切り掛かる。
縦一文字に切り裂こうとするも、ペテンは後方に跳躍して俺の一撃を躱す。
「びっくりした。いきなり攻撃するなんて酷いじゃないですか。ハンターはモンスター以外の人間に得物で傷付けてはいけないと言うルールがありますよ」
「確かにハンター協会でのルールはそうだな。だけどお前がモンスターになれば話は別だ。ほら、なれよ。チャプスもできたんだ。お前も当然できるよな?」
「確かにお察しの通り、私はモンスターに姿を変えることができます。ですが、言われてはいそうですかと素直になるほどバカではありませんよ」
ペテンが背中に生えている翼を消すと、大剣を鞘から抜く。そして本当に大剣を握っているとは思えないほどの瞬発力のある走りで、俺との距離を一気に詰めてきた。
「テレーゼたちは俺から離れろ!」
彼女たちにこの場から離れるように伝える。
チャプスと同様、こいつの狙いは俺のはず。俺に集中させれば彼女たちが危険に晒されることはないだろう。
そんなことを思いつつも、敵の鋭い一撃を太刀で受け止めようかと思った。だが、何故か嫌な予感がして後方に跳躍する。
すると、先ほどまで俺が立っていた場所に大剣が振り落とされるが、刃が地面に触れた瞬間に大地が砕け地面に小さなクレーターを作る。
なんてパワーだ。あんなものを受ければ、例えガードしたところで刀身ごとぶった斬られてしまう。
「チッ、私の一撃をガードするかと思いましたのに、避けるとは悪運に恵まれましたね」
ペテンが俺を睨み付けながら振り下ろした大剣を持ち上げる。
あのパワーの源は腕力だろうな。テレーゼの力を借りて大剣を破壊したとしても、たいして戦況が大きく変わる訳ではなさそうだ。
「お前が言ったセリフをそのまま返すが、俺を攻撃して良いのかよ? ハンターの資格を剥奪されるぞ」
「ええ、構いませんよ。別にもうハンターでいる必要性は無くなったのですから。剥奪されたところで何も怖くはありません」
俺の問いにペテンが淡々と答える。
状況的には俺の方が不利か。王家の森とは言え、誰もこの森には入って来ないと言う保証がない。万が一にでも誰かに目撃されたのなら、厄介なことになる。
ここはどうにかしてやつがモンスターになってくれるように誘導しなければ。
そのためにはペテンを追い詰める必要がある。
思考を巡らせていると、再びペテンが距離を詰め、大剣を振り下ろしてくる。
ワンテンポ遅れてしまった。今から回避運動に移ろうとしても間に合わない。
「リュシアンさん」
「リュシアン王子!」
ユリヤとエリーザ姫の声が聞こえる中、テレーゼの声が聞こえて来なかった。
どうして彼女の声が聞こえない?
そのように思った直後、ペテンが振り下ろしている大剣の刃にヒビが入り、粉々に砕け散る。
「そんなバカな!」
ペテンが驚きの声を上げる中、俺はどうしてこのような現象が起きたのか瞬時に理解した。
「テレーゼ、ありがとう。助かった」
後方に跳躍して下がりつつ、俺を助けてくれた歌姫に礼を言う。
彼女が声の力で大剣を破壊してくれたのだ。
空気の振動が対象物の強度を上回れば、音で物を破壊することができる。
この性質を利用し、テレーゼは音の力だけで大剣を破壊したのだ。
「さぁ、どうする? これでお前の得物は完全に無くなったぞ? そろそろ変身したほうが良いんじゃないのか?」
「何を言う。大剣が破壊された程度でモンスター化する訳がないだろう」
ペテンの言葉に、小さく息を吐く。
やっぱりそうだよな。簡単にがモンスターになってくれないか。
なら、この言葉でペテンをモンスターに変えて見せよう。
一度息を吸って吐き、彼をみる。
そして一発でやつをモンスターにする魔法の言葉を放つ。
「お前は――」
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