上 下
152 / 171
第十三章

第十一話 ドスケベミエール二号さんの回収任務

しおりを挟む
 ~リュシアン視点~



「と言った感じで、途中から気を失っていたのよ。気が付いたらユリヤに背負われていたわ」

 エレーヌさんの話を聞き、この町で何が起きたのか理解した。

 チャプスの話と合わせると、やつが俺を倒すために、この町にホラゾンウルフを連れて来た。そして俺を炙り出すために関係のない町民を狙ったのだろう。

 本当に変わってしまったんだな。初めてあったときは憎たらしい印象だった。それでも、王族としてのプライドのようなものは確かにあったのだ。

「リュシアン君たちが戻って来てくれて本当に助かったわ。もう、この町も安全になったと思うから、砦に避難しているハゲジジ……ゴホン。ベルトラムさんたちを町に呼び戻さないと」

 今、エレーヌさんはベルトラムさんのことをハゲジジイって言おうとしたな。俺たちが町を離れている間に何かあったのか?

「そうですね。では、俺は砦に戻ってベルトラムさんたちを呼んで来ます。ユリヤたちはエレーヌさんとこの町に居てくれ。またモンスターの襲撃が起きないとは限らないからな」

「はい」

「了解よ」

「分かりましたわ」

 彼女たちに町に残るように伝え、踵を返す。

「あ、待ってリュシアン君」

 砦に向かって歩こうとすると、エレーヌさんが呼び止めた。

「どうかしましたか?」

「あのね、ベルトラムさんが言っていたのだけど、ドスケベミエール二号さんが完成したから、リュシアン君に上げると言っていたわ」

「あ、そうなのですね」

 ギルドマスターの言葉に、苦笑いを浮かべた。

 またあの爺さん、女の子の着替えを覗き見しようとしてそんなものを作っていたのかよ。

 彼が俺のために新作を作ってくれているとは思えない。きっと、取り上げて来てくれって言う、彼女のメッセージなのだろう。

「分かりました。では、彼から受け取っておきます」

「お願いね」

 エレーヌさんが片目を瞑ってウインクしてくる。

 うん、間違いなく取り上げて来いっていうメッセージだ。
 




 数十分かけて砦に辿り着くと、門の前には二人のハンターが立っていた。

「お前はリュシアン! 生きていたのか!」

「お前がここに居るってことは、もしや」

「ああ、町を襲っていた元凶のモンスターは倒した。安全になったからみんなを連れ戻しに来たんだ」

「うおお! マジかよ! さすがSランクハンターだ!」

「ギルドマスターが撤退を決めるほどの相手なのに、やっぱり俺たちはとは格が違うな!」

 門番のハンターに町が安全になったことを告げると、彼らは驚きつつも喜び、称賛してくる。

「では、直ぐに報告しに行くとしよう」

 門番の一人が砦の中に入って行くと、しばらくして町民たちが出てきた。彼らは門から出る際に、口々に礼を言い、門番と同様に俺を褒め称えてくれる。

 彼らの称賛の声を聞けただけでも、頑張ったかいがあったな。

 町民たちが砦から出て行くと、最後にスキンヘッドの爺さんがゆっくりと歩いてくる。

「ボウズ、話は聞いたぞ。よくぞホラゾンウルフの幻影を退け、討伐してくれた。お前がやつを討伐したと聞いたとき、御伽噺おとぎばなしに出てくるハンターと重なって見えた」

「ベルトラムさんもお疲れ様です。エレーヌさんが撤退するように言うまで、最後まで残って戦っていたらしいじゃないですか」

「まぁ、これでも一応、昔はSランクハンターになりかけた実績を持っておるからな」

「へー、そうだったのですか」

 彼の話を聞きながら、右手を差し出す。俺の行動を理解していないのか、彼は首を傾げる。

「なんだ? その手は?」

「エレーヌさんから聞きましたよ。俺のためにドスケベミエール二号さんを作ってくれたそうじゃないですか」

「なんだと!」

 ドスケベミエール二号さんをもらいに来たと伝えると、彼は驚愕の表情を浮かべる。

 やっぱりギルドマスターの出任せだったか。でも、ベルトラムさんから望遠鏡を受け取らないと、俺が怒られるんだよな。

 頭の中で怒られるシーンを想像してみる。

 可愛らしく『めっ!』って怒られるならまだしも、禁句を言ったときみたいに、笑顔で背筋が寒くなるようなオーラを放たれては堪ったものではない。

 何か方法がないかな?

 そんなことを考えていると、ホラゾンウルフが見せてきたベルトラムさんの幻影のことを思い出す。

 そうだ! あれなら必ず食い付くはずだ。

 ポーチから一冊の本を取り出し、彼に見せる。

「ベルトラムさん。この本がどうなってもいいのか!」

「そ、それは! 世界に三冊しか存在していない伝説のエロ本、ピーチピチバニーちゃんじゃないか! ま、まさか!」

 彼は懐を弄りながら何かを探す動作をすると、直ぐに顔を青ざめる。

「ない! ワシがいつも持ち歩いている命よりも大切な宝物がない! まさか、避難するときに落としたのか! 腰が痛かったせいで、気付かなかった」

「ドスケベミエール二号さんと引き換えに返して上げますよ」

「ぐぬぬ、人質、いや本質ほんじちを取るなど卑怯な! それでもSランクハンターか! 見損なったぞ!」

 ベルトラムさんが卑怯者を見るような眼差しを送ってくる。

 俺だってこんなことをしたくない。でも、正直エレーヌさんの方が、色々な意味で怖い。だから、ここは悪役になったとしても任務を遂行してみせる。

「へー俺にそんな態度を取っていいのですか? これ、エレーヌさんに報告しますよ。俺が拾ったからいいものの、彼女の手に渡れば、焼却処分されますよ」

「わ、分かった! ボウズの要求を呑む! だからエレーヌの手に渡すのだけは勘弁してほしい! あいつは昔からワシのお宝本を見ると価値を知らずに燃やすんだ!」

 ベルトラムさんは目から大粒の涙を流し、望遠鏡を差し出す。

 ドスケベミエール二号さんを受け取ると、お宝本を彼に返した。

 ふぅ、これで俺の任務は完全にクリアだな。でも、これって結局はイタチごっこだよな? いくら回収しても、作った本人がいる限りは、また作られてしまう。

「一応聞きたいのですが、また作りますよね」

「当然であろう! ドスケベミエール二号さんはまだ試運転段階であるからな。まだネーミングは考えていないが、次は別の名を考えるとしよう」

「三号でいいではないですか?」

「何を言う! 二号さんだからいいのではないか! ドスケベミエールは二号さんまでだ!」

 いったいどんなこだわりが彼の中にあるのか分からないが、どうやら次の覗きアイテムは名前を変えて作るらしい。

「とにかく帰りましょう。歩きながらベルトラムさんに聞きたいことがありますので」
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

高校では誰とも関わらず平穏に過ごしたい陰キャぼっち、美少女たちのせいで実はハイスペックなことが発覚して成りあがってしまう

電脳ピエロ
恋愛
中学時代の経験から、五十嵐 純二は高校では誰とも関わらず陰キャぼっちとして学校生活を送りたいと思っていた。 そのため入学試験でも実力を隠し、最底辺としてスタートした高校生活。 しかし純二の周りには彼の実力隠しを疑う同級生の美少女や、真の実力を知る謎の美人教師など、平穏を脅かす存在が現れ始め……。 「俺は絶対に平穏な高校生活を守り抜く」 そんな純二の願いも虚しく、彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。 やがて純二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。 実力を隠して平穏に過ごしたい実はハイスペックな陰キャぼっち VS 彼の真の実力を暴きたい美少女たち。 彼らの心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。

陽キャグループを追放されたので、ひとりで気ままに大学生活を送ることにしたんだが……なぜか、ぼっちになってから毎日美女たちが話しかけてくる。

電脳ピエロ
恋愛
藤堂 薫は大学で共に行動している陽キャグループの男子2人、大熊 快児と蜂羽 強太から理不尽に追い出されてしまう。 ひとりで気ままに大学生活を送ることを決める薫だったが、薫が以前関わっていた陽キャグループの女子2人、七瀬 瑠奈と宮波 美緒は男子2人が理不尽に薫を追放した事実を知り、彼らと縁を切って薫と積極的に関わろうとしてくる。 しかも、なぜか今まで関わりのなかった同じ大学の美女たちが寄ってくるようになり……。 薫を上手く追放したはずなのにグループの女子全員から縁を切られる性格最悪な男子2人。彼らは瑠奈や美緒を呼び戻そうとするがことごとく無視され、それからも散々な目にあって行くことになる。 やがて自分たちが女子たちと関われていたのは薫のおかげだと気が付き、グループに戻ってくれと言うがもう遅い。薫は居心地のいいグループで楽しく大学生活を送っているのだから。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

処理中です...