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第十三章

第七話 幻の中での戦闘

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 俺たちの前に着地した幻死狼、ホラゾンウルフを睨みながら、太刀を構える。

 今度も幻か、それとも本物か。それを見極めるためにも攻撃あるのみだ。

 モンスターがユリヤたちを標的にしないように、率先してやつに近づき、太刀を横に振る。

 刃はホラゾンウルフの前足を斬るも、今度は消えなかった。

「よし、今度こそ本物だ」

 本物だと分かればこっちのもの、あとは普通のモンスターを相手にするように倒すだけ。

『ワウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥン!』

 攻撃を受けた半分ゾンビのモンスターは、後方に跳躍すると遠吠えをする。すると建物の陰から三体のハクギンロウが顔を出し、ゆっくりと近づくと俺を囲む。

 どうせこいつらも幻覚だろう。今は無視だ。

 白銀の狼を居ないものと判断して、ホラゾンウルフに近付こうとしたとき、俺の前方にいたハクギンロウが地を蹴って飛びかかってきた。

 幻覚に一々尻込みするかよ。

 そう思ったが、すぐにその考えを改める。

 いや、こいつから感じる迫力はどこかが違う。もしかして。

 念のために太刀を縦一文字に振ると、刃が白銀の狼に触れた瞬間に手応えを感じる。

『キャウウウン!』

 モンスターから鮮血が流れ、斬られたハクギンロウは地面に倒れる。

 チッ、今度は本物まで混ざってきやがったか。こいつは少し不味いな。

 今までは全て幻覚だから少しは心のゆとりがあった。しかし本物のモンスターまで混ざると、どれが本物なのか判断しないといけないので、脳に負担をかけることになる。

 心の乱れは隙を生み、冷静な判断ができなくなる。

 幻覚と本物を見極める方法、もしくは幻覚をみないで済む方法を考えなければ。

 何かなかったか。御伽噺では、最後はレジェンドランクのハンターに倒される。その内容を思い出せば、何かヒントを掴め得るはずだ。

 思考を巡らせるも、幼少期に聞いたストーリーは朧げで、断片的にしか思い出せない。

「ユリヤ、テレーゼ、エリーザ姫、ホラゾンウルフを討伐したハンターの御伽噺おとぎばなしを知っているか!」

「あ、はい。序盤だけなら」

「あたしは中盤だけしか覚えていないわね」

「わたくしはラストなら覚えています」

 三人とも覚えている話はバラバラだ。でも、彼女たちのを繋げれば、ストーリーを思い出してホラゾンウルフを攻略することができる。

「頼む! ストーリーを語ってくれ!」

「分かりました。これは~これは~とある伝説の、ハンターの~物語~」

 ユリヤがリズミカルに御伽噺おとぎばなしを口にする。そう言えば、この話は吟遊詩人みたいに音程があったな。

「む・ら・のせ~いねん、子犬を~川にお~とした~……子犬はな~くなり、そのた~ましいを、ホライズンウルフが~迎えにきた~……い・か・り・にも~える、モ~ンス~ター、村を襲って~村を滅ぼした~」

「被害しいった~伝説のハンター~ホライゾンウルフに~戦いを挑む~……た・く・さ・んの~幻を相手に~苦戦をしながらも~遂に見つける~……ほ・え・た・そ・の・と・き~ハンターは追い詰め~られた……し・を・か・く・ご・したとき~神風が~巻き起こる~」

「そ・の・しゅん、かーん、幻覚がきえーた~……ハ~ンター、勇敢に~も~モンスターに~立ち向かう~……や・い・ば・ふーりおーろし、ホライゾンウルフの~心臓ひと突き~と・う・ば~つ、か・ん・りょう~君も命を~大切に~」

 三人の歌う物語を聴き、俺はホライゾンウルフがどうして幻覚を見せることができるのか、その方法を思い出した。

 やつは吠えると、体内から幻覚を見せる物質を放出する。その物質を鼻に吸引して脳に届けられることで、脳に異常が起き、幻覚を見せられる。

 つまり、目に見えない物質を吸引しないようにしなければならない。

 俺は柄に嵌めてある風の属性玉に意識を集中させ、風を発生させる。

 空気中の気圧に変化を起こし、ホライゾンウルフに向けて強風を起こす。

 その瞬間、俺の周りにいたハクギンロウたちの姿が消える。

「よし、御伽噺おとぎばなしどおりの展開になった。風を起こして幻覚物質を吸引しなければ、もう幻覚を見ることはない」

 常に風上にいる状況を作り出し、ホライゾンウルフに接近する。

 幻覚が見えなければ、やつは大きい狼の死体だ。動きは鈍いし、攻撃を食らうことはない。

 モンスターに接近して次々とモンスターの肉体を切り付けていく。

 俺の動きついてこられないようで、やつは反撃しようにもワンテンポ遅れてしまうので、攻撃を受けることはない。

 肉が腐って中の臓器が丸見えになっているお陰で、簡単に心臓の位置がわかる。

「どうしてこの町を襲ったのかはわからないが、これ以上は好き勝手にはさせない。こいつで止めだ!」

 やつの心臓に刃を突き刺す。

『ギャオオオオオオオオオオォォォォォォン!』

 ホライゾンウルフは断末魔の声を上げるとそのまま地面に倒れ、それ以上動くことはなかった。

「ホライゾンウルフ、討伐完了だ」

「チッ、まさかホライゾンウルフが倒されるとはな。こいつ程度ではリュシアンに仕返しすることはできなかったか」

 男の声が聞こえ、そちらに顔を向ける。

 トミトを食べながら、ガリの男がこちらに歩いてきた。
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