ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳

文字の大きさ
上 下
140 / 171
第十二章

第十三話 頂上の天空龍 後編

しおりを挟む
 モンスターの体の一部に変化が起き、天空龍スリシオが憤怒状態に入ったことを、俺は直観的に悟った。

 憤怒状態は与えるダメージが少なくなったり、相手の攻撃力が上がったりする。だが、それはモンスターの方が追い詰められているという証拠だ。

「天空龍スリシオは追い詰められている! もう一踏ん張りだ!」

 仲間たちの士気を上げるために、モンスターが弱っていることを伝える。

 憤怒状態のモンスターほど危険なものはない。なので、熟練のハンターでも足がすくんでしまうこともある。

 しかも今回の相手は伝龍だ。その恐怖は並大抵のものではない。

 だけどそんな状態では、モンスターにとっては格好の的だ。暴力的な破壊力に蹂躙じゅうりんされてします。

 なので、怒らせたのではなく、追い詰めているのだと自身に言い聞かせる必要がある。

「ええ、分かっています」

リュシアンピグレットと何度も死闘を潜って来ているのよ! 相手が憤怒状態だからって、ビビっていられないわ」

「わたくしはまだまだ未熟ですが、これでもハンターなのです。相手が怒ったからと言って、尻込みしていられませんわ」

 三人は勇ましい声で俺の言葉に答える。

 どうやら心配したのは杞憂だったようだな。

「あの嬢ちゃんたち、思ったよりもやるじゃないか。ギルドマスターが条件として連れ出したことはある」

 彼女たちの姿を見て、セシリオさんがエレーヌさんのことを褒める。

 本当に彼女たちがいてくれて良かった。

 ユリヤがいたからこそ、接近戦での攻撃の手数が増え、テレーゼがいてくれたからこそ、強固な爪の破壊に成功した。そしてエリーザ姫がいてくれたからこそ、上空にいるスリシオに、爆音玉を当てることができたのだ。

 彼女たちがいてくれたからこそ、ここまで伝龍相手に苦戦させられることがなかった。

『ギャオオオオオオオオオオォォォォォォォォン!』

 上空にいるスリシオが吠え、物凄いスピードで俺の方に突っ込んできた。

 鋭利な牙が剥き出しにして、標的を切り裂こうと前足を横に振る。

 爪が破壊されている今、そんな攻撃は全然怖くない。

 数分前と同様に、モンスターに突っ込むようにして前方に倒れた。やつの攻撃は当たらず、真上を素通りしていく。

 直ぐに起き上がってスリシオの行く末を見るが、天空龍は足を滑らせて転倒することなく地面を踏み締めていた。

 憤怒状態のせいで、本能的に体が踏ん張ったのだろうな。

 状況を分析していると、やつは肢体を動かしてこちらに向かってくる。そして口を開けて鋭利な牙を突き立てようとしてきた。

 噛まれるのはさすがに痛いだろうから、躱させてもらう。

 そのように判断した時だ。やつは降り注ぐ雨でできた水溜りに足を乗せ、足を滑らせる。

「転倒した! 今だ!」

 仲間たちに攻撃のチャンスだと告げ、スリシオの顔面を攻撃する。

 ユリヤとテレーゼ、それにセシリオさんが駆け寄り、モンスターを攻撃してダメージを当てて行く。

 さっきと比べ、起き上がるのに時間がかかっている。これならこいつを討伐することができるぞ。

 伝龍を倒すことができれば、それはハンターとして歴史に名を残すことができる。レジェンドランクに成り上がることだって可能だ。

 そう思った時、どこからか視線のようなものを感じた。それと同時に何やら寒気もする。

 この視線はどこから来ている?

 攻撃を止め、周辺を見る。しかし、どこから視線を送られているのかが分からない。

 なんだか嫌な予感がする。本当に天空龍スリシオを倒してもいいのか?

 変な胸騒ぎを感じていると、セシリオさんが言った言葉を思い出す。

『リュシアンにお願いしたいのは、天空龍スリシオの無力化です』

 天空龍の無力化、それはつまり命を奪うのではなく、行動不能にするまで叩きのめすこと。

 そのことに気付き、セシリオさんの方を見る。彼は戦闘で冷静になっていないからか、スリシオに何度も大剣を叩き込んでいた。

 このままでは討伐になってしまう。

「みんな、攻撃を止めてくれ! このままではこいつを倒してしまう」

 腹の底から声を出し、叫ぶように大声を上げる。大きい声で叫んだからか、離れた場所にいるエリーザ姫にも届いたようだ。矢が飛んで来ない。

「リュシアンさん。それはどう言うことなのですか?

リュシアンピグレットこいつは伝龍なのよ。討伐しないと、どんな災害が起きるのか分からないわ」

「リュシアン王子、いったいどうしたのですか?」

 離れていたエリーザ姫も駆け寄り、訊ねてくる。

「思い出したんだ。セシリオさんが依頼を言った時、天空龍スリシオの討伐ではなく、無力化だと。伝龍との戦いで興奮して忘れていたけど、このまま攻撃をし続ければ、スリシオを倒すことになる」

 どうして攻撃をしてはいけないのか、その理由を語る。すると、スリシオさんが拍手をしてニヤリと笑った。

「そうだ。よく気付いたな。このままこいつを討伐していたら、お前たちに与えた依頼は失敗となっていた。モンスターとの命をかけた戦いはつい頭に血が登ってしまうが、よく冷静に状況を判断して思い出すことができたな。さすがリュシアンだ」

 称賛すると、彼はポーチから麻酔針を取り出し、スリシオの肉体に突き刺す。

「これで、お前たちの依頼は達成だ。スリシオの無力化に成功した」

「そういえばそうだったですね。私、つい興奮して忘れていました。リュシアンさんがいなければ失敗になるところでしたね」

「本当に助かったわ。リュシアンピグレットがいてくれて本当に良かった」

「わたくしたちが忘れていたことを覚えているとは、さすがリュシアン王子ですわ」

 依頼をクリアした実感が出てきたのか、三人の顔が綻ぶ。

 でも、なんでだろう? まだ終わっていないような気がする。

「セシリオさん、ちょっと聞いても良いですか?」

 セシリオさんに訊ねようと、声をかけるが、いつの間にか彼の姿は消えていた。

「あれ? セシリオさんどこに消えた?」

リュシアンピグレット、あそこ」

 テレーゼが指差し、そちらに顔を向ける。セリシオさんが神殿のような建物の中に入って行くのが見えた。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました

遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。 追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。 やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。

回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し
ファンタジー
回復術師ピッケルは、20歳の誕生日、パーティーリーダーの部屋に呼び出されると追放を言い渡された。みぐるみを剥がされ、泣く泣く部屋をあとにするピッケル。しかし、この時点では仲間はもちろん本人さえも知らなかった。ピッケルの回復術師としての能力は、想像を遥かに超えるものだと。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

救助者ギルドから追放された俺は、ハズレだと思われていたスキル【思念収集】でやり返す

名無し
ファンタジー
 アセンドラの都で暮らす少年テッドは救助者ギルドに在籍しており、【思念収集】というスキルによって、ダンジョンで亡くなった冒険者の最期の思いを遺族に伝える仕事をしていた。  だが、ある日思わぬ冤罪をかけられ、幼馴染で親友だったはずのギルド長ライルによって除名を言い渡された挙句、最凶最悪と言われる異次元の監獄へと送り込まれてしまう。  それでも、幼馴染の少女シェリアとの面会をきっかけに、ハズレ認定されていた【思念収集】のスキルが本領を発揮する。喧嘩で最も強い者がここから出られることを知ったテッドは、最強の囚人王を目指すとともに、自分を陥れた者たちへの復讐を誓うのであった……。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。 その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!? チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双! ※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

処理中です...