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第十二章
第四話 どうしてあなたがここに!
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懐かしい声が聞こえ、俺は振り返る。三メートルほど先に、とても懐かしい人が立っていた。
茶髪のロングヘアーで眼帯をしており、更に容姿が整っているイケメンだ。清潔感のある高そうな服を着ており、一瞬貴族かと見間違う。
「セシリオさん!」
思わず声を上げ、彼に駆け寄る。
「ど、どうしてこんなところにいるのですか!」
心臓の鼓動が激しく高鳴る。きっと今の俺は、欲しいオモチャを買ってもらった幼子のように目を輝かせているだろう。でも、仕方がない。憧れの人物が目の前にいるのだから。
「リュシアンに俺が請け負った依頼の手伝いをしてもらいたくてよ。風の噂で聞いたぜ。Sランクハンターになったってな。昔の俺に追い付いてくれて嬉しいぜ」
「昔の俺?」
セシリオさんの言っている意味が分からず、首を傾げる。
「いや、なんでもない。それより、俺がやった太刀の方はどうだ? ちゃんと使ってくれているか?」
「はい! 何度か鍛冶で鍛え直していますが、今もメインで使っています」
「そうか。そうか。それは嬉しいな。良ければ、太刀を見せてくれないか?」
「はい! 喜んで!」
腰に帯刀している太刀を鞘ごと抜き、セシリオさんに渡す。
「ほう、なかなか良い刀身に生まれ変わっているじゃないか。最初にはなかった属性玉も付いている。こいつは凄いな。一目見ただけで凄い業物だと分かる」
セシリオさんが太刀を眺めながら褒める。
彼にここまで言わせるって、もしかしてベルトラムさんは凄い鍛冶職人なのかもしれない。
「作者名の刻印があるな。えーと、ベ……ル……トラム。ベルトラム! この太刀を強化したのはベルトラムなのか!」
セシリオさんが凄い剣幕で声を上げる。
あれ? もしかしてベルトラムさんと知り合いなのだろうか?
「そうですけど、セシリオさんはベルトラムさんとお知り合いなのですか? もしそうならこの町にいるのでお連れしますけど」
「い、いや、名前を聞いたことがあるだけだ。別に合わせなくていい」
セシリオさんは右手を前に出して首を左右に振る。
彼がこんなに焦っているなんて。どう考えても、ベルトラムさんと何かしらの関係がある。でも、変に深掘りしてセシリオさんに嫌われるのだけは避けたい。
ここは気付かなかったフリをしよう。
「と、とにかく話を戻そう。俺が請け負った依頼をリュシアンに手伝ってもらいたい」
「そうでしたね。それではギルドに行きましょう」
セシリオさんをギルドに案内すると扉を開ける。
ギルドの中では既に仕事が始まろうとしており、エレーヌさんの手には依頼書の束が握られてあった。
「エレーヌさん遅くなりました」
「あら? リュシアン君、思っていたのよりも早かったわね。そちらの方は?」
ギルドマスターがセシリオさんのことを尋ね、俺は彼を紹介する。
「この方はセシリオさんです。俺にあの太刀を譲ってくれた方で、俺の憧れの人物なのです! セシリオさんから指名依頼を受けたので、今すぐ出発しても良いですか!」
説明をすると、エレーヌさんたちはポカンとしていた。
感情が昂っていたからか、数秒遅れて余計なことを口走っていたことに気付く。
でも仕方がない。興奮せずにはいられないのだから。
「すまない。どうやらリュシアンのやつが要領を得ない説明をしてしまったみたいだ。俺の名はセシリオ・リバス。とある人から依頼を受けていてな。俺一人では骨が折れそうなので、Sランクにまで成長したリュシアンの手を借りようと思ってこちらまで来た」
「そ、そうでしたか。わたしはここのギルドマスターであるエレーヌ・デュマと申します。まずは詳しい依頼内容をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
エレーヌさんが持っている紙の束をカウンターの上に置き、こちらに来る。
「リュシアンにお願いしたいのは、天空龍スリシオの無力化です」
「天空龍スリシオですって!」
ギルドマスターが声を上げると、それを聞きつけたユリヤたちまでもがこちらに来る。
それもそうだろう。天空龍スリシオは御伽噺に出てくるモンスターだ。伝龍であると言われ、その存在も明確になってはいない。
「あのう、失礼ですが、本当に天空龍スリシオなのでしょうか?」
セシリオさんに対して、エレーヌさんが疑いの眼差しを向けてくる。それもそうだろう。伝龍と言うのは、どんなに一流のハンターでも、一生に一度出会えるかどうかの存在だ。
それに古城跡地に伝龍が現れたと言われ、駆けつけてみればキングカルディアスだったというオチが実際にも起きている。
ギルドマスターは、そのことを懸念しているのだろう。
「エレーヌさん、俺はセシリオさんを信じます」
真剣な眼差しで彼女を見る。
これは別に、セシリオさんが憧れの人物だからと言うわけではない。サウザーの正体が伝龍のサウザントドラゴンであることがわかった以上、スリシオが実在している可能性だってあり得るからだ。
「分かりました。リュシアン君がそこまで言うのであれば、その依頼を受理しましょう。ですが、条件があります。ユリヤ、テレーゼ、エリーザ姫の三人を同行させることを条件と致します」
エレーヌさんが真剣な表情のまま条件を突き付ける。すると、スリシオさんは小さくため息を吐く。
「はぁー、どうやら俺は信用されていないみたいだ。わかった。その条件でお願いするよ。結果オーライとは言え、俺の真実よりもリュシアンの信じたい気持ちがギルドマスターを動かすのは、正直複雑な気分だ。お前、いつの間にマダムキラーになったんだ?」
セシリオさんが最後の言葉を口に出した瞬間、一気に寒気を感じた。
最近は言葉選びに気を付けていたので、こんなことが起きることはなかったのだが、セシリオさんはエレーヌさんのタブーを知らない。
チラリとギルドマスターの方を見ると、彼女は凍て付きそうなほどのオーラを放っていた。
「誰がマダムですって! わたしは永遠の十七歳よ!」
「何なんだよこのギルドマスターは! と、とにかく依頼の方は頼んだからな。リュシアン、準備ができ次第、町の出入り口まで来てくれ!」
セシリオさんが合流地点を告げると、急いで逃げるようにギルドから出て行く。
「エレーヌさん、落ち着いてください!」
「エレーヌはまだまだピチピチよ!」
「そうですわ。実年齢を感じさせないほどの若々しいお肌で羨ましいですもの」
「そ、そう? そうよね。だってわたし、永遠の十七歳ですもの」
女の子三人が慌ててエレーヌさんを煽てると、彼女の機嫌が治ったようで、ほっとする。
みんなナイスだ。
茶髪のロングヘアーで眼帯をしており、更に容姿が整っているイケメンだ。清潔感のある高そうな服を着ており、一瞬貴族かと見間違う。
「セシリオさん!」
思わず声を上げ、彼に駆け寄る。
「ど、どうしてこんなところにいるのですか!」
心臓の鼓動が激しく高鳴る。きっと今の俺は、欲しいオモチャを買ってもらった幼子のように目を輝かせているだろう。でも、仕方がない。憧れの人物が目の前にいるのだから。
「リュシアンに俺が請け負った依頼の手伝いをしてもらいたくてよ。風の噂で聞いたぜ。Sランクハンターになったってな。昔の俺に追い付いてくれて嬉しいぜ」
「昔の俺?」
セシリオさんの言っている意味が分からず、首を傾げる。
「いや、なんでもない。それより、俺がやった太刀の方はどうだ? ちゃんと使ってくれているか?」
「はい! 何度か鍛冶で鍛え直していますが、今もメインで使っています」
「そうか。そうか。それは嬉しいな。良ければ、太刀を見せてくれないか?」
「はい! 喜んで!」
腰に帯刀している太刀を鞘ごと抜き、セシリオさんに渡す。
「ほう、なかなか良い刀身に生まれ変わっているじゃないか。最初にはなかった属性玉も付いている。こいつは凄いな。一目見ただけで凄い業物だと分かる」
セシリオさんが太刀を眺めながら褒める。
彼にここまで言わせるって、もしかしてベルトラムさんは凄い鍛冶職人なのかもしれない。
「作者名の刻印があるな。えーと、ベ……ル……トラム。ベルトラム! この太刀を強化したのはベルトラムなのか!」
セシリオさんが凄い剣幕で声を上げる。
あれ? もしかしてベルトラムさんと知り合いなのだろうか?
「そうですけど、セシリオさんはベルトラムさんとお知り合いなのですか? もしそうならこの町にいるのでお連れしますけど」
「い、いや、名前を聞いたことがあるだけだ。別に合わせなくていい」
セシリオさんは右手を前に出して首を左右に振る。
彼がこんなに焦っているなんて。どう考えても、ベルトラムさんと何かしらの関係がある。でも、変に深掘りしてセシリオさんに嫌われるのだけは避けたい。
ここは気付かなかったフリをしよう。
「と、とにかく話を戻そう。俺が請け負った依頼をリュシアンに手伝ってもらいたい」
「そうでしたね。それではギルドに行きましょう」
セシリオさんをギルドに案内すると扉を開ける。
ギルドの中では既に仕事が始まろうとしており、エレーヌさんの手には依頼書の束が握られてあった。
「エレーヌさん遅くなりました」
「あら? リュシアン君、思っていたのよりも早かったわね。そちらの方は?」
ギルドマスターがセシリオさんのことを尋ね、俺は彼を紹介する。
「この方はセシリオさんです。俺にあの太刀を譲ってくれた方で、俺の憧れの人物なのです! セシリオさんから指名依頼を受けたので、今すぐ出発しても良いですか!」
説明をすると、エレーヌさんたちはポカンとしていた。
感情が昂っていたからか、数秒遅れて余計なことを口走っていたことに気付く。
でも仕方がない。興奮せずにはいられないのだから。
「すまない。どうやらリュシアンのやつが要領を得ない説明をしてしまったみたいだ。俺の名はセシリオ・リバス。とある人から依頼を受けていてな。俺一人では骨が折れそうなので、Sランクにまで成長したリュシアンの手を借りようと思ってこちらまで来た」
「そ、そうでしたか。わたしはここのギルドマスターであるエレーヌ・デュマと申します。まずは詳しい依頼内容をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
エレーヌさんが持っている紙の束をカウンターの上に置き、こちらに来る。
「リュシアンにお願いしたいのは、天空龍スリシオの無力化です」
「天空龍スリシオですって!」
ギルドマスターが声を上げると、それを聞きつけたユリヤたちまでもがこちらに来る。
それもそうだろう。天空龍スリシオは御伽噺に出てくるモンスターだ。伝龍であると言われ、その存在も明確になってはいない。
「あのう、失礼ですが、本当に天空龍スリシオなのでしょうか?」
セシリオさんに対して、エレーヌさんが疑いの眼差しを向けてくる。それもそうだろう。伝龍と言うのは、どんなに一流のハンターでも、一生に一度出会えるかどうかの存在だ。
それに古城跡地に伝龍が現れたと言われ、駆けつけてみればキングカルディアスだったというオチが実際にも起きている。
ギルドマスターは、そのことを懸念しているのだろう。
「エレーヌさん、俺はセシリオさんを信じます」
真剣な眼差しで彼女を見る。
これは別に、セシリオさんが憧れの人物だからと言うわけではない。サウザーの正体が伝龍のサウザントドラゴンであることがわかった以上、スリシオが実在している可能性だってあり得るからだ。
「分かりました。リュシアン君がそこまで言うのであれば、その依頼を受理しましょう。ですが、条件があります。ユリヤ、テレーゼ、エリーザ姫の三人を同行させることを条件と致します」
エレーヌさんが真剣な表情のまま条件を突き付ける。すると、スリシオさんは小さくため息を吐く。
「はぁー、どうやら俺は信用されていないみたいだ。わかった。その条件でお願いするよ。結果オーライとは言え、俺の真実よりもリュシアンの信じたい気持ちがギルドマスターを動かすのは、正直複雑な気分だ。お前、いつの間にマダムキラーになったんだ?」
セシリオさんが最後の言葉を口に出した瞬間、一気に寒気を感じた。
最近は言葉選びに気を付けていたので、こんなことが起きることはなかったのだが、セシリオさんはエレーヌさんのタブーを知らない。
チラリとギルドマスターの方を見ると、彼女は凍て付きそうなほどのオーラを放っていた。
「誰がマダムですって! わたしは永遠の十七歳よ!」
「何なんだよこのギルドマスターは! と、とにかく依頼の方は頼んだからな。リュシアン、準備ができ次第、町の出入り口まで来てくれ!」
セシリオさんが合流地点を告げると、急いで逃げるようにギルドから出て行く。
「エレーヌさん、落ち着いてください!」
「エレーヌはまだまだピチピチよ!」
「そうですわ。実年齢を感じさせないほどの若々しいお肌で羨ましいですもの」
「そ、そう? そうよね。だってわたし、永遠の十七歳ですもの」
女の子三人が慌ててエレーヌさんを煽てると、彼女の機嫌が治ったようで、ほっとする。
みんなナイスだ。
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