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第十二章

第一話 ペテン、裏切りやがったな!

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~フェルディナン視点~



 くそう、くそう、くそう! どうしてこうなってしまうんだよ!

 俺ことフェルディナンは、ギルドの運営が上手くいかないことに対して苛立っていた。

 俺が留守の間、無能なハンターに経営を任せたことで、ギルドの運営が傾きつつあった。なので信頼を取り戻すために、リュシアンを連れ戻すことにした。その第一歩として、やつが所属しているギルドに高難易度の依頼を押し付け、失敗させて潰そうと考えたのだ。

 しかし、リュシアンは高難易度の依頼を立て続けに達成し、俺の作戦は失敗に終わる。

 その間もギルドの運営は右肩下がりとなり、ハンターや依頼主にも不満が募りつつある。

「くそう。このままではアントニオの二の舞だぞ。早く手を打たないと、ハンターや依頼主が暴動を起こす」

 せっかく夢だったギルドマスターになれたのだ。たった数ヶ月で失うわけにはいかない。

 アントニオのように殺される結末になってたまるかよ。

 椅子に座り、机に肘を付いて手を額に当てる。

 ペテンのやつとも急に連絡が途絶えた。一人の欠員が出たせいで、仕事を捌くのも困難な状況だ。

「おや? どうしたのですか? ギルドマスターのフェルディナン。何か変な物でも食べてお腹が痛いのですか?」

 頭の中で思い描いていた人物の声が聞こえ、ハッとなって顔を上げる。

 ギルドマスター室の部屋に、いつの間にかペテンがいた。

「ペテン! お前、今までどこをほっつき歩いていた!」

 せっかく連絡が取れなかった仲間が戻ってきたと言うのに、彼に向けて怒鳴り散らす。

 無事でいてくれたことに対する安堵よりも、今まで連絡を寄越さなかったことに対しての怒りの方が強かった。

「連絡が取れなくてすみません。こちらにも色々と事情がありまして」

「どんな事情があろうと、上司に連絡を入れるのが筋ってものだろうが!」

 本当に悪びれた様子を見せずに、ヘラヘラとしている男の顔が更に怒りを募らせる。

 気が付くと彼に向けて拳を振るっていた。

「やれやれ、これだからアントニオ二世は困る。だから同じ道を辿るのですよ」

「ガハッ!」

 やつが目を細めると、俺の腹に痛みが走る。視線を下に向けると、腹部に短剣が突き刺さっていた。

「ペテン……お前……裏切り……やがたな」

「裏切ったとは心外だね。私は最初からあなたの部下ではなかったのですよ。あなたの運営するギルドに入ったのは、ギルドを利用して情報を得るためだ。もう十分すぎるほどの情報を得た。だからもう用済みなのです」

 腹部の痛みに耐えかね、膝を付いて蹲る。すると、頭が押し付けられて顔面を思いっきり床にぶつけた。

 頭部の感覚からして靴で踏まれている。

「があああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 痛みと怒りで声を上げる。

「いくら吼えてもムダですよ。今の時間帯はほとんどのハンターは依頼に出払っている。仮に残っていたとしても、どうせギルドマスターがいつものイラつきで吼えているだけだと思うはずです。自業自得ですね」

 頭上から声を浴びせられ、頭を踏み躙られる。

「さて、ちょっとしたストレス発散はこのくらいにして、私が所属している本当の組織のために、ハンターギルドフェルディナンズの資金をいただきます」

「そ、それだけ……は」

「何を言っているのですか? このギルドは消滅するのですよ。軍資金なんてものは必要ないではないですか」

「なん……だと」

 このギルドが消滅するだと。それだけはなんとしても阻止しなければならない。俺の夢を壊されてたまるか。

「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」

「うるさい。黙ってください」

「ガハッ」

 力を振り絞って起き上がろうとする。その瞬間、やつの足に力が入り、再び顔面を床にぶつける。

 なんなんだこの力は? まるで人ではないみたいだ。

「このままあなたの頭を粉砕してもいいのですが、足が汚れるのが嫌なので、それだけは勘弁してあげます。まぁ、どうせ出血多量で死ぬでしょうが。えーと金の入っている宝箱はっと……あった」

 宝箱を見つけたからか、ペテンは俺の頭を押さえつけている足を退ける。

 このままやつが離れた隙に反撃に出てもいいが、おそらく返り討ちに遭って殺されてしまう。ここは動けない振りを演じた方が利口だ。

「ギルドの軍資金をいただきました。それでは失礼します。あの世でアントニオと反省会でもすると言いですよ」

 扉が一度開いて閉められる音が耳に入る。

 ペテンが居なくなったことを認識し、力を振り絞って立ち上がった。そしてポーチの中に入れておいた回復ポーションを取り出し、瓶の中の液体を飲み干す。

 これでどうにか一命は取り留めた。ペテンの裏切りは思いにも寄らなかったことだが、俺を殺さなかったことが甘い。

 今すぐに追いかけて、やつの住処を特定する。そして夜間にでも火災を発生させて炎で焼き殺してやる。

「火事だ!」

「逃げろ!」

 そう。今のようにペテンに言わせるんだ。そして逃げ惑いながらも最後には……うん? 今の言葉はどこから聞こえてきた?

「ギルドマスター火事だ! ギルドが燃えている!」

 扉が勢いよく開けられ、ハンターの一人が声をかける。それと同時に煙が部屋に入ってきた。

 俺のギルドが燃えているだと!

「何だって!」

「今すぐに逃げろ!」

「何を言っているんだ! 逃げるより先に消火作業だろうが!」

 直ぐに部屋を飛び出し、廊下に出る。

 炎がこの部屋付近まで近づき、とても消火できる規模ではなかった。

 それでも俺は最後まで諦めない。このギルドを失ってたまるかよ!

「直ぐにバケツに水を汲んで来るんだ!」

「炎の勢いが激しい中、バケツに水を汲んだ程度で消火できる訳がないだろう。ほら、早く逃げるんだ。ギルドよりも命の方が大事だろうが。おい、誰かこのバカを引き摺るのを手伝ってくれ」

 ハンターが呼びかけ、他の奴らが集まって俺を引き摺って行く。

「離せ! 俺はギルドを失う訳にはいかない! 頼む! 離してくれ」

 プライドを捨ててまでハンターたちに懇願する。だが、俺の願い事は叶うことなく、外に連れて行かれた。

 手放せば、またギルドの中に入って行くと思ったのだろう。ハンターたちは俺を押さえ付け、地面に這いつくばらされる。

 ギルドが炎に包まれる中、俺はペテンに対して復讐の炎をらせていた。
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