上 下
127 / 171
第十一章

第十三話 ハゲといったほうがハゲなんだ

しおりを挟む
 ~ベルトラム視点~



「おい、ボウズ! 何をしているんだ! せっかくワシが地上に落としてやったのに、逃げられたではないか!」

 ワシことベルトラムは、ハンター会の期待の星であるリュシアンに声を上げる。

「いや、あれだけボロボロの姿で、まだ飛べる力を残しているとは思ってもいなかったからさ」

 リュシアンが言い訳を言うが、その気持ちも分からなくもない。何せ、ワシも驚いてつい改良型バリスタの弾ムスコを撃ち損なってしまった。

「とにかく追うぞ。あの深手なら、隣のエリアに移動するのがやっとだろう」

 長年の経験からそう判断したワシは、移動式バリスタ発射装置を押しながら、八番エリアに向けて歩く。

 ボウズたちも後ろを付いて来た。

 八番エリアに辿り着くと、あの龍を探す。しかし、どこにも見当たらなかった。

 おかしい。あの深手ではここまで飛ぶのがやっとのはずだ。まさか、ワシの勘が外れたのか?

 とにかく今は、この八番エリア内を探す必要があるな。

 若かった頃のハンター時代の記憶が蘇り、周辺の気配に注視する。

 うん? ワシの気配探知がビンビン反応をしておる。この先にあの龍がいるかもしれない。

 それにしても、年をとっても気配探知はビンビンに反応しているのに、ワシの股間ムスコはビンビンにはならない。どうしてこっちは年をとると衰えるのじゃろうか。若かった頃は年老いてもなお盛んであると思い込んでおったと言うのに。

「ボウズ、こっちの方を探すぞ」

 ゴツゴツとした岩場の上を歩くと、七十代と思われるジジイの側に、女の子が倒れているのが視界に映る。

 その人物を目の当たりした瞬間、ワシは改良型バリスタの弾を設置してジジイに向けて発射した。

 放たれたバリスタの弾は、ジジイに向けて真っ直ぐに飛んで行く。だがヤツは気付き、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。

「久しいなベルトラム。まさかこんなところで出会えるとは思ってもいなかったぞ」

 ジジイがワシの名を口に出した瞬間、やつは高速で放たれるバリスタの弾を掴んだ。

「こんな飛び道具に頼るとは、やはり人間と言う下等生物は弱いな。歳を取れば取るほど弱体化してしまうなんて」

「それはお主だって同じことだろう。五十年前に比べて老けたではないか!」

「老け具合はお前には負ける。全盛期だった頃は髪の毛がふさふさであったのに、今ではツルツル頭のハゲではないか」

 ジジイの言葉にワシはカッとなる。

「誰がハゲだ! スキンヘッドはハゲではないわ! そもそもハゲと言った方がハゲなんだ! やーいハゲ野郎!」

「このフサフサの髪のどこがハゲとる! あまり悪口を言うと、お前のスキンヘッドをボールドヘッドにして、完全なるハゲにしてやるからな!」

「できるものならやってみろ!」

「あ、あのう。ベルトラムさん? もしかしてサウザーのことを知っているのですか?」

 背後からボウズが声をかけ、ワシは振り向く。彼はなんとも言えない微妙な顔をしていた。

 まぁ、いきなり攻撃を仕掛けてピリピリとした空気から一転して、いきなり悪口合戦になってしまったのだ。そのような顔をしても仕方がない。

「ああ、やつはあんな人間の姿をしているが、あれは仮初めの姿だ。本当のあやつは千年もの間、この世界に生きているサウザンドドラゴン」

 ボウズに教えてやると、彼は顔を引き締める。

 何せサウザンドドラゴンは、伝龍や古龍と呼ばれるモンスター。ハンターの一生のうちに姿を見られるのはまさに奇跡だ。しかし、裏を返せば強敵を目の当たりにしているとも言える。

「まさかリュシアンを探していたところにベルトラムがいるとは好都合だ。二人纏めて、いや、そこにいるクソザコハンターたちも含めて、全員この場で始末してくれよう。だが、その前に」

 サウザーが口を開けると火炎を吐き、地面に倒れている女の子を燃やす。

「サウザー! お前、自分の孫娘になんてことをする!」

 ボウズが叫ぶ。

 あの娘、サウザーの孫だと言うのか。普通なら自分の孫を手にかけるようなことはしない。だが、あのジジイは狂っている。

「別におかしなことではないだろう? 死体を焼却したまでだ。土葬ではモンスターに食い荒らされるかもしれないからな。祖父として大切な孫の死体を冒涜されないための処置だよ」

 淡々とした口調で、サウザーが燃やした理由を答える。しかしやつからは、祖父としての慈愛の感情らしきものが、何一つ感じ取られなかった。

 炎が消えると、女の子の遺体が骨すら残さず灰に変わる。

 まるで神が彼女を天に返そうとしているかのように、炎が消えたタイミングで偶然にも風が吹く。

 風に流された灰が上空に舞うと、そのまま天へと登っていった。

「では、早速始めるとしようか。お前たちを倒せば、障害となるものは何もいない」

 サウザーが両手を組み、ボキボキと音を鳴らす。

 すると上空から一羽の鳥が舞い降りてきた。

 あのフクロウに似ておる鳥は、リピートバードだな。サウザーの方を向いておる。いったい誰からのメッセージなんだ。

『ペテンからメッセージがあります……サウザー、そっちはどうかな? 私の方は順調にジャイリスクの神殿に侵入して宝玉を手に入れることができたよ。今から所用を済ませてから基地に帰るから。本当に野盗はいい仕事をしてくれたよ。多くの犠牲が出たみたいだけど、あんな人間のゴミはいなくなっても誰も困らないからね。それじゃ、後で今後の作戦に付いて話そう』

 メッセージの受取人の許可もなく、勝手にリピートバードは言葉を連ねる。そして全ての言葉を話した後、羽ばたいてどこかに飛んで行った。

「ペテンのやつめ、ろくに訓練もされていないリピートバードを使いやがって。まぁいい。悪いが急用ができた。この勝負は預けさせてもらう」

「待て!」

 踵を返したサウザーに、ワシは呼び止める。

「心配しなくとも、お前たちとの決着はつけるさ。優先順位が変わっただけのこと。命が延命できたことを心から喜ぶのだな」

 捨て台詞を吐くと、サウザーの体が空中に浮く。そして天高く舞い上がった。

「逃すと思っているのか!」

 あのジジイを逃すまいと、移動式バリスタ発射装置に改良型バリスタの弾をセットしてすぐに発射する。

 だが、放たれたバリスタの弾は、やつを貫くことなく弾かれる。

 くそう。まだまだ貫通力を上げないと、やつの肉体を貫くことができないのか。

 次第に遠ざかって行くサウザーを、ワシはただ見つめることしかできなかった。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。 【あらすじ】 イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。 しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。 ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。 そんな一家はむしろ互いに愛情過多。 あてられた周りだけ食傷気味。 「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」 なんて養女は言う。 今の所、魔法を使った事ないんですけどね。 ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。 僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。 一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。 生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。 でもスローなライフは無理っぽい。 __そんなお話。 ※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。 ※他サイトでも掲載中。 ※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。 ※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。 ※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

不登校が久しぶりに登校したらクラス転移に巻き込まれました。

ちょす氏
ファンタジー
あ~めんどくせぇ〜⋯⋯⋯⋯。 不登校生徒である神門創一17歳。高校生である彼だが、ずっと学校へ行くことは決してなかった。 しかし今日、彼は鞄を肩に引っ掛けて今──長い廊下の一つの扉である教室の扉の前に立っている。 「はぁ⋯⋯ん?」 溜息を吐きながら扉を開けたその先は、何やら黄金色に輝いていた。 「どういう事なんだ?」 すると気付けば真っ白な謎の空間へと移動していた。 「神門創一さん──私は神様のアルテミスと申します」 'え?神様?マジで?' 「本来呼ばれるはずでは無かったですが、貴方は教室の半分近く体を入れていて巻き込まれてしまいました」 ⋯⋯え? つまり──てことは俺、そんなくだらない事で死んだのか?流石にキツくないか? 「そんな貴方に──私の星であるレイアースに転移させますね!」 ⋯⋯まじかよ。 これは巻き込まれてしまった高校17歳の男がのんびり(嘘)と過ごす話です。 語彙力や文章力が足りていない人が書いている作品の為優しい目で読んでいただけると有り難いです。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

処理中です...