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第十一章
第十二話 何このジジイ!メチャクチャ怖いのだけど!
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~アイリス視点~
私ことアイリスは、突然放たれたバリスタの弾に動揺して、七番エリアを見下ろす。そこにはリュシアンたち以外の下等生物が、いつに間にか七番エリアにいた。
何? あのスキンヘッドのジジイは?
男の側には移動式バリスタ発射装置があった。
どうやらあのバリスタの弾は、そこのジジイが発射したようね。
バリスタの弾を受けた衝撃で高度が下がり、地上との距離が縮まる。すると、あいつらの会話が聞こえてきた。
「リュシアン待たせたな。町の方はどうにかなったので、加勢に来てやったぞ」
「ベルトラムさん!」
リュシアンが現れたジジイの名を口にする。
あのジジイ、ベルトラムって言うのね。うん? ベルトラム? その名前はどこかで聞いたことがあるような?
脳の中に保管されてある記憶を引き出す。
そう言えば昔、お爺様がベルトラムと言う名前を憎々しげに語っていたわね。と言うことは、もしかしたらあのジジイも倒せば、お爺様はもっと私を認めてくれるかもしれないわ。
現れたベルトラムもろとも灰にしようと口を開ける。その間もあいつらの声が耳に入ってきた。
「お前たちを追って来たら、上空に巨大な龍がいたからついバリスタの弾を発射してしまった。なんだあの龍は? あんな龍は見たこともないぞ」
「あれが町を襲った女の子の成れの果ての姿です」
「何だと!」
ジジイが声を上げ、私を見る。男と目が合った瞬間、何とも言えない寒気を感じた。
「メスの討伐か! こいつは腕がなる。ワシのバリスタでいかせてやるからな」
ベルトラムの言葉が耳に入り、目をぴくつかせる。
わざとなのか天然なのか知らないけど『あの世に』って言葉がないせいで完全にセクハラ発言になっているじゃないのよ!
「あの龍は呆然としている! 攻撃するなら今だ! ワシの改良型バリスタの弾! あの子の中で暴れて来るのだ!」
ジジイのセクハラ発言に変な思考をしてしまったからか、隙を生んでしまった。
そのせいで発射されたバリスタの弾を回避することができずに直撃を受ける。
何なのこの弾! 龍の鱗を貫いて私の中に入ってくる何て!
鱗を貫いたバリスタの弾は内部で爆発をしたようで、尋常ではない痛みを覚える。
『痛いいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ』
あまりの痛さに、口から声が漏れる。
「うむ、うむ。どうやらワシの攻撃がそれほど良かったようだな。あまりの気持ちよさに、いい声で鳴いておる」
このセクハラジジイ! 変態のくせに何て強さなの! 龍と化した私にここまでダメージを与えるなんて!
ダメージを受けて上手く揚力を得ることができなくなっているのか、さっきよりも高度が下がってしまう。
「おう、おう、どんどん近付いて来ておるわい。そんなにワシを求めておるのか? いやーモテると言うのは罪じゃのう。それ、どんどん改良型バリスタの弾を中に入れてやるから安心しろ。中で一つになろうではないか」
『このクソジジイ!』
こんな体ではまともに動くことができない。こうなったらダメージを受ける覚悟であのジジイに接近して食い殺してやる。
ベルトラムに向けて接近し、大きく口を開けた。しかし、この行動が間違いだった。
「そーれ、二発目の発射じゃ。まだまだ移動式バリスタ発射装置は萎えておらぬ。改良型バリスタの弾はまだまだあるからのう。弾切れまでたっぷりと楽しもうではないか」
連続でバリスタの弾を発射され、私の口内に侵入すると同時に中で爆発を起こす。
『痛いいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ』
外側から貫通されるのとは違い、内部は体の構造的に弱い部分が多い。今まで以上の痛みと苦しみを覚え、絶叫せずにはいられなかった。
意識が次第に遠ざかり、気が付くと地面に倒れていた。
「ワシの仕事はここまでだ。地上に引き摺り出した以上は、リュシアンたちハンターの仕事だ」
「ベルトラムさんありがとうございます」
リュシアンたちが武器を構えて近付く。私は力を振り絞って立ち上がり、尻尾を横薙ぎにしてあいつらにテールアタックを放つ。
しかし、ダメージを受けすぎたこの肉体では素早く動くことができなかった。
簡単に躱され、誰一人としてダメージを与えることができない。
くそう。くそう。くそう。どうしてこうなってしまったの! 奇跡が起きて私は完全なる龍の姿になった。完全に上等生物になれた時点で、私の勝利は確約されたようなものだったのに!
これも全てあのベルトラムとかいうハゲのせいよ。あいつが来なければ、私がこんなに苦戦することはなかった。
迫り来るリュシアンたちを近付けさせないように炎を吐こうとする。
しかし、出るのは小さな炎だった。それもあいつらに当たる前に霧散して消える。
嘘! どうして炎が出ないの! 今までこんなことなかったって言うのに!
いったい何が起きているのかがわからないでいると、その原因がすぐに明らかになる。
物凄い空腹感に包まれ、すぐに何かを食べないといけないと思ってしまった。
この症状、もしかして飢餓状態!
耐え難い空腹感に襲われ、口から涎がダラダラと流れてしまう。
いや、やめて。止まってよ! こんな私を見ないで!
「アイリスがスタミナ切れを起こしている! 早く倒さないと他のモンスターを食べて回復されてしまう」
そうだった。飢餓状態は肉を食べれば治る。モンスターを食べるなんてグロテスクな行為だけど、背に腹はかえられないわ。
まさか敵に塩を送られるとは思ってもいなかったけど、その情報をありがたく有効利用させてもらいましょう。
リュシアンたちに背を向けて、隣のエリアに向かおうとする。
隣のエリアからモンスターの匂いが漂ってきた。
ああ、早く食べてこの空腹を満たさないと気が狂いそうだわ。
移動を開始しようと足を一歩前に踏み出した。その時、急に体が重く感じ、まともに歩けないことに気付く。
体が重い。足を引き摺りながらじゃないと前に進めないわ。
この現象、モンスターが命の危険性を感じて逃げようとするときに似ている。
もしかして私は死にかけているの? このままじゃまずい。早く安全な場所に移動しなければ。
力を振り絞り、両翼を羽ばたかせて空に舞い上がる。
飛んで逃げる力が残されていると思っていなかったようで、あいつらはその場で固まり、追撃をしてこない。
呆気に取られている内に何とか逃げることができそうね。でも、体の傷の具合からしても、隣の八番エリアに移動するのが限界そう。
力の限り両翼を羽ばたかせて八番エリアに移動する。
「アイリス、ここにおったのか! 龍の姿になったとしても、ワシには分かるぞ!」
この体でも姿を隠せる場所を上空から探していると、お爺様の声が聞こえた。
『お爺様!』
肉親である彼の顔を見た瞬間、私は安心した。お爺様なら龍から人に変わる全てを知っているはず。人の姿に戻れば、いくらでも隠れる方法があるわ。
『お爺様助けて! 人間に戻るにはどうしたらいいの!』
八番エリアに降りると、人の姿に戻る方法を訊ねる。
「そうか。なら、ワシが戻してくれよう」
私の体にお爺様が触れる。その瞬間体が光り、気が付くと元の人間の姿に戻っていた。
「お爺様ありが……え?」
急に腹部に痛みが走り、視線を下げる。
お爺様の腕が私のお腹を貫いていた。
「お前を人間に戻したのは、殺した後に燃やしやすいからだ。お前のような欠陥品などもういらない。良かったな。大好きな両親に会えるぞ」
その言葉を最後に、私の意識は遠のいた。
私ことアイリスは、突然放たれたバリスタの弾に動揺して、七番エリアを見下ろす。そこにはリュシアンたち以外の下等生物が、いつに間にか七番エリアにいた。
何? あのスキンヘッドのジジイは?
男の側には移動式バリスタ発射装置があった。
どうやらあのバリスタの弾は、そこのジジイが発射したようね。
バリスタの弾を受けた衝撃で高度が下がり、地上との距離が縮まる。すると、あいつらの会話が聞こえてきた。
「リュシアン待たせたな。町の方はどうにかなったので、加勢に来てやったぞ」
「ベルトラムさん!」
リュシアンが現れたジジイの名を口にする。
あのジジイ、ベルトラムって言うのね。うん? ベルトラム? その名前はどこかで聞いたことがあるような?
脳の中に保管されてある記憶を引き出す。
そう言えば昔、お爺様がベルトラムと言う名前を憎々しげに語っていたわね。と言うことは、もしかしたらあのジジイも倒せば、お爺様はもっと私を認めてくれるかもしれないわ。
現れたベルトラムもろとも灰にしようと口を開ける。その間もあいつらの声が耳に入ってきた。
「お前たちを追って来たら、上空に巨大な龍がいたからついバリスタの弾を発射してしまった。なんだあの龍は? あんな龍は見たこともないぞ」
「あれが町を襲った女の子の成れの果ての姿です」
「何だと!」
ジジイが声を上げ、私を見る。男と目が合った瞬間、何とも言えない寒気を感じた。
「メスの討伐か! こいつは腕がなる。ワシのバリスタでいかせてやるからな」
ベルトラムの言葉が耳に入り、目をぴくつかせる。
わざとなのか天然なのか知らないけど『あの世に』って言葉がないせいで完全にセクハラ発言になっているじゃないのよ!
「あの龍は呆然としている! 攻撃するなら今だ! ワシの改良型バリスタの弾! あの子の中で暴れて来るのだ!」
ジジイのセクハラ発言に変な思考をしてしまったからか、隙を生んでしまった。
そのせいで発射されたバリスタの弾を回避することができずに直撃を受ける。
何なのこの弾! 龍の鱗を貫いて私の中に入ってくる何て!
鱗を貫いたバリスタの弾は内部で爆発をしたようで、尋常ではない痛みを覚える。
『痛いいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ』
あまりの痛さに、口から声が漏れる。
「うむ、うむ。どうやらワシの攻撃がそれほど良かったようだな。あまりの気持ちよさに、いい声で鳴いておる」
このセクハラジジイ! 変態のくせに何て強さなの! 龍と化した私にここまでダメージを与えるなんて!
ダメージを受けて上手く揚力を得ることができなくなっているのか、さっきよりも高度が下がってしまう。
「おう、おう、どんどん近付いて来ておるわい。そんなにワシを求めておるのか? いやーモテると言うのは罪じゃのう。それ、どんどん改良型バリスタの弾を中に入れてやるから安心しろ。中で一つになろうではないか」
『このクソジジイ!』
こんな体ではまともに動くことができない。こうなったらダメージを受ける覚悟であのジジイに接近して食い殺してやる。
ベルトラムに向けて接近し、大きく口を開けた。しかし、この行動が間違いだった。
「そーれ、二発目の発射じゃ。まだまだ移動式バリスタ発射装置は萎えておらぬ。改良型バリスタの弾はまだまだあるからのう。弾切れまでたっぷりと楽しもうではないか」
連続でバリスタの弾を発射され、私の口内に侵入すると同時に中で爆発を起こす。
『痛いいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ』
外側から貫通されるのとは違い、内部は体の構造的に弱い部分が多い。今まで以上の痛みと苦しみを覚え、絶叫せずにはいられなかった。
意識が次第に遠ざかり、気が付くと地面に倒れていた。
「ワシの仕事はここまでだ。地上に引き摺り出した以上は、リュシアンたちハンターの仕事だ」
「ベルトラムさんありがとうございます」
リュシアンたちが武器を構えて近付く。私は力を振り絞って立ち上がり、尻尾を横薙ぎにしてあいつらにテールアタックを放つ。
しかし、ダメージを受けすぎたこの肉体では素早く動くことができなかった。
簡単に躱され、誰一人としてダメージを与えることができない。
くそう。くそう。くそう。どうしてこうなってしまったの! 奇跡が起きて私は完全なる龍の姿になった。完全に上等生物になれた時点で、私の勝利は確約されたようなものだったのに!
これも全てあのベルトラムとかいうハゲのせいよ。あいつが来なければ、私がこんなに苦戦することはなかった。
迫り来るリュシアンたちを近付けさせないように炎を吐こうとする。
しかし、出るのは小さな炎だった。それもあいつらに当たる前に霧散して消える。
嘘! どうして炎が出ないの! 今までこんなことなかったって言うのに!
いったい何が起きているのかがわからないでいると、その原因がすぐに明らかになる。
物凄い空腹感に包まれ、すぐに何かを食べないといけないと思ってしまった。
この症状、もしかして飢餓状態!
耐え難い空腹感に襲われ、口から涎がダラダラと流れてしまう。
いや、やめて。止まってよ! こんな私を見ないで!
「アイリスがスタミナ切れを起こしている! 早く倒さないと他のモンスターを食べて回復されてしまう」
そうだった。飢餓状態は肉を食べれば治る。モンスターを食べるなんてグロテスクな行為だけど、背に腹はかえられないわ。
まさか敵に塩を送られるとは思ってもいなかったけど、その情報をありがたく有効利用させてもらいましょう。
リュシアンたちに背を向けて、隣のエリアに向かおうとする。
隣のエリアからモンスターの匂いが漂ってきた。
ああ、早く食べてこの空腹を満たさないと気が狂いそうだわ。
移動を開始しようと足を一歩前に踏み出した。その時、急に体が重く感じ、まともに歩けないことに気付く。
体が重い。足を引き摺りながらじゃないと前に進めないわ。
この現象、モンスターが命の危険性を感じて逃げようとするときに似ている。
もしかして私は死にかけているの? このままじゃまずい。早く安全な場所に移動しなければ。
力を振り絞り、両翼を羽ばたかせて空に舞い上がる。
飛んで逃げる力が残されていると思っていなかったようで、あいつらはその場で固まり、追撃をしてこない。
呆気に取られている内に何とか逃げることができそうね。でも、体の傷の具合からしても、隣の八番エリアに移動するのが限界そう。
力の限り両翼を羽ばたかせて八番エリアに移動する。
「アイリス、ここにおったのか! 龍の姿になったとしても、ワシには分かるぞ!」
この体でも姿を隠せる場所を上空から探していると、お爺様の声が聞こえた。
『お爺様!』
肉親である彼の顔を見た瞬間、私は安心した。お爺様なら龍から人に変わる全てを知っているはず。人の姿に戻れば、いくらでも隠れる方法があるわ。
『お爺様助けて! 人間に戻るにはどうしたらいいの!』
八番エリアに降りると、人の姿に戻る方法を訊ねる。
「そうか。なら、ワシが戻してくれよう」
私の体にお爺様が触れる。その瞬間体が光り、気が付くと元の人間の姿に戻っていた。
「お爺様ありが……え?」
急に腹部に痛みが走り、視線を下げる。
お爺様の腕が私のお腹を貫いていた。
「お前を人間に戻したのは、殺した後に燃やしやすいからだ。お前のような欠陥品などもういらない。良かったな。大好きな両親に会えるぞ」
その言葉を最後に、私の意識は遠のいた。
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