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第十一章
第七話 ハンターは殺戮者?
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突然セイレーンの背後に女の子が現れ、俺は驚く。
水色の髪をサイドテールにしている女の子だ。うっすらと化粧をしており、綺麗な肌を見るに、どこかの上流階級の令嬢のようにも思える。
寸前まで気配に気付かなかった。この女の子はいったい?
「アイリス! どうしてあなたがこんなところにいるの!」
女の子の正体を考えていると、テレーゼが彼女の名を叫ぶ。
「どうしても何も、このセイレーンがあなたを倒すところを見届けに来たのよ。でも、結果は返り討ちに遭って、同族を倒したテレーゼも心を痛めていない。本当に作戦失敗だわ」
「もしかして、あの依頼書は!」
「そうよ。私が送ったのよ。あなたが二度と歌姫として活動ができないようにね」
自分が依頼者だと暴露したアイリスは、横たわっているセイレーンの死体に足を乗せる。
「テレーゼを倒せなくとも、同族を殺した負い目で精神を崩壊させようかと思ったけど、余計なやつもいるせいで私の計画が台無しだわ。本当にこのセイレーンは使えないわね。何が九十九人を食った強者よ。全然クソザコだったじゃない」
まるでストレスを発散させるかのように、アイリスは何度も人魚の死体を踏み付ける。
「止めろ! これ以上魂の抜け殻を傷付けるな!」
思わず声を上げてしまう。だが彼女は俺の制止の声に耳を傾けようとはしなかった。
何度も人魚の亡骸を踏み付け、蹴り、暴行を加え続ける。
「それ以上は止めろ! 死者への冒涜だぞ!」
もう一度声を上げる。今度は彼女の耳にも届いたようで、人魚に足を乗せたまま動きを止めた。
「死者への冒涜? 何を言っているのよ。ハンターであるあなたたちだけには言われたくないわ。殺したモンスターを剥ぎ取って、武器や防具に加工しているあなたたちにはね!」
アイリスの言うように、モンスターの素材を使って武器や防具にするのはモンスターへの冒涜かもしれない。だけど、俺たちは野蛮に生き物の命を奪っている訳ではない。命を奪いつつも常に感謝の気持ちは忘れていない。
それにモンスターの素材を使って、装備品にするのにはちゃんとした理由がある。
素材を武器や防具に加工して身に着けることで、己を戒めることにつながっている。
俺たち人間の暮らしは、モンスターの命をいただいているからこそ成り立っている。モンスターがいるからこそ、俺たちは生きていけるのだと。
モンスターに対して感謝し、時には討伐して生態系を守ることで、その土地に住むモンスターに恩返しをしている。
「確かに君の言うとおり、見方によっては死者への冒涜になるかもしれない。だけど討伐したモンスターを素材にするのは奪った命を無駄にしないためだ。人々や生態系を守るために活用し、世界の秩序と平和を守るためにやっていることだ」
声を上げて自分たちがやっていることは間違いではないと宣言する。
すると、女の子は歯を食い縛りながら水色の瞳で俺を睨みつけてくる。
「何が世界の秩序と平和を守るためよ。言葉巧みに使って殺戮を正当化しているだけじゃない。ハンターなんて殺戮者の何者でもないわよ! もう良いわ! テレーゼだけをターゲットにしようかと思っていたけど、あなたも加えて上げる」
俺に指を向け、アイリスは宣言する。すると彼女の背中から翼竜のような翼が生え、空高くへと舞い上がり、そのまま姿を消した。
背中に翼竜の翼が生える女の子、もしかして彼女の正体は!
確認をしようと振り向いてテレーゼを見る。彼女はその場で座り込み、顔を俯かせていた。
テレーゼはあの女の子のことを知っている。そして彼女からレイレーンを利用して、自分の命を狙っていた事実を知ったのだ。相当凹んでいるに違いない。
「テレーゼ、大丈夫か」
「平気よ。少し疲れてしまっただけだから」
言葉では問題ないと言っているが、声のトーンがいつもと違うことは瞬時に分かった。
テレーゼの様子を見る限り、あのアイリスとか言う女の子は、彼女にとって特別な存在だったのかもしれないな。
「なぁ、良ければあのアイリスとか言う女の子のことを教えてくれないか?」
「そうね。リュシアンも倒すと宣告されたし、話していたほうが良いかもしれないわね」
顔を俯かせながら、テレーゼはアイリスについて語り始める。
「あの子とは昔ユニットを組んでいたことがあったのよ。同じ半人半魔であることが共通点で息が合っていたわ」
やっぱりあの翼竜の翼は半人半魔の証だったのか。つまり、あの子は龍と人との間に生まれた子供。
でも、テレーゼの話ではとても仲が良さそうなのに、どうしてテレーゼの命を狙うようになったんだ?
新たな疑問が頭に浮かぶ中、テレーゼの言葉に耳を傾ける。
「アイリスは元気で明るく、あたしの大切な友でもあると同時にライバルでもあったの。だけどある日、突然あたしと組むのを止めると言って、ユニットを解散することになった。それからお互いにソロで活動して、それ以来顔も合わせたこともないわ」
アイリスの方からユニットの解散を告げた。その事が何か関係がありそうだな。
「ユニットを組んでいたとき、人気は常にあたしが上回っていたわ。そしてソロで活動した後も、世界の歌姫ランキングで常にナンバーツー、あたしの下を常にキープしていたわ」
彼女の言葉に、思わず苦笑いが溢れた。
もしかして、自分よりも人気のあるテレーゼを妬んで、彼女の命を狙っている訳ではないよな。
もしそうなら、動機としてはつまらなさすぎる。
俯いていたテレーゼが顔を上げると立ち上がった。
「あたしはもう一度アイリスに合って、真相を確かめたい。あの子が変わったのには何かがあるはずよ。お願いリュシアン、あたしに力を貸して!」
彼女の真剣な眼差しが俺に向けられる。
テレーゼは本気だ。彼女の目は何が起きても事実を受け止めると言う熱い意志が感じられた。
「分かった。どう言うわけか、俺もターゲットの一人になってしまったからな。俺も協力させてもらう。だけどまずはセイレーン討伐の報告をしないといけないよな」
そう思っていると、新たな疑問が浮かんだ。
セイレーンの討伐の依頼者はアイリスだった。だけど彼女は俺たちの命を狙っている敵だ。本当に報酬をくれるのかが怪しいものだ。
「おっとそうだった。光金魚の依頼も済ませておかないといけなかったな」
「そうね。あたしの依頼が終わった以上は、リュシアンの依頼も手伝わないと」
「光金魚? あ、それなら今晩のおかずにしようと思って捕えていたものがあるから、お礼にそれを一匹あげるわ。ちょっと待っていてね」
今まで静観していたロザリーさんが会話に加わり、光金魚を持って来ると言うと水の中にダイブしてどこかに泳いでいく。
そして数分後に戻って来ると、彼女の手には金色に光る魚が摘まれていた。
尾鰭を摘まれた魚は体を左右にくねらせ、彼女の手から逃れようと必死だ。
「今朝捕まえたばかりだから新鮮よ。生で食べるのもよし、焼いて食べるのもよし、脂が乗っていて美味しいから」
「ありがとうございます」
俺が食べるわけではないのだけどなぁ。
ロザリーさんから光金魚を受け取ってポーチの中にしまうと、俺たちは別れを告げてギルドに帰った。
水色の髪をサイドテールにしている女の子だ。うっすらと化粧をしており、綺麗な肌を見るに、どこかの上流階級の令嬢のようにも思える。
寸前まで気配に気付かなかった。この女の子はいったい?
「アイリス! どうしてあなたがこんなところにいるの!」
女の子の正体を考えていると、テレーゼが彼女の名を叫ぶ。
「どうしても何も、このセイレーンがあなたを倒すところを見届けに来たのよ。でも、結果は返り討ちに遭って、同族を倒したテレーゼも心を痛めていない。本当に作戦失敗だわ」
「もしかして、あの依頼書は!」
「そうよ。私が送ったのよ。あなたが二度と歌姫として活動ができないようにね」
自分が依頼者だと暴露したアイリスは、横たわっているセイレーンの死体に足を乗せる。
「テレーゼを倒せなくとも、同族を殺した負い目で精神を崩壊させようかと思ったけど、余計なやつもいるせいで私の計画が台無しだわ。本当にこのセイレーンは使えないわね。何が九十九人を食った強者よ。全然クソザコだったじゃない」
まるでストレスを発散させるかのように、アイリスは何度も人魚の死体を踏み付ける。
「止めろ! これ以上魂の抜け殻を傷付けるな!」
思わず声を上げてしまう。だが彼女は俺の制止の声に耳を傾けようとはしなかった。
何度も人魚の亡骸を踏み付け、蹴り、暴行を加え続ける。
「それ以上は止めろ! 死者への冒涜だぞ!」
もう一度声を上げる。今度は彼女の耳にも届いたようで、人魚に足を乗せたまま動きを止めた。
「死者への冒涜? 何を言っているのよ。ハンターであるあなたたちだけには言われたくないわ。殺したモンスターを剥ぎ取って、武器や防具に加工しているあなたたちにはね!」
アイリスの言うように、モンスターの素材を使って武器や防具にするのはモンスターへの冒涜かもしれない。だけど、俺たちは野蛮に生き物の命を奪っている訳ではない。命を奪いつつも常に感謝の気持ちは忘れていない。
それにモンスターの素材を使って、装備品にするのにはちゃんとした理由がある。
素材を武器や防具に加工して身に着けることで、己を戒めることにつながっている。
俺たち人間の暮らしは、モンスターの命をいただいているからこそ成り立っている。モンスターがいるからこそ、俺たちは生きていけるのだと。
モンスターに対して感謝し、時には討伐して生態系を守ることで、その土地に住むモンスターに恩返しをしている。
「確かに君の言うとおり、見方によっては死者への冒涜になるかもしれない。だけど討伐したモンスターを素材にするのは奪った命を無駄にしないためだ。人々や生態系を守るために活用し、世界の秩序と平和を守るためにやっていることだ」
声を上げて自分たちがやっていることは間違いではないと宣言する。
すると、女の子は歯を食い縛りながら水色の瞳で俺を睨みつけてくる。
「何が世界の秩序と平和を守るためよ。言葉巧みに使って殺戮を正当化しているだけじゃない。ハンターなんて殺戮者の何者でもないわよ! もう良いわ! テレーゼだけをターゲットにしようかと思っていたけど、あなたも加えて上げる」
俺に指を向け、アイリスは宣言する。すると彼女の背中から翼竜のような翼が生え、空高くへと舞い上がり、そのまま姿を消した。
背中に翼竜の翼が生える女の子、もしかして彼女の正体は!
確認をしようと振り向いてテレーゼを見る。彼女はその場で座り込み、顔を俯かせていた。
テレーゼはあの女の子のことを知っている。そして彼女からレイレーンを利用して、自分の命を狙っていた事実を知ったのだ。相当凹んでいるに違いない。
「テレーゼ、大丈夫か」
「平気よ。少し疲れてしまっただけだから」
言葉では問題ないと言っているが、声のトーンがいつもと違うことは瞬時に分かった。
テレーゼの様子を見る限り、あのアイリスとか言う女の子は、彼女にとって特別な存在だったのかもしれないな。
「なぁ、良ければあのアイリスとか言う女の子のことを教えてくれないか?」
「そうね。リュシアンも倒すと宣告されたし、話していたほうが良いかもしれないわね」
顔を俯かせながら、テレーゼはアイリスについて語り始める。
「あの子とは昔ユニットを組んでいたことがあったのよ。同じ半人半魔であることが共通点で息が合っていたわ」
やっぱりあの翼竜の翼は半人半魔の証だったのか。つまり、あの子は龍と人との間に生まれた子供。
でも、テレーゼの話ではとても仲が良さそうなのに、どうしてテレーゼの命を狙うようになったんだ?
新たな疑問が頭に浮かぶ中、テレーゼの言葉に耳を傾ける。
「アイリスは元気で明るく、あたしの大切な友でもあると同時にライバルでもあったの。だけどある日、突然あたしと組むのを止めると言って、ユニットを解散することになった。それからお互いにソロで活動して、それ以来顔も合わせたこともないわ」
アイリスの方からユニットの解散を告げた。その事が何か関係がありそうだな。
「ユニットを組んでいたとき、人気は常にあたしが上回っていたわ。そしてソロで活動した後も、世界の歌姫ランキングで常にナンバーツー、あたしの下を常にキープしていたわ」
彼女の言葉に、思わず苦笑いが溢れた。
もしかして、自分よりも人気のあるテレーゼを妬んで、彼女の命を狙っている訳ではないよな。
もしそうなら、動機としてはつまらなさすぎる。
俯いていたテレーゼが顔を上げると立ち上がった。
「あたしはもう一度アイリスに合って、真相を確かめたい。あの子が変わったのには何かがあるはずよ。お願いリュシアン、あたしに力を貸して!」
彼女の真剣な眼差しが俺に向けられる。
テレーゼは本気だ。彼女の目は何が起きても事実を受け止めると言う熱い意志が感じられた。
「分かった。どう言うわけか、俺もターゲットの一人になってしまったからな。俺も協力させてもらう。だけどまずはセイレーン討伐の報告をしないといけないよな」
そう思っていると、新たな疑問が浮かんだ。
セイレーンの討伐の依頼者はアイリスだった。だけど彼女は俺たちの命を狙っている敵だ。本当に報酬をくれるのかが怪しいものだ。
「おっとそうだった。光金魚の依頼も済ませておかないといけなかったな」
「そうね。あたしの依頼が終わった以上は、リュシアンの依頼も手伝わないと」
「光金魚? あ、それなら今晩のおかずにしようと思って捕えていたものがあるから、お礼にそれを一匹あげるわ。ちょっと待っていてね」
今まで静観していたロザリーさんが会話に加わり、光金魚を持って来ると言うと水の中にダイブしてどこかに泳いでいく。
そして数分後に戻って来ると、彼女の手には金色に光る魚が摘まれていた。
尾鰭を摘まれた魚は体を左右にくねらせ、彼女の手から逃れようと必死だ。
「今朝捕まえたばかりだから新鮮よ。生で食べるのもよし、焼いて食べるのもよし、脂が乗っていて美味しいから」
「ありがとうございます」
俺が食べるわけではないのだけどなぁ。
ロザリーさんから光金魚を受け取ってポーチの中にしまうと、俺たちは別れを告げてギルドに帰った。
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