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第十一章
第六話 セイレーン討伐からの……
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俺はブーメランと化した双剣を投げると、セイレーンに向けて飛んでいく。
ロザリーさんが押さえてくれていたお陰で、刃がモンスターの肉体を切り裂く。
『キシャアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!』
セイレーンが悲鳴を上げる。モンスターの声が響く中、ブーメランは手元に戻ってきた。
よし、上手く相手の意識が向いていない場所からの攻撃に成功した。だけど、今ので俺が生きていたことが相手にも分かったはずだ。
このまま投げたとしても、刃が風を切る音で気付かれる。
一番良いのは接近戦だ。だけど、テレーゼたちが陸の上での戦闘は危険だと言っている。だけど、そもそもどうしてそれがダメなんだ?
「テレーゼ、どうして陸の上での戦闘が悪手なんだ?」
「それは、セイレーンの歌声を聴くと眠ってしまうからなのよ」
「なら、テレーゼがくれた耳栓をすれば良いじゃないか」
解決策を提案すると、彼女は首を横に振る。
「あたしがあげた耳栓でも、完全には防ぐことができないと思うの。もし、眠ってしまえば簡単には目を覚まさないわ。仮に自分の体を傷付けて眠気を失くそうとしても。効果はない。ただ、水の中に潜ればセイレーンの歌声を遮断することができる」
なるほど、そういう事情があったのか。でも、それは水にいる状態でも条件は同じだ。確かに水の中にいれば直ぐに潜って回避することは可能だろう。だけど俺は、睡眠を促す歌声の予備動作を知らない。
そんな状態で水の中にいて、万が一にも歌声を聞いた場合、そのまま水の底に落ちてしまう。そっちの方が危険だ。
「『できないと思う』だろう? だったら確定じゃない。俺はテレーゼにもらった耳栓を信じる」
ポーチから耳栓を取り出し、耳に嵌める。そしてセイレーンに向かって走った。
睡眠を促す歌声の予備動作が、いったいどんなものなのか分からない。だけど今となってはそんなことはどうでもいい。とにかくセイレーンを倒すことを第一に考える。
ブーメランを双剣に戻し、ポーチの中にしまう。そして鞘から太刀を抜き、モンスターの尾鰭に刃を振り下ろす。
刃がモンスターの肉体を傷付け、セイレーンが顔を上げた。その表情は苦痛により声を上げているように見える。
『――――ラララ~』
やつは俺の方に顔を向けて口を開けた瞬間、今までのセイレーンとは違う声が耳に届く。
耳栓をしているのに音が聞こえてくる。こいつが眠気を促す歌声か。
テレーゼは自身の体を傷付けても眠気は吹き飛ばないと言っていた。だけど、自分の目で確かめないと納得できない。
右手で右頬を抓ってみる。痛みを感じた瞬間、眠気が引いたような気がした。
思ったとおりだ。耳栓のお陰で歌声の効力が激減している。
やつの歌を聞くと脳に睡眠物質が蓄積され、神経を経由して脳の睡眠を司る視床下部に伝わる。視床下部にある別の神経系が活発になると、脳内にある物質を抑制するため、眠くなるというわけだ。
そして脳は意外と単純で、複数の感覚が一緒に来ると、優先順位をつける機能がある。
感覚の優先順位は一番に運動、二番触覚、三番痛み、四番冷覚、五番かゆみだ。
これらの感覚が同時に感じると上位の者を優先的に感じようとする。
すなわち、いくら眠気を感じていたところで、優先度の高い運動をしていれば眠気を感じないと言う訳だ。
だけどこんな状況を作り出せたのも、テレーゼの耳栓のお陰だ。特別な耳栓を使っていなければ、こうはいかなかったはず。
恐れるものはなくなった。このまま攻撃を続行する。
もう一度太刀を振り下ろす。再びセイレーンの尾鰭が切り裂かれ、鮮血が噴き出した。
よし、このままダメージを蓄積させていく。
モンスターに猛攻を浴びせる中、視界の端に赤い髪を内巻きモテロングにしている女の子が映った。
テレーゼも槍で攻撃に参加してくれている。ロザリーさんが押さえ付けて行動に制限をかけている今がチャンスだ。
そう思っていると、セイレーンは尾鰭を左右に振り、薙ぎ払う。
つい攻撃に集中していた俺は吹き飛ばされてしまった。
油断したな。だけど簡単に地面に倒れてやるかよ。
仰向けの状態で地面に接触する前に両手を地面につける。そして腕に力を入れて腕力だけで空中に跳ぶと体を一回転して大地に着地した。
周辺の状況を確認する。今の一撃でテレーゼもロザリーさんも転倒していたが、直ぐに起き上がってくれた。
あれ? 片方耳栓がない。
アクロバットな行動をしたからか、右耳に嵌めていた耳栓が外れてしまった。
足元を見ると、テレーゼから貰った耳栓が落ちている。
『キシャア! キシャ、キシャ、キシャー!』
セイレーンの声が聞こえ、モンスターを見る。やつは俺に指を向け何かを訴えている様子だ。
「そんなこと決まっているじゃないのよ。リュシアンは世界一のハンターなんだから。あんたの歌声なんかが効く訳がないでしょう。」
半人半魔であるからか、テレーゼにはセイレーンの言葉が分かるみたいだな。
だけど、彼女の作戦は有効だ。少し俺を持ち上げすぎのような気がするが、耳栓のことを話さず、俺が特別な存在だから無効化できると嘘を付けば、相手は動揺して動きが鈍くなる。
嘘だと信じたいだろうが、実際に現実で起きている以上は認めるしかない。奥の手が通用しない相手には恐怖が芽生えてしまうものだ。
完全に俺たちが優勢だ。
落とした耳栓を拾い、耳に装着すると地を蹴って駆け出す。
モンスターの口が開いて何かを訴えているようだが、戦闘形態のセイレーンの言葉は耳栓をしていなかったとしても通じない。
「そろそろ終わりにしよう」
今の時間帯は太陽の位置が一番高く、気温も上昇中だ。これなら良い風が吹いてくれる。
柄に嵌めてある風の属性玉を使い、風を生み出す。
直射日光により、温められた地面から上昇気流が発生し、周囲から強風が吹きこむ。すると渦巻き状に回転が強まった塵旋風が発生した。
小型モンスターなら簡単に吹き飛ばされる代物だが、セイレーンは大きい。吹き飛ばすことはムリでも目隠しには使える。
塵旋風の陰に隠れながらセイレーンに近づくと、やつは風の渦に飲み込まれる。だが、塵旋風が遠ざかると同時にモンスターの姿が見えた。
やっぱり吹き飛ばすようなことはできないよな。でも、風の渦の中では酸素が薄く、まともに呼吸ができない。
新鮮な酸素を肺に取り込むためにも、隙を作る必要がある。
セイレーンが間合いに入ると、地を蹴って思いっきり跳躍し、太刀を振り下ろす。
その瞬間、セイレーンは口を大きく開ける。
耳栓のせいで聞こえないが、きっと断末魔の悲鳴を上げているのだろう。
モンスターが倒れると、セイレーンは人魚の姿に戻っていく。
彼女は地面に倒れたままピクリとも動かなかった。
「討伐完了」
耳に嵌めていた耳栓を外し、ポーチにしまう。
「リュシアン!」
「リュシアン君」
戦闘が終わり、テレーゼと人魚の姿に戻ったロザリーさんが俺のところに駆け寄ってきた。
「あんなすごい風を生み出すなんて、リュシアンは本当に凄いわ!」
「まさかあんな凄技を持っていたなんて驚きよ」
「いや、あれはたまたまだよ。色々な条件が偶然にも重なっていたからこそできた芸当だ」
「でも、色々な条件がある中で瞬時に今だと判断できるなんて凄いわよ。さすがあたしのリュシアンね」
テレーゼが笑みを向ける。
まぁ、ここは素直に彼女たちの賞賛を受け取っておくか。
「このセイレーンだけど、どうしましょうか? ロザリーさん」
テレーゼの母親に声をかけたところで、何者かの気配がした。
「あーあ、せっかくこの女を口車に乗せてテレーゼを倒そうと思っていたのに、返り討ちにされるなんて期待した私がバカだったわ」
突然聞き覚えのない女の声が聞こえ、顔を向ける。
地面に倒れているセイレーンの背後に見知らぬ女の子がいた。
ロザリーさんが押さえてくれていたお陰で、刃がモンスターの肉体を切り裂く。
『キシャアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!』
セイレーンが悲鳴を上げる。モンスターの声が響く中、ブーメランは手元に戻ってきた。
よし、上手く相手の意識が向いていない場所からの攻撃に成功した。だけど、今ので俺が生きていたことが相手にも分かったはずだ。
このまま投げたとしても、刃が風を切る音で気付かれる。
一番良いのは接近戦だ。だけど、テレーゼたちが陸の上での戦闘は危険だと言っている。だけど、そもそもどうしてそれがダメなんだ?
「テレーゼ、どうして陸の上での戦闘が悪手なんだ?」
「それは、セイレーンの歌声を聴くと眠ってしまうからなのよ」
「なら、テレーゼがくれた耳栓をすれば良いじゃないか」
解決策を提案すると、彼女は首を横に振る。
「あたしがあげた耳栓でも、完全には防ぐことができないと思うの。もし、眠ってしまえば簡単には目を覚まさないわ。仮に自分の体を傷付けて眠気を失くそうとしても。効果はない。ただ、水の中に潜ればセイレーンの歌声を遮断することができる」
なるほど、そういう事情があったのか。でも、それは水にいる状態でも条件は同じだ。確かに水の中にいれば直ぐに潜って回避することは可能だろう。だけど俺は、睡眠を促す歌声の予備動作を知らない。
そんな状態で水の中にいて、万が一にも歌声を聞いた場合、そのまま水の底に落ちてしまう。そっちの方が危険だ。
「『できないと思う』だろう? だったら確定じゃない。俺はテレーゼにもらった耳栓を信じる」
ポーチから耳栓を取り出し、耳に嵌める。そしてセイレーンに向かって走った。
睡眠を促す歌声の予備動作が、いったいどんなものなのか分からない。だけど今となってはそんなことはどうでもいい。とにかくセイレーンを倒すことを第一に考える。
ブーメランを双剣に戻し、ポーチの中にしまう。そして鞘から太刀を抜き、モンスターの尾鰭に刃を振り下ろす。
刃がモンスターの肉体を傷付け、セイレーンが顔を上げた。その表情は苦痛により声を上げているように見える。
『――――ラララ~』
やつは俺の方に顔を向けて口を開けた瞬間、今までのセイレーンとは違う声が耳に届く。
耳栓をしているのに音が聞こえてくる。こいつが眠気を促す歌声か。
テレーゼは自身の体を傷付けても眠気は吹き飛ばないと言っていた。だけど、自分の目で確かめないと納得できない。
右手で右頬を抓ってみる。痛みを感じた瞬間、眠気が引いたような気がした。
思ったとおりだ。耳栓のお陰で歌声の効力が激減している。
やつの歌を聞くと脳に睡眠物質が蓄積され、神経を経由して脳の睡眠を司る視床下部に伝わる。視床下部にある別の神経系が活発になると、脳内にある物質を抑制するため、眠くなるというわけだ。
そして脳は意外と単純で、複数の感覚が一緒に来ると、優先順位をつける機能がある。
感覚の優先順位は一番に運動、二番触覚、三番痛み、四番冷覚、五番かゆみだ。
これらの感覚が同時に感じると上位の者を優先的に感じようとする。
すなわち、いくら眠気を感じていたところで、優先度の高い運動をしていれば眠気を感じないと言う訳だ。
だけどこんな状況を作り出せたのも、テレーゼの耳栓のお陰だ。特別な耳栓を使っていなければ、こうはいかなかったはず。
恐れるものはなくなった。このまま攻撃を続行する。
もう一度太刀を振り下ろす。再びセイレーンの尾鰭が切り裂かれ、鮮血が噴き出した。
よし、このままダメージを蓄積させていく。
モンスターに猛攻を浴びせる中、視界の端に赤い髪を内巻きモテロングにしている女の子が映った。
テレーゼも槍で攻撃に参加してくれている。ロザリーさんが押さえ付けて行動に制限をかけている今がチャンスだ。
そう思っていると、セイレーンは尾鰭を左右に振り、薙ぎ払う。
つい攻撃に集中していた俺は吹き飛ばされてしまった。
油断したな。だけど簡単に地面に倒れてやるかよ。
仰向けの状態で地面に接触する前に両手を地面につける。そして腕に力を入れて腕力だけで空中に跳ぶと体を一回転して大地に着地した。
周辺の状況を確認する。今の一撃でテレーゼもロザリーさんも転倒していたが、直ぐに起き上がってくれた。
あれ? 片方耳栓がない。
アクロバットな行動をしたからか、右耳に嵌めていた耳栓が外れてしまった。
足元を見ると、テレーゼから貰った耳栓が落ちている。
『キシャア! キシャ、キシャ、キシャー!』
セイレーンの声が聞こえ、モンスターを見る。やつは俺に指を向け何かを訴えている様子だ。
「そんなこと決まっているじゃないのよ。リュシアンは世界一のハンターなんだから。あんたの歌声なんかが効く訳がないでしょう。」
半人半魔であるからか、テレーゼにはセイレーンの言葉が分かるみたいだな。
だけど、彼女の作戦は有効だ。少し俺を持ち上げすぎのような気がするが、耳栓のことを話さず、俺が特別な存在だから無効化できると嘘を付けば、相手は動揺して動きが鈍くなる。
嘘だと信じたいだろうが、実際に現実で起きている以上は認めるしかない。奥の手が通用しない相手には恐怖が芽生えてしまうものだ。
完全に俺たちが優勢だ。
落とした耳栓を拾い、耳に装着すると地を蹴って駆け出す。
モンスターの口が開いて何かを訴えているようだが、戦闘形態のセイレーンの言葉は耳栓をしていなかったとしても通じない。
「そろそろ終わりにしよう」
今の時間帯は太陽の位置が一番高く、気温も上昇中だ。これなら良い風が吹いてくれる。
柄に嵌めてある風の属性玉を使い、風を生み出す。
直射日光により、温められた地面から上昇気流が発生し、周囲から強風が吹きこむ。すると渦巻き状に回転が強まった塵旋風が発生した。
小型モンスターなら簡単に吹き飛ばされる代物だが、セイレーンは大きい。吹き飛ばすことはムリでも目隠しには使える。
塵旋風の陰に隠れながらセイレーンに近づくと、やつは風の渦に飲み込まれる。だが、塵旋風が遠ざかると同時にモンスターの姿が見えた。
やっぱり吹き飛ばすようなことはできないよな。でも、風の渦の中では酸素が薄く、まともに呼吸ができない。
新鮮な酸素を肺に取り込むためにも、隙を作る必要がある。
セイレーンが間合いに入ると、地を蹴って思いっきり跳躍し、太刀を振り下ろす。
その瞬間、セイレーンは口を大きく開ける。
耳栓のせいで聞こえないが、きっと断末魔の悲鳴を上げているのだろう。
モンスターが倒れると、セイレーンは人魚の姿に戻っていく。
彼女は地面に倒れたままピクリとも動かなかった。
「討伐完了」
耳に嵌めていた耳栓を外し、ポーチにしまう。
「リュシアン!」
「リュシアン君」
戦闘が終わり、テレーゼと人魚の姿に戻ったロザリーさんが俺のところに駆け寄ってきた。
「あんなすごい風を生み出すなんて、リュシアンは本当に凄いわ!」
「まさかあんな凄技を持っていたなんて驚きよ」
「いや、あれはたまたまだよ。色々な条件が偶然にも重なっていたからこそできた芸当だ」
「でも、色々な条件がある中で瞬時に今だと判断できるなんて凄いわよ。さすがあたしのリュシアンね」
テレーゼが笑みを向ける。
まぁ、ここは素直に彼女たちの賞賛を受け取っておくか。
「このセイレーンだけど、どうしましょうか? ロザリーさん」
テレーゼの母親に声をかけたところで、何者かの気配がした。
「あーあ、せっかくこの女を口車に乗せてテレーゼを倒そうと思っていたのに、返り討ちにされるなんて期待した私がバカだったわ」
突然聞き覚えのない女の声が聞こえ、顔を向ける。
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