ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳

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第十一章

第三話 娘がお世話になっています。テレーゼの母です。

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「セイレーンがもう一体現れた!」

 報告にあったセイレーンを発見して近付いた瞬間、もう一体のセイレーンがやってきた。

 二体いるなんて依頼書には書かれてなかったぞ。

 どうする? ここは一旦退いて作戦を練り直すか?

 悩んでいると、接近してきたセイレーンが立ち止まり、モンスター同士で睨み合っている。

『キシャア!』

『キシャア!』

 二体のセイレーンは違いに声を上げ、睨み合っている様子だ。

 もしかしてこいつらは争っているのか? でも、セイレーン同士で戦うなんて聞いたことがないぞ。

 他種族のモンスター同士なら、縄張り争いで戦うこともある。だが、セイレーンは基本的に同族同士で争うことはない。

 様子を伺っていると、セイレーン同士で戦いを始めた。

 互いに平手打ちで頬を叩き合い、時には鋭い歯で噛み付き合いながら体をくねらせる。

 モンスターが暴れ、水飛沫が上がると小さい津波が発生した。

 テレーゼの前に移動して両手を広げると、三十センチほどの津波を顔面に受ける。

リュシアンピグレット!」

「大丈夫だ。これくらい大したことはない」

 問題ないと彼女に言いつつ、二体のセイレーンをもう一度見る。

 どうしてセイレーン同士が戦っているのか分からない。だけどここは、一度この場から離れた方が良さそうだな。

「一旦ここから離れよう。戦いに巻き込まれて水の底に沈められては、命の危険につながる」

「分かったわ」

 俺たちは急いで泳ぎ、モンスターたちから距離を置く。

 安全圏まで避難して振り返ると、セイレーンたちはまだ戦っていた。

 どうなっているのか分からないが、現状を整理しよう。

 俺たちはセイレーンを発見したが、もう一体のセイレーンが現れて同士討ちを始めた。基本的にセイレーンは、同族同士で争わない。だけど争いが起きた以上は、何らかのイレギュラーが発生していると言うことだ。

 いったいセイレーンたちの間で何が起きているんだ?

 何か手がかりになりそうなものはないかと、遠目でモンスターを見る。すると、後から現れたセイレーンが倒れた。そしてその隙を突き、最初に発見した方のセイレーンがその場を離れ、エリア移動していく。

 どうする? 倒れたセイレーンに接触してみるか、それともエリア移動をした方のセイレーンを追いかけるべきか。

 頭の中で選択肢に悩んでいると、倒れたセイレーンが起き上がる。モンスターは首を左右に振って辺りを見渡すと、俺たちに気付いたようでこちらに向かってきた。

『キシャア!』

 今度は俺たちを狙うって訳か。水中戦はあまり得意ではないのだけどなぁ。

 太刀を抜こうと柄に手を添えた瞬間、テレーゼが俺の前に出た。

「お母様!」

 え? お母様?

 テレーゼが声を上げた瞬間、セイレーンは両手を広げて彼女を抱き締める。

 このセイレーンがテレーゼの母親だって!

 予想外の展開に驚いてしまう。

「鱗の感触が気持ち悪いから、早くその姿を変えてよ!」

 テレーゼが声を上げたその瞬間、セイレーンが光に包まれた。数秒が経過して光が消えると、先ほどのモンスターがいなくなる。

 そして赤いロングヘアーの女性が代わりにテレーゼを抱きしめていた。人と同じ肌色の皮膚に水掻きのない手はどこからどう見ても人だった。

 摩訶不思議な光景に、目を大きく見開く。

「久しぶりね、テレーゼ。あなたの元気な姿が見られてお母さん嬉しいわ」

「お母様も元気そうでなによりよ」

「えーと、これはどういうことですか? モンスターが人間になるなんて普通じゃないですよね」

 信じられない光景に言葉を失っていたが、ようやく声を出すことができたので訊ねる。

「あなたは? テレーゼの友達?」

 テレーゼの母親が、抱きしめている娘を解放すると訊ねてくる。

「彼はリュシアン。あたしが所属しているハンターギルドで一緒に働いているの」

「そうでしたか。娘がいつもお世話になっています。テレーゼの母です。娘が何か迷惑をかけてはいないでしょうか? この子元気すぎるところがありますし、傲慢で高飛車なところがあるので心配でして」

「いえ、いえ、迷惑なんてしていませんよ。寧ろテレーゼには助けてもらっていますので」

「お母様! リュシアンピグレットに変なことを言わないでよ!」

 苦笑いをしながらテレーゼの母親に答えると、テレーゼが声を上げる。

「え! ピグレット!」

 テレーゼが俺のあだ名を言った瞬間、彼女の母親が反応した。そして値踏みするかのように俺を見てきた。

 え? いったいどうした? 急にジロジロと見られているのだけど?

 全身を嘗め回すように見た後、テレーゼの母親はニッコリと笑みを浮かべた。

「うん、合格! あなたをテレーゼのピグレットとして認めましょう」

 え? あだ名を付けてもらうのに親の許可がいるの? セイレーンの世界ってそんなに変わった風習があるのか?

「やった! さすがお母様、ちゃんと見る目があるわね!」

 母親が認めてくれたことで、テレーゼはご満悦のようだ。

「ところでお母様、どうしてセイレーン同士で争っていたの? 同族同士で争うってことは、相当な理由があるのよね?」

「ええ、あのセイレーンは近付く男の人を襲って、片っ端から食べてしまうのよ。前回被害にあった男性が九十九人目で、もう少しで百人斬りを達成しそうなのよね。このままではセイレーンのイメージが変わってしまうわ」

「九十九人を食べた!」

 テレーゼの母親の言葉に驚かされる。

 確かにセイレーンは歌って船を難破し、人を襲って時には人肉を食べることもある。だけど、基本的には魚を主食として、人を食べることは滅多にない。

 それにどうして食べる相手が男性に限定されているんだ? 変異種なのだろうか?

 考えごとをしながらテレーゼを見ると、彼女は頬を朱に染めていた。

「テレーゼ、顔が赤いけど風邪でも引いたか?」

「え? だ、大丈夫! 何でもないわよ。それよりもこっち見ないでよ」

 心配して声をかけると、テレーゼは素早く首を横に振って風邪ではないと否定する。そして理不尽にも水を思いっきりかけられた。

 俺、彼女を怒らせることを言ったか? 普通に心配しただけだよな?

 女心が分からない中、もう一度あのセイレーンについて考えてみる。

 まずは一つでも多くの情報が必要だよな。そのためにもテレーゼのお母さんから話を聞かないと。

「テレーゼのお母さん。あのセイレーンは変異種なのですか? 男性ばかり襲って食べるってどう考えてもおかしいですよね」

「ロザリーで良いわよ。もしくは義母おかあさんでもいいわ。いえ、寧ろ義母さんと呼んで。あなたの義母になりたいから」

 あのセイレーンのことについて訊ねると、テレーゼのお母さんは自身の名前を言い、お母さんを推奨してくる。

「それじゃ、ロザリーさんで。もう一度訪ねますけど、あのセイレーンは変異種なのですか?」

「あら、意地悪? でも良いわ。いつかあなたを攻略して義母おかあさんと呼ばせてみせるから。えーと、あの女のことだったわよね。別に変異種ではないわ。他のセイレーンよりも見境がないだけだから」

 どうしてロザリーさんが、お母さんと呼ばせることに拘りを持っているのかは置いといて。あのセイレーンは変異種ではないのか。

 なら、特別な準備は必要なさそうだな。

 実際に人が襲われている以上は、あのセイレーンを野放しにしてはおけない。きっと、あの依頼の対象となっているのは、ロザリーさんが相手にしていたセイレーンで間違いないだろうな。

「実は俺たちもあのセイレーンを討伐する依頼を受けているのです。なので、協力させてください」
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