ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳

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第十一章

第一話 テレーゼ、親族の討伐

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~テレーゼ視点空



「それではみんなに、本日の依頼を配りますね。なんと、テレーゼには指名依頼が来ているのよ! 良かったわね」

 あたしことテレーゼは、ギルドマスターのエレーヌから依頼書を受け取った。

 やっ た!ついにあたしにも指名依頼が来るようになった!

 指名依頼は、ファンができた証のようなもの。知名度が上がって、ぜひあたしにやってもらいたいと思われたのね。

 これもリュシアンピグレットと一緒に何度か依頼を受けたお陰ね! 本当に彼には感謝しなくては。

 えーと、依頼者ファンは誰かしら?

 気分が高揚している中、あたしは依頼内容に目を通す。

『テレーゼ・フライヤー様、あなた様の活躍には目を見張るものがあります。さて、本題なのですが、ルーレヌ水没林にセイレーンが現れて困っています。そこでテレーゼ様には、セイレーンの討伐をお願い致します』

 セ、セイレーンの討伐!

 討伐依頼であり、尚且つその対象となるモンスターがセイレーンだと知り、あたしの心臓は早鐘を打っていた。

 セイレーンってもしかして、お母様ではないわよね!

 あたしはセイレーンと人間の間に生まれた半人半魔。半分モンスターの血が流れている。そのお陰で生まれながらに特殊能力を授かり、音の波を視認でき、声で攻撃することも可能となっている。

 仮にお母様ではなかったとしても、セイレーンはあたしにとって親族のようなもの。それを討伐しないといけないなんて。

「テレーゼどうした? 依頼を受け取ってから、何だか表情が暗いような気がするけど?」

 動揺が顔に出ていたのか、リュシアンピグレットが心配して声をかけてくれた。

 本当に彼は優しい。でも、この内容だけは彼に知られる訳にはいかない。もしあたしがセイレーンの討伐に行くことを知られれば、リュシアンピグレットはあたしの依頼に協力して、自分の依頼を後回しするに決まっている。

 これだけは知られる訳にはいかない。

「な、なんでもないわよ。初めての指名依頼で緊張しているだけだから。それじゃあ、あたしは一旦寮に帰って討伐の準備をして来るわね」

 今は一秒でもリュシアンピグレットの側には居たくない。

 そう思い、逃げる様にギルドから出て行った。

 自室に帰って扉を閉めると、その場で座り込む。

「どうしてこんな依頼があたしのところに来るのよ」

 本来であれば、こんなことで悩む必要はない。ハンターなのだから、依頼者の依頼を受けて遂行するだけ。だけど、今回ばかりは私情が絡んでくる。

 もし、リュシアンピグレットがあたしの立場だったらどうするのかしら?

 大切な人のことを考えていると、数週間前のことを思い出す。

 リュシアンピグレットは、昔いじめっ子だったゴッドヒルフに立ち向かい、モンスターと化した彼を涙ながらに倒した。モンスターとなったとは言え、知り合いを自らの手で倒したのだ。

 そしてユリヤも、トラウマ的存在だった姉に立ち向かい、勝負を挑んで成長している。

 このままでは、あたしだけがハンターとして成長しないで置いてけぼりになってしまう。

 そんなの嫌よ! このままではどんどん距離が開いてしまうなんて!

「二人とも成長しているのに、あたしだけがその場で足踏みしているのだけはダメ。一歩が小さくても、確実に前に進まないと」

 自分の頬を軽く叩き、気合を入れる。

 よし、覚悟は固まった。みんなに追い付くためにも、一歩を踏み出す。

 立ち上がって寮の扉を開ける。

 そこには黒い髪に黒い瞳の青年が立っていた。

リュシアンピグレットどうしてここに?」

「テレーゼの様子が変だったから、エレーヌさんから依頼内容を聞いたんだ。テレーゼ、本当に大丈夫なのか?」

 本当にリュシアンピグレットは優しいな。あたしの心情を察してくれている。だけど、こればかりは彼に頼ってばかりではいけない。あたしの手で解決しないと、何一つ成長できないから。

「大丈夫よ。それよりも退いてくれるかしら。今から討伐対象がいる場所に向かわないといけないから」

「退けない。テレーゼがムリしていることが分かった以上は、ここを通す訳にはいかない」

「退いてくれないのなら、退かすまでよ。アー!」

 思いっきり息を吸い込んで、痛みを感じる音波を彼に浴びせる。

 ごめんなさいリュシアンピグレット。これ以上あなたに頼る訳にはいかないのよ。あなたに甘えては、同じ様な依頼が来る度に心を痛めることになる。

 音波を浴びたようで、リュシアンピグレットは一歩後退した。

 今の内に彼の横を通り過ぎる!

 扉を閉めてリュシアンピグレットの横を通り過ぎようとした瞬間、あたしの腕が掴まれた。

 振り返って見ると、リュシアンピグレットがあたしの腕を掴んでいた。

 うそ! あたしの音波を浴びれば、体を動かすほど激痛を感じるはずなのに!

 手加減をした? ううん。あたしは自分のために、心を鬼にして本気で彼を攻撃した。それなのに、どうしてリュシアンピグレットはあたしの腕を掴むことができるのよ!

「離しなさい」

「離せる訳がないだろう。今のテレーゼの状態を見て、一人で行かせる訳にはいかない」

「この! 離しなさいよ! アー!」

 もう一度痛みを感じる音波を浴びせる。それなのに、彼は苦痛で顔を歪めることなく、真っ直ぐにあたしを見つめる。

 どうして、どうしてそこまでしてあたしを止めようとするのよ。これ以上大切な人を傷つけさせないで。

「気が済むまで攻撃すればいいさ。こんな痛み、今のテレーゼの心の痛みに比べればたいしたことはない」

 二度もあたしの音波を浴びながらも、リュシアンピグレットは唇を動かす。本来であれば気絶してもおかしくないはずなのに、それでも彼はあたしを止めることを止めなかった。

 そして気が付くと、あたしは彼に抱きしめられている。

「テレーゼ、君の本音を聞かせてくれ。今からロアリングフルートの剥ぎ取り勝負で得た、勝者の権限を使わせてもらう」

 そうだった。彼はあたしに何でも言うことを聞かせる権利を持っていたんだ。

 もし、ここで嘘を言えばリュシアンピグレットはあたしのことを嫌いになる。それだけは嫌!

「あたしこの依頼を受けたくない! どうしてこんな依頼があたしのところに来るのよ!」

 あたしは本音を彼に伝えた。様々な感情が昂ってしまったからか、目尻から涙が溢れ落ちていく。

リュシアンピグレット、あたしはどうしたらいいのよ。苦しい。助けて」

 ハンターとしてこれではいけないと分かっていながら、彼に縋らずにはいられなかった。

「任せろ。俺がどうにかしてみせる。テレーゼには俺がいる。だから安心しろ」

 彼の言葉を聞くと、不思議と心が落ち着いてくる。リュシアンピグレットと一緒なら、この先どんな困難が待ち受けようとも上手く行く。そう思わせる程の不思議なパワーを感じた。
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