ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳

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第十章

第十六話 契約期限切れ

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~リュシアン視点~



「嫌だああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 死にたくないいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 絶叫しながらモンスターの口に向かって行くステルヴィオの最後を、俺は見届ける。

 ヤギの口の中にステルヴィオが入った瞬間、口が閉じられた。

「痛いいいいいいいぃぃぃぃぃぃ! ぎゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ヤギは何度も咀嚼そしゃくしているようで、口が動く度に隙間から赤い液体が滴り落ちてくる。

「悪人には相応しい最後だったわね」

「野盗なんかしているあなたが言えたことではないですわよ」

「そうだな。そう言う訳だから」

 握っている太刀の刃先をベッキーの喉元に突き付ける。

「ち、ちょっと! これはいったいどんな冗談なのよ! アタシたち協力した仲じゃないの!」

「成り行きで協力関係になっていたが、お前は元々野盗だ。弱い者を狙って襲い、金品を奪うようなやつは、捕まるべきだ」

『グルルルル!』

 捕まえると言った瞬間、彼のペットであるキメーラが唸り声を上げた。しかしひと睨みすると、やつは尻尾の蛇を肢体の内側に入れる。

 どうやらステルヴィオに操られていたときの記憶はあるようだな。これなら余計な邪魔が入らずに済む。

「ま、待ってよ! アタシは悪い野盗ではないわ!」

「良い野盗なんかいるか!」

 ベッキーの浅はかな言い訳に、思わず声を上げる。

 嘘を吐くのならもっとマシな嘘を吐けよ。

「本当よ! アタシが所属している野盗は義賊! 悪いことをして貧しい人から金を巻き上げている貴族の屋敷しか狙っていないわ!」

「なら、どうしてステルヴィオの依頼なんかを受けた。お前、言っていることがめちゃくちゃじゃないか」

 そう、この男がステルヴィオの依頼を受けて、ヴィクトーリアお嬢様を攫った事実がある以上、義賊なんてものは信じられない。

 イグナイチェフ家の使用人となってまだ一日しか経っていない。だけど、それでもイグナイチェフ家が悪いことをしている様な動きは見当たらなかった。

 この観点からも、どう考えてもベッキーが嘘を吐いているとしか思えない。

「これには深い訳があるの。アタシがお花を摘んでいた時に、本隊と逸れたのよ! だけどアタシ、ボスたちの行き先を知らなかったの。だから情報を得るためにお金が必要になって、そんな時にステちゃんから話を持ち込まれたのよ」

 彼が言ったことが本当なら辻褄が合う。だけど、そう簡単に信じてもいいものなのか?

「リュシアン、太刀を下ろしてください。ベッキーが言っていることを信じましょう」

 悩んでいると、ヴィクトーリアお嬢様がベッキーを解放するように言う。攫われた彼女が信じると言った以上は、従うしかない。

 彼の喉元に突き付けていたやいばを離し、鞘に収める。

「ヴィクトーリアちゃんありがとう! 助かったわ」

「いいえ、ワタクシは借りを返しただけですわ。これで貸し借りはなしです」

 二人のやり取りを聞いて首を傾げる。

 俺の知らないところで何か貸し借りがあったのか?

「取り敢えず、早くここから出ましょうよ! 遺跡の中は空気が悪いから、外の新鮮な空気を吸いに行きたいわ!」

 命が助かったことが嬉しいのか、ベッキーはステップを踏みながら遺跡の外に向かって行く。そんな彼に続いてペットのキメーラも歩き出す。

「俺たちも外に出るか」

「そうですわね。早く屋敷に帰りましょう」

 全てが終わって安心したのか、部屋の隅で縮こまっていた馬が俺のところにやって来る。

「ヴィクトーリアお嬢様、緊急でしたので勝手ながら屋敷の馬をお借りしました」

「いえ、別に構いませんわ」

 俺たちは遺跡の出口へと向かった。

 遺跡の外に出ると、ベッキーがフクロウの様な生き物と話しているのが見える。

 あれはリピートバードか。

 鳥が羽ばたき空に舞うと、彼は俺たちに気付いた様で振り返る。

「リュシアンちゃん、ヴィクトーリアちゃん、聞いて、聞いて! ボスの居場所が分かったのよ! だからアタシ、今からボスの元に向かうわね!アデュー」

 ボスの元に向かうと告げ、ベッキーはキメーラに跨ると俺たちから離れて行く。

 さてと、ベッキーたちも見届けたことだし帰るとするか。

 先に馬に跨り、ヴィクトーリアお嬢様に手を差し伸ばす。彼女が手を握ると引っ張り上げて背後に座ってもらった。

「では行きますよ。しっかりと捕まっていてください」

 馬の脇腹に足で圧迫して合図を送ると、馬は走り出す。

 数十分ほどで屋敷の前に戻って来ると、そこにはボブと変態メイドの他になぜかユリヤたちまでもがいた。

「お嬢様!」

「心配をかけましたわね。ですが、リュシアンが助けてくださいましたのでケガ一つしていませんわ」

「さすがリュシアンだ。よくぞお嬢様を救出してくれた。本当にお前がいてくれて助かった。ありがとう」

 変態メイドがヴィクトーリアお嬢様を抱きしめ、ボブが俺の肩に手を置いて讃える。

「いや、俺は使用人として当然のことをしたまでだ」

「そうよ。リュシアンピグレットが助けに行ったのだから、こうなることは必然なのよ」

 ボブと話していると、テレーゼが会話に割り込んでくる。

 そう言えば、どうして彼女たちがここに居るんだ?

「なぁ、どうしてテレーゼたちが居るんだ?」

「そんなこと決まっています。リュシアンさんを迎えに来ました」

「そんなこと決まっているじゃない。リュシアンピグレットを迎えに来たのよ」

「そんなこと決まっていますわ。リュシアン王子を迎えに来ましたのよ」

 三人の言葉が同時に重なるが、同じことを言っていたので聞き取ることができた。

「俺を迎えに?」

「あなたたち、何を言っていますの! 契約書がある以上は、リュシアンはわたくしの使用人ですわ!」

 ヴィクトーリアが俺たちの会話に割って入って来る。だが、そんな彼女を見て、三人はニヤニヤと笑みを浮かべた。

「お姉ちゃん。あの契約書を持って来てもらって良いですか? そこに答えが書かれてあります」

「なんですの? その気持ち悪い笑みは? まぁ、良いですわ。ボブ、持って来なさい」

「畏まりましたお嬢様」

 ヴィクトーリアお嬢様の指示に従い、ボブは屋敷に向かって行く。そしてしばらくして戻って来ると、手に持っていた契約書を彼女に手渡した。

「こちらです」

「ご苦労様です」

 受け取った契約書に目を通したヴィクトーリアお嬢様は、顔を引き攣らせて固まってしまう。

 いったいあの契約書に何が書かれてあったんだ?

「さぁ、契約書の有効期限が昨日だったことが分かった時点で、リュシアンさんは返してもらいますからね。お姉ちゃん」

 有効期限が昨日だと!

「すみません。俺にも見せてください」

 ヴィクトーリアお嬢様から契約書を受け取り、有効期限の欄に目を通す。

 契約書には契約者が亡くなるまで永続的に続くものと、契約書に書かれてある期限まで有効となるものがある。

 ユリヤがサインした契約書の右端には、有効期限が昨日になっていた。

 つまり、今日を迎えた時点でこの契約書は効力を失い、ただの紙切れと化したのだ。

「さぁ、リュシアンさん。エレーヌさんも心配しています。帰って安心させましょう」

 ユリヤが俺の手を握り、引っ張ろうとする。

「ま、待ってくださいリュシアン!」

 ヴィクトーリアお嬢様が声を張り上げ、俺は彼女を見た。

「リュシアン、あなたはわたくしの……いえ、イグナイチェフ家の恩人です。この屋敷には、あなたの様な優秀な人が必要なのです。だから、わたくしの側で一緒にイグナイチェフ家を支えてください。お願いしますわ」

 ヴィクトーリアお嬢様が頭を下げて俺に手を差し伸べる。

「俺からもお願いする。リュシアンがいれば、安心してお嬢様を任せることができる」

「私からもお願いします」

 続けてボブと変態メイドが頭を下げる。

 だけど、俺の気持ちは既に決まっていた。

「悪い。俺はハンターとしての仕事が好きなんだ。俺は困っている多くの人の力になりたい。だから、イグナイチェフ家に留まる訳にはいかないんだ」

「そこをなんとかお願いします! ボブ!」

「はい、お嬢様!」

 ヴィクトーリアお嬢様がボブに声をかけると、彼は跳躍して両手と両膝を地面につけ、頭を下げる。

 いわゆるジャンピング土下座と言うものを目の当たりにして、俺は正直困ってしまった。

 彼女のお願いを聞かないと、自分はずっとこの体制だ。そんな風に彼の体が物語っていた。

 良心が抉られる思いに駆られる。

 だけどここでヴィクトーリアの手を握っては、多くの人を助けて幸せにすると言う、あの人との約束を反故することになる。

「悪い。俺はその手を握ってあげることはできない。だけど、何かあったときは俺に依頼をしてくれ。その時は直ぐに駆けつけてやるから」

 彼女にそう言い残し、後ろ髪を引かれる思いを殺してユリヤたちとギルドに帰って行く。
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