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第十章

第十三話 わたくしの代わりにリュシアンがざまぁしてくれますわ

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~ヴィクトーリア視点~



 ワタクシことヴィクトーリアは、壁越しに座ってうずくまっていました。

 地下牢にいると時間の流れがわかりません。周辺は薄暗く、当然ながら陽も当たらない。なので、今が昼なのか、それとも夜なのかが判断ができません。

 あれからどのくらいの時が経ったのでしょうか?

 時間を気にしていると足音が聞こえ、野盗の頭が鉄格子の前に来ました。

「グッドアフタヌーン! ご機嫌はいかがかしら? お嬢様」

 どうやら今は昼のようですわね。お腹の空腹具合から、まだ一日は経過していないようです。

 ご機嫌が良いわけがないでしょうがと言いたいところですが、今はそのような元気もありません。

「反応してくれないなんて何だか寂しいわね。まぁ、いいわ。救世主様が迎えに来てくれたわよ」

 迎えに来た? 処刑しに来たの間違いではなくて? 救世主と言うのは肉体から魂の解放をすると言う意味での救世主ってことですわよね。

 そう思いながらも、俯かせていた顔を上げます。すると、ワタクシは大きく目を見開きました。

「リュシアン!」

 野盗の頭の隣に居たのは、ユリヤとの勝負の末に手に入れた使用人でした。

 彼の存在に驚き、咄嗟に立ち上がるとリュシアンに駆け寄ります。

「リュシアン、どうしてここに!」

「ヴィクトーリアお嬢様を助けに来ました。ボブが屋敷に戻って俺に教えてくれたのです」

 褐色のハゲの名前を聞き、再び驚かされます。

「ボブは! ボブは生きていますの!」

「はい。直ぐに治療を施しましたので、命に別状はないです」

 ボブが生きている。その言葉を聞き、一つの不安要素がなくなったわたくしはホッとしました。

「感動の再会の最中に悪いのだけど、早くここから出ましょう。何だか嫌な予感がするわ」

 野盗の頭が早くここから出るように促しますが、一応あなたがワタクシを攫いましたのよ。

 内心ツッコミを入れていると、野盗の頭が牢屋の鍵を開けてくれます。

「これはどう言うことですの。あなたの主はあの男でしょう」

 彼に尋ねると、野盗の男は顎に人差し指を置きます。

「うーん。確かに雇い主ではあるけど、あの男はアタシの好みではないのよね。だからリュシアンちゃんに負けたことをきっかけに、アタシの方から契約を破棄して寝返ろうかと思っているの。婚約破棄ならぬ契約破棄ね」

 男が婚約破棄の言葉を言った瞬間、ステルヴィオのことを思い出し、怒りの感情が湧き上がってきました。

 あの男だけは絶対に許しませんわ。そしてモニカもです。自分のやった行いを後悔させて上げますわ。

「ど、どうして急にそんなに怖い顔をするのよ。アタシ何か変なことを言ったかしら?」

「いえ、気になさらないでください」

「とにかく上の階に出よう。俺が先頭で歩くから、ベッキーは念のためにヴィクトーリアお嬢様の後で背後を警戒してくれ」

「了解よ。任せて」

 この男、本当にワタクシたち側に寝返るつもりなのですね。すんなりリュシアンの指示に従うなんて。それにしても、野盗の頭の名前ってベッキーと言うのですね。見た目に反してなんて可愛らしい名前なのかしら。まぁ、偽名の可能性も十分ありますが。

 一階につながる階段の方に歩いていると、大きい牢屋から獣臭が漂って来ました。

 この牢には何か大きな動物でも入っていたのかしら? チラッと中を見ましたが、動物の毛が落ちていましたわね。

 大きな牢屋を通り過ぎ、一階につながる階段を上がります。

 なぜでしょうか? 何だか胸騒ぎがしてなりませんわ。

 鼓動が激しくなっているのを感じながら階段を登り終えると、そこにはいくつもの柱がある広い部屋となっていました。

 部屋の壁沿いに馬がいますわね。あの馬はもしかしてワタクシの家で飼っている馬ではありませんの? リュシアンが乗って来たのでしょうか?

「ぎゃああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「うわああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「助けてえええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 そんなことを考えていますと、部屋の先にある通路の方から、男の叫び声が聞こえてきました。

「この声、アタシの仲間たちじゃないの! いったい何が起きたって言うのよ」

 ベッキーが不安と疑問が入れ混じったような声を出すと、獣臭が漂ってきました。

「二人ともその場で止まってくれ」

 リュシアンが鞘から太刀を抜いて構えます。

 野盗を襲ったものがこちらに向かっているのか、獣臭が強くなってきました。

『ガオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォン!』

 そして奥の通路から獣の吠える声が聞こえ、野盗を襲ったと思われる獣が姿を見せました。

 ヤギの頭に獅子の体、そして尻尾は蛇となっている不思議な生き物です。

 この生き物は知りませんが、どう見てもモンスターですわね。

「キメーラ!」

 リュシアンがモンスターの名を知っていたようで、声を上げました。

「あらーん! 散歩から帰って来たのね! キメちゃん」

 モンスターを目の当たりにした瞬間、ベッキーが自ら近付いて行きます。

「危ないですわ!」

 ワタクシを攫った人物であるにも関わらず、思わず声を上げます。

「大丈夫よ。この子はアタシのペットのキメちゃん。とても賢い子なのよ。アタシが指示を出さない限りは人を襲わないの。きっとあの悲鳴はこの子が原因ではな……ブホッ!」

 ベッキーがモンスターに背を向けた瞬間、キメちゃんが彼を叩いて吹き飛ばしました。

 全然大丈夫ではないではないですの!

「そ、そんな! キメちゃんがアタシを殴るなんて! こんなの何かの間違いよ!」

「何が間違いだ! 現に襲われているじゃないか! もし、お前が言うことが本当なら、こいつはお前が知っているキメーラではないことになる」

「そうだ! そのとおりだよ。このキメーラは既に僕の所有物だ」

 突然キメちゃんから声が聞こえてきました。

 この声、もしかして。

「ステルヴィオですわね! 隠れていないで姿を見せなさい!」

 元婚約者に対して、声を上げて姿を見せるように言います。

「変な胸騒ぎがして駆けつけてみれば、ヴィクトーリアが牢から出ていたとはな。まぁ良い。予定が早まっただけのことだ」

 ヤギの首に隠れていたようで、ひょっこりとステルヴィオが顔を見せました。

「ヴィクトーリア、あの男のことを知っているのか?」

「ええ、あの男はワタクシの元婚約者ですわ。女の尻を求めた結果、自分から婚約を破棄して証拠隠滅のために、ワタクシを消そうとしております」

 ワタクシはリュシアンに彼の情報を開示します。

「尻を求めたとは語弊があるな。僕はただ、出るところは出て引っ込んでいるところは引っ込んでいる女性が好みと言うだけだ。そこの君も同じ男として共感してくれるだろう。女の価値は胸だ。胸の小さい女は、女ですらない」

 ステルヴィオが問うと、自然とリュシアンに視線を向けました。

 返答次第では一発殴らせてもらいます。

「はぁー、胸や尻や足などと言って、自分の価値観を他人に求めようとするなよ。くだらない。敢えて俺が言うとしたら、そんな詰まらない理由で婚約者を泣かせるな!」

 リュシアンが剣を振りました。その瞬間キメちゃんの首から血が噴き出します。

 いったい何が起きましたの?

『ガオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォン!』

 首を斬られたキメちゃんが苦しむ様に吠え、首をくねらせます。

「よくも僕の駒に傷を付けやがったな! 絶対に許さねぇ! お前たち全員あの世に送ってやる!」
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