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第十章

第十二話 ホモ野盗

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 柱に隠れていた人物が姿を見せると、自分は野盗の頭を務めているベッキーと名乗り、俺にウインクをしてくる。

 彼のウインク姿を目の当たりにした瞬間、失礼ながらも総毛立ってしまう。

 この男、何だか色々な意味で危ない感じがするな。

「あっらーん! 良い男じゃない。アタシの好みだわー! ねぇ、あなたのお名前は?」

「リュシアンだ」

 名前を訊ねられたので、一応名前を言う。だが、今はそんなことなどどうでもいい。

「そんなことよりも、ヴィクトーリアお嬢様はこの奥にいるのか?」

「あら、あの女を助けに来たの? 何だか妬けてしまうわね。そんなにあの女の元に行きたいのなら、このアタシを倒してからにしなさい。でも、アタシが勝ったらあなたのお尻の処女を頂くわよ」

 顔に化粧をしている男が腰に帯刀させている刀を抜く。

 やっぱりそうなるのかよ。こっちはハンターのルールで得物を使って人を傷付けてはいけないと言うルールがあるって言うのに。

 野盗の頭であるベッキーが、ゆっくりと距離を縮めてくる。

 こうなっては、正当防衛が成立するまで時を待つ必要があるが、悠長にしている暇はない。ここはルールの裏を突いて攻撃させてもらう。

 柄に嵌めてある風の属性玉に意識を集中させる。

 こちら側の空気の密度を重くし、相手のいる場所の空気の密度を軽くする。それにより気圧に変化が起き、気圧の高いほうから低いほうへ空気が押し出されて動くことにより、風が発生。

「そんな! 遺跡の中で強風が吹くなんて!」

 突如発生した強風にベッキーは吹き飛ばされ、壁に激突する。

 得物ではなく、自然現象を使った方法で倒せば、ハンターのルールは適用されない。

「ガハッ!」

 勢い良く叩き付けられたようで、男は口から血を吐いた。

「いったい……何なのよ。その剣は……普通の属性玉の常識を……凌駕しているじゃないのよ」

 壁に叩きつけられ、一度床に座り込んだベッキーがよろよろと立ち上がる。

 だけどそんなことよりも、彼の言った言葉の方が気になった。

 普通の属性玉とは違う? 確かに初めて属性玉のことをエレーヌさんから教えてもらった時、彼女は『例えば刃でモンスターを斬ったその瞬間、炎が現れて追加ダメージを与えたり、モンスターの表面を凍らせたりする感じかな?』と言っていた。

 つまり俺の持つこの太刀は、通常の属性玉ではできないことをやってみせていると言うことだ。

「良い男には良い得物が自然と集まると言うけど、さすがにそれは化け物じみているわね。でも、これなら簡単には風で吹き飛ばすことはできないでしょう!」

 壁に激突した際に崩れた遺跡の壁を、ベッキーが両手で持ち上げる。

 直径一メートルはありそうだ。重さも相当あるだろうな。

 こいつ、細身の癖にかなりの怪力を持っていやがる。

「そおれ! アタシの愛に押し潰れなさい!」

 投げ飛ばされた遺跡の壁を、風で押し戻そうと試みる。だが、勢いを弱めることはできても、跳ね返すことはムリそうだ。

 後方に跳躍して躱すと、視界に接近してくるベッキーの姿が映った。やつは間合いに入ると剣を振り下ろす。

 このまま簡単にやられると思ったら大間違いだ。

 刃を横にして敵の一撃を防ぐ。

「あの不思議な攻撃で吹き飛ばそうとはしないのかしらん? もしかして条件があったりするの?」

「どうだろうね。俺自身もこの太刀に関して、全て知っているわけではないからな」

 本当と嘘を混ぜ、適当にはぐらかす。下手に嘘を言って図星を刺されるよりかは気づかれ難いはず。

「俺とこんな話をしていていいのか?」

「ええ、良いわよ。アタシは乙女だからお喋りが大好きなの!」

「そうかよ。でも、足元が隙だらけだ」

 腕に力を入れて敵の攻撃を防ぎながら、足を伸ばしてベッキーの足を引っ掛ける。

「いやーん!」

 バランスを崩したベッキーがその場で転倒して尻餅を付いた。

 いちいち乙女ぽい口調に調子を崩されるが、そろそろ決着をつけさせてもらう。

 刃を男の喉元に突き付けた。

「これで勝負は付いた。ハンターのルールがある以上、お前は殺さない。だから早くヴィクトーリアお嬢様の居場所を教えろ」

「わ、分かったわ。教えるからその刃をどかしてくれないかしら。怖くて乙女の聖水を出しそうになる」

 刃を退かした隙に反撃に出る可能性も考えたが、今のこいつからは悪意の様なものは感じられ無い。本当に漏らされても困るし、一応警戒だけはしておくか。

 刃を退かすと、ベッキーは安堵の表情をする。

「それで、ヴィクトーリアお嬢様はどこにいるんだ?」

「彼女は遺跡の最下層にいるわ。部屋を改造した牢屋に捕まっている」

「案内しろ」

「ねぇ、起き上がるから手を貸してくれない?」

「自分の力で起きろ」

「チッ、せっかく良い男の肌に触れられると思ったのに」

 この男がオネェだからか、言動を聞いていると寒気を感じてしまう。気を抜けば別の意味で襲われそうだ。

「こっちよ。アタシに付いて来て」

 ベッキーが起き上がると、地下の階段に向かって歩く。

 彼から一定の距離を空けて付いて行き、俺も階段を降りる。

 地下には複数の牢屋があるが、近くにはヴィクトーリアお嬢様の姿は見られない。

「あら? あの子がいないわね。もしかして散歩に行ったのかしら?」

 他の牢屋に比べて多くの鉄格子が使われている牢屋を見ながら、ベッキーが何かを呟く。

 一瞬ヴィクトーリアのことを言っているのかと思ったが、どうやら違うみたいだ。牢の中には動物の毛と思われるものが散らばっていた。

「この中に何がいたんだ?」

「な、何でもないわ。リュシアンちゃんには関係ないことよ。それよりもお姫様が、王子様が来るのを待っているわよ」

「いや、ヴィクトーリアはお姫様じゃなくってお嬢様なんだが」

 何だかはぐらかされたが、彼の言葉にツッコミを入れつつも、奥に向かう。

「グッドアフタヌーン! ご機嫌はいかがかしら? お嬢様」

 先を歩いていたベッキーが一番奥の牢屋の前で立ち止まり、声をかける。

 あそこにヴィクトーリアお嬢様がいる。

 ベッキーの隣に立つのは正直嫌だが、こればかりは仕方がない。

 彼の隣に立って鉄格子の奥を見る。

 牢屋にはピンク色の髪をハーフツインにしている女の子が、壁越しに座ってうずくまっていた。
 
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