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第十章

第十一話 ヴィクトーリア捜索

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~リュシアン視点~



 午前中の仕事が終わり、俺は中庭で変態メイドと休憩をしていた。

「風が気持ちいいですね」

「そうですね」

 彼女の言葉に相槌を打ちながら、カップの中に入っている紅茶を飲む。

 口の中に入れた瞬間、紅茶の甘味が口の中に広がり、香りが鼻から抜けていく。

「そろそろ私は仕事に戻りますね」

 変態メイドが紅茶を飲み終えたようで立ち上がる。

 俺もこれを飲み終えたら仕事に戻るとするか。

 カップに残っていた紅茶を一気に飲み干して立ち上がる。すると門が開かれたのが視界に入った。

 ヴィクトーリアお嬢様が戻って来るには早すぎる。来客だろうか?

 そんなことを思っていたが、門を潜って入ってきた人物を見て、驚愕した。

「ボブ!」

 咄嗟とっさに男の名を呼ぶ。彼は血だらけの状態でこちらに歩いて来た。

「ボブ、いったい何が起きた!」

「ヴィクトーリアお嬢様はどうしたのですか!」

 彼に声をかけながら俺たちは駆け寄る。

 さっきは距離があったから、ただ血を流している程度に思っていた。だけど彼に近付くと傷が酷いことが分かった。

「直ぐに応急処置用の薬箱を持って来ます」

「大丈夫だ。俺が今から治療する」

 ポーチのチャックを開いて、中から回復ポーションを取り出す。

「ボブ、これを飲めるか?」

 声をかけるも反応がない。屋敷に戻れたことで安心してしまったのか、放心しているようだ。

 仕方がない。ここは飲ませてやるしかないな。

 彼の口元に持って行くと、無理やり口を開いて強引に飲ませた。

 放心していても、液体が口内に入ったことを脳が感知したようだ。喉が動き、全ての液体を飲み干してくれた。

 即効性により、ボブの傷が塞がり流血が止まった。

「ガハッ、ガハッ……あれ? ここは?」

「ここはイグナイチェフ家の屋敷だ。ボブ、いったい何が起きた」

「お前はリュシアン……そうだ! リュシアン! お嬢様を助けてくれ! お嬢様が野盗に攫われた!」

「何だって!」

 ヴィクトーリアお嬢様が攫われたことを知り、心臓の鼓動が早鐘を打つ。

「おそらくお嬢様は、野盗がねぐらにしていると噂になっている遺跡に連れて行かれた。頼む、お前だけが頼りだ。お嬢様を助けてくれ」

「分かった。すみません、ボブのことをお願いします」

 変態メイドにボブを任せ、一旦自室に戻る。そして壁に立てかけていた太刀を持って、屋敷の裏にある馬小屋に走った。馬小屋の中から一頭を連れ出し、屋敷の外に出る。

 馬に跨り、馬の横腹をはさんでいる足に力を入れる。

 馬車の運転と乗馬とでは馬の扱い方が違う。馬車では手綱を動かして馬に指示を出すが、乗馬の場合は脚で直接馬に伝える。外側の脚を軽く後ろに引き、内側の脚で馬の腹部を圧迫することで、馬を走らせることができる。

 足に力を入れ、馬を走らせると急いで隣町の方角に向かった。

 しばらく馬を走らせていると、放置されている馬車が見えた。

 あれはヴィクトーリアお嬢様が乗っていた馬車だ。間違いない。

 握っている手綱を引き、馬に止まる様に合図を送る。そして停車した状態で辺りを窺った。

 複数の足跡があるな。足跡は道の外れに続いている。もしかしてこの先に遺跡があるのか?

 考えている時間が勿体無い。まずはこの足跡を追うことから始めよう。少なくとも何かしらの手掛かりを掴めるはずだ。

 手綱を操作して馬を右に向かせると、跨っている足に力を入れて馬の脇腹を圧迫させる。

 そして全速力で足跡の行く末を追った。

 あれから数分が経過しただろうか? 馬を走らせていると、遺跡の様なものが見えてきた。

 間違いない。あの中にヴィクトーリア姫さまがいるはずだ。

 馬に跨ったまま遺跡の入り口に入った。

「なんだ貴様は! グヘッ!」

「侵入者だ! ブヘッ!」

 馬に乗ったまま、鞘に収まっている状態の太刀で殴る。

 片手で手綱を操作しないといけないので少々面倒臭い。だけど野盗を殴って気絶させないと、再び追いかけて来て更に面倒なことになる。

 視界に入った野盗を殴りつつ、手が追いつかないところは馬に蹴り飛ばしてもらい、奥に進んだ。

 更に奥に進むと開けたところに出た。複数の太い柱があり、壁にはいくつもの松明が置かれてある。

 このフロアに入った瞬間、手綱を引っ張って馬に止まってもらう。

 この感じ、何者かが隠れているな。かなり気配を消してあるみたいだけど、僅かに残っている。

 馬から降り、気配の出所を探る。すると、地下につながる階段の側にある柱から漂っていることに気付く。

「そこに隠れているのは分かっている。隠れていないで出て来い!」

 気配の持ち主に向けて声をかけるも、隠れている人物は姿を見せようとはしなかった。

 もしかしたら俺が当てずっぽうで言っていると思っているのかもしれないな。

 確かに放たれている気配はほんの僅かだ。俺でなければ気付かなかっただろう。

 それなら炙り出すまでだ。

 鞘から太刀を抜き、柄に嵌めてある水の属性玉に意識を集中させる。

 すると空気中の水分子が集まり、知覚できる量になると、直径一ミリの細さに凝縮して放つ。

 放たれた水は柱を貫通して穴を開けた。

「これで分かっただろう。さぁ、早く姿を見せろよ。それとも不意打ちでしか攻撃する勇気を持てないザコなのか」

「うふふ、まさかこのあたしが隠れている居場所を突き止めるなんて、たいしたものだわ。わかった。あなたに敬意して特別に姿をみせてあげましょう」

 気配の持ち主が姿を見せる。柱から姿を見せたのは、顔に化粧をした男だった。

「あたしは野盗の頭をしているベッキーよ! よ・ろ・し・く・ね」
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