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第十章

第九話 リュシアンのテクに負けました

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~ヴィクトーリア視点~



 どうしてこの男は、わたくしの思い通りにならないですの!

 わたくしことヴィクトーリアは、リュシアンに対して苛立ちが隠せませんでした。

 この男、ボブでさえ音を上げる量の仕事を押し付けたと言うのに、制限時間の一時間も前に全てを終わらせてしまうなんて、どうかしていますわ!

 しかも全然涼しい顔をして、与えた仕事を苦に思っていないところがまた腹が立ちますのよ。

 これではズルをしてまでユリヤに勝った意味がありませんわ。わたくしはこの男が苦痛に顔を歪めて、許しを乞う姿が見たいですのよ。

 とにかく、このままでは腹の虫が治りませんわ。こうなったらわたくし自身が、この男をいびるしかないですわね。

「リュシアン以外は部屋を出なさい」

 呼び出したボブとメイドを部屋から追い返すと、リュシアンに視線を向けました。

「ボブを鞭打ちしたせいで、何だから体が凝りましたわ。リュシアン、マッサージをしなさい」

 彼に命令を下すと、うつ伏せの状態でベッドに横になります。

 ふふふ、リュシアンにマッサージをさせ、散々ダメ出しをしてあげますわ。わたくしは他の者のように甘くはないですわよ。

「わかりました。では失礼します」

 彼が近づき、背中に指が添えられているのが服越しでも分かりました。

「では始めます」

 さぁ、来なさい。何をしようと姑レベルでいびって差し上げますわ。

 リュシアンの指が背中を指圧し、強張った背中の筋肉が刺激を受けます。

 く、この男どれだけ万能ですの。的確にツボを刺激してくるではないですか。これでは全然ダメ出しができないですわよ。

 でも、ここで彼を認める訳には行きませんわ。イグナイチェフ家の令嬢たる者、この男に屈する訳にはいきませんもの。

「ぜ、全然ダメですわね。わたくしが通っているマッサージの店員の方が上手ですわ」

「ヴィクトーリアお嬢様は、見抜く力がありますね。まだ指を慣らすための準備運動レベルだったので、本気ではなかったのですよ」

 え? 準備運動? う、嘘ですわよね。まさかこれ以上強い刺激をされたら、わたくしやばいのでは。

「では、本気のマッサージを始めます」

「ま、待って!」

 一旦止めるように命令をします。ですが彼は指示に従わず、指に力を入れて背中に押しつけます。

「あん!」

 先ほどとは比べ物にならないほどの刺激が背中に走り、思わず声を上げてしまいました。

「ヴィクトーリアお嬢様、変な声を出さないでください」

「わ、分かっていますわ」

 ここで快楽に負けて気持ちよさに声を上げては、わたくしがこの男に屈したことになります。絶対に声を上げませんわ。

 その後も何度も突かれ、体の奥に刺激が走ります。身体中が熱を持っているのか、火照っているのを感じます。

 あ、ああ、あん! こ、これ以上は本当にまずいですわ。が、我慢するのも限界です。

 そもそもなんでわたくしは我慢していたのでしょう?

 もう、そんなのどうでも良いですわ。こんなに気持ちいいのですもの。我慢するのが変です。

「あ、ああ、あん! いいですわ! そこを思いっきり突いてください」

「ここですね。ヴィクトーリアお嬢様は、ここをこうされるのがお好きなようで」

「そう、そこですわ! そこを重点的に強く突いてください」

「分かりました」

「あ、ああ、あああん! ああああああああ!」

 頭の中が真っ白になり、わたくしはただ本能のままに快楽に対して声を上げるだけでした。

「これでマッサージは終わりとなります。お疲れ様でした」

「ご、ご苦労様です」

 リュシアンの声が耳に入りますが、わたくしは起き上がることができませんでした。

 足音が遠ざかり、扉が開く音が聞こえます。

 どうやらリュシアンが部屋から出ていったみたいです。

 悔しい。ですがとても気持ちよかったですわ。服越しではなく、直に肌に触れられていたらどうなっていたのでしょう?

 しばらくすると、ようやく起き上がれる様になりました。

「お嬢様、よろしいでしょうか?」

 この声はメイドですね。いったい何のようでしょうか。

「いいでしょう。入りなさい」

 許可を出すとメイドが部屋に入り、こちらに歩いて来ます。

「何か御用ですの?」

「はい。こちらが必要だと思ったので、持って来ました。それにしても着衣のままとはマニアックなことをされますね」

 メイドはわたくしの手に何かを握らせました。そして彼女の言葉の意味が分からず、首を傾げます。

「他にも仕事が残っていますので、私はこれで失礼します」

 一礼をすると、足早に彼女は部屋を出て行きました。

 いったい何を渡しに来たのでしょうか?

 手を開いてメイドに握らされたものを見ます。彼女が渡したものは、なんと避妊具でした。

 それを見た瞬間、再び体温が上がりました。きっとわたくしの顔は赤くなっているはず。

「これは誤解ですわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 思わず声を張り上げました。





 その日の午後、わたくしはボブを護衛に付け、馬車で隣町に向かいます。

「本当に俺で良かったのですか? 自分で言っていて情けないと実感するのですが、リュシアンの方が実力は上ですよ」

「いいのです。今日はあの男の顔など見たくありませんわ。それよりも午後の予定を言いなさい」

「分かりました。まず隣町で開かれるモンスター博物館の視察、そして――」

「きゃあ!」

 ボブが午後の予定言っている最中に、乗っていた馬車が急に揺れました。

 いったい何事ですの。

「一体何事だ!」

 ボブが馬車の扉を開けたその瞬間、彼の体に刃物が突き刺さり、鮮血が吹き出ました。

「いやああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
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