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第九章

第八話 ゴッドヒルフのざまぁ前編

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~ゴッドヒルフ視点~



 これは約一時間前のこと。

 俺様ことゴッドヒルフは、モンスター討伐大会が始まった後、直ぐに目的の場所に向かった。

 密林の五番エリアには、ピッグコングが集めたガラクタがある。前持ってその中に木箱爆弾の素材を隠してある。

 急ぎ五番エリアに向かって爆弾を作り、戦闘のどさくさに紛れて泣き虫リュシアンを爆破してやる。

「ククク! 丸こげになってボロボロになっているあいつの姿を想像するだけで、笑いが込み上げてきそうだ」

 五番エリアの洞窟の中に入ると、討伐対象のピッグコングが寝息を立てているのが見えた。

 討伐対象を発見したが、今はあいつを相手にするよりも爆弾の作成が先だ。

 なるべく足音を立てないようにして、モンスターの横を通り過ぎる。そしてガラクタが置かれてある場所にたどり着くと、周辺を漁った。

「えーと、確かこの辺りに隠していたはずなのだけどな?」

 色々な物を退かして目的の物を探していると、俺様の前に影が差した。

 人のものよりも大きい。まさか!

 心臓が早鐘を打つ中、ゆっくりと振り向く。

『ブホッ! ブホッ! ブホオオオオオオオオオン!』

「目が覚めたあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 背後には睡眠から覚醒したピッグコングがおり、やつは両手を上げて威嚇してきた。

 そしてすぐに俺様に向けて拳を叩き込む。

「ぐへえええええ!」

 モンスターの一撃を受け、吹き飛ばされた俺様は壁に激突した。

「ガハッ、ガハッ」

 呼吸が苦しくなって咽せる。すると口から赤い液体が飛び出た。

 くそう。なんてパワーなんだ。一発食らっただけでこの威力なのかよ。

 直ぐにポーチから回復ポーションを取り出して口に含む。

 即効性のある薬のお陰で傷が塞がったみたいだな。先ほどまで感じていた気持ち悪さがなくなった。

 モンスターはゆっくりと近付いて来る。

 くそうどうする? まずは態勢を立て直さないといけない。

「居たぞ! ピッグコングだ!」

「一人他の参加者がいるな! あいつよりも俺が先に討伐してやる!」

 思考を巡らせていると、他のハンターたちもやってきた。

 ここはあいつらに任せて、俺様は泣き虫リュシアンの方でも観に行くとするか。どうせあいつらにはピッグコングは倒せないさ。

 俺様は急ぎ、洞窟から出ると三番エリアを経由して二番エリアに移動する。

 さて、俺様が買収したハンターたちは、泣き虫リュシアンをボコボコにしているかな。

 木の陰に隠れて様子を見る。

「テレーゼ! 耳封じ作戦だ!」

 耳封じ作戦? なんだそれは? ハンター共通の作戦名にはそんなものはないな。

 泣き虫リュシアンの言葉に疑問を感じた瞬間、赤い髪の女が発声練習のように声を上げた。

 彼女の声を聞いた瞬間、全身に痛みが走る。

 な! なんだこれは! 体が少し動いただけで、全身が痛い。

「がああああああぁぁぁぁぁ!」

 立っていることができずに俺様は地面に倒れた。

 途轍もない激痛に涙が流れ、意識を失いそうになった。

 だけどここで意識を失う訳にはいかない。俺様にはあの泣き虫リュシアンにざまぁをすると言う大義があるのだ。こんなことでへばる訳にはいかない。

 神の化身であるこのゴッドヒルフ様を舐めるな! あいつにざまぁをするまで、何があろうと俺様は不死鳥のように立ち上がる!

 全身の痛みに耐えていると、時間経過と共に痛みが引いて行く。

 こいつはヤバイな。直ぐに回復しないと。

 意識が朦朧とする中、気力を振り絞ってポーチに腕を突っ込む。そしてポーションを取り出して中身を飲み干した。

 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、あ、危なかった。危うく気を失うところだった。それにしても、こんな短期間に二つもポーションを使うことになるとは思わなかったな。

 再び木の陰から覗くと、俺が雇ったハンターたちは全て気を失い、荷車に乗せて運ばれていた。

 くそう。役に立たないやつだぜ。

 だけど参ったな。あんな化け物のような力を持つ女が一緒にいると、声が届く範囲にはいられない。なるべく距離を置きつつ様子を伺うか。

 そろそろピッグコングもエリア移動をした頃だろう。先に爆弾作りの方を始めるとするか。

 この場から離れ、三番エリアに向かう。すると先ほどまでいなかったハンターたちがこのエリアに姿を見せていた。

 五番エリアでピッグコングと戦った奴らか? いや、顔は見覚えがない。つまりはモンスターがエリア移動をした際に、別のハンターが五番エリアに入って、そのまま三番エリアに来たと言うわけだ。

 ハンターたちを横切り、五番エリアである洞窟の入り口前まで来た。

「出た! ピッグコングだ!」

 後方から討伐対象が現れたとハンターが叫ぶ声が聞こえ、振り返る。

 涎を撒き散らしてスタミナ切れを起こしているピッグコングが、この三番エリアに来やがった。

 泣き虫リュシアンたちの姿も見える。どうやらあの男たちは、モンスターに気を取られて俺様には気づいてないみたいだな。

 どうする? このまま洞窟の中に入って爆弾を作るか? いや、それよりもこの場に残っていた方が、ピッグコングに泣き虫リュシアンがボコボコにされる光景を拝めるかもしれない。

 だけどここだと少し距離があるな。もう少しだけ近付いてみるか。

 俺様は地面に這いつくばって匍匐前進しながら近付く。

 これならあの男たちに気付かれ難いだろう。さすが俺様だ。神の化身だけのことはある。

 口角を上げて近付くと、いきなり鼻が曲がりそうなほどの異臭が鼻を突き抜ける。

 くっせー! あのモンスター、戦闘中に屁をこきやがった!

 近づき過ぎたか。これはもう少し離れた方が良さそうだ。

「逃げろ! あいつ自分の糞を投げ付けやがった!」

「きゃああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「いやああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「これがハンターとモンスターの戦いなのですのおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」

 クハハ! 泣き虫リュシアンのやつ、ピッグコングの糞を投げ付けられて、慌てふためていやがる。ざまぁ!

 腹の中で大笑いをしていると、急に頭の上に何かが落ちてきた。

 なんだ? 妙に暖かくないか? そして妙に臭う……まさか!

 恐る恐る頭の上に落ちたものを掴み、顔の前に持ってくる。俺様の頭に落下したのは、茶色で細長い異臭を放つ物体だった。

 ピッグコングの糞じゃないか! くそおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!
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