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第九章

第五話 モンスター狩り大会のターゲットはある意味強敵?

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「優勝してハンターとしての知名度を上げたいか!」

「「「「「おおー!」」」」」

「優勝賞品の武器が欲しいか!」

「「「「「おおー!」」」」」

 大会開催者の男が参加者たちに声を投げ、ハンターたちは勇ましく声を上げる。

「アハハハハハハハ! よく逃げずに来たな弱虫リュシアン。この大会で優勝するのは、神の化身であるこの俺様だ! せいぜい無様な負け方だけはしないでくれよ。アハハハハハハハ!」

 大会開催者である男の話に耳を傾けていると、ゴッドヒルフが俺を見つけて声をかけてきた。

 そして用件だけを言うとバカにするように笑い、直ぐにこの場から去って行く。

 ただ嘲笑しに来ただけかよ。

「本当にムカつくわね。あの男、大会中に酷い目に遭えばいいわ」

「テレーゼさん、あんまりそんなことは言わないほうが良いですよ」

「ワタクシたちも参加しますもの。絶対にリュシアン王子が優勝しますわ。ね!」

 エリーザ姫が片目を瞑ってウインクをしてくる。

 まぁ、優勝できるかは別として、ゴッドヒルフだけには負けるわけにはいかない。

「それでは今大会のルールを説明しよう。ルールはただ一つ、気絶したら即退場! 気絶復帰後の再挑戦は認めない! ハンターの中には私が用意した監視役がいる。彼らはモンスターとは戦わないが、気絶したハンターを見つけたら直ぐに運搬屋に連絡してここまで運んでもらうからな」

 気絶したら運搬屋の荷台に乗せられてここまで運ばれて来るのか。頭の中で想像してみると、その姿は情けないな。絶対に気絶するわけにはいかない。

「そして諸君らに討伐してもらうモンスターは、密林にいるピッグコングを倒して来てもらいたい」

 討伐対象はピッグコングか。大会用に用意されたモンスターにしては少し弱いような気がするな。でも、油断はできない。裏を返せば、何か理由があるからこそ大会用に用意された。

「それでは最後に今大会の優勝賞品である四つの顔を持つ双剣をご紹介する」

 大会開催者の男が隣の台に乗せられた布を取った。すると太陽光に刃が反射してキラキラと輝く双剣が視界に映る。

 双剣にしては大きく、片手剣並みの大きさだ。

「この双剣は使い方によっては大剣、ブーメラン、そして大鋏おおばさみに姿を変えることができる」

 男の説明を聞き、固唾を飲む。

 一つで複数の武器になる得物は珍しい。数も少なく、希少価値が付いて売却額も大きい。そんなものが大会の優勝賞品にするなんて、やっぱりこの大会は一筋縄ではいかないと思った方がいいな。

「それでは私がサウンド玉を投げて、音がなった瞬間開始だ! もし大会中に死んでも開催側は一切責任を取らないからな。自己責任で頼む。では、スタート!」

 彼が玉を地面に叩きつけた瞬間、音が周辺に響く。

 開始の合図が鳴った瞬間、大会参加者のハンターたちが一斉に密林に向けて走り出す。

「リュシアンさん。私たちも早く行きましょう!」

「早くしないと先を越されるわよ」

「そうですわ!」

 他のハンターが先行する中、その場で立ち止まっている俺を見て、三人が早く行くように促す。

「まぁ、待て。焦ったところで直ぐにピッグコングが現れるとは限らない。密林の中を闇雲に探してもムダにスタミナを消費するだけだ。ここはモンスターの習性を利用して出現場所を絞る」

 俺は受付の際に貰った地図を開き、密林内のマップを確認する。

 密林は全部で八ヶ所のエリアに分けられているのか。そしてピッグコングの習性を考えると、出現率の高い場所は四番エリアと八番エリアだな。

「まずは四番エリアに向かおう」

 彼女達に行き先を伝え、俺たちはやっと密林の入り口である一番エリアに辿り着いた。

 四番エリアに向かうには、ここから二番エリアを通って行く。

 二番エリアに入ると、十数人のハンターが居た。彼らは俺たちを見ると一斉に得物を構える。

「ようやくやって来たか。悪いがお前達をここから先に行かせるわけにはいかない」

「優勝賞品は惜しいが、どうせ俺たちではあのモンスターを倒すことはできそうもないからな。ここでお前たちを倒して報酬をもらう方が現実的だ」

 待ち伏せしていたハンターたちが俺たちに向かって走って来ると、一番先頭だった男がハンマーを振り下ろしてきた。

 直ぐに横に跳躍して躱すも、背後から殺気を感じて再び横に跳ぶ。すると俺が立っていた場所に大剣が振り下ろされていた。

 こいつらの目的は俺たちか。おそらくゴッドヒルフの差金だな。あいつ、最初から正々堂々と勝負する気はなかったみたいだな。

 警戒しながら周辺を見ると、得物を構えないで立ち尽くしているハンターが居た。あの人が運営側のハンターなのだろうな。止めに入らないと言うことは、認められていると言うことだ。

 確かにルールは気絶したら復帰不可能と言うシンプルなものだった。つまり、それ以外はなんでもありということだ。

 まさかモンスターを狩りに来たはずなのに、ハンターと戦うことになるとはな。

 自己防衛のために一応鞘から太刀を抜く。

 俺はユリヤたちから引き離されたが、彼女たちは三人とも固まっている。あれなら囲まれたとしてもなんとかなるはずだ。

「喰らえ!」

「おっと」

 次々と襲いかかって来るハンターたちの攻撃を避けながら突破口を考える。

 何か、何か方法がないのか。こいつらを気絶させる方法を考えるんだ。

 思考を巡らせて過去の記憶を引っ張り出す。するとロアリングフルートの討伐やロックモグーラの捕獲の時の記憶を思い出した。

「テレーゼ! 耳封じ作戦だ!」

 歌姫に作戦名を告げ、俺はポーチから耳栓を取り出すと耳に嵌める。

「分かったわ! ユリヤ、エリーザ姫、急いで耳を塞いで!」

 数秒後、テレーゼが口をすぼめる。そして今度は大きく口を開けた瞬間、ハンターたちが地面に倒れると、のたうち回った。

 テレーゼは半人半魔だ。半分セイレーンの血が流れている影響で、特殊な音波を口から出すことができる。彼女の音波を聞いた人間は、人の行動能力、判断能力を奪われる。その他にも肉体的ダメージを与えられるのだ。

 彼女から発せられる音が耳に入ると、精神が安定しなくなる。そして血流が低下したことにより、脳が過剰に反応して神経に異常をきたす。

 それにより、髪の毛や爪の刺激でさえも、痛みを感じてしまうのだ。

 しばらくするとハンターたちが次々と動かなくなる。

 人間の体内にある迷走神経が活性化したことで、血管が広がり、心臓に戻る血流量が減少して心拍数が低下した。これが原因で失神を起こしたのだろう。

 監視役のハンターが倒れた彼らに近づくと笛を鳴らした。すると運搬屋のケモノ族が現れ、彼らを荷台に乗せて運んで行った。

 あの光景を見ても、やっぱり格好悪いな。絶対に気絶しないようにしないと。

「ユリヤ、テレーゼ、エリーザ姫、また邪魔者が現れるかもしれないけど、四番エリアに向かおう!」

「「「はい!」」」
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