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第八章

第九話 宝玉と守護モンスターの関係

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 背後から男の声が聞こえ、俺は振り向く。そこにはハンターの格好をした男が扉の前で佇んでいた。

「誰だ! お前は!」

 声を上げると、彼は信じられないと言いたげな表情をしてこちらを見てくる。

「私ですよ、私! ペテンです! アントニオがギルドマスターの時に、同じ職場で仕事をしていたじゃないですか!」

「いや、お前の顔は覚えていないぞ。本当に俺と接点があったか?」

 あまり思い出したくもない過去のことを、仕方なく思い出してあげるが、あの男の顔には見覚えがない。きっと彼の方が一方的に知っているだけと言うパターンなのだろうな。

「そ、そうですか。この私のことを覚えていない。まぁ、良いでしょう」

 ペテンは一瞬だけ悔しそうな表情をしたが、直ぐに普段の顔に戻し、俺たちのところに歩いて来る。

「私はギルドマスターの代わりに宝玉を受け取りに来ました。その赤い玉は私が依頼主に届けます」

 ペテンは俺が持っている宝玉をひったくると、踵を返して神殿から出て行く。

「ねぇ、本当にあの男に渡しても良かったの?」

「多分大丈夫だろう」

 テレーゼが心配そうに言うが、俺はフェルディナンを信じることにした。彼がギルドマスターの部下なら、ちゃんと依頼主に届けてくれるだろう。

「これでもう一つの依頼も終えたし、早く一番エリアに戻ってエリーザ姫と合流しよう」

「リュシアンさん! 大変です! これを見てください!」

 突然ユリヤが声を上げ、彼女の指差した床に視線を向ける。

 台座にあった宝玉に気を取られて気付かなかったが、床は壁画のようになっていた。そして床には先ほど戦ったあの巨大な鳥のモンスターが描かれている。更に文字も掘られてあった。

「えーと何々? 世界が暗黒に包まれるとき、三体の神獣が現れる。彼等は人族の者らと元凶となった暗黒龍と戦い、魂を三分割にして三つの玉に封じ込めた……え!」

 床に書かれた文字を読み、思わず驚く。

 俺たちが苦労して討伐したあのモンスターは神獣であり、暗黒龍の魂が封じられている宝玉を守護していたのだ。

 嫌な予感がしたので、最後まで読むことなく神殿を飛び出した。

「リュシアンさん!」

リュシアンピグレット!」

「俺はペテンを探す! まだそんなに遠くに離れてはいないはずだ。今追いかければきっと間に合うはず」

「私も一緒に探します!

「あたしも」

 俺たちは九番エリア、八番エリア、七番エリアと順番に探すが、ペテンの姿はどこにも見当たらなかった。

「くそう。どこに消えやがった」

 依頼書に書かれてあった依頼主からのコメントには、祭りに宝玉が必要と書かれてある。依頼者はあの宝玉のことをどこまで知っていたんだ。

 頭の中で少ない情報を頼りに色々と考察するも、答えに辿り着かない。

「リュシアンさん。ここまで探しても見つからないと言うことはもう、ガラン荒野にはいないのでは?」

「取り敢えず一番エリアに向かってお姫様と合流する方がいいと思うわ」

 ユリヤとテレーゼが、ペテン捜索を諦めてエリーザ姫と合流することを提案してくる。

 確かにエリーザ姫も心配だ。このことはギルドマスターであるエレーヌさんに報告したほうがいい。

 暗黒龍の魂の一部が封印されてある宝玉、それを手に入れようとしているものがいる。この事実は、世界によくない影響を及ぼすはずだ。

 嫌な予感が拭えないまま、俺たちは一番エリアに向かう。

 すると、茶髪の長い髪の毛先にはウエーブが掛かってあり、顔立ちが整っている女の子が、切り株の上に座っていた。

「エリーザ姫、お待たせしました。俺たちのもう一つの依頼を終わらせましたので帰りましょう」

「嫌ですわ」

「え?」

「ワタクシはお城には帰りません。ワタクシは姫という立場を捨てて家出をしましたわ。だからお城に帰ることはできません」

「そう言われても、エリーザ姫様がお城に帰ってくれないと依頼失敗になってしまうんですよ。ほら、バーンズ王から直々の依頼なんですよ」

 ポーチから依頼書を取り出してエリーザ姫様に見せる。

 彼女は受け取り、依頼書に目を通すと、ニヤリと口角を上げた。

 なんだか悪巧みを考えていそうな顔だな。

「分かりましたわ。では、帰りましょう。ですが、それには交換条件があります」

 突然エリーザ姫が満面の笑みを浮かべて城に帰還すると言い出す。しかし交換条件があると言い出し、俺は苦笑いを浮かべた。

 彼女は悪巧みを考えていそうな顔をしていたし、これは確実に面倒ごとに巻き込まれるな。

 エリーザ姫が、切株から立ち上がって俺の耳元に顔を近付ける。そして小声で交換条件を言ってきた。

「でも、バーンズ王が許可してくれるとは思えないですよ」

「大丈夫ですわ。リュシアン王子はお父様よりも立場は上です。アレを指摘すれば、お父様も許可をくれますわよ」

 本当に上手く行くのか、一抹の不安を覚えながらも、俺たちはバーンズ王の元に向かった。

「さすがリュシアンだ。よくぞエリーザを見つけて連れ戻してくれた。そなたに褒美をさずけよう。なんでも言ってくれ。依頼書に書いてあったとおり、なんでもするぞ」

 玉座に座っているバーンズ王が、満面の笑みを浮かべながら、褒美は何がいいかと訊ねてくる。

 王様の言葉を聞きながら、横目でチラリとエリーザ姫を見る。彼女はウインクで返してきた。

 本当に上手く行くだろうか。町娘ならともかく、お姫様なんだから絶対に反対するに決まっている。

「ではバーンズ王にお願いがあります。エリーザ姫を――」

「嫁に欲しいと言うのか! よし、許す! リュシアン、これからお義父さんと呼ぶがいい」

 褒美を言いかけたところで、バーンズ王は俺の言葉の続きを勝手に言い出す。

「いや、俺の望みはそれではなく、エリーザ姫がハンターになりたいと言い出したので、許しを貰いたいのですが」

「ハハハハハ……なんだと!」

 勝手に妄想して舞い上がって笑っていたバーンズ王であったが、俺が本当の褒美を言うと真顔に戻る。そしてエリーザ姫を見た。

「エリーザ、リュシアンが言っていたことは本当か?」

「はい、本当です。お父様。ワタクシはハンターにお母様を殺されたも同然だと思い、ハンターを憎んでいました。ですが、リュシアン王子に助けてもらい、ハンターに対しての考えを改めるべきだと思ったのです。そしてハンターのことをより知るためには、ワタクシ自らハンターになる必要があると思います」

「ならぬ! 王族がハンターなんて馬鹿げている! 私は絶対に許さないからな!」

 エリーザ姫が心内を明かすと、バーンズ王は声を上げて否定してきた。

 まぁ、それもそうだよな。王族の立場からしたらそうなる。

「ですが、リュシアン王子の国は、王族も成人の儀でモンスターを捕獲する儀式があります。あれも立派なハンターの仕事ですわ!」

「他所は他所! うちはうちだ!」

 娘がハンターになることがよほど嫌なのだろう。エリーザの言葉を全否定してきた。

「へー、本当にそんなことを言っても大丈夫なのでしょうか?」

 だが、エリーザ姫は怯むことなく堂々としている。

 まぁ、本当に効果があるのかわからないけど、一応切り札があるからな。

「お父様は、リュシアン王子に依頼書でなんでもすると書きましたわよね。依頼書は正式なもの。これをお父様の私利私欲のために曲げたと、民や他の国の王様たちが聞いたらどんな反応をするでしょうか?」

 エリーザ姫の言葉に、バーンズ王は歯を食い縛り、彼女を睨む。

「ぐぬぬ……分かった。勢い余ってなんでもすると書いた私の落ち度だ。特別に認めよう」

 娘に論破されてバーンズ王が折れると、エリーザ姫は顔を綻ばせる。

「ただし、リュシアンが命に変えてもエリーザを一生守り抜くことが条件だ。それでもいいのか!」

 今度俺にバーンズ王が訊ねてくる。

「分かりまいした。エリーザ姫は俺……私が一生守り抜くとここに誓いましょう」

「分かった。では、行くが良い。今はそなたの顔を見たくない。早々に立ち去るがよい」

「リュシアン王子ありがとうございます。ワタクシ、ハンターとして一生懸命サポートしますわ!」

 許しをもらって感極まったのだろう。エリーザ姫が俺に抱き付く。

 こうしてエリーザ姫はハンターとして新たな人生を歩むことになった。色々と不安要素はあるけど、まぁ、なんとかなるだろう。











最後まで読んでいただきありがとうございます。

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