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第七章

第七話 この胸の高鳴りはもしかして

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~エリーザ視点~



 ワタクシことエリーザは、リュシアン王子と別れたあとも、鼓動の高鳴りが止まりませんでした。

「今日のワタクシはどうしてしまったのでしょう。リュシアン王子と出会ってから、ドキドキが止まりませんわ」

 ワタクシはどうしてこんなに心臓の鼓動が激しいのか、今日一日の出来事を思い出すことにします。

 最初に心臓の鼓動が早鐘を打ったのは、ワタクシが窓から飛び降りようとしたとき、リュシアン王子が助けようとして一緒に落下したときです。

 あのときは死を覚悟しましたが、リュシアン王子の機転でワタクシはケガをせずにすみましたわ。

 当時は死が迫る恐怖から逃れ、生を実感したから心臓鼓動が早くなったと思っていました。

 そして心拍数が落ち着かないままお城の兵士に見つかり、彼らから逃げるために走りました。

 その時も全力で走って逃げたから、運動をしたことで心拍数が上がったのだと思いましたわ。

 兵士から逃げる中、リュシアン王子が木箱を見つけて中に入るという策を見出し、ワタクシたちは木箱に隠れました。

「今思えば、ワタクシって狭くて薄暗いところに、殿方と一緒にいたってことではないですか!」

 ワタクシは思わず声を上げてしまいます。

 更にその後のことを思い出してしまい、ワタクシは両手で顔を隠しました。

「しかもその後、壁に空いたから脱出しようとして、胸がえて抜け出せないという状態に陥ってしまったではないですか! 今思えば、今日一番の羞恥ポイントですわ!」

 羞恥心を覚えたワタクシはそのままベッドにダイブすると、左右に転がって身悶えました。そして枕に顔を埋めます。

 こうでもしないと、フッとした拍子に思い出しそうになるからです。

「でも、リュシアン王子の勇姿はとても素敵でしたわ」

 そう、ここが今日一番のドキドキポイントだったかもしれませんわ。

 森の中でディノブレードと呼ばれるティラノ型のモンスターが現れたとき、ワタクシは過去を思い出して身動きが取れない状態にありました。

 ですが、リュシアン王子はワタクシを助けようと、剣を取り出して勇敢にモンスターに立ち向かいました。

 あの光景は今でも鮮明に覚えています。それほどワタクシにとっては、目に焼き付けるほどの出来事でしたわ。

「そう言えば、彼が腰に付けていたポーチ。あれはハンターが使っている物と似ていたような? いえ、気のせいですわよね。だってリュシアン王子は隣国の王子様ですもの。ワタクシの大嫌いなハンターな訳がありませんわ」

 あれは気のせいだと己に言い聞かせます。

「ハンターと言えば、どうしてワタクシはリュシアン王子に過去話をしてしまったのでしょうか?」

 今日初めてお会いした方です。普通なら触れて欲しくはない出来事なので話さないようにしていますが、彼に訊かれたとき、つい口が滑ってしまいましたわ。

「本当に今日のワタクシはどうかしていますわ」

 どうしてなのか分からないまま、ワタクシは再び彼の勇姿を思い出すことにします。すると再びワタクシの鼓動が早鐘を打ち始めました。

「もう! どうしてリュシアン王子のことを考えるとドキドキが止まらないですの!」

 声を上げながら、ワタクシは再び枕に顔を埋めます。

 ドキドキと言えば、ディノブレードがワタクシを襲ってきたとき、リュシアン王子が助けてお姫様抱っこをしてくださいましたときも、心臓の鼓動が激しくなりましたわね。

 お姫様は王子様にお姫様抱っこをしてもらえる。それは物語の中で、現実には殆ど起きません。

 王族の中で、お父様以外にお姫様抱っこをしてもらったのは、リュシアン王子が初めてでしたわ。

 そう、お父様以外の殿方に抱き抱えられることなど、初めてでした。

「リュシアン王子の腕、とても逞しかったですわ。すぐに降ろされたのが惜しいくらいです」

 また出会ったときにお姫様抱っこをしてもらえるのでしょか?

「って、ワタクシは何を考えているのです! ワタクシのバカ、バカ、バカ!」

 声を上げていると、突然部屋の扉が叩かれました。

「エリーザ姫様大丈夫ですか? ご自分を責められているようですが?」

 扉越しに侍女の声が聞こえる。

「だ、大丈夫ですわ! 気になさらないで」

「そうですか。ならいいのですが。失礼ですが、入らせてもらってもよろしいでしょうか? お話しがあります」

「ええ、宜しくてよ」

 入室を許可すると、侍女が部屋の中に入ってきます。

「おやすみ中でしたか」

「いえ、ただ横になっていただけですわ。それでどのようなご用件ですの?」

 上体を起こして侍女の顔を見ます。

「王様が大事なお話しがあるようなので、直ぐに部屋に来てほしいそうです」

「分かりましたわ」

「では、失礼します」

「あ、待ってください!」

 踵を返して背を向ける侍女に、ワタクシは呼び止めました。

「何でしょうか?」

「あ、あのう……えーと」

 どうしてワタクシは急に言葉にかえてしまったのでしょう? 彼女に聞けば、このドキドキの正体も分かるかもしれないはずですのに。

 待たせているのにも関わらず、侍女は柔軟な笑みを浮かべています。

 勇気を振り絞るのです! ワタクシ!

「あのですね! あなたに相談したいことがありますの!」

 ワタクシは少々恥ずかしい思いをしながらも、今日一日ドキドキが止まらないことや、リュシアン王子のことを思い出すと、顔が赤くなって体が熱くなることを話ました。

 すると、侍女は顔を綻ばせながら目尻からは涙を流します。

 ワタクシ、彼女を泣かせるようなことを言ってしまったのでしようか? でも顔は喜んでいるのはいったい?

「おめでとうございます! エリーザ姫様!」

 驚きと困惑で一杯の中、侍女が祝福してきました。そのせいで余計に頭の中がこんがらがります。

「エリーザ姫様はついに恋をされたのですね!」

「こ、恋!」

 予想外の言葉に、ワタクシはまた声を上げました。

「おてんばに育ってしまい、王族に仕える身として心配しましたが、とうとう乙女のようなこと言うようになられたのですね! 私は嬉しいです。ささ、王様がお待ちですので、早くお部屋から出ましょう」

 部屋から出るように促され、ワタクシは部屋を出るとお父様の部屋に向かいます。

 ワタクシはリュシアン王子のことが好き。本当なのでしょうか?

 でも、侍女が言うのなら間違いないはずです。

 ワタクシはリュシアン王子のことが好きなのでしょう。

 ドキドキの正体が分かりスッキリしました。でも、彼のことを好きになった後はどうすればいいのでしょうか? その辺に疎いワタクシは何も分かりません。

「また侍女にでも相談するとしましょう」

 お父様の部屋の前に行くと、ワタクシは扉をノックします。

「お父様、エリーザです」

「エリーザか。入って来てくれ」

 入室するように促され、ワタクシはお父様の部屋に入ります。お父様は読書中だったらしく、持っていた本を閉じました。

「エリーザ、お前の婚儀の相手が決まった」

「え!」

 お父様の言葉を聞いたワタクシは、一瞬時が止まったかのように錯覚しました。

 リュシアン王子のことが好きだと分かった途端に、婚儀の話がくるとは思いにもよりませんでしたわ。










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