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第七章

第六話 ディノブレードを倒したけど、誤解されてしまったな。

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 俺たちを襲ってきたティラノ型のモンスター、ディノブレードを倒した俺は、ポーチから剥ぎ取り用のナイフを取り出して、素材の剥ぎ取り作業を始める。

「リュシアン王子、何をしているのですか?」

「素材の剥ぎ取りですよ。こいつをやっておかないと、モンスターの死肉を求めて外来種のモンスターがやって来ることがあるのです。この辺りには見かけないディノブレードがいたのも、それが原因かもしれない」

「そうなのですわね。そのようなことが起きるなど知りませんでしたわ。リュシアン王子はハンター関係の学もお持ちなのですね。素敵ですわ」

 エリーザ姫の言葉に、俺は苦笑いを浮かべる。

 実際はハンターだからな。こんなの、ハンターにとっては常識の範囲だ。

「何かお手伝いをすることはありますか?」

「大丈夫ですよ。慣れているので直ぐに終わらせます」

 申し出はありがたいけど、素人が剥ぎ取りをすると貴重の素材に傷を入れてしまうかもしれない。小さい傷なら問題ないけど、取り返しのつかないレベルになると、武器や防具の素材としては使えないからな。エリーザ姫には悪いけど、俺一人でさせてもらう。

「でしたら、近くで見ていても宜しくて」

「ええ、構いませんよ」

 エリーザ姫、モンスターの剥ぎ取りに興味があるみたいだな。本当に体験したかったのだろう。

 でも、ディノブレードの討伐依頼は滅多にない。だから素材は貴重となる。たとえ鱗であったとしても丁寧に剥ぎ取って一つでも多くの素材を持ち帰りたいんだ。

 そんなことを考えていると、エリーザ姫からの視線を感じる。

 エリーザ姫、俺の手ではなく、顔を見ていないか? 気のせいかもしれないけど、なんとなく見られているような気がする。

 視線が気になってしまうが、俺はなるべく気にしないように心がけながら、剥ぎ取りを進める。

 こいつの尻尾、もしかしたら俺の太刀の強化に使えるかもしれないな。帰ったら鍛冶職人のベルトラムさんに訊いてみるか。

「これでよし。エリーザ姫、剥ぎ取りが終わりましたので先に進みましょうか」

 モンスターの解体が終わり、ディノブレードがいたという痕跡が殆どなくなると、俺は先に進むように促す。

「そうですわね。では行きましょうか。もし、またモンスターが現れたらワタクシを守ってくださいます?」

「もちろんですよ。この命にかけてもエリーザ姫を守ってみせます」

「うふふ、期待しておりますわ」

 エリーザ姫は笑みを浮かべる。さすがお姫様と言うべきか、笑い方にも気品があった。

 もし、エリーザ姫にケガでもさせたら、外交問題に発展する可能性もあるからな。絶対に彼女は無事に送り届けないといけない。

 そう思いながら歩いていると、開けた場所に出た。そこは花畑となっており、様々な色の花が咲いている。

「着きましたわ。では、ワタクシがお花を摘んできますので、少々お待ちくださいませ」

 エリーザ姫が花畑の中心部に向かうと座り出し、咲いている花を摘んでいくのを見守る。

 一応周囲を警戒してはいたが、モンスターの気配は感じられなかった。

「お待たせしました。ではお城に帰りましょうか。帰りの護衛もお願いしますわね」

 片手で掴める量の花を摘み、エリーザ姫は俺のところに戻ってくる。

「お任せください」

 俺は返事をすると、エリーザ姫と一緒にお城に向けて帰り道を歩く。

 帰り道もモンスターが現れたが、どれも小型で苦戦するようなことはなかった。

「リュシアン王子、どうしてあなたはそんなにお強いですの? 王族としては少々変わっておられるかと思いますが」

 倒したモンスターを剥ぎ取っていると、突然エリーザ姫が訪ねてくる。

 さすがにこれだけ多くのモンスターに、苦戦することなく倒せば疑問に思ってしまうよな。どうにかして誤魔化さないと。

「私の国では王子が成人すると、成人の儀を受けると言う風習があるのです。その儀式と言うのが、モンスターの捕獲と言うものなのです。ですから、自然とモンスターと戦うように教育を受けました」

「そうだったのですか。なら、リュシアン王子がお強いのも納得しますわね」

 良かった。どうにか誤魔化すことに成功した。

 バレたら色々と大変なことになるからな。

 安堵をしつつ、俺たちは森を抜けると抜け道となっている穴に向かった。

 脱出したときと同様に俺が先に入り、続いでエリーザ姫が穴の中から出ようとするが、また胸がつっかえたと言うので、彼女を引っ張ってあげた。

「こんな壁に空いた穴も自力で抜けることができないなんて。ダイエットをしたほうがいいかもしれませんわね」

「エリーザ姫様は、今のままでも十分ですよ」

 せっかく立派な胸を持っているのに、ダイエットをして胸の脂肪を減らすなんてもったいない。

「そうですか! リュシアン王子がそう言うのであれば、ワタクシはこのままの体型でいることにします」

 そんな会話をしつつ、俺は兵士の目を盗んでエリーザ姫を彼女の部屋の前にまで送り届けた。

「今日はありがとうございます。とても楽しかったですわ」

「そう言ってもらえると、私も嬉しいです。では」

「リュシアン王子!」

 踵を返してこの場から去ろうとすると、背後からエリーザ姫が俺の名を呼ぶ。

「また会えますわよね」

「ええ、機会がありましたらまたお会いできますよ」

 俺は嘘を吐いた。俺は本当の王子ではない。依頼が終われば、多分この国に訪れることはないだろうし、仮にあったとしてもその時はハンターとしてだ。おそらくもう出会うことはないだろう。

 振り返ることなくそのまま歩くと、レンナルト王様を見つけた。

 彼も俺に気付いたようで早歩きでこちらにやって来る。

「リュシアン殿、本日は助かった。お陰で外交は上手くいった。上手く行ったのだが……」

 途中からレンナルト王様は言葉を詰まらせ、表情を暗くした。

 どうしたのだろうか? 外交が上手くいったと自ら言ったのに、どうしてそんなに暗い表情をする?

「リュシアン殿。続きは馬車の中で話そう」

 踵を返してレンナルト王様は俺から離れて行く。

 そんなにこの場では話せないような内容なのだろうか?

 レンナルト王様が早歩きで城の外に向かったので、俺も同じ速度で彼の横を歩く。

 そして城から出て馬車に乗ると、レンナルト王様はホッとしたかのように息を吐く。

「それで、どうしてそんなに暗い表情をしたのですか?」

 気になった俺は、彼が言い出すよりも先に話題を切り出した。

「ああ、それがな――」

「え!」

 レンナルト王様はバーンズ王とどんな会話をしたのかを話してくれたが、最後の話が衝撃的すぎた。

「すまない! 正式にワタシの息子になってくれ!」











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