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第六章
第八話 僕がロックモグーラをもう一度捕獲するなんてムリだ!誰か助けて!
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~チャプス視点~
僕ことチャプスは、上手く成人の儀を終え、父上を騙すことに成功して舞い上がっていた。
これで僕は次期王様だ! 新しい法律を作ったり、今まで以上に兵士をこき使ったりすることができるぞ。
そうすれば、この国には僕に逆らうものはいなくなる。今まで以上にチヤホヤされ、勝ち組人生を突き進むのだ。
将来を想像すればするほどニヤニヤが止まらない。だけど、王とは常に凛としているもの。明日からは変にニヤけないようにしなければ。
そんなことを考えながら、僕は自室へと戻って行く。
翌日、パレードの主役である僕は、馬車の中から愚民たちに手を振っていた。
僕の隣には父上もおり、彼も愚民たちに手を振っている。
「キャー! チャプス王子! 素敵です!」
「あんな大きなモンスターを捕獲するなんて、この国は安泰だ!」
左右から愚民たちの歓声が聞こえてくる。
いいぞ、いいぞ! 愚民たちよ! この僕をもっと称えるのだ!
ああ、なんて気持ちいいんだ。これが愚民たちからの祝福と言うものか。
パレードが終わりに近づくのがなんだか惜しい。もっと時間がゆっくりと進めばいいのに。
「うわあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そんなことを考えていると、後方から叫び声が聞こえた。
なんだ? いったい何が起きたと言うのだ?
僕は窓から身を乗り出して後方を見る。すると、心臓の鼓動が速くなった。
きっと今の僕の顔色は青ざめているに決まっている。
捕らえたロックモグーラが目を覚まし、暴れて拘束していた縄を外したのだ。
「きゃあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「王様たちを守れ! 一部の兵士は民たちの避難を!」
兵士長が指示を出し、ロックモグーラを攻撃するも、硬い岩に遮られてダメージを与えている様子はなかった。
一人、また一人と兵士が倒されていく。そんな中、父上は馬車から降りた。
「狼狽えるな! ここにはそのモンスターを捕らえたチャプスがいる! もう一度チャプスに捕獲して貰えばいいことだ!」
はああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
父上の言葉を聞いた僕は、つい心の中で叫ぶ。
「な、なにを言っているのですか父上! 今は捕獲するハンマーもアイテムもないのですよ!」
そうだ。ハンマーやアイテムがなければ僕は戦うことができない。これを指摘すれば、僕は戦う必要がないのだ。
「安心しなさい。こんなこともあろうかと、事前に用意してある。誰か、捕獲セットを持って来てくれ!」
どうして事前にそんなものを用意している! 父上はこうなることを予想していたのかよ! 普通は、こんなことが起きるなんて予想しないものだろうが!
僕は再び心の中で叫ぶ。
するとハンマーや麻酔針などのアイテムを持って来た兵士が父上に渡す。
「陛下、捕獲セットを持ってきました」
「うむ」
父上がハンマーを受け取ると、それを僕に渡した。
「さぁ、お前の勇姿を民たちに見せてあげなさい」
ハンマーを受け取ると、さっきまで以上に鼓動が激しくなる。絶対に顔色が悪くなっているに違いない。
「どうした? 体が震えているようだが? もしかして怖いのか?」
「そ、そんな訳ないじゃないですか。こ、これは武者震いですよ」
「そうか。やる気十分のようで安心した。さぁ、行きなさい」
父上がニッコリと笑みを浮かべる。
ど、どうする? どうやってやつを倒せばいいんだ? と、とにかく馬車から降りないと父上に怪しまれる。
震えが止まらない中、僕は馬車から降りてハンマーを構えた。
「チャプス王子! そんなモンスター直ぐに倒してください!」
「チャプス王子頑張って!」
周辺から愚民たちからの声援が送られてくる。
怖い! 怖い! 怖い! だけどここで戦わないと、僕が不正したと言うことが父上どころか愚民たちにもバレてしまう。
「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
僕はハンマーを上段に持ち、ロックモグーラに接近する。
するとやつは口を開け、口内から岩を吐き出した。
そんな攻撃、王家の山ではしてこなかったじゃないか!
「ぶはっ!」
岩が直撃した僕は、そのまま吹き飛ばされて地面に転がる。
「チャプス! 何油断しているんだ! 一度捕獲したからと言って、慢心はよくないぞ!」
父上のお叱りの声が耳に入る。
くそう! くそう! くそう! どうしてこうなってしまうんだよ! こうなるのなら、大きさなんか気にしないで、アルカイトにしておけば良かった。
後悔しながら立ち上がるが、僕の膝は笑っていた。足がガクガクとして恐怖で震えている。
動かないでいると、ロックモグーラはゆっくりと近づいてきた。
どうして兵士たちは僕を守らないで愚民共を守る! 普通は未来の王である僕を守るのがものだろうが!
「ぐぞう! ぜっだいにおばえをぼかくじでりゃる」
岩が直撃したときに顔面を強打したからか、まともに喋ることができなかった。
「なあ、本当にチャプス王子があのモンスターを捕獲したのか?」
「なんだか怪しいわね。チャプス王子、あの岩を受けて自分から動こうとしなくなったわ」
先ほどまで声援を送っていた愚民たちは、僕に疑惑の目を向けてきた。
そんな目で僕を見るな! 愚民風情が! 顔を覚えたからな! これが終わったらお前たちを牢にぶち込んでやる!
ロックモグーラが近づく中、僕はモンスターの胸部を見る。
こうなったら、弱点が晒されているあそこを攻撃するしかない。
僕はやつの懐に入ろうと、車道を蹴って距離を詰めて近付く。しかし僕が懐に入るよりも、ロックモグーラの前足による踏みつけの方が早かった。
僕は押し潰されて地面に埋まる。
運良く地面が陥没していたので死ぬことはなかった。でも、ダメージはでかい。
もうムリだ。死ぬ! どう足掻いたって、僕がロックモグーラに勝てるはずがないんだ!
モンスターが前足を退かしてくれたお陰で、陥没した地面から這い出ることができるようになった。
急いで車道にあがるが、ロックモグーラの猛攻は続く。
もう一度口から岩を吐き出され、直撃を受けた僕は吹き飛ばされる。
どうにか岩を退かして立ち上がることができたが、その瞬間、胃から何かが込み上げてきた。
「おええええ、おええええ!」
僕の口から出たものは、血ではなかった。胃の中で消化しきれなかった食べ物が口から吐き出され、嘔吐する。
「いやあああああああああ、気持ち悪い!」
「うわっ、王子ともあろう人間が民衆の前で嘔吐しやがった」
「見るな! もらいゲロをするぞ!」
くそう! くそう! くそう! どうして嘔吐なんてしてしまうんだよ! そこは吐血だろうが!
心の中で叫ぶ中、再びロックモグーラは僕のところにやって来る。
「ヒッ!」
僕の目から涙が流れてしまった。モンスターの迫力に圧倒され、尻もちをつきながらも無様に後方に下がる。
くるな! 頼む! 助けてくれ! 誰か!
両の目から涙を流し、僕は心の中で懇願する。
ロックモグーラが前足を前に突き出した瞬間、僕は死を覚悟した。
自身の体が貫かれるような光景は見たくない。
そう思い、両の瞼を閉じる。
「チャプス王子、大丈夫ですか?」
僕を心配する言葉が耳に入り、閉じていた瞼を開く。
そこには黒髪短髪の男が、太刀でロックモグーラの攻撃を防いでいた。
「ど、どうじでおばえがごごにいりゅる! がえったんじゃにゃいのか?」
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僕ことチャプスは、上手く成人の儀を終え、父上を騙すことに成功して舞い上がっていた。
これで僕は次期王様だ! 新しい法律を作ったり、今まで以上に兵士をこき使ったりすることができるぞ。
そうすれば、この国には僕に逆らうものはいなくなる。今まで以上にチヤホヤされ、勝ち組人生を突き進むのだ。
将来を想像すればするほどニヤニヤが止まらない。だけど、王とは常に凛としているもの。明日からは変にニヤけないようにしなければ。
そんなことを考えながら、僕は自室へと戻って行く。
翌日、パレードの主役である僕は、馬車の中から愚民たちに手を振っていた。
僕の隣には父上もおり、彼も愚民たちに手を振っている。
「キャー! チャプス王子! 素敵です!」
「あんな大きなモンスターを捕獲するなんて、この国は安泰だ!」
左右から愚民たちの歓声が聞こえてくる。
いいぞ、いいぞ! 愚民たちよ! この僕をもっと称えるのだ!
ああ、なんて気持ちいいんだ。これが愚民たちからの祝福と言うものか。
パレードが終わりに近づくのがなんだか惜しい。もっと時間がゆっくりと進めばいいのに。
「うわあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そんなことを考えていると、後方から叫び声が聞こえた。
なんだ? いったい何が起きたと言うのだ?
僕は窓から身を乗り出して後方を見る。すると、心臓の鼓動が速くなった。
きっと今の僕の顔色は青ざめているに決まっている。
捕らえたロックモグーラが目を覚まし、暴れて拘束していた縄を外したのだ。
「きゃあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「王様たちを守れ! 一部の兵士は民たちの避難を!」
兵士長が指示を出し、ロックモグーラを攻撃するも、硬い岩に遮られてダメージを与えている様子はなかった。
一人、また一人と兵士が倒されていく。そんな中、父上は馬車から降りた。
「狼狽えるな! ここにはそのモンスターを捕らえたチャプスがいる! もう一度チャプスに捕獲して貰えばいいことだ!」
はああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
父上の言葉を聞いた僕は、つい心の中で叫ぶ。
「な、なにを言っているのですか父上! 今は捕獲するハンマーもアイテムもないのですよ!」
そうだ。ハンマーやアイテムがなければ僕は戦うことができない。これを指摘すれば、僕は戦う必要がないのだ。
「安心しなさい。こんなこともあろうかと、事前に用意してある。誰か、捕獲セットを持って来てくれ!」
どうして事前にそんなものを用意している! 父上はこうなることを予想していたのかよ! 普通は、こんなことが起きるなんて予想しないものだろうが!
僕は再び心の中で叫ぶ。
するとハンマーや麻酔針などのアイテムを持って来た兵士が父上に渡す。
「陛下、捕獲セットを持ってきました」
「うむ」
父上がハンマーを受け取ると、それを僕に渡した。
「さぁ、お前の勇姿を民たちに見せてあげなさい」
ハンマーを受け取ると、さっきまで以上に鼓動が激しくなる。絶対に顔色が悪くなっているに違いない。
「どうした? 体が震えているようだが? もしかして怖いのか?」
「そ、そんな訳ないじゃないですか。こ、これは武者震いですよ」
「そうか。やる気十分のようで安心した。さぁ、行きなさい」
父上がニッコリと笑みを浮かべる。
ど、どうする? どうやってやつを倒せばいいんだ? と、とにかく馬車から降りないと父上に怪しまれる。
震えが止まらない中、僕は馬車から降りてハンマーを構えた。
「チャプス王子! そんなモンスター直ぐに倒してください!」
「チャプス王子頑張って!」
周辺から愚民たちからの声援が送られてくる。
怖い! 怖い! 怖い! だけどここで戦わないと、僕が不正したと言うことが父上どころか愚民たちにもバレてしまう。
「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
僕はハンマーを上段に持ち、ロックモグーラに接近する。
するとやつは口を開け、口内から岩を吐き出した。
そんな攻撃、王家の山ではしてこなかったじゃないか!
「ぶはっ!」
岩が直撃した僕は、そのまま吹き飛ばされて地面に転がる。
「チャプス! 何油断しているんだ! 一度捕獲したからと言って、慢心はよくないぞ!」
父上のお叱りの声が耳に入る。
くそう! くそう! くそう! どうしてこうなってしまうんだよ! こうなるのなら、大きさなんか気にしないで、アルカイトにしておけば良かった。
後悔しながら立ち上がるが、僕の膝は笑っていた。足がガクガクとして恐怖で震えている。
動かないでいると、ロックモグーラはゆっくりと近づいてきた。
どうして兵士たちは僕を守らないで愚民共を守る! 普通は未来の王である僕を守るのがものだろうが!
「ぐぞう! ぜっだいにおばえをぼかくじでりゃる」
岩が直撃したときに顔面を強打したからか、まともに喋ることができなかった。
「なあ、本当にチャプス王子があのモンスターを捕獲したのか?」
「なんだか怪しいわね。チャプス王子、あの岩を受けて自分から動こうとしなくなったわ」
先ほどまで声援を送っていた愚民たちは、僕に疑惑の目を向けてきた。
そんな目で僕を見るな! 愚民風情が! 顔を覚えたからな! これが終わったらお前たちを牢にぶち込んでやる!
ロックモグーラが近づく中、僕はモンスターの胸部を見る。
こうなったら、弱点が晒されているあそこを攻撃するしかない。
僕はやつの懐に入ろうと、車道を蹴って距離を詰めて近付く。しかし僕が懐に入るよりも、ロックモグーラの前足による踏みつけの方が早かった。
僕は押し潰されて地面に埋まる。
運良く地面が陥没していたので死ぬことはなかった。でも、ダメージはでかい。
もうムリだ。死ぬ! どう足掻いたって、僕がロックモグーラに勝てるはずがないんだ!
モンスターが前足を退かしてくれたお陰で、陥没した地面から這い出ることができるようになった。
急いで車道にあがるが、ロックモグーラの猛攻は続く。
もう一度口から岩を吐き出され、直撃を受けた僕は吹き飛ばされる。
どうにか岩を退かして立ち上がることができたが、その瞬間、胃から何かが込み上げてきた。
「おええええ、おええええ!」
僕の口から出たものは、血ではなかった。胃の中で消化しきれなかった食べ物が口から吐き出され、嘔吐する。
「いやあああああああああ、気持ち悪い!」
「うわっ、王子ともあろう人間が民衆の前で嘔吐しやがった」
「見るな! もらいゲロをするぞ!」
くそう! くそう! くそう! どうして嘔吐なんてしてしまうんだよ! そこは吐血だろうが!
心の中で叫ぶ中、再びロックモグーラは僕のところにやって来る。
「ヒッ!」
僕の目から涙が流れてしまった。モンスターの迫力に圧倒され、尻もちをつきながらも無様に後方に下がる。
くるな! 頼む! 助けてくれ! 誰か!
両の目から涙を流し、僕は心の中で懇願する。
ロックモグーラが前足を前に突き出した瞬間、僕は死を覚悟した。
自身の体が貫かれるような光景は見たくない。
そう思い、両の瞼を閉じる。
「チャプス王子、大丈夫ですか?」
僕を心配する言葉が耳に入り、閉じていた瞼を開く。
そこには黒髪短髪の男が、太刀でロックモグーラの攻撃を防いでいた。
「ど、どうじでおばえがごごにいりゅる! がえったんじゃにゃいのか?」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
面白かった! この物語は期待できる! 続きが早く読みたい!
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