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第六章

第六話 ロックモグーラを捕獲したぞ!これで満足だよな

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「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 俺は雄叫びを上げながらロックモグーラにハンマーを振り下ろす。

 人は瞬間的に大きな力を振るう際に声を上げることで、神経による運動制御の抑制を外し、自分の筋肉の限界に近い力を発揮させることができる。

 ハンマーがモンスターの前足に当たると、岩に弾かれてしまった。

 このハンマー弱い!

 なんだよ、このハンマーの性能の悪さは。俺が肉体の限界の力で攻撃したのに、簡単に弾かれてしまった。王家の成人の儀で使われるようなハンマーなら、もっと良いものを用意できるだろう!

 あまりにも弱すぎる得物に、俺は内心文句を言う。

 だからと言って、俺の太刀で攻撃するわけにはいかない。万が一討伐してしまえば、依頼失敗となってしまう。

 考えろ! こんなハンマーでも、何か突破口があるはずだ。

リュシアンピグレット、ユリヤ! 耳封じ作戦よ!」

 突然背後からテレーゼが作戦を伝達してきた。

 耳封じ作戦? なんだそりゃ? 初耳だぞ?

 困惑しながらも、テレーゼの方を見る。彼女は両手で耳を塞いでいた。

 なるほど、耳封じ作戦ってそう言うことだったのか。急に作戦を言うから何事かと思ったじゃないか。

 俺はポーチに手を突っ込み、テレーゼから貰った耳栓を耳に嵌める。

 その数秒後、ロックモグーラの胸部の岩が砕けた。

 空気の振動が対象物の強度を上回れば、音で物を破壊することができる。

 この性質を利用し、音の力だけでモンスターの装甲とも言える岩を破壊した。

 そしてなぜかチャプス王子が苦しそうに地面に転がっている。

 目からは涙を流し、口を大きく開けているところからすると、泣き叫んでいるのだろう。

 もしかして。

 気になった俺は、テレーゼの方に顔を向ける。

 彼女はイタズラに成功した子どものような笑みを浮かべていた。

 たく、どさくさに紛れてチャプス王子を攻撃するなと言ったのに。

 俺は右手を額に当てた。

 テレーゼは二つの音を操ることができる。一つは先ほどのように物体を破壊する力、そしてもう一つは人体に悪影響を与える力だ。

 人体に悪影響を与える音波は、人の行動能力、判断能力を奪われる。その他にも肉体的ダメージを与えられるのだ。

 彼女から発せられる音が耳に入ると、精神が安定しなくなる。そして血流が低下したことにより、脳が過剰に反応して神経に異常をきたす。

 それにより、髪の毛や爪の刺激でさえも、痛みを感じてしまった結果、チャプス王子は痛みに耐えきれなくなり、醜態を晒していると言うことだ。

 後で何か言われるかもしれないけど、そこは上手く誤魔化すとするか。

 チャプス王子が苦痛に顔を歪ませながら立ち上がる。どうやらテレーゼの攻撃が終わったようだ。

 俺も耳栓を外してポーチの中に入れると、もう一度ロックモグーラに接近する。

 モンスターは前足を上げて俺を叩き潰そうとするが、横に跳んで躱し、懐に入る。

 岩が砕けた胸部は、内側にある柔らかい肉が丸見えとなっていた。

「今度こそダメージを与える!」

 柔らかい肉に向けてハンマーを叩き付ける。岩で覆っている分、内側の肉体は貧弱だった。

 ハンマーが触れた瞬間、やつの肉体が損傷して血が噴き出す。

 ロックモグーラは声帯を持っていない。そのためダメージを受けても叫ぶことがない。

 目障りな鳴き声を聞かないで済むというのはありがたいが、その分、憤怒状態になったときが分かりにくいのが難点だ。

 気付いたら憤怒状態になっており、一発で即死したというハンターの話も聞いたことがある。

 弱点を晒したら、早期撃破が鉄則だ。

 討伐だったらこのまま肉を切り裂いて終わりなのに、捕獲系は本当に面倒臭いよな。

 捕獲するためにはまだダメージを与える必要がある。捕獲に使用する麻酔針は、元気なモンスターには効果が出ないからな。

 もう一度胸部を殴ろうとすると、ロックモグーラは後方に下がった。そのせいで俺の攻撃は奴の下顎に当たり、弾かれる。

 そう簡単には何度も弱点を攻撃させてくれないか。なら、もう一度接近するのみ。

 もう一度モンスターに接近しようとしたとき、やつは地面を掘って地中に隠れた。

 逃げられた? いや、振動がこっちに向かっている。地中を移動して不意打ちをする気か。

「ぎゃあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ロックモグーラが現れた場所はなぜかチャプス王子の真下だった。

 吹き飛ばされた彼は空中に舞いながら悲鳴を上げている。

 どうして逃げないんだよ。自分は攻撃されないと思っていたのか。

 俺は急いでチャプス王子の落下地点に向けて走ると、彼をキャッチした。

 お、重い! いったい体重はどれだけあるんだよ。きっと王族だからと言って、美味いものばかり食っているのだろう!

「愚民! 危うく死にかけたではないか! あんなクソ弱そうなモンスターなど、さっさと倒さないか!」

「あ、手が滑った」

 チャプス王子の言葉にイラッときた俺は、わざと手を離して彼を地面に落とした。

 これくらいならきっと許してくれるだろう。

「いたた。愚民! 何をしている! しっかり持っておかないか!」

「すみません。チャプス王子があまりにも体格が良すぎるので、俺の細腕では支えることができませんでした」

「おのれ! 絶対にわざとだ! ハンターが僕を支えられないほどの貧弱な訳がない!」

 いや、本当に辛いと思うほど重かったぞ。少しは運動をしてダイエットをした方が良い。

「とにかく、ここは危険なのでチャプス王子は離れてください。俺たちはあのモンスターを捕獲しないといけないので。ユリヤ、テレーゼ。そろそろ決着をつけよう」

「分かりました」

「そうね。こんなやつさっさと捕獲して任務を終わらせましょう!」

「あ、待て! この王家の山に安全な場所なんてないんだぞ! 護衛の側が一番安全なんだ! 僕から離れないでくれ!」

 チャプス王子の叫び声が聞こえてきたが、完全に無視だ。あんなやつに構うくらいなら、さっさと捕獲して終わらせたほうが、一番早く終わらせることができる。

「あたしが肉体を狂化する歌を歌うわ! その間にお願い」

「分かりました。では、私は岩の装甲が剥がれた弱点を攻撃します」

 それぞれが自分の役割を決めると、テレーゼが歌い出す。

 耳から入った音楽は脳へと伝わり、全身に影響を及ぼす。

 自律神経系に作用して、心拍や血圧が変化し、興奮や鎮静、リラクゼーションなどの効果がもたらされるからだ。

 同時に心の状態にも影響を与え、感情、知覚、認知を活性化させる。

 音楽そのものに力はないが、音楽を聴くことによって思い起こされる記憶や感情が身体に影響を与える。

 テレーゼの歌声を聴きながら、俺はモンスターに近付く。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 そして俺は跳躍してハンマーをロックモグーラの頭部に当てる。

 テレーゼの歌を聴きながら、俺は声を上げることで脳のリミッターを外し、限界に近い一撃をお見舞いした。

 ハンマーが当たったモンスターは地面に倒れ、動かなくなる。どうやら頭部を思いっきり殴られたことで、気を失ってしまったようだ。

「リュシアンさん! 今なら捕獲できるかもしれません」

「そうだな」

 俺はポーチから麻酔針を取り出し、ロックモグーラの剥き出しになった肉に刺した。

 麻酔針の効果が現れたようで、モンスターの鼻から鼻提灯が出てくる。

「捕獲完了だ!」











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