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第六章
第一話 王族からの依頼
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~リュシアン視点~
あっという間だったバカンスを終えた俺たちは、翌日からいつものようにハンターの仕事をしていた。
「えーと、リュシアン君にはこの依頼をお願いしたいのだけど頼めるかな?」
ギルドマスターのエレーヌさんから依頼書と封筒を受け取る。
何だ? この封筒は? こんなの初めてだぞ。
「本当は別のギルドの仕事だったのだけど、依頼を受けられるような状態ではないらしいのよ。それでわたしのところに委託されたの」
エレーヌさんから話を聞き、俺は依頼書に目を通す。
『俺はフェルディナンズのギルドマスター、フェルディナンだ。こちらが最初に受けていた依頼だったのだが、色々とあって受けるハンターがいない。そこで我々の代わりにこの依頼を受けて欲しい』
依頼者はフェルディナンかよ。確か彼はアントニオが死んで代わりにギルドマスターになったという話だったよな。
あいつには利用されたりしたことがあったから、何だか怪しい感じがする。だけど、ギルドマスターであるエレーヌさんが委託を受けたと言うことは、それなりに信頼してもいいのか?
どっちにしろ、仕事であることには変わらない。何があったとしてもその時に対応すればいいか。
俺はもう一枚の紙に目を通す。今度は本当の依頼者からのメッセージだった。
『ワタシはこの国の王、レンナルト・ブルーイットである』
最初に書かれた文章を読んで、俺は自分の目を疑った。
嘘だろう! この国の王様からの依頼なのかよ! これって俺の予想を遥かに超えるような、大変な依頼になるんじゃないのか?
王様からの依頼だと知り、俺の鼓動は早鐘を打った。
と、とにかく続きを読まないと。
『実は、もうすぐワタシの息子であるチャプス王子が、王族の成人の儀をするのだ。そこでハンターにはチャプスが無事に成人の儀を終えるまでの護衛を頼みたい。詳しいことは城で話す。できれば二、三名で来てくれると助かる。一緒に送った封筒には城への招待状が入っているので、それを門番に見せれば入れてもらえるはずだ』
読み終わると、俺は手が震えていることに気づく。
これはとんでもない依頼を受けてしまった。この依頼に失敗すれば、最悪俺や同行者の首が飛ぶことにもなりかねない。
「これはリュシアン君にしか頼めないのよ! お願い! 上手くいった暁には報酬の九割をリュシアン君にあげるから」
俺の不安が伝わってしまったのか、エレーヌさんが両手を合わせて俺に懇願してくる。
これは本当に大変な依頼だ。さっきは失敗した場合、俺や同行者の首が飛ぶかもしれないと考えたが、本当の最悪のシナリオは、このギルドが存在しなくなる可能性があることだ。
このギルドの命運を握っていると言っても過言ではない。
「わ、わかりました。リュシアン・プライム、この依頼、絶対に成功してみせます」
「ありがとう! 本当に助かるわ! リュシアン君がいてくれて良かった」
もう一度依頼を受ける意思を伝えると、エレーヌさんの顔が綻ぶ。そして感極まったのか、俺に抱き付いてきた。
抱き締められたことで、彼女の豊満な胸が押しつけられ、さっきとは別の意味で心臓の鼓動が激しくなる。
「ちょっとエレーヌ! 何リュシアンに抱き付いているのよ! 離れなさいよ!」
「そうです! いくらエレーヌさんだとしても、それは許される行為ではありませんよ!」
突然のことで戸惑っていると、テレーゼとユリヤが声を上げた。そしてエレーヌさんから俺を引き離す。
「あらあら、ごめんなさいね。つい嬉しくって抱き締めてしまったわ」
頬に手を添えながら、エレーヌさんが謝る。
「い、いえ、大丈夫です」
「リュシアン、これはどう言うことなのよ! 説明しなさい!」
「そうですよ! どうして急にエレーヌさんが抱き付くようなことになったのですか!」
テレーゼとユリヤが怖い顔をして説明を求めてきた。
「わ、分かった。説明をするから落ち着いてくれ」
俺は二人に王様から依頼が来たこと、この依頼に失敗したときのリスクなどを語る。
「なるほど、それでエレーヌが嬉しくなって抱き付いてきたのね」
「エレーヌさんの立場で考えたら当然の反応かもしれないですけど、いきなり異性に抱き付くのはよくないと思います」
あれ? どうして今の説明で、エレーヌさんから抱きつかれた話に戻ってしまうの? もうその件は忘れてもっと真剣になった方がいいと思うのだけど?
「まぁ、とにかく王様からは二、三名のハンターを頼まれている。俺と一緒に行ってくれるハンターを決めないと」
「ハイハイ! それならあたしが付いて行くわ! リュシアンの依頼は可能な限り同行するって決めているから」
「私も付いて行きます! リュシアンさんだけにこのギルドの命運を託すわけには行きませんので」
話を強引に戻すと、テレーゼとユリヤが同行してくれると言ってくれた。
「本当に良いのか? これはこれまでの依頼よりも難易度が高いんだぞ」
俺は二人に尋ねると、彼女たちは無言で頷いた。
「分かった。なら、俺の同行者はテレーゼとユリヤに決めたよ」
二人を同行者にすること伝えると、彼女たちは顔を綻ばせた。
「エレーヌさん。俺たち三人で王様のところに行ってきます」
「お願いね。でも、あんまり気を張ってはダメよ。いつもどおりのリュシアン君でいてね。ギルドの命運なんてことは考えないで、普通の依頼だと思っていいから。緊張で肩を張らずにリラックスするのよ」
出発することを伝えると、毎回恒例のエレーヌさんのお節介を聞くことになる。
彼女の言葉を聞くと、何だか普通の依頼のように思えてきた。これなら変に気を張って失敗するなんてことにはならないだろう。
ありがとう。エレーヌさん。
心の中でギルドマスターにお礼を言うと、俺たちはギルドから出て行った。
目指すは王様のいるお城だ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
面白かった! この物語は期待できる! 続きが早く読みたい!
など思っていただけましたら、【感想】や【お気に入り登録】をしていただけると、作者のモチベが上がり、更新が早くなります。
【感想】は一言コメントや誤字報告でも大丈夫です。気軽にしていただけると助かります。
何卒宜しくお願いします。
あっという間だったバカンスを終えた俺たちは、翌日からいつものようにハンターの仕事をしていた。
「えーと、リュシアン君にはこの依頼をお願いしたいのだけど頼めるかな?」
ギルドマスターのエレーヌさんから依頼書と封筒を受け取る。
何だ? この封筒は? こんなの初めてだぞ。
「本当は別のギルドの仕事だったのだけど、依頼を受けられるような状態ではないらしいのよ。それでわたしのところに委託されたの」
エレーヌさんから話を聞き、俺は依頼書に目を通す。
『俺はフェルディナンズのギルドマスター、フェルディナンだ。こちらが最初に受けていた依頼だったのだが、色々とあって受けるハンターがいない。そこで我々の代わりにこの依頼を受けて欲しい』
依頼者はフェルディナンかよ。確か彼はアントニオが死んで代わりにギルドマスターになったという話だったよな。
あいつには利用されたりしたことがあったから、何だか怪しい感じがする。だけど、ギルドマスターであるエレーヌさんが委託を受けたと言うことは、それなりに信頼してもいいのか?
どっちにしろ、仕事であることには変わらない。何があったとしてもその時に対応すればいいか。
俺はもう一枚の紙に目を通す。今度は本当の依頼者からのメッセージだった。
『ワタシはこの国の王、レンナルト・ブルーイットである』
最初に書かれた文章を読んで、俺は自分の目を疑った。
嘘だろう! この国の王様からの依頼なのかよ! これって俺の予想を遥かに超えるような、大変な依頼になるんじゃないのか?
王様からの依頼だと知り、俺の鼓動は早鐘を打った。
と、とにかく続きを読まないと。
『実は、もうすぐワタシの息子であるチャプス王子が、王族の成人の儀をするのだ。そこでハンターにはチャプスが無事に成人の儀を終えるまでの護衛を頼みたい。詳しいことは城で話す。できれば二、三名で来てくれると助かる。一緒に送った封筒には城への招待状が入っているので、それを門番に見せれば入れてもらえるはずだ』
読み終わると、俺は手が震えていることに気づく。
これはとんでもない依頼を受けてしまった。この依頼に失敗すれば、最悪俺や同行者の首が飛ぶことにもなりかねない。
「これはリュシアン君にしか頼めないのよ! お願い! 上手くいった暁には報酬の九割をリュシアン君にあげるから」
俺の不安が伝わってしまったのか、エレーヌさんが両手を合わせて俺に懇願してくる。
これは本当に大変な依頼だ。さっきは失敗した場合、俺や同行者の首が飛ぶかもしれないと考えたが、本当の最悪のシナリオは、このギルドが存在しなくなる可能性があることだ。
このギルドの命運を握っていると言っても過言ではない。
「わ、わかりました。リュシアン・プライム、この依頼、絶対に成功してみせます」
「ありがとう! 本当に助かるわ! リュシアン君がいてくれて良かった」
もう一度依頼を受ける意思を伝えると、エレーヌさんの顔が綻ぶ。そして感極まったのか、俺に抱き付いてきた。
抱き締められたことで、彼女の豊満な胸が押しつけられ、さっきとは別の意味で心臓の鼓動が激しくなる。
「ちょっとエレーヌ! 何リュシアンに抱き付いているのよ! 離れなさいよ!」
「そうです! いくらエレーヌさんだとしても、それは許される行為ではありませんよ!」
突然のことで戸惑っていると、テレーゼとユリヤが声を上げた。そしてエレーヌさんから俺を引き離す。
「あらあら、ごめんなさいね。つい嬉しくって抱き締めてしまったわ」
頬に手を添えながら、エレーヌさんが謝る。
「い、いえ、大丈夫です」
「リュシアン、これはどう言うことなのよ! 説明しなさい!」
「そうですよ! どうして急にエレーヌさんが抱き付くようなことになったのですか!」
テレーゼとユリヤが怖い顔をして説明を求めてきた。
「わ、分かった。説明をするから落ち着いてくれ」
俺は二人に王様から依頼が来たこと、この依頼に失敗したときのリスクなどを語る。
「なるほど、それでエレーヌが嬉しくなって抱き付いてきたのね」
「エレーヌさんの立場で考えたら当然の反応かもしれないですけど、いきなり異性に抱き付くのはよくないと思います」
あれ? どうして今の説明で、エレーヌさんから抱きつかれた話に戻ってしまうの? もうその件は忘れてもっと真剣になった方がいいと思うのだけど?
「まぁ、とにかく王様からは二、三名のハンターを頼まれている。俺と一緒に行ってくれるハンターを決めないと」
「ハイハイ! それならあたしが付いて行くわ! リュシアンの依頼は可能な限り同行するって決めているから」
「私も付いて行きます! リュシアンさんだけにこのギルドの命運を託すわけには行きませんので」
話を強引に戻すと、テレーゼとユリヤが同行してくれると言ってくれた。
「本当に良いのか? これはこれまでの依頼よりも難易度が高いんだぞ」
俺は二人に尋ねると、彼女たちは無言で頷いた。
「分かった。なら、俺の同行者はテレーゼとユリヤに決めたよ」
二人を同行者にすること伝えると、彼女たちは顔を綻ばせた。
「エレーヌさん。俺たち三人で王様のところに行ってきます」
「お願いね。でも、あんまり気を張ってはダメよ。いつもどおりのリュシアン君でいてね。ギルドの命運なんてことは考えないで、普通の依頼だと思っていいから。緊張で肩を張らずにリラックスするのよ」
出発することを伝えると、毎回恒例のエレーヌさんのお節介を聞くことになる。
彼女の言葉を聞くと、何だか普通の依頼のように思えてきた。これなら変に気を張って失敗するなんてことにはならないだろう。
ありがとう。エレーヌさん。
心の中でギルドマスターにお礼を言うと、俺たちはギルドから出て行った。
目指すは王様のいるお城だ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
面白かった! この物語は期待できる! 続きが早く読みたい!
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