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第五章

第七話 肝試しをしよう

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「それでは、今から肝試しを始めましょう!」

 バーベキューを食べ終わったあと、唐突にエレーヌさんが肝試しを始めようと言い出す。

「肝試しですか?」

「そうよ。ルールは簡単、森の中にある洞窟まで一人ずつ歩き、この札を入り口前に置いて戻ってくるだけ」

 俺が聞き返すと、エレーヌさんはルールを言い出し、ポケットから木で作られた札を取り出した。

 用意周到なところをみると、最初から肝試しをするつもりだったみたいだ。

「一人で肝試しですか? そういうのはちょっと」

「ユリヤ、もしかして怖いの? 肝試しくらいでビビるなんてお子ちゃまね」

「違いますよ! 私は夜道を一人で歩くのは危険だと言っているんです!」

 テレーゼの言い方が癇に障ったようで、ユリヤが声を上げる。

「大丈夫よ。事前にルートを確認したけど、道中に危険なものはなかったわ。それじゃあ全員一致ということで早速始めるわね」

 エレーヌさんがニッコリして笑みを浮かべると、俺たちに札と松明を配り出す。

 いや、俺は参加するなんて一言も言っていないのだけど? まぁ、いいか。肝試しなんていうのも、子どもの頃以来やっていないから少し頼みでもある。

「それじゃあ、言い出しっぺのわたしから行くわね。五分後に一人ずつ来てよ」

 松明に火を点け、エレーヌさんは森に向けて歩き出した。

 彼女の姿が闇の中に消え、完全に見えなくなる。

「五分が経過する前に順番を決めるか。ジャンケンでいいよな」

「あ、えーと、はい」

「それで良いわよ」

 俺たちはジャンケンをして順番を決めた。

「それじゃあ、そろそろ五分になるからあたし行って来るね」

 二番手のテレーゼが松明に火を点けて山に向けて歩き出す。

 因みに俺は最後だ。

 更に五分後、ユリヤが肝試しを始める。

 なんだか緊張しているみたいだったな。まぁ、夜道を一人で歩くのはさすがに緊張してしまうだろう。
 




「そろそろ五分が経つ頃かな?」

 ユリヤが出発してから心の中で三百秒を数え、俺は松明に火を灯すと洞窟に向けて歩き出した。

 夜の時間帯だけあって、森の中は真っ暗だった。松明の明かりで周辺を明るく照らすことはできるが、遠くの方は何も見えない。

 虫の鳴き声が聞こえるので静寂ではないが、これはこれで緊張感があり、狩りの時とは違ったドキドキ感を楽しむことができる。

「うん? あれは明かりか?」

 遠くの方で松明のような明かりが見え、俺は早歩きで先に進む。すると茶髪のセミロングの女の子が、松明を持ってその場に立ち尽くしているのが見えた。

「ユリヤ?」

「あ、リュシアンさん」

「どうしてこんなところで立っていたんだ? もしかしてケガでもしたのか?」

「あ、いえ、ケガとかではなく……そのう」

 何か言い辛いことでもあるのだろうか? ユリヤは頬を若干朱に染めながらモジモジとしている。

 しかし途中から意を決したようで、真剣な表情で俺のことを見てきた。

「リュシアンさん! お願いします! 私と一緒に洞窟まで来てください!」

「それだとルールから外れるんじゃ?」

「エレーヌさんは五分毎に一人ずつ出発することしか言っていません。道中で合流しても、何もルール違反にはなりませんよ」

 確かにエレーヌさんは合流して一緒に行動することを禁止にはしていなかった。

 まぁ、言いそびれただけかもしれないけど、ルールの穴をつけば違反にはならない。

「わかった。一緒に行こうか」

「ありがとうございます! 私本当はこういうホラー系が苦手でして」

 なんとなくだけど、ユリヤが肝試しに対して苦手意識があることは分かっていた。

 ユリヤと一緒に歩くと、しばらくして再び松明の明かりが見えた。

 もしかしたら折り返してきたエレーヌさんかもしれない。

 そう思っていたが、俺の予想は外れてしまった。

「あ、やっぱりユリヤはリュシアンピグレットを待っていたのね。あたしの感が当たったわ」

 松明を持っていたのは、折り返してきたエレーヌさんではなく、ユリヤの前に肝試しを始めた歌姫だった。

「テレーゼだったのか。俺はてっきりエレーヌさんが札を置いて引き返してきたのかと思った」

「そう、それよ! そろそろ目的地に近づくと言うのに、あたしも全然エレーヌとすれ違わないのよ。だからエレーヌが待ち伏せして、あたしたちを驚かせようとしているのではないかと思うのよ」

 確かにテレーゼがエレーヌさんとすれ違っていないのはおかしい。この肝試しを企画したのはギルドマスターのエレーヌさんだし、彼女の言うとおり待ち伏せしている可能性も否定はできない。

「確かにその可能性は十分考えられるな」

「でしょう? だからここでユリヤが来るのを待っていたわけ。中々来ないと思ったらリュシアンピグレットを待っていたのね」

 テレーゼの言葉にユリヤは苦笑いを浮かべる。

「とにかく、こうなったら三人で先に進もう。エレーヌさんが脅かしてくることも念頭において」

「わ、分かりました」

「はーい。リュシアンピグレットと合流できたら怖いものはないわ」

 俺たちは三人で行動して先に進む。

 しかし洞窟の前に辿り着くも、エレーヌさんの姿はどこにも見当たらなかった。

「エレーヌさんどこにもいないな」

「脅かしにも来ませんね」

「深く考えすぎたのかしら? これなら待っておく必要もなかったわね」

 俺は洞窟の入り口を松明の明かりで照らす。すると、エレーヌさんが置いたと思われる札が立て掛けてあった。

「エレーヌさんはここには来たみたいだな。その証拠に札が置かれてある」

「本当ですね」

「それじゃあ、エレーヌはどこに言ったのかしら?」

『ワオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォン!』

 エレーヌさんが居ないことに疑問に思っていると、突然獣の遠吠えが聞こえてきた。










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