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第三章
第五話 テレーゼの隠された正体
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「テレーゼ、訊きたいことがある。君は何者なんだ?」
俺は一緒にロアリングフルートを倒したテレーゼに訊ねる。
「な、何者ってリュシアンも知っているじゃない。世界のトップ歌姫であり、あなたが所属しているハンターギルドのメンバーよ」
「そうじゃない。俺が訊きたいのはそんな表沙汰にしていることじゃなく、内側に隠している本当の君のことを訊きたいんだ!」
思わず感情的になってしまい、俺はテレーゼの両肩に手を置く。そしてジッと彼女を見つめた。
この状態が数秒経つと、テレーゼは俺から視線を逸らす。
「わかったわ。さすがに何度もあたしの能力を目の当たりにしたら、気になってしまうわよね。話すから、この手を退けてもらえる?」
「わかった」
彼女の肩から手を離すと、テレーゼは踵を返して俺から少し距離を空ける。
「あたしね。半分人間じゃないのよ。あたしの血には、モンスターの血が流れている」
「半人……半魔」
「そう、半人半魔。あたしの母親はセイレーンなのよ」
テレーゼの母親がモンスターだと言うことに衝撃を受けた俺は、何も言えないままその場に立ち尽くす。
「あたしの母親は父親と恋に落ち、あたしを産んだのよ。半人半魔は生まれながらに特殊能力を持つことがある。私の特殊能力、それは音の波を視認すること、それと声を使って物を破壊する力よ。ロアリングフルートが横笛を使って地面を破壊したでしょう。あんな感じ」
彼女の説明を聞いて、ロアリングフルートの謎が解けた。
やつが持っていたあの横笛は音響兵器だったんだ。
空気の振動が対象物の強度を上回れば、音で物を破壊することができる。
この性質を利用し、やつは音の力だけで地面を破壊した。
そしてロアリングフルートの攻撃パターンが変わって、俺の体に痛みを感じたのは、人体に悪影響を及ぼす音だ。
音響兵器で放たれる音波に、人は行動能力、判断能力を奪われる。その他にも肉体的ダメージを与えられる。
やつの音響兵器から発せられる音が耳に入ると、精神が安定しなくなる。そして血流が低下したことにより、脳が過剰に反応して神経に異常をきたした。
それにより、一時的に動きを止め、髪の毛や爪の刺激でさえも、痛みを感じてしまったと言う訳だ。
なるほど、これでテレーゼとケンカしたあの日の夜、彼女が「アー!」と言った瞬間に体が痛くなったのも、先程の洞窟でピッケルなしでドラグーン鉱石を採取できたのにも納得がいく。
「騙すようなことをしてごめんなさい。嫌いになったわよね」
テレーゼは後を向いたまま振り返ろうとはしない。きっと俺に対して後ろめたさのようなことを感じているのだろう。
ここで俺がするべき行動はただ一つ。
俺は背後から彼女を抱きしめると、耳元で優しく囁く。
「何を言っているんだよ。こんなことでお前を嫌いになる訳ないだろう。確かにテレーゼが半人半魔と言うのは驚いた。だけどテレーゼはテレーゼじゃないか。例え人間以外の血が混ざっていたとしても、俺にとっては大事な仲間だ。それだけは何があっても変わらない」
「ありがとう……リュシアン。ねぇ、もう少しだけこうしてもらえる」
「ああ」
俺は彼女の気が澄むまでバックハグを続けた。
「ありがとう。エネルギーを充電したからもういいわ」
エレルギーの充電? どう言う意味だ? まぁ、テレーゼの気が済んだのならいいか。
抱きしめていた腕を離すと、テレーゼは俺の方を向く。
「リュシアン、こんなあたしだけど、これからもよろしくね」
「ああ、こちらこそよろしく頼むよ」
テレーゼが手を差し伸ばしてきたので、俺は彼女の手を握り、互いに握手を交わす。
「さて、それじゃあお待ちかねの剥ぎ取りタイムだ。テレーゼ勝負をしよう。どっちがより多くの素材を剥ぎ取れるか競争だ」
「いいわね。なら、勝ったほうが何でも言うことを利くってことで」
「いや、何でもはさすがに――」
「何? ひょっとして負けるのが怖いの? リュシアンって案外小心者ね」
テレーゼの挑発的な言葉に、俺は若干イラッとした。
「わかった。その条件で勝負だ!」
「それじゃあ始めるわよ。レア素材を剥ぎ取れたら、個数に関係なく勝者ね。レディー、ゴー!」
彼女が合図を出すと、テレーゼは直ぐに剥ぎ取りに向かう。
「あ、ずるいぞ!」
数秒遅れて俺もロアリングフルートの死骸の前に立ち、剥ぎ取り作業を始めた。
あれ、これって。
モンスターの腹は掻っ捌いていると、臓器の中から丸い玉が出てきた。
この勝負勝たせてもらう。
しばらく剥ぎ取り勝負をしていると、ロアリングフルートの肉体は完全に解体され、骨のみが残っている。
「リュシアン、この勝負、あたしが勝たせてもらうわ」
テレーゼのやつ、かなり強気だな。相当レアな素材を剥ぎ取れたのだろうな。だけど、俺のも負けていないはずだ。
「俺もそれなりに良いものを剥ぎ取ることができたぞ」
「へぇー、それは楽しみね。せーので見せ合いましょう」
「わかった」
「「せーの!」」
お互いの言葉がハモリ、俺たちは最高の素材を見せ合う。
その瞬間、テレーゼの顔色が悪くなった。
「ピ、リュシアン。それって」
「ああ、音響猿の宝玉だ。テレーゼは、音響猿の逆鱗だな」
逆鱗と宝玉は宝玉の方がレア度が高い。逆鱗は剥ぎ取るのが難しいが、鱗のあるモンスターなら必ず一枚は持っている。
対して宝玉は、モンスターの臓器で稀に作られる玉だ。なので、レア度で言えば俺の方が圧倒的に上だ。
「ま、待ってよ! やっぱり何でもはなしよ!」
自分の敗北が決定した途端、テレーゼは勝者の権利の一部改善を提案してくる。だけど、俺はそんなことを聞くつもりはいっさいない。
「それはあまりにもご都合主義すぎるぞ。もし、逆の立場なら権利の一部を改善したのか?」
俺はテレーゼにジト目を向ける。
「わ、わかったわよ。でも、優しく……してよね」
何を想像しているのか、テレーゼは急に顔を赤らめだした。
「まぁ、勝者の権限はいずれ使わせてもらうとして、早く帰って討伐完了の報告をしよう」
「そ、そうね。そうしましょう」
俺とテレーゼは二人並んで町へと帰った。
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俺は一緒にロアリングフルートを倒したテレーゼに訊ねる。
「な、何者ってリュシアンも知っているじゃない。世界のトップ歌姫であり、あなたが所属しているハンターギルドのメンバーよ」
「そうじゃない。俺が訊きたいのはそんな表沙汰にしていることじゃなく、内側に隠している本当の君のことを訊きたいんだ!」
思わず感情的になってしまい、俺はテレーゼの両肩に手を置く。そしてジッと彼女を見つめた。
この状態が数秒経つと、テレーゼは俺から視線を逸らす。
「わかったわ。さすがに何度もあたしの能力を目の当たりにしたら、気になってしまうわよね。話すから、この手を退けてもらえる?」
「わかった」
彼女の肩から手を離すと、テレーゼは踵を返して俺から少し距離を空ける。
「あたしね。半分人間じゃないのよ。あたしの血には、モンスターの血が流れている」
「半人……半魔」
「そう、半人半魔。あたしの母親はセイレーンなのよ」
テレーゼの母親がモンスターだと言うことに衝撃を受けた俺は、何も言えないままその場に立ち尽くす。
「あたしの母親は父親と恋に落ち、あたしを産んだのよ。半人半魔は生まれながらに特殊能力を持つことがある。私の特殊能力、それは音の波を視認すること、それと声を使って物を破壊する力よ。ロアリングフルートが横笛を使って地面を破壊したでしょう。あんな感じ」
彼女の説明を聞いて、ロアリングフルートの謎が解けた。
やつが持っていたあの横笛は音響兵器だったんだ。
空気の振動が対象物の強度を上回れば、音で物を破壊することができる。
この性質を利用し、やつは音の力だけで地面を破壊した。
そしてロアリングフルートの攻撃パターンが変わって、俺の体に痛みを感じたのは、人体に悪影響を及ぼす音だ。
音響兵器で放たれる音波に、人は行動能力、判断能力を奪われる。その他にも肉体的ダメージを与えられる。
やつの音響兵器から発せられる音が耳に入ると、精神が安定しなくなる。そして血流が低下したことにより、脳が過剰に反応して神経に異常をきたした。
それにより、一時的に動きを止め、髪の毛や爪の刺激でさえも、痛みを感じてしまったと言う訳だ。
なるほど、これでテレーゼとケンカしたあの日の夜、彼女が「アー!」と言った瞬間に体が痛くなったのも、先程の洞窟でピッケルなしでドラグーン鉱石を採取できたのにも納得がいく。
「騙すようなことをしてごめんなさい。嫌いになったわよね」
テレーゼは後を向いたまま振り返ろうとはしない。きっと俺に対して後ろめたさのようなことを感じているのだろう。
ここで俺がするべき行動はただ一つ。
俺は背後から彼女を抱きしめると、耳元で優しく囁く。
「何を言っているんだよ。こんなことでお前を嫌いになる訳ないだろう。確かにテレーゼが半人半魔と言うのは驚いた。だけどテレーゼはテレーゼじゃないか。例え人間以外の血が混ざっていたとしても、俺にとっては大事な仲間だ。それだけは何があっても変わらない」
「ありがとう……リュシアン。ねぇ、もう少しだけこうしてもらえる」
「ああ」
俺は彼女の気が澄むまでバックハグを続けた。
「ありがとう。エネルギーを充電したからもういいわ」
エレルギーの充電? どう言う意味だ? まぁ、テレーゼの気が済んだのならいいか。
抱きしめていた腕を離すと、テレーゼは俺の方を向く。
「リュシアン、こんなあたしだけど、これからもよろしくね」
「ああ、こちらこそよろしく頼むよ」
テレーゼが手を差し伸ばしてきたので、俺は彼女の手を握り、互いに握手を交わす。
「さて、それじゃあお待ちかねの剥ぎ取りタイムだ。テレーゼ勝負をしよう。どっちがより多くの素材を剥ぎ取れるか競争だ」
「いいわね。なら、勝ったほうが何でも言うことを利くってことで」
「いや、何でもはさすがに――」
「何? ひょっとして負けるのが怖いの? リュシアンって案外小心者ね」
テレーゼの挑発的な言葉に、俺は若干イラッとした。
「わかった。その条件で勝負だ!」
「それじゃあ始めるわよ。レア素材を剥ぎ取れたら、個数に関係なく勝者ね。レディー、ゴー!」
彼女が合図を出すと、テレーゼは直ぐに剥ぎ取りに向かう。
「あ、ずるいぞ!」
数秒遅れて俺もロアリングフルートの死骸の前に立ち、剥ぎ取り作業を始めた。
あれ、これって。
モンスターの腹は掻っ捌いていると、臓器の中から丸い玉が出てきた。
この勝負勝たせてもらう。
しばらく剥ぎ取り勝負をしていると、ロアリングフルートの肉体は完全に解体され、骨のみが残っている。
「リュシアン、この勝負、あたしが勝たせてもらうわ」
テレーゼのやつ、かなり強気だな。相当レアな素材を剥ぎ取れたのだろうな。だけど、俺のも負けていないはずだ。
「俺もそれなりに良いものを剥ぎ取ることができたぞ」
「へぇー、それは楽しみね。せーので見せ合いましょう」
「わかった」
「「せーの!」」
お互いの言葉がハモリ、俺たちは最高の素材を見せ合う。
その瞬間、テレーゼの顔色が悪くなった。
「ピ、リュシアン。それって」
「ああ、音響猿の宝玉だ。テレーゼは、音響猿の逆鱗だな」
逆鱗と宝玉は宝玉の方がレア度が高い。逆鱗は剥ぎ取るのが難しいが、鱗のあるモンスターなら必ず一枚は持っている。
対して宝玉は、モンスターの臓器で稀に作られる玉だ。なので、レア度で言えば俺の方が圧倒的に上だ。
「ま、待ってよ! やっぱり何でもはなしよ!」
自分の敗北が決定した途端、テレーゼは勝者の権利の一部改善を提案してくる。だけど、俺はそんなことを聞くつもりはいっさいない。
「それはあまりにもご都合主義すぎるぞ。もし、逆の立場なら権利の一部を改善したのか?」
俺はテレーゼにジト目を向ける。
「わ、わかったわよ。でも、優しく……してよね」
何を想像しているのか、テレーゼは急に顔を赤らめだした。
「まぁ、勝者の権限はいずれ使わせてもらうとして、早く帰って討伐完了の報告をしよう」
「そ、そうね。そうしましょう」
俺とテレーゼは二人並んで町へと帰った。
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