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第三章
第二話 任務中のスローライフ
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俺はロアリングフルートというモンスターを討伐しに、テレーゼと深緑の森に来ていた。
「フーン、フーン、フン、フ、フフ、フン、フフフーン、フン、フフフン」
隣を歩いているテレーゼは、ご機嫌なようで鼻歌を口ずさんでいる。
「ご機嫌だな」
「だってリュシアンと二人きりでお出かけですもの」
「いや、一応依頼を受けに来ているのだからな。その辺のことは忘れるなよ」
彼女に念を押しながらもう一度依頼書を見る。
「ロアリングフルートが確認された場所は、七番エリアの洞窟の中だ。だから一番、三番、八番、七番の順番で行こうと思う」
「どうしてあんな断崖絶壁の崖を登ることになるのよ! あたしはか弱い歌姫なのよ。あんな崖登れないわ」
「いや、ハンターが本業なんだろう? だったらあれくらいできるはずだ」
「リュシアンと一緒にしないで! Sランクのあなたなら楽勝何でしょうけど、あたしにはムリよ! 一番、二番、五番、七番、八番の順番で行きましょう」
勝手にルートを決めると、テレーゼは二番エリアの方に向かって歩いて行く。
仕方がない。ここは彼女の行った順番で向かうとするか。
もしかしたら道中で遭遇するかもしれないからな。八番エリアで目撃されたからと言って、常にそこにいるとは限らない。
テレーゼの後を追い、彼女に追いつくと隣を歩く。
二番エリアを抜け、五番エリアにたどり着くと、大きい湖が広がっていた。
「うわー! きれい!」
太陽光が湖の水面に反射してキラキラと輝いている。
確かに彼女の言うとおり綺麗だな。
湖を見つめているとテレーゼが俺の前に立ち、頬を膨らませる。
「どうして何も言ってくれないのよ。あたしが『うわー! きれい』って言ったのだから、そこは『テレーゼの方がもっときれいだ』って言うところでしょう!」
「誰がそんな歯が浮くようなセリフを言うか!」
「ねぇ、ねぇ、せっかくだし泳ぎましょう!」
「何を言っているんだ。今は依頼を受けている最中なんだぞ。遊んでいる場合じゃ……って、なんで服を脱ごうとしている! やめろ!」
服を脱ごうとするテレーゼに注意するも、彼女は俺の言うことを聞かないで勢い良く服を脱いだ。
「ジャーン! 中に水着を着ていました! どう? 世界のトップ歌姫の水着姿は?」
テレーゼが水着姿でグラビアぽいポーズをする。
彼女の着ているビキニはモンスターの素材を使っているな。機能面、実用性を考えると、水中を好むモンスターの素材だろうな。
「あはっ! そんなに食い入るように見ちゃって。そんなにあたしの水着姿に見惚れちゃった!」
「いや、その水着の素材のことについて考えてい……うわっと!」
正直に答えると、テレーゼが俺に向けて回し蹴りをしてきた。しかしそれに気づいた俺は、すかさず後方に下がって一撃を躱す。
「どうして避けるのよ!」
「避けないと当たるだろう」
「当たりなさいよ!」
「そんな無茶な」
会話のやり取りにデジャブを感じていると、テレーゼが急にプッと噴き出す。
「あはは、何だか前にもこんなやり取りをしたわね」
「そうだな」
彼女も俺と同じことを考えていたんだな。
そんなことを思うとテレーゼは走り、湖の中にダイブする。
「水が冷たくてとても気持ちいい! リュシアンも来なさいよ!」
湖の中からテレーゼが手招きをする。
やれやれ、ここは早く彼女に満足してもらうためにも、言うことを聞くとするか。
湖に近づき、一人で泳いでいるテレーゼを見つめる。
まるでマーメイドのようだな。
「リュシアンも泳ぐわよ!」
テレーゼがこちらに来ると、彼女は俺の腕を引っ張って湖の中に引き摺り込んだ。
ドボンと音が鳴り、気が付くと俺は湖の中にいた。
「テレーゼ! 何をするんだ! 俺は着替えを持って来ていないんだぞ」
「まぁ、まぁ、いいじゃない。こんなに気持ちいのだから、湖の中に入らないと損するわよ。えい!」
両手で掬った水を彼女は俺にかけてくる。
「うりゃ、うりゃ」
俺が反撃しないことをいいことに、彼女は調子に乗ったようで何度も水をかけてくる。
いいだろう。水浸しになったんだ。こうなったら、とことん付き合ってやる。
「俺がいつまでも反撃しないと思ったら大違いだ。くらえ!」
両手で水を掬い、テレーゼにぶっかける。
「きゃ! やったわね!」
俺たちは何度も水を掛け合う。
その後、いきなりテレーゼが水中鬼をしようと言い出し、湖の中での追いかけっこが始まった。
あれからどれくらい時間が経ったのか分からないが、遊び疲れた俺たちは湖から出ると木陰で横になった。
「どう? 楽しかった?」
「まぁ、楽しかったと言えば楽しかったな。子どもの頃に戻った気分だ」
「よかった」
テレーゼが子どもみたいな笑顔を向ける。
「リュシアンはさ、ハンターとしての仕事に責任を持ちすぎなのよ。確かに一生懸命仕事をこなして多くの依頼主に頼られることはいいことだけど、それで身体を壊すようなことになっては元も子もないわよ」
テレーゼが上体を起こすとジッと俺を見る。
「あたしだって、世界のトップ歌姫になるために、毎日厳しいレッスンやボイストレーニングをしていたけど、それでも自分がリラックスできる時間を作っていたわ。そうしないと責任感に潰されてどうにかなりそうだったもの」
彼女は肌と肌が触れる距離まで詰めると、再び横になった。
「いいパフォーマンスをするには、最高の休憩が必要なのよ。頑張るのはもちろんいいこと。だけど頑張りすぎるのはよくない。根を詰め過ぎたら、どこかで必ず失敗するわ。だからさ、たまにはスローライフをしよう」
確かに、俺はロアリングフルートをどうやって討伐するのかを考えてばかりだった。頭が疲れているときにムリに考えても、それは逆効果なのかもしれない。
「ありがとう。テレーゼ」
ポツリと言葉を漏らすと、彼女は瞼を閉じていた。
疲れて眠ってしまったんだな。俺も討伐前に一眠りするか。
こうして俺たちは、任務中の短いスローライフを過ごした。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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「フーン、フーン、フン、フ、フフ、フン、フフフーン、フン、フフフン」
隣を歩いているテレーゼは、ご機嫌なようで鼻歌を口ずさんでいる。
「ご機嫌だな」
「だってリュシアンと二人きりでお出かけですもの」
「いや、一応依頼を受けに来ているのだからな。その辺のことは忘れるなよ」
彼女に念を押しながらもう一度依頼書を見る。
「ロアリングフルートが確認された場所は、七番エリアの洞窟の中だ。だから一番、三番、八番、七番の順番で行こうと思う」
「どうしてあんな断崖絶壁の崖を登ることになるのよ! あたしはか弱い歌姫なのよ。あんな崖登れないわ」
「いや、ハンターが本業なんだろう? だったらあれくらいできるはずだ」
「リュシアンと一緒にしないで! Sランクのあなたなら楽勝何でしょうけど、あたしにはムリよ! 一番、二番、五番、七番、八番の順番で行きましょう」
勝手にルートを決めると、テレーゼは二番エリアの方に向かって歩いて行く。
仕方がない。ここは彼女の行った順番で向かうとするか。
もしかしたら道中で遭遇するかもしれないからな。八番エリアで目撃されたからと言って、常にそこにいるとは限らない。
テレーゼの後を追い、彼女に追いつくと隣を歩く。
二番エリアを抜け、五番エリアにたどり着くと、大きい湖が広がっていた。
「うわー! きれい!」
太陽光が湖の水面に反射してキラキラと輝いている。
確かに彼女の言うとおり綺麗だな。
湖を見つめているとテレーゼが俺の前に立ち、頬を膨らませる。
「どうして何も言ってくれないのよ。あたしが『うわー! きれい』って言ったのだから、そこは『テレーゼの方がもっときれいだ』って言うところでしょう!」
「誰がそんな歯が浮くようなセリフを言うか!」
「ねぇ、ねぇ、せっかくだし泳ぎましょう!」
「何を言っているんだ。今は依頼を受けている最中なんだぞ。遊んでいる場合じゃ……って、なんで服を脱ごうとしている! やめろ!」
服を脱ごうとするテレーゼに注意するも、彼女は俺の言うことを聞かないで勢い良く服を脱いだ。
「ジャーン! 中に水着を着ていました! どう? 世界のトップ歌姫の水着姿は?」
テレーゼが水着姿でグラビアぽいポーズをする。
彼女の着ているビキニはモンスターの素材を使っているな。機能面、実用性を考えると、水中を好むモンスターの素材だろうな。
「あはっ! そんなに食い入るように見ちゃって。そんなにあたしの水着姿に見惚れちゃった!」
「いや、その水着の素材のことについて考えてい……うわっと!」
正直に答えると、テレーゼが俺に向けて回し蹴りをしてきた。しかしそれに気づいた俺は、すかさず後方に下がって一撃を躱す。
「どうして避けるのよ!」
「避けないと当たるだろう」
「当たりなさいよ!」
「そんな無茶な」
会話のやり取りにデジャブを感じていると、テレーゼが急にプッと噴き出す。
「あはは、何だか前にもこんなやり取りをしたわね」
「そうだな」
彼女も俺と同じことを考えていたんだな。
そんなことを思うとテレーゼは走り、湖の中にダイブする。
「水が冷たくてとても気持ちいい! リュシアンも来なさいよ!」
湖の中からテレーゼが手招きをする。
やれやれ、ここは早く彼女に満足してもらうためにも、言うことを聞くとするか。
湖に近づき、一人で泳いでいるテレーゼを見つめる。
まるでマーメイドのようだな。
「リュシアンも泳ぐわよ!」
テレーゼがこちらに来ると、彼女は俺の腕を引っ張って湖の中に引き摺り込んだ。
ドボンと音が鳴り、気が付くと俺は湖の中にいた。
「テレーゼ! 何をするんだ! 俺は着替えを持って来ていないんだぞ」
「まぁ、まぁ、いいじゃない。こんなに気持ちいのだから、湖の中に入らないと損するわよ。えい!」
両手で掬った水を彼女は俺にかけてくる。
「うりゃ、うりゃ」
俺が反撃しないことをいいことに、彼女は調子に乗ったようで何度も水をかけてくる。
いいだろう。水浸しになったんだ。こうなったら、とことん付き合ってやる。
「俺がいつまでも反撃しないと思ったら大違いだ。くらえ!」
両手で水を掬い、テレーゼにぶっかける。
「きゃ! やったわね!」
俺たちは何度も水を掛け合う。
その後、いきなりテレーゼが水中鬼をしようと言い出し、湖の中での追いかけっこが始まった。
あれからどれくらい時間が経ったのか分からないが、遊び疲れた俺たちは湖から出ると木陰で横になった。
「どう? 楽しかった?」
「まぁ、楽しかったと言えば楽しかったな。子どもの頃に戻った気分だ」
「よかった」
テレーゼが子どもみたいな笑顔を向ける。
「リュシアンはさ、ハンターとしての仕事に責任を持ちすぎなのよ。確かに一生懸命仕事をこなして多くの依頼主に頼られることはいいことだけど、それで身体を壊すようなことになっては元も子もないわよ」
テレーゼが上体を起こすとジッと俺を見る。
「あたしだって、世界のトップ歌姫になるために、毎日厳しいレッスンやボイストレーニングをしていたけど、それでも自分がリラックスできる時間を作っていたわ。そうしないと責任感に潰されてどうにかなりそうだったもの」
彼女は肌と肌が触れる距離まで詰めると、再び横になった。
「いいパフォーマンスをするには、最高の休憩が必要なのよ。頑張るのはもちろんいいこと。だけど頑張りすぎるのはよくない。根を詰め過ぎたら、どこかで必ず失敗するわ。だからさ、たまにはスローライフをしよう」
確かに、俺はロアリングフルートをどうやって討伐するのかを考えてばかりだった。頭が疲れているときにムリに考えても、それは逆効果なのかもしれない。
「ありがとう。テレーゼ」
ポツリと言葉を漏らすと、彼女は瞼を閉じていた。
疲れて眠ってしまったんだな。俺も討伐前に一眠りするか。
こうして俺たちは、任務中の短いスローライフを過ごした。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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